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    【フェヒュ】妄想話し 9 〜燭涙の歌

    人はなぜ生きるのか。

    人生とはわからないものだ。 そのため、人々は生涯にわたって万全の準備をするしかない。 個々人の意志とは関係なく決まる軌道。 その軌道に辛うじて乗るのが犯人の人生だ。 流されないだけでも幸いだと思うべきだろうか。 人生の大半は、望まない道を受け入れることと、その中でもがくことからなる。

    ヒューベルトの主人は後者を選んだ。 そしてヒューベルトは前者を選んだ。その意思を受け入れ、最善を尽くして仕えることは、本来決まった彼の軌道だったからだ。 ただ、その過程を成す風景が変わっただけだ。 ヒューベルトは教えられた通り、万全の準備をするだけだった。 長い時間をかけて一歩一歩、目標に向かって歩くことはそれほど難しくなかった。 失敗する場合も成功した後の未来も、すべて計算の中のことだった。 しかし、疑いのない勝利が近づくほど、計算の中に含めなかったことを思い出すようになった。



    「フェルディナント殿、少しお話してもいいですか」
    「ヒューベルト!君ならいつでも」

    フェルディナントは彼の突然の訪問に驚かず暖かい笑顔で迎えた。

    「そろそろ知らないふりをするのも疲れましたので」
    「何を?」

    フェルディナントは部屋の明かりをつけた。ヒューベルトはコートを脱いで応接用椅子の背もたれにかけておいた。

    「貴殿は私を待っていますね」
    「あ...」

    フェルディナントの顔に苦笑いが広がった。 すでにばれたと思った」とし、彼は否定しなかった。

    「そう···君がすべての荷を下ろすまで、かなり長い間待ってるんだ。決してそれは大変なことではない」

    部屋の中に広がる穏やかな声は、その響きだけでも慰めを与えた。 優しい人 暖かい愛情 温もりに満ちた関心と献身、そして忍耐。 ヒューベルトはフェルディナントの配慮にずっと感嘆していた.

    「もう、待たないでください」

    目に入って手の届くところに自分の情を分かち合うことができる人だ。 フェルディナントが聞けば威張るだろうか、彼は帝国になくてはならない人材だった。 彼が見せる忠誠は明らかにエーデルガルトに向かっているが、もしかしたら自身の存在によって彼の情熱に火をつけているのかもしれないという考えもあえてしてみた。 彼の視線を独占する気持ちが楽しかった。 その気持ちに応じてあげたかった。 今は余裕がないのだと、いつかこのすべてが終わったら。

    「それは何だ」

    息を飲み込む音とともに唇が重なった。 フェルディナントの手がヒューベルトの腕をつかんだ. 狼狽の色を感じたが押し出さなかった 生地越しに体温が伝わった。 熱い手がヒューベルトのほおに触れた. 鼻の下をくすぐる息が次第に激しくなり、キスが深まりそうになった時、フェルディナントは初めて息を吐き出しながら顔を背けた。

    「... どうしたんだ。 うん、ヒューベルト?」
    「ずっと貴殿とこうしたかったんです。 だから、この次を…」

    フェルディナントの腰を強く引き寄せて体を密着させた。

    「ああ...私もずっと...ヒューベルト…しかし、」
    「嫌ですか…?」
    「嫌ではない!でもなんで急に…?なんで今日…?」

    ヒューベルトの心境の変化に気づいたフェルディナントはしつこく問い詰めた。 欲望に満ちた瞳が悲しみに浸かりそうだ。

    「今日じゃなければ…ダメだと思うからです」
    「それはどういう意味だ」
    「これからもう本当に最後の戦いだけが残っています」
    「まさか、死ぬかもしれないってことじゃないよね」

    さっきより強い手の中で腕がつかまった。

    「はは、けっして…そんなことはないですな」
    「それなら…?」
    「この戦いが終わったら…すべてが変わります。きっとこのために捧げた私の一生も私の熱情も...ついに終焉を迎えるでしょう」

    フェルディナントの曲がりくねったオレンジ色の髪に指を持っていき、慎重に巻いた。

    「私の気持ちが変わりそうだからです」
    「ヒューベルト」
    「人の心とは実にずる賢いものです。 だから私は自信がありません」

    長い戦いだった。 難しくなかったとはいえ、何の屈曲もなくこの道を歩いてきたわけではなかった。 その風景の中にフェルディナントがあった。 彼の愛情を受けるのは小さな楽しみだった。 初めはだ。 ささやかな余興程度に思っていたことにいつの間にかよく目を向けるようになった。 いい頼りになった。 彼の存在を慰めにすることは難関を切り抜けるのに非常に役立った。

    「本当に多くの助けを受けました。貴殿が想像できないほど目に見えないところでも...」

    しかし、すべてを燃焼させた状態のヒューベルトはどうだろうか。

    「このすべてが終われば、果たして貴殿への私の心も完全に残っているのでしょうか」
    「…」
    「それで今、一番明るく燃える最後の花火をあなたに差し上げたいです」

    フェルディナントの沈黙が悲しかった。 あれほど長く待ち望んでいたのなら、喜んで受け入れてほしかった。 フェルディナントにもう一度口付けをした。涙がぽろぽろ流れ落ちて彼のほおを濡らしていた。



    永遠不変のものはこの世にない。 持続性を持つためには、何かを絶えず燃やさなければならない。 ヒューベルトは最後を控えて実感した。 ただ主人であるエーデルガルトの軌道のために消耗してきた肉体と精神、時間は正確な計算の中にあったが、自らの人生の軌道に他の人が交差する場合は考えたことがなかった。 しかし、この熱く盛り上がる心が、ただの精神的逃避行為が与える甘さに過ぎない虚像なら? 彼の待ち時間を無駄にしてしまうのではないかと怖かった。

    その夜、フェルディナントは結局ヒューベルトに身を取らなかった。 ただ長い間、彼を抱きしめて肩を涙で濡らすだけだった。 また、このように慰められているんだな、ヒューベルトは自分のずる賢い心をさらに信じられなくなった。 降り注いだ涙とともに彼の待ちも止まることを願った。





    「どうだ、期待通りに虚しいのか」

    「…はい。まあまあですな」

    返事はそうだったが、ヒューベルトは目の前に高く積もった書類と奮闘していた。 「闇にうごめく者」との戦いは終わった。 もはや真の平和が訪れたとも言えるだろう。 しかし、ヒューベルトの日常はまるで戦場のようだった。 戦いで疲れた体の世話をする暇もなく、遠征で長い間席を外した責任を果たす忙しい日常が続いた。 おかしなことに虚無はそれほど簡単には訪れなかった。

    「いつから虚無がそんなに適当な感情だったのだろうか」
    「申し訳ございませんがフェルディナント様、ご用件がなければ……」
    「きっと君と前もって約束した時間に来たのに、なかなか私に暇を与えずに…」
    「約束を取り消すことを、私の不覚です」

    ヒューベルトは新しい約束を取るために書記官を呼んだ。

    「ごめん、宮内卿と隠密に話したいことがあるので、ちょっと待ってくれ」

    背の低い書記官は宰相の言葉に身動きが取れず、背中を押されて執務室の外に追い出された。

    「ヒューベルト」
    「はい」
    「最近私に冷たく接する理由は、本当に私に関心がないからなのか、それともただそうしようと心に決めたからなのか」
    「業務と関係のないプライベートな話なら退勤後に…」
    「本心が分かるのが怖いのかい?」

    書類に閉じこもっていたヒューベルトの首をつかんで回した。それとも真心の面倒を見るには忙しいのかとフェルディナントは眉間をひそめた。

    「私が嫌になった?」
    「そんなはずなんて…」
    「そうだね、それなら幸いだ」

    小さなため息が彼の唇から漏れた. 何を言おうとしているのか、ヒューベルトは悩むように下に向いた目を眺めた。

    「ヒューベルト、私は…まだ待ってるよ」

    終始淡々としていたヒューベルトの表情が歪んだ。

    「君の中の火が長い戦いで全部消えたとしても…大丈夫。私はまだ健在だ」

    依然としてフェルディナントの手がヒューベルトのあごに留まっていた。 肌の上を注意深く撫でる親指の動きが綿毛を震わせた。

    「あ」

    唇が触れ合ってぽかぽかと音が短くなった. 彼の行動を止める暇もなかった。

    「今何を…」
    「君の心にまた火をつけようと。 一度燃え移ったことがあるから難しくないと思う」
    ヒューベルトは今,きっと顔が赤くなっただろうと確信した. 軽いキスは唇だけがくすぐったのではなく、ヒューベルトのお腹の中もくすぐった。

    「私の火種をきみに分けてあげる」

    先ほどのキスにこれといった返事もしなかったが、フェルディナントは再び口から口へと熱い息を伝えた。 もしかしたら、フェルディナントのその一言を待ったようだ。 フェルディナントの唇から伝わった花火は、人生で最も明るく燃え上がっていると思っていた時期の、その夜のキスよりもさらに熱くて甘かった。 熱気を抱いた身体接触が不安でうろうろしていたヒューベルトの心に油を注ぐようだった。 ヒューベルトの憂慮どおり、人の心は実にずる賢かった。 このように望むことに背を向け、温もりを分けてもらうとすぐにくっつきたくなる。

    一生会ったことのない対象に直面しても、身を任せてその流れを楽しむことができるだろうか。 人は何で生きるのか。 フェルディナントがヒューベルトに見せた火花は、明らかに今までとは違う新しい方向を照らしていた。
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