距離七海さんがいらっしゃる。
眼鏡をかけた目でぼんやり見えるほどの距離。
夕方になりつつある空の下で電話をかけているのが見えた。
任務が終わったのだろうか。それとも、これから任務なのだろうか。
スマホで呪術師の任務をまとめたカレンダーを確認してみる。
『七海さん……もう任務はないみたいですね』
数日任務に出ずっぱりで申し訳なくなっていたため良かったと胸を撫で下ろす。
『今夜、会えるでしょうか』
そんな期待を込めながら再び七海さんを見た。
******
向こうに伊地知くんがいる。
窓を隔てているため、光が反射して見えにくいが確かに伊地知くんだった。
『七海さん?』
「……失礼」
今回の任務の詳細を担当の補助監督に報告する為、会話を続ける。
明日からはしばらく任務は振り分けられていなかった。今日この後、彼は空いているだろうか。
報告が終わり、電話を切った所でもう一度窓の方へ目を向けた。
目が合った。
******
「あっ」
目が合ってしまった。
このぼんやりとした距離で、外から七海さんが私を見ている。
内心戸惑いながら会釈をすると七海さんが、こちらに向かって歩いてくる。
私も建物の外に出ようと早足で出入り口へと向かった。
そしてようやく、はっきりと見える近さで七海さんに会えた。
「七海さん、お疲れ様です」
「伊地知くん」
突然、肩に七海さんが顔を埋めてきた。あまりにも突然の行動に固まってしまう。
すぅと深く息を吸う息づかいが聞こえ、恥ずかしくなり七海さんから距離を取ろうとするが抱き締められてしまい離れられない。
「七海さん、誰が来たら……!」
「あと少し。今夜、空いていますか?」
「えぇ。もう少ししたら退勤予定です」
「では、私の家で夕飯でも」
ようやく離れた頃には疲れが見えていた顔色が、少し元気になっているような気がした。
「七海さんが良ければ車を出すので買い物に行きませんか」
「お言葉に甘えましょう。では、待ってますよ」
額に口づけを落として、七海さんは去っていく。先程まで近すぎて恥ずかしかったのに、遠くなると寂しさを感じてしまう自分がいた。
「七海さん!」
離れつつある背中に向かって名を呼ぶ。
振り返る彼の胸に飛び込み抱き締めた。
息を吸うと七海さんの香りが体中を満たしていき、癒される心地だ。
「伊地知くん、こんなことをされると……君を離したくなくなるのですが」
「すみません……離れがたくなってしまい……」
胸から離れ、七海さんに「少し屈んで下さい」と声をかける。
屈んだ彼の額に私も軽く口付けた。
耳がほんのり赤くなった彼に可愛さを覚えながら「では、のちほど」と言って残っている仕事を終わらせねばと走った。
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走ってゆく伊地知くんの背中を見送り、待合室へと向かう。
しばし離れることすら寂しく思ったが、彼がくれた額の熱がそれを埋めてくれた。
「楽しみですね」
自分の浮かれている心を落ち着かせるように、呟いた。