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    solt_gt0141

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    solt_gt0141

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    会社員七海と花屋の伊地知のパロディ。七伊です。
    クリスマスのお話。前回の話をあげてから多分1年経ちました。1年越しに書けて良かったです。
    相変わらず七海から灰原に向けての口調が分からない。
    メリークリスマス!

    花屋の君⑨ 七海とご飯を供にした日から2ヶ月経ち、世間はクリスマスの空気に染まっていた。店の中はポインセチアやクリスマスローズが多くなり、伊地知はクリスマスリースを作っていた。
    そんな時、店の電話が鳴ったので出ると、こちらが名乗りを上げる前に相手は話し始めた。
    『やっほ。伊地知、元気?』
    「……五条さんですか」
    名乗らず自分の名前を呼ぶなんて知り合いでこの人くらいだ。
    『今日はプライベートじゃなくて注文だからこっちに電話した。胡蝶蘭を来週日曜の17時半に届けて欲しいんだけど出来そう?』
    17時半であれば新田に鍵を預け、自分が配達に行けば定時に彼女を退勤させられるので時間はまず大丈夫だ。胡蝶蘭も丁度土曜が仕入れなのでそこで入荷手配をしておこう。
    「丁度土曜日に仕入れなので、大丈夫ですよ。お祝い事ですか?」
    『さんきゅー。まぁ祝いっちゃ、祝いかな。札は祝異動って書いて添えて』
    「え?い、異動?」
    『僕の後輩が新しくできた支社に異動するから餞別で贈りたいんだよね』
    餞別に胡蝶蘭?という疑問を飲み込んで伊地知は続ける。この人に常識は通用しないと、関わり始めて学んだことだ。
    「かしこまりました。ちなみにその方のお名前は?」
    『火山灰の灰に原っぱの原で灰原。あ、場所は七海が居る支社によろしくね。受付には話通しとくから。じゃっ!』
    「え!?待って、五条さーーー」
    ぶちっと切れた電話を片手に伊地知はしばらく呆然としていた。

    ****

    「異動が決まったよ!!」
     灰原が急に部屋に入ってきたと思いきや、私のデスクまで早足で来て高らかに言った。それを聞いた彼と顔馴染みの社員は驚きの声を漏らす。
    そんな周りの反応を他所に灰原はニコニコした笑顔で私を見ていた。
    「どこへ異動を」
    「千葉にできる新支社。そこに来る他の社員の育成担当をして、時々商談にも混ぜてもらうんだ」
    優しくて大らかで、重役からの信頼も厚い灰原は社員の育成のため他の支部へ異動することが多々あったため特別に驚きはしなかった。
    ……しなかったが、少しの間ではあるものの顔を合わせて仕事をしていたので寂しくはある。
    「ここへの最後の出勤は?」
    「来週の日曜、クリスマスイヴだね。んで、引っ越しは木曜日」
    「引っ越しの準備は進んでいるんだろうな」
    「あー……」
    灰原の笑みが固まる。この会社に入社して初めて異動が決まった時も同じだった。

    『明日引っ越しと聞いたが準備は終わったのか』
    『あー……その事なんだけどさ、七海。手伝って!夕飯奢るから!!』
    その夜、七海が悪態をつきながら段ボールに物を投げ入れたのは言うまでもない。

    「今回、私は手伝わないので早めに終わらせるように」
    「は、はい……あ、そういえば五条さんにも異動のこと伝えたらプレゼント贈ってくれるって連絡きた!」
    頭の中に悪どい笑顔を浮かべた五条が浮かび、嫌な予感がした。
    「はぁ……どこに来るんだ、それ」
    「ここに送ってくれるって」
    「受付で止められるものじゃなければ良いんだが」
    「何だって大歓迎さ!あ、でも次住むところペット不可だから動物以外でお願いしますって伝えとこう」
    すぐさまスマホを取り出してメッセージを打ち込む灰原を横目に『そういう問題じゃないだろう』と思ったが口には出さなかった。
    「灰原、報告が終わったなら仕事に戻れ」
    「はーい。あ、五条さんから植物を送るって返事きた」
    「家に入る物でと念押ししといた方が良い」
    「そうだね!それじゃ、僕はこれで」
    片手をひらひらと振りながら灰原は元の部署へと帰って行く。
    それを見送りながら七海はスマホで最終出勤日に渡すプレゼントをネットで注文した。

    ****

    クリスマスイヴ

    「はい、かしこまりました。15分ほどでお届けに参ります」
    電話を切ってエプロンの上から紺色のジャンパーに袖を通し、新田さんに店の鍵を預けた。
    「明日の分の花束を作り終えたら上がってもらって大丈夫です。店の鍵は外にある赤い植木鉢の下にお願いします」
    「はいっス!」
    「では、行ってきます」
    外に出ると雲は灰色に染まっており、空気が冷たい。今にも雪が降りそうだ。
     社用車に乗り目的地へと車を走らせる。
    五条さんに教えてもらった住所付近のパーキングエリアに停車し、目の前にそびえ立つビルを見上げた。
    「ここが七海さんが勤めている会社……」
    ビルの中にはいくつもの部署があり、目的地は10階の部署が届け先との事だったので胡蝶蘭を抱えて車から出し受付へと向かった。
    ビル内に入ると受付の女性がこちらを見て「ご用件をお伺いします」と出迎えてくれた。
    「お世話になっております、先程お電話差し上げました伊地知です。灰原様にお届けに参りました」
    「え!?僕に!?」
    急に隣から聞こえた大きな声に驚き胡蝶蘭を持つバランスを崩しそうになったが間一髪持ち堪え、振り向くと黒髪で爛々とした目を持った男が自分を見ていた。
    「驚かせてごめんね。僕が灰原です」
    「いえ、こちらも失礼しました。五条様よりお届けの品です」
    「はははっ、そうかなと思ってたんだ。伊地知くん、ありがとう」
    あれ?この人に自分は名乗っただろうか?と思っていると顔に出ていたようで灰原さんが言葉を足す。
    「丁度今、外回りから帰って来たところで君の名前を聞いたから呼んじゃった。もし良かったら、お花を僕の部署まで持って来て貰っても良い?」
    「はい、かしこまりました」
    彼の後に着いてエレベーターに乗り、10階を押して伊地知の方を見る。
    「お客様へ贈る花束を作ってくれる花屋さんって君のことだよね、いつもありがとう」
    「いえ、そんな……当然のことをしているまでですので」
    「僕の同僚も褒めてたよ。そういや蘭って初めて貰うんだけど育て方ってある?」
    「胡蝶蘭は乾燥と直射日光を嫌うので窓際にカーテン越しで日光を当てて、水苔が乾いた頃に水をあげて頂ければ長持ちしますし、また花が咲きます」
    「へー!頑張って咲かせて五条さんに写真送ろう」
    目的のフロアに着き、灰原さんが先導する後を追いながら周りから聞こえてくる音を耳で拾う。

    『先日の○○様の対応、どうなった?』
    『営業部、領収書の提出を早くして下さい』
    『明日の会議の資料、印刷してる!?』

    自分が勤めている場所では聞かない言葉が次々、聞こえクリスマスとは関係無しに忙しそうだなと思っていると別の部署に入ったようで慌しかった空気が静まった。
    灰原さんがドアを開け、指示する所に胡蝶蘭を置いた所で伝票を差し出してサインを求める。
    周りを見回していると夕焼けに反射してキラリと目の端に映る物があり、気になってそこに視線を向けたがよく見えない。
    「気になる?」
    サインを書き終えた彼は、その物が置いてある机に向かい手招きする。
    近寄るとハーバリウムのボトルが置いてあり、それは自分が作った物に違いなかった。
    『ここは七海さんの机!?』
    「僕の同僚の七海って人の机。この……えっと、バーバー……」
    「ハーバリウム」
    「そう、ハーバリウム」
    灰原さんの同僚というのは七海さんなのだと知り、戸惑いから背中に汗が流れるがそんな思いを知らない彼は言葉を続ける。
    「綺麗だよね。これを作ってくれた人は、あいつのことよく見てると思う」
    「……灰原さんから見て七海さんはどういう方なのですか」
    「真面目で、仕事もできて社会人のお手本みたいな男でね。冷たそうに見えるけど良いやつなんだ…最近は僕以外にも心を許せる人ができたみたいで安心してる」
    ハーバリウムに向けられていた目線が自分の方に向けられてどきりと心臓が一層強く脈打つ。
    「その証拠にね、これを見てる時の七海は、いつも優しい目をしてるんだ」
    「そうなんですか?」
    「うん。部署異動してまだ数ヶ月だから慣れないことも多くて眉間に皺がめちゃくちゃ寄ってるんだけど、これを見てる時は、そんな顔全然しない」
    心と身体が暖かい何かで満たされていく心地だった。
    「あ、でも伊地知くんは七海に会ったことないからどんな見た目か分かんないよね。今会議中だからこっそり見ちゃおっか!」
    「え!?ちょっと待って」
    ください、と続けようとしたが声が届く間もなく部署を出る灰原さんの背を急いで追う。
    ずんずんと歩を進める彼に声をかけようとするが追いつくので精一杯で、気付いたらまた違う部署の扉をくぐっていた。
    「静かにね、バレると怒られるから」
    そう言って身を屈める灰原さんにならって同じ体勢を取るとガラス越しに七海さんの姿が見えた。
    「あの前に立っている金髪の男が七海だよ」
    10人ほどいるオーディエンスに向かって何かをプレゼンしているようだが、よく聞こえない。
    真剣な表情、時折顔をしかめて何かを考えている表情、ここで見る彼は私の前では見たことのない七海さんだった。

    「今日は本当にありがとう。クリスマスイヴなのに悪かったね」
    帰り際、灰原さんは一階の受付まで見送りに来て下さった。
    「いえ、こちらこそありがとうございました」
    「伊地知くん、明日は予定あるの?」
    「いえ…仕事ですね。気分を味わうためにケーキだけでも買おうと思います」
    「そっか。じゃあこれは僕からの早いクリスマスプレゼント」
    そう言ってポケットに手を入れ渡されたのは、のど飴だった。
    「帰りにでも食べて!」
    「ありがとうございます、頂きます」
    お辞儀をして駐車場へ向かおうと自動ドアを出る。冷たい空気が体中を包み体温が一気に下がる。
    早足で車に戻って早速のど飴を開けて口に入れると金柑のど飴の甘酸っぱい味が口の中に広がった。
    店に戻ったら自分用にクリスマスリースでも作ろうと思い車にエンジンをかけた。

    ****

    18時。
     プレゼンを終えた七海は会議室を出て自分のデスクへ戻る途中、エレベーターで上がってきた灰原と会った。
    外回りから帰って来たにしては手荷物も無く身軽だった為、尋ねてみる。
    「外回りから帰ってきたのか?」
    「いや、伊地知くんを見送りに行ってたんだ」
    灰原から伊地知の名前が出てきたことに驚いたが、部署にある胡蝶蘭を見て彼が持ってきたのであろうと悟った。
    「会ったのか、彼と」
    「うん。明日はお仕事なんだって」
    「知っている。何か話したか」
    「うん、世間話を少し……ねぇ、七海。伊地知くんなんだよね、そのハーバリウム作ったの」
    デスクに書類を置いていた七海の動きが止まる。灰原は距離を詰めて話し続ける。
    「明日、伊地知くんに会わないの?」
    「仕事だから会えるわけないだろう、彼も仕事だ」
    「そう言うと思って、七海に朗報です!さっき他部署の女の子が花束を伊地知くんの店に頼んでたから七海が取りに行くよう手配しといたよ!」
    「は…?」
    あまりにも突拍子もない事に七海は開いた口が塞がらなかった。
    「……お前は、勝手に」
    「そうでもしないと七海、伊地知くんの所に行けないでしょ。今日の会議の内容、僕がまとめておくから何かプレゼント買っておいでよ」
    七海は大きなため息を吐き、同じ室内にある自分のロッカーに向かい箱に入った日本酒を取り出し灰原に押し付けた。
    「異動の餞別、先に渡しておく」
    「え!?ほんと!?いいの!?」
    「30分ほどで戻ります。全部とは言わないので8割まとめておいて下さい」
    灰原は「それ、ほぼ全部だよー」と声を上げたが足早に去っていく七海の耳には入らなかった。

    ****

    クリスマス当日 夕方

    「ふぅ……」
    クリスマスだからか、いつもより花を買われる方が多く夕方になって、ようやく一息つけた。
    入ってくる人みんなが幸せそうな顔をして花を買っていく。
    その光景にどこか羨ましさを感じるも今年も1人でケーキを食べて過ごす光景が、その羨望を塗りつぶした。
    『まあ、今に始まったことではないんですけどねえ…』
    タンブラーに入れていたコーヒーを飲み終え、伝票に目を通す。
    そこには昨日行った七海さんの会社名が書かれていた。
    恐らく昨日行った部署とは違う所なのだろう。あんなに大きくて、たくさんの部署がある会社だったら、その場に配達元が居ようが分からない。
    帰ってきた時、新田さんから今行った会社から注文が入ったと聞いた時は驚いた。
     予定の時間まで30分ほどあったので自分用に花束でも作ろうと立ち上がる。本当はリースを作ろうと思っていたが時間がなくて作れなかった。
    自分以外誰もいないのを良いことに鼻歌を歌いながら花を選び、茎を輪ゴムで括って水が入ったバケツに入れた状態でキーパーに入れる。後は帰る時に新聞で包んで持ち帰るだけだ。
    時計を見るとまだ時間があったので何をしようかと考える。
    『クリスマスにわざわざ来られる訳ですから小さいブーケでも作りましょうか』
    気の向くままにクリスマスローズやラナンキュラス、黄色のスイートピー、黄色のアネモネなどをまとめ、茎を短く切って輪ゴムで括りステムティッシュを付けて水差しで濡らす。
    ラッピングをしたらミニブーケの出来上がりだがラッピング材の色を何にしようか。
    『クリスマスですから、華やかな…赤にしましょうか』
    ハサミでラッピング材を裁断し、包んでリボンを作ろうとした所で人が居ることに気付き驚きながらも、その方角を見た。
    「こんばんは、伊地知くん」
    紺色のトレンチコートに黒のマフラーをした七海さんがそこには立っていた。
    その口は笑みを浮かべており、明らかに今来たのではなく少し前から居た様子だった。
    「な、あ、あ、いつから…!?」
    「鼻歌を歌いながら今持っている花束に取りかかった所からです」
    「えっ!?そんな前からいらっしゃったなら声をかけてくだされば良かったのに」
    「そうしようと思ってたのですが、君があまりにも楽しそうに作っていたので」
    昨日の会議で見せてた顔と違う柔和な表情が、私が見るいつもの七海さんでホッとする。
    キーパーから花束を取り出して領収書を書いた。
    「今日は七海さんが取りに来られたんですね」
    「ええ…偶々空いていたので。それに昨日、君に会えなかったのもあって会いに来ました」
    『会いに来ました』と言われ、領収書を書く手が震えた。
    『それは言い換えれば私に会いに来たという事…!?いやいや、そんな訳ないでしょう!』
    動揺を悟られないようにボールペンを握り直し、丁寧に領収書を書き上げ印鑑を押した。
    マネートレーに置かれた現金を数え丁度あることを確認して領収書を手渡した。
    「七海さんはこの後もお仕事ですか」
    「いえ、今日は花束を注文した部署に渡したら退勤です。伊地知くんも、この後退勤ですか」
    「お客様が来なければ店仕舞いですね」
    「…大きなお世話かもしれませんが、早く切り上げた方が良い。雪が降りそうです」
    それを裏付けるようにドアから冷たい風が強く吹き込み体の体温を一気に持って行った。
    雪が降れば今日はホワイトクリスマスになるのかと自分に似つかわしくない事を思ってしまう。
    「お気遣いありがとうございます…七海さんも、大きなお世話かもしれないのですが気をつけて戻られて下さい」
    「ありがとう、伊地知くん。そしてメリークリスマス」
    その言葉と共にカウンターに小さな袋が置かれる。袋にはデパートでよく見るコスメブランドのロゴが入っていた。
    「これは…?」
    「クリスマスに手ぶらで来るのもどうかと思ったので君に…プレゼントです」
    受け取って恐る恐る袋から取り出し、包装を開けると缶タイプのハンドクリームが入っていた。
    缶の蓋には緑色の下地にジンジャークッキーマンやクリスマスツリー、オーナメントのイラストが描かれており可愛らしいデザインだ。
    「本当に…良いんですか?」
    「紹介に手荒れに良いと書いてあったのを見て君と話したことを思い出して…渡したくなったんです」
    言葉がうまく出てこない。無意識に息を止めてしまう。
    深呼吸を2度ほどして、ようやく元通りに呼吸が出来るようになった。
    「ありがとう、ございます…嬉しいです」
    「良かった」
    緑の目を細め、寒さのせいか頬を赤くして微笑んでいる彼を見て胸の中に甘酸っぱい何かが流れていく。
    それが何かは分からぬまま、ミニブーケのことを思い出した。
    「七海さん、少しお待ち頂いても良いですか」
    「ええ、大丈夫ですよ」
    ピンクのリボン素材を取り出して、急ぎながらも丁寧にリボンを作りミニブーケに結んで花に霧吹きをすれば完成だ。
    七海さんの前に立ち、それを差し出した。
    「私からの、クリスマスプレゼントです」
    微笑みが次第に驚いた物に変わってゆき、言葉を発さず沈黙が数秒流れる。その数秒がとてもとても長い物に感じられ、それをマイナスに捉えてしまう。
    「す、すみません…迷惑でしたよね」
    差し出した手を引こうとすると、彼の手が私の手を握ってそれを許さなかった。
    「そんな事、ありません」
    寒空の下、この店に来たはずなのに熱い手で自分の手が溶けるんじゃないかと思った。
    目が合い、視線が交錯すると彼はハッとして握っていた手を離す。
    「すみません……驚いてしまって。とても、嬉しいです。迷惑だなんてとんでもない」
    そう言って私の手からミニブーケを受け取ってくれた。迷惑ではなかったことに安堵して「良かった」と自分に言い聞かせるように言う。
    「……です」
    「え?」
    何か言われたようなので聞き返した。
    「君が好きです」

    ****

    「君が好きです」

    気づいた時には口から言葉が出ていた。
    伊地知くんの顔がみるみる紅潮していく。ああとうとう言ってしまった。
    君への好意を自覚してから何もかもが愛しくて、君が今この場で花束をくれた事も尚更嬉しくて思わず手まで握ってしまう始末。
    自分はここまで堪え性が無い人間だったろうか。
    「わ、私を…?」
    「ええ」
    カウンター越しに腕を伸ばせば再び彼に触れられるが、もうそんな事はしない。
    「君のタイミングで良いので返事が欲しいです」
    真っ赤になった彼がゆっくり頷いたことを確認して「今日もありがとう」と伝え背を向け店を出た。
    肌を刺すような寒さだったが、体が熱で満ちていて気にならなかった。

    「おかえり」

    助手席に座っていた灰原が笑顔でこちらを見る。
    花束を後部座席に置いて、運転席に座って一息ついた。
    「告白したの?」
    「あぁ」
    「反応はどうだった?」
    「……驚いていた」
    「はは、そうだろうね。好きって伝えて後悔してる?」
    「いいや。もし、彼がノーだったとしても悔いは無い」
    エンジンをかけて車道に出る。
    「七海らしいや。じゃ、会社に花束置いたら僕の家にお願い!」
    「勝手に着いてきておいてタクシー代わりか」
    「違うよ。僕は告白して、もし玉砕した場合のことが心配で来たんだよ。すぐ慰めてあげたいからね!」
    「引越しの準備を手伝って欲しいと正直に言えば今ならビールとデパートのローストチキンで許す」
    瞬間、灰原が両手を合わせて私を拝むように頭を下げる。
    「引越しの準備手伝って下さい!お願いします!」
    「はぁ……今回きりだ」
    その後、段ボールが積まれた部屋の中で灰原とローストチキンを食べてクリスマスを過ごしたのだった。
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