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    imk_toru

    @imk_toru
    主に年齢制限とか本当に汚い落書きとかです
    なんか左足が痛いな 成長痛かもしれません

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    imk_toru

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    「海賊に襲われない島ァ?」
    というヤソの台詞から始まるある冒険のお話。船員がお頭とベックとヤソとルゥとスネとホンしかいない時、ということにしています。
    小説ではなくネタ帳です。随時追加されます。(たぶん)

    島門番🍹が仲間になるよ!の強めの幻覚1.「絢爛豪華なネモンギ島」
    冒険中船の一部を大きく損壊した赤髪海賊団は、直すための資金を調達するため、手がかりを得るべく「職人と商人の島、通称ふたご島」に立ち寄る。この島は縁日も霞むほどのお祭り騒ぎをするとても賑やかな街だった。街の装飾はどれも職人技巧を凝らしており、噴水一つにもお金がかかっているように見える。お金持ちの貴族のための通りもあるようで、随分と繁盛しているようである。シャンクスとルゥが少し変な匂いがすると言って香水をつけた貴族に睨まれるのを咎めつつ、島を各々に楽しむ海賊団。いくらか時間を経て、世にも珍しい「病断つ宝石」がこの街に存在することを知り、これは金になる話だと盛り上がる。一方で、この街には「ルール」があるという話も耳にする。これはルールで決められているので触れないでください、この店に入るにはこうしてください。当初は優しく対応されるも、行く先々の店やゲームで厄介を起こし、ルールを破った一行は金持ちのエリアを追われ、気づけば不思議な裏通りに出る。ベックやホンゴウは金持ちエリアで追ってきた衛兵のいでたちが妙に身だしなみが悪いことや、彼らの腕に蔦の模様があったことが気になっていた。病気ではなさそうだが、刺青なのだろうか?話しながら裏市場を歩く中、ある店で不思議な白い花を見かける一行。綺麗だな、とかその店の女主人に似合いそうだとかもっと食い物見に行こうぜと盛り上がる中、彼らの様子を見て笑っていた女主人が、その花に触れようとしたルゥの手を払い除ける。豹変して怒り、これは特別な商品で高価なものだから触れるな、という。綺麗ではあるがただの花にしか見えないそれに、一行は首を傾げるばかり。とその時、市場の表で乱闘騒ぎが起こる。よく見ると先ほど追ってきた者たちと同じ格好をした衛兵が一般人の男性に暴行を働いているようだ。ベックが間に入り凶行を止めるが、男は興奮状態のまま怒鳴り散らす。やい余所者が止めるんじゃねぇ、この男は約束を違えた。この街の法、俺たちに逆らった。だから死ぬのだ。お前も邪魔をするなら容赦はしないぞ、と。
    当然そんな理屈を聞く訳もなく、男性を救い蔦の男を追い返す一行。店から慌てて出てきたのは先ほどの女主人であり、男性は彼女の夫だという。泣きながら無事を喜ぶ女主人は、お礼をすると言って店に入り、先ほどの白い花を手に帰ってきた。手紙を添えて渡し、後で必ず読んでくれと言っておしつけた。その渡す手にも蔦の模様があることに気づいたホンが指摘するが、女主人はさっとそれを隠してぎこちなく笑うばかりである。この島のものは皆この刺青をするルールなのだと言う。そして急かすように一行を店から出すのだった。この先の島の裏側にはいくな、と付け加えて。店を出る前に「病断つ宝石」について尋ねるが、女主人は何も知らないと答えたのだった。

    手紙には、「花は大切に育て、他の島で売れば大金になる」という旨が書いてあった。といってもどう見てもただの綺麗な花であるため疑うヤソップ。少なくともこの花一つで船の修理費を賄えるとは思えない。花は一時ホンゴウが預かり、ログの様子を確認する。ログは未だたまらず、宝石についてはまだ何もわかっていない。一行はまたしばらく街を隠れながら探索することになった。一通り街をゆくが、島でお尋ね者になってしまった今行ける場所は限られている。「宝石」の情報も全く集まらない。わかったことは、島民や衛兵は皆腕に蔦の刺青を入れていることくらいである。
    何かがある。そういった怪しげな雰囲気を感じながら移動するベックマンは、行ってはいけないと言われた島の裏側のことを思い出す。ヤソップ達と落ちあうが、街を探る最中シャンクスは先にそこへ行ってしまったらしいことを耳にする。


    2「島の裏側」
    裏市場を抜けた場所、島の裏側。そこは切り立った崖にポツポツと荒屋が張り付いた、ひどい貧民街だった。見窄らしい服を着た者達が身を寄せて生き、あちこちで倒れている。かすかな咳の声がどこともなく響いていた。崖下には波が寄せており、遠くに小さな船着場が見える。
    ホンゴウが「病気か」と呟いた。誰も彼も蔦の刺青が腕から胸へ、顔へ、広がっている。近くに倒れている老人や女性に歩み寄り、検診したホンゴウは違和感に気づく。まるで本物の蔦だ。一人一人伸び方が違う上、それ以外は至って健康なのだ。ふと顔を上げたホンゴウはあることに気づく。シャンクスを探すベックマンに駆け寄り、ここに長居はしない方がいいと話しかけた。シャンクスが見つからない中、どうしたものかと首をひねる一行は、遠くの船着場でまたも騒ぎが起こっていることに気づく。どうやら子供が例の衛兵たちに捕われようとしているようなのだ。今更騒ぎの一つや二つ、既に追われる身である彼らには関係ない。助けに入ろうとしたとその時、その場に割って入ったのはシャンクスその人だった。

    どうやらこの子供、ユコウがシャンクスを島の裏側へ連れたらしい。酒場で飲んでいたシャンクスは、店を出たところで「盗人だ!」と叫ぶ声を聞く。怪我を負いながら逃げる子供と追う店の男、そして衛兵。路地の曲がり角でその子供、ユコウを匿ったのだ。ユコウは最初は抵抗を見せたが、シャンクスのかける言葉にやがて肩を落とす。盗んだものー例の白い花を鞄から取り出し、「これがあれば…島のみんなを少しでも助けられる」と呟いた。その目を見て考えたシャンクスは、それを手伝おうと提案する。代わりに「病断つ宝石」について教えてくれないか、と尋ねると、ユコウはそれについては何も知らないが、美味しいご飯ならあるんだ、と力説した。十分だな、と笑うシャンクスに安心した子ユコウは、島の裏側の方を指差した。
    それが島の裏側のさらに向こう、海を隔てたところにあるふたご島の名の由来である小さな島を指していることを知ったシャンクスは海賊船に取り付けた小船に乗って戻ってきたところだったのだ。
    またアンタは勝手を、と怒るクルーを前に後頭部をかきながら、まァいいじゃないかと笑う船長。ちょうどお腹も減ったところだと言うルゥや、何か情報があるかも知れねぇよな、とため息をつくヤソップ。ホンゴウは子どもの腕に刻まれた蔦を見ながら気になることがあると口にする。こうして赤髪海賊団は、小さな子どもを連れてふたご島の片割れ、ナランギへ向かうことになる。

    時を同じくして、豪華な職人づくりのソファに女を侍らせて座る男がいた。衛兵が報告をするより早く、「行かせておけ。どうせナランギの街に行きつけやしない。」と口端を吊り上げて笑う。「あの毒の島にはな。」と。


    3.「ナランギ①」
    小舟に乗り込んだ一行は、しかし海の霧向こうにあるという島へ行く方法がわからない。ふたご島は名の通り双子の島で、島の磁力を同じくしているからだ。しかしユコウは行くことができると言う。首を傾げるヤソップに、辺りの様子を観察していたスネイクが納得したように話しかけた。どうやらこの辺りの海流はちょうど円を描くように巡っているようなのだ。円の縁にこの島があることや、霧が深い以外は気候も安定しているところを見ると、恐らくちょうど円の反対側にナランギがあるに違いないと言う。ユコウは頷き、その海流に乗りさえすれば何をせずともナランギにつくことができると答えた。一行を乗せた小舟は表裏一体の島、ネモンギを離れ、ナランギへ向けて出港する。
    海路を征く船の上、ホンゴウはずっと気になっていたことを口にする。それは腕の蔦のこと-ではなく、ユコウの腕や顔の一部に痣のように広がる黒い染みのことだ。貧民街にいた人々にもあったそれを感染症かと思いベックマンに忠告したものの、よく考えると違うように見える。感染の程度が驚くほど似通っていたからだ。問われたユコウは一度口籠もってから、静かに話し始めた。ホンゴウが指摘した通り、これは感染症などではなく、ナランギという島がもつ呪いのようなものなのだという。この呪いのような毒はマスク程度では防ぐことはできず、数年も住めば身体を侵し始め、そのまま放置すれば10年もしないうちに死に至ることになるらしい。常に毒を撒く島。それがナランギだ。ネモンギ島の裏側は海流で運ばれた毒が吹き溜まるため、あの島の裏側でも患者が出るのだろうとスネイクが付け加えた。ホンゴウは頷いた後、子ユコウカバンの中に入った白い花を見遣る。そしてそれが薬になるんだな、と語りかけた。ユコウは驚いた顔をした後、黙って頷き、小さな声で返事をした。薬になる花は年に一度だけネモンギ島から届けられるのだそうだ。しかし島民の病を治すには到底及ばない量で、患者は増えるばかり、病状もただ緩やかに悪化するばかりなのだという。涙ぐむように俺のばあちゃんも、と付け加え、鞄の花をそっとしまい直した。島からは出られないのか、と問うヤソップに、ユコウは勢いよく首を振る。島を出るなんてとんでもない。みんなあの島が好きだし、それに。出られるわけがない。
    クルーは顔を見合わせる。ネモンギにきていたことを問おうとして、ユコウは遮るように話題を変えた。おじさん達も商人なの?と空元気に尋ねる。シャンクスが麦わら帽子をかぶり直し、にやりと笑った。クルーが思い思いに口端を吊り上げ、腰に手を当てて胸を張る。「俺たちは海賊さ。」「金欠だけど」
    ユコウは驚いた顔をした後、目を輝かせて話を聞く。大海賊時代は始まって間もない。夢を追いかけ海へ繰り出した人々の冒険譚は、子供にとってはどんなおとぎ話より魅力的である。旅の冒険と船の一部を損壊するに至る話まで、クルー達は思い思いに語るのだった。

    はしゃぎつかれたユコウが船の上で眠りに落ち、一夜が明けた。相変わらず霧は濃いが、スネイクが海流と気候を常に見ているため心配はない。ホンゴウは自身が預かったお礼の白い花に目を落とした。これが薬だと聞いて思い当たる節があったのだ。不思議そうに様子を伺うヤソップに手持ち無沙汰に話す。この花の名は恐らくシラヌキ、花弁を煮詰めると特定の症状に効くと噂の幻の植物だ。効く病気が限定的なので薬としては重宝されないが、そもそも存在が幻と言われる花なのでその価値は計り知れない。本でも僅かな記録しか見たことがないが、もし記録が確かなら、この花はある島でしか採れないはずである。ネモンギ島は栄えてはいるが大きさ自体は小さな島で、島を探してもこの花が育てられているような畑のようなものは見当たらなかった。この花がシラヌキだと云うのなら、一体どこで採れたのだろうか。ヤソップは「病断つ宝石」とも関係あると思ったんだがな、と小さく肩をすくめた。
    会話が途切れたその瞬間、突然ルゥがやっぱりあの匂いだ!と大声をあげた。シャンクスも隣で頷き、ここからだったのか、と手をひらひらと顔の前で振っている。気がつくと霧が晴れて、遠くに島が見えていた。大きな一本の柱の上にねずみ返しを取り付けたような円錐が乗っかっている。その頂点で煙を吐く火山。不思議な形の火山島がそこにあった。


    4.「ナランギ②」
    島に近づくにつれ、特徴的な匂いはルゥとシャンクス以外にも感じ取られるものになっていった。冒険者の勘で船底に身をかがめて呼吸を整えていると、小さなフナムシがひっくり返って動かなくなっている。なるほど、とベックマンが呟いた。これが「海賊に襲われない島」か。
    オールを持ち出し、漕いで島から距離を取る。スネイクが遠くから見立てて報告した。どうやら風が島のねずみ返しの下で渦を作り、下の柱岩の周りで停滞した濃い毒の層を作り出しているらしい。ようやく目を覚ましたユコウが慌ててこのまま島に近づくなと云うが、危険を覚えて離れたばかりだ。しかし間もなく、スネイクがあそこだ、と指をさした。風の渦の背がぶつかる場所である。そこなら毒の空気は流れていて、船をつけられるだろうというのだ。おそらくこの島に近づく唯一の隙間だとスネイクは言い、それを聞いたユコウは目を輝かせて驚く。本当に島の入り口はそこにあるらしい。きらきらとした目を向けられたスネイクが自慢げに胸を張る横で、各々がオールを手に漕ぎ出した。いよいよ上陸である。

    「なんだテメェら、海賊なら容赦しねぇぞ。」
    ユコウが島の入り口を通り上の島へ登るのを黙って見送ったと思いきや、その入り口に続こうとしたシャンクス達の目の前に棒を突きつける男が1人。
    睨め付ける眼光は鋭いがまだ若い。眼光の下の頬には痛々しい大きなガーゼ。白い手袋越しに音がするほどきつく棒を握りしめるその腕には、これまたこれでもかというほど白い包帯が不器用に巻かれていた。少し視線を上げると、被った黒い帽子には蔦這うドクロのマークがある。
    「帰れ。さもなきゃ殺す。」

    毒の層の隙間を抜け、岩柱に空いた小さな洞穴の入り口を通って入港した一行が見たものは、およそ入口と呼ぶには簡素すぎる切り出しただけの港である。狭い洞穴の中に造られた掘建小屋、木を簡単に組んだだけの船着場。正面に見える岩壁には扉が取り付けてあり、どうやら柱の上にある島にはここから登るらしいことがわかる。船首でシャンクスと到着を待っていたユコウは船を着けるや否や船着場に降り立ち、扉に向かって走り出した。こっちだよと言わんばかりに手を振るが、その扉の隣には包帯だらけの腕を組む青年が1人。扉を抜けようとするユコウと一瞬目を合わせる。ユコウは何事か口にしようとしたが、青年にギロリと睨みつけられて慌てて口を塞いだ後階段を駆け登っていった。その背を見送った青年の視線が戻り、ユコウの後に続こうとしたシャンクス達の鼻先に棒が突きつけられる。「なんだ、テメェらー」

    生半可な輩ではないことは目を見ればわかる。青年の殺気に応えるようにすぐさま銃を構えたルゥとヤソップを片手で制し、ベックマンは前に立つシャンクスの様子を伺った。真剣な面持ちで顔を上げた当のシャンクスは、次の瞬間には眉尻と口端を大きく下げて「うまい飯をご馳走になる予定なのに…!」と言うのだった。
    あまりの緊張感のなさに青年が動揺し、クルーも「飯かよ!」と銃をしまい直す。しかしルゥは顎に手を当てて「確かになァ」と唸り声をあげた。コックとして全員の腹を守るのが使命であるが、ここしばらくの金欠のせいで満足な飯の時間を提供できていない。「あんまり食べすぎるなって言っても誰も聞かねぇし」という言葉には流石にクルー達も黙ってはおらず、すかさずお前が一番食べるだろうが、と怒鳴って口々に文句を言い始める。宴ができていない、何より酒が飲めない、ということらしい。
    その様子を見ても警戒を解かないドクロ帽の青年は、困惑のうちに青筋を浮かべる。「ならネモンギに行けよ!飯屋の一つや二つあっただろうが!」とまなじりを釣り上げて怒鳴るが、海賊団は揃って顔の前で手を振る。「いや、俺たちあの島でお尋ね者になっちゃったから」「何したんだお前ら!」「へへ…」「照れんな!」やり取りの後もしばらく棒を構えていた青年だが、ややもして陽の傾き具合に気づく。昼が近い。そこで初めて棒を下ろした青年は、後頭部をがしがしと強めに掻くと「飯作ってやるからそこで待ってろ。」と吐き捨てるように言った。シャンクスがえぇ、と不満の声をあげる。ユコウから聞いたご飯の類の名を挙げ、それが食べたいのに、と駄々をこねる。クルー達もぶーぶーと片手を上げて文句を言うが、またも帽子の青年が青筋を立ててわがままを言うなと怒鳴るのだった。「上へ行って食材を持ってくる。食ったら帰れ。」と付け加え、奥の扉へ歩き出した。そして開いた扉の向こうから、「ぜってぇ上にはくるなよ。」と真剣な面持ちで念を押すのだった。

    その跡をこっそり追おうとしたシャンクスがくるなっつってんだろうが!と扉を勢いよく開けた青年に弾き飛ばされる図をクルー達は黙って見ていた。


    5.「ナランギ③」
    静かな洞窟で時間を持て余した一行は、未だ上へ登りたがるシャンクスを引きずりそばにあった小さな掘建小屋に入る。音を立てて開いた小屋は随分と古いが、最低限ながら揃った生活道具にどうやらあの青年の住処らしいことが伺えた。簡素な家具は雑に何度も修理された跡があり、机の上には土だけの小さな植木鉢がひとつ、壁には魚が干されている。ここに1人で住んでんのかあいつ、と周囲の様子を見て話すヤソップにさぁな、と返し、ベックマンはそれより、と話題を切り替えた。「あの蔦のドクロ、ちぃっと見覚えがあるな。」「やっぱりあいつ海賊なのか!」同じ海賊と聞いて話題に乗ってきたシャンクスを横目に、ベックマンは顎に手を当てて話を続ける。「記憶が正しけりゃ、ありゃあビージィ海賊団の印だ。ちょっと前にここらで暴れ回ってたと聞いている。近頃は全く話を聞かないんで海軍に捕まったのかと思ったが。」知る限りそれなりに規模の大きな海賊団で、船長はとある悪魔の実の能力者だという。暴れ回っていた時は大層非道なこともしたらしい。続く話を聞くにつれてヤソップがやっぱり面倒ごとかよ、とげんなりした顔をするが、シャンクスはヘェ、とあまり聞いていないようだ。あいつはそんなに悪いやつにゃ見えないけどな、と言いながら立ち上がり、やっぱり上へ行こうと言って部屋を出ようとする。オイオイ、とその背を追いかけようとしたヤソップは、小屋の扉の隙間からこちらを伺う子供に気づいた。ユコウだ。
    すまなさそうな顔をして部屋に入ってきたユコウは、手に大きな籠を持っている。中には新鮮な果物がたくさん詰まっていた。つやつやとどれもが美味しそうで盛り上がる一行に、ユコウは安心したように笑う。本当は約束していたご飯を用意したかったが、食材を少ししか持ってくることができなかったので、この島では美味しい果物がたくさん採れるから、と代わりに持ってきたらしい。ルゥが興味深く籠を覗き込み、これはちょっと珍しいぞとクルー達に投げ渡した。気候条件の揃った火山島でなくては採れないらしい。口にしたベックマンがヘェ、こりゃ美味いと感想を漏らすのに合わせ、各々が美味い美味いと果物を食べ始める。島の毒について心配するホンゴウに、ユコウは果物に毒はないと言い切って笑った。自慢げに胸を張り、ウチの島は毒島だけど、食べ物も植物も他には負けないくらい最高なんだと鼻の下を擦る。村人も良い人ばかりの自慢の島なんだと続けて、少し俯くユコウ。自慢の島なんだと念を押す声は少し震えている。何かあったのか、と尋ねるホンゴウの声に、ユコウははっと顔を上げて首を大きく振った。その表情を見ればすぐわかる。何もないはずはなかった。しかしユコウは再び下を向いて口をつぐんでしまう。その頭に大きな手が乗せられた。シャンクスだ。「いやぁ美味い。こんなに美味い果物は久しぶりだ。俺たちの冒険でもそうそうなかったぞ。」なぁ、とベックマンに語りかけるシャンクスは、再びユコウの方を向いて笑いかける。ユコウを路地裏で助けた時と同じ笑顔だ。「ユコウはこの島が大好きなんだよな。そうだろう。」涙を呑んで顔を上げたユコウが、震える声でしかしはっきりと「うん」と答える。自分の服の裾をきつく握りしめ、「でも、みんな辛いんだ。」と続けた。「この島は、ビージィっていう奴らに支配されてる。本当は、おばあちゃんだけじゃない。俺の大好きな島のみんなを、本当は、助けてほしくて。」口端をひいて泣くまいとするユコウを見て、シャンクスが立ち上がる。ユコウと同じ目線にしゃがみこみ、言っただろう、と言葉を続けた。「手伝うぞ、ユコウ。約束したからな。」ついに涙を流して声を上げるユコウ。大きな泣き声があたりに響いていた。

    「碌でもない木端共かと思ったが、どうやら少し違ったらしいな。」
    黒い職人造りのソファは昨日までのソファとはまた違う意匠だ。そのソファに悠然と腰掛ける男の足元には、倒れ伏す1人の男性がいる。裏路地の女主人の夫だ。なぜ、とうわ言のようにつぶやく声に、あぁ?と顎を上げた男が葉巻を丁寧に指で挟み、それを男性の手に押し付けた。「お前は職人だろう。その価値を全うしなかったからだ。気づかないなら教えてやろう。お前の作ったあのソファさ。背の彫りが甘い。想定した1/10の値段だぞ、あれは。」やれやれと言わんばかりに肩をすくめた男は、蔦で全身を覆われた男を蹴り飛ばし、部屋の奥へ転がす。「お前の価値はせいぜい『花』の肥やしだ。どうせ手は火傷でうまく使えないだろう。」男の声に男性は悲鳴をあげ、いやだいやだ俺には妻も子供も、と声を上げるが、男は片耳に小指を入れて眉をわずかに顰めるだけに留まる。男を転がした部屋の奥の反対を見遣り、声をかけた。「クヌギ、その肥やし片づけとけ。それとあっちの島のガキと木端も任せるぞ。」
    「はい、首領・タッチリ。」
    タッチリ・ビージィ。彼こそは、ビージィ海賊団の首領である。



    6.「静かな街」
    「にしてもどうするんだ、そのビージィって奴とやり合うのか?」
    肩をすくめるヤソップに、スネイクも頷く。
    「悪魔の実の能力者なんだろ?一体どんな能力かってのも知らねぇしな。いる場所は想像つくが…、にしても海賊団の規模もわからないだろう。」
    思い出すのはネモンギ島で自分達を追いかけてきた衛兵達である。貴族専用エリアですら身なりがあまり整っているように見えなかったのは、彼らが海賊崩れだからに違いない。彼ら一人一人の実力は大したことはないだろうが、あの島全体を監視できるほどの人員となるとその数は非常に厄介だ。それにこれほどの人と街を支配しているのである。実力のある者も確実にいるはずだ。
    「とはいえ、あんな島を運営してるんだ。金銀財宝の類の匂いはぷんぷんするな。」
    笑うヤソップにホンゴウも頷く。
    「『病断つ宝石』もあるんじゃないか?」
    幻とも言われる夢の宝石だ。ロマンと夢を追いかける海賊としては「まぼろし」なんて財宝の話には、今の金銭状況を抜きにしたって飛び付かざるを得ない。にわかにクルー達の会話は色づき始めた。
    しかしそんな彼らを差し置き、シャンクスはユコウと楽しげに話をしている。魚がどうとか、村の話がどうとかだ。つい先ほどまで大泣きしていたユコウは、落ち着くにつれて顔を真っ青にして口元を抑えたが、シャンクスの笑った顔を見て少し安心したようだった。ありがとうとお礼を言ってからは村の話を続けている。やがてシャンクスが身体を伸ばすように両手を突き上げると、よし!と顔を上げた。
    「じゃあ、上行こうお前ら!」
    「なんでだよ、ビージィどうすんだ!」
    すかさずつっこむヤソップにわははと笑いかけて、上に行けば約束した美味しい飯と酒があるっていうからさ、とつづける。ルゥがそういうことなら行くか、と腰を上げるのをヤソップがまた制するが、ベックマンは顎に手を当て、それもいいかもしれん、と呟いた。上には先ほどの青年もいるだろう。奴らのことは同じ海賊団の奴に聞けばいいというのだ。「あいつなんか顔がおっかないし、素直に教えてくれるとは思えないけどな」と続けるホンゴウにニヤリと笑って、なら力づくって手もあるだろ。とベックマンは煙草の煙をくゆらせた。
    上へは行くなと言われたがこうなっては関係ない。そもそもシャンクスはユコウが現れる前からずっと冒険だとか面白い形の島だとかで興奮していて、だめだと言われても上へ行っただろう。一行は船番をするベックマンを残し、ユコウに先導されながら島の上層へ登ることになった。

    扉の向こうは長い通路になっていた。岩盤を削っただけの暗いトンネルの壁面には、ぽつぽつと足元が辛うじて見える程度の灯りが点されている。幅も狭く、体格の良い海賊の男達では2人程度が並ぶのが精一杯だ。ところが、しばらく歩くと突然トンネルの様子ががらりと変わった。狭くごつごつとした岩肌のトンネルが広い空間に突き当たり、幅のある美しいタイルの道が姿を現したのだ。どうやら岩肌の通路はこのもう一つのトンネルに繋がっていたらしい。右手側には新たな通路があるが、左手側は土砂に埋もれている。通ってきた岩肌の通路が迂回路として後から作られたものであることが察せられた。トンネルの床と壁一面を覆うタイルは鮮やかに彩色されており、灯火の炎にちらちらと光を反射している。天井を覆うタイルには複雑な意匠のレリーフが刻まれていて、どれもユコウが持ってきたこの島の果物を模したものだった。壁面には一定間隔で美しい彫刻が嵌め込まれており、さながら美術館の様相である。一行は思わず足を止めた。スネイクが天井のレリーフを見上げながら、あれ一つでそれなりの価値になるぞ、と小さくこぼした。それを聞いたユコウが「双子島は彫刻職人の街だからこういうものはそこいら中にあるよ」と自慢げに胸を張り、街はもっとすごいんだぞと手を広げる。かくいうユコウも職人の息子なのだそうだ。職人達が古くから腕を競うようにして作り上げた街は、それは壮観らしい。ネモンギ島で既にその一端に触れていたクルー達は、審美眼に優れていなくともそれが素晴らしいものであることは容易に想像できた。感心するクルー達にふふんと鼻を鳴らすユコウは、両の拳をしっかりと握りしめて顔を上げる。いつかまたそうなる、俺がそうする。覚悟のあるまっすぐな瞳は、その言葉の真意がわからずとも誰の心にもよく響く。島の上層はこっちだとトンネルを先導する小さな背を追い、クルー達はトンネルのさらに奥を目指して歩き出した。
    靴で弾かれたタイルがカツン、と小気味のいい音を立て、トンネルに遠く反響して重なる。間もなくユコウの一際軽い足音が止まり、バネを引くような軋音がした。一行が前を見やると、これまでのトンネルで見たものと似た美しい意匠の大きな扉がある。気がつくと広間に出ていた。広間に入った靴音がわん、と余韻を持って響く。どうやらエレベーターホールのようだ。カラカラと歯車が回る音がして、扉の向こうから重たいものが降りる音と鎖が擦れる音が近づいてくる。扉が軋み揺れる様子からこの昇降機がそれなりに古いものであることが察せられた。
    音が止むのを確認したユコウが、豪華な扉を横へ引いてさあどうぞ、と手を広げた。ナランギの街は登った先にある。

    「そういや、帽子のアイツは何してんだ?」
    昇降機がゆっくりと一行を運ぶ間、ヤソップは気になっていたことをつぶやく。帽子を被った目つきの悪い例の青年だ。食材を取りに行くと言ったきりで未だに姿を見ていない。
    「もしかして食材を取りに行くなんて嘘で、俺達のことをビージィに報告してるんじゃ…。」勘繰るヤソップに、シャンクスはえぇ、と目を見開いた。
    「嘘つくなんて悪いやつだったのかアイツ!」
    「可能性の話だよ!でも十分ありえると思わないか。」
    ヤソップの言葉にそれは俺も考えていたと頷いたのはスネイクだが、まあ襲われたならぶっ飛ばせばいいさとシャンクスはけろりとした顔で言う。話を聞いていたユコウが首を捻り、納得したような顔をした。
    「門番さんならたぶん、この時間は街の見回りだと思うよ。」
    「見回り?」
    「毎日昼頃に一回、街を見て回るの。監視するためなんだって。」
    なるほど時間がかかるわけだ。とはいえ報告されていないとは限らない。警戒するに越したことはないと武器を持ち直すスネイクだったが、ふとあることに気づく。
    「門番さん?」
    「この島は毒島だけど双子のネモンギから離れてるから、たまに海賊に襲われることがあるんだ。海路が一つしかないから、船を狙われることの方が多いけど…。門番さんは島にいるか海路に出て、島や船の護衛をするんだよ。島に勝手な出入りがないかも見てる。」
    なるほど、一目見て手練れだと分かるわけだ。実はユコウとこの島にくる道中もチンピラまがいの海賊に襲われていた。蹴散らすのは簡単だったが、ユコウの話ではもっと腕の立つ海賊の一団がくることもあるらしい。ビージィの名を聞いても恐れない程度の実力者(または身の程知らず)が船の荷を狙ってくるのだそうだ。その海賊達を追い返しているのであれば、あの青年の戦闘経験はなかなかのものだと思われる。
    しかし、それよりも気になることがある。
    「勝手な出入りって、お前がネモンギ島にいたのは…」
    ユコウが慌てた顔をするのと、昇降機の扉が開くのは同時だった。風と共にふっと火山島らしい硫黄の匂いが部屋に吹き込むが、あの毒の匂いも混ざっている。陽光に目を細めるクルー達に、ユコウが鞄から布を取り出して渡す。厚手で刺繍の施されたそれは、せめてもの防毒マスクとして使っているものだそうだ。強い風が耳をかすめて吹き荒ぶ。この場所はどうやら山の中腹らしい。口元を覆っった一行は眼下に広がる街を眺めた。
    レンガとタイルで舗装された道が降り、その先に平たい家家が折り重なるように群れを成している。一つ一つの家が例のタイル、特に青色のもので装飾されており、船旅をする彼らにとっては馴染み深い景色ー海のようにも見えた。そしてその海の間に分け入るように、いくつもの小さな塔が見える。複雑なシルエットは、遠くから見てもそれが美しい彫刻を施されたものであることが見てとれた。美しい街だ。しかし。
    「随分とまあ、静かだな。」
    シャンクスが麦わら帽子を押さえながらぽつりと呟いた。


    7.「静かな街②」
    青い家家の間を迷路のように道が巡っている。時折現れる塔はナランギのシンボルで、街の位置を表す座標のような役割を果たしているらしい。ユコウが自慢げに話した通り、家の壁から道路脇に添えられたランタンまで、この街はそれはそれは美しい彫刻に彩られている。…はずだった。しかしクルー達が目にしたものは、崩されパーツを失った塔、ところどころタイルを剥がされ建材のレンガが剥き出しになった家、取り外されて代わりに簡易的な蝋燭受けを設置された街灯だ。残された部分だけを見てもかつて美しい場所であったことは想像に易いが、今の姿は見るも無惨と言ったところか。ユコウが街の話をしながら時折悲しげな顔をする理由の一端がそこにあった。
    「こりゃ…ひでぇな。金目と目につきゃ全部持っていったのか。」
    眉を顰めるスネイクに、ユコウはそれだけじゃない、と小さくつぶやいた。
     街は恐ろしいほどに静かだ。生活感のある街並みと相反して、廃墟のような寂れた空気を纏っている。幅の広いメインストリートに出ても人はいない。道を歩くのは、ユコウとシャンクス達だけだ。彼らの足音と風の音だけが街を吹き抜けている。メインストリートの道沿いには砂埃を被った看板が並び、その隣に同じく埃だらけになって畳まれているつっかえ棒と布があった。どうやらここには市場だったらしい。ユコウのもってきた果物を思えば、本来ならとても賑やかな通りであったことだろう。
    道沿いに並ぶ埃まみれの看板を見ながら、ふとシャンクスは視線を上げた。ある家の窓べりからさっと影が消える。気づけば、その隣の窓その奥の窓、その上の窓、さまざまな窓からこわごわとこちらを伺う視線が揺れていた。静かな街だな、と今度はホンゴウがつぶやいた。
     家々からの視線を受けながらやがて行き着いたのは、昇降機を降りたところからも見えていた大きな広場だ。青い家に囲まれたその場所は、正方形に街をくり抜くように広がっている。広場の中心には同じく正方形の人工池が設置されており、澱んだ水の中心で一際大きな塔が頭を傾けて建っていた。
    「ここには人がいるんだな。」
    ルゥがはたと気づいて顔を巡らせる。言う通り、広場には少ないながらも人影があった。小いながら開いている店もある。しかしやはり誰も口を開こうとはせず、客を呼び込む声も、値切りする客の声も、談笑する声も聞こえてはこない。ホンゴウは黙って俯き加減に歩く街の人々の様子を観察する中、彼らの腕に這う蔦と皮膚の上を侵す黒い痣を見つけて僅かに眉を顰めた。見る限り病に侵されていない者などいない。この島はひどい状況だ。
    「なんだか本当に怖いぞ、ここ。何か言葉を使っちゃいけない決まりとかあるのか?」
    無言の視線を受けていた時から恐々と身を擦っていたヤソップが訝しげに首をすくめる。眉尻を下げたユコウが安心させるように少し微笑み、海賊さん達は大丈夫だよ、と答えた。ますます訝しげな顔をするヤソップに、ユコウは広場の池に駆け寄ってくるりと振り返る。
    「本当はもっと賑やかで、もっと綺麗な場所なんだよ。おばあちゃんが教えてくれた。タイルはもっと青いし、塔の彫刻だってもっといっぱいあるし、崩れたりなんかしたことないんだ。何より街一番の『女神の時計塔』は格別なんだよ。この街の誇りだ。今は塔の柱しかないけれど、いつか、また。この街はまた、世界一の彫刻街になるんだ。」
    ふり仰ぐユコウの広げる手がくすんだ空に掲げられる。指をさす先に、池の中心に傾いて立つ例の塔があった。そしてさらにその先に。
    「おい!ここなかなか見晴らしがいいじゃないか!!」
    シャンクスがいる。
    呆気に囚われたのはユコウやクルー達だけではない。街の人々が皆塔を仰ぎ見て口を大きく開けている。
    「降りろシャンクスバカ!!この街の誇りだって話聞いたろ!!」
    「え、何?登ってきてくれよ、よく聞こえねぇ。」
    「降りろォ!!」
    静かすぎる街で賑やかに騒ぎ立てる男達の様子はまさに異質だ。広場にいた人々の視線が集まり、また窓から様子を伺っていた人々が鍵を開けて顔を出し始める。広場は俄に人気で溢れて出した。ざわつく声こそしないものの突然増えた人の気配に、クルー達も戸惑って周りをきょろきょろと見渡す。そんな戸惑いをよそに仁王立ちする男が1人。
    「なんだ、この街たくさん人がいるじゃねぇか!」
    ちゃんと宴はできそうだな、と口端をつりあげるシャンクスが塔の上で笑った。音のない街に響き渡る楽しげな笑い声に、上を見上げていたクルー達もやれやれと肩をすくめる。降りてこいって、お頭。そいつぁ街の宝らしいぞ!宝ァ?どこだ!と続く気の抜けた会話に、はは、と小さな笑い声が重なった。ユコウだ。そして、街の人々の。微かな笑い声が風に揺れる草のようにさざめき、一時広場を覆う。
    「いい街じゃないか、ユコウ!俺はかなり気に入ったぞ!」
    塔の上から叫ぶ声に、ユコウが涙目になってしっかりと頷いた。

    「おい!!!」
    突如、さざめきを断ち切るような鋭い声が広場に響いた。人々がさっと口を覆って身をすくませる。咎めるような大声は広場を覆う建物に反響し、わんと耳に余韻を残して消えていった。あたりは水を打ったように静まり返り、元の広場のような静閑さを取り戻す。首を巡らせればすぐに声の主は見つかった。広場の入り口に立つ青年、その頭には髑髏の帽子。
    「門番さん」
    ユコウのつぶやく声に、青年がキロリとこちらを見た。やっぱりおっかねぇよアイツ、と小声で訴えるホンゴウにヤソップが頷き、何から話すべきか言葉を探そうとする。
    「あー、俺たちだけど、別に…」
    「なんでここにいる。」
    食い気味に語りかける声はこれでもかというほど重い。眉根がつくほどに寄せられた険しい顔のまま、門番は武器をぶんと振ってクルー達にその先端を向けた。門番との距離はそれなりに開いているはずだが、余所見すら許さない強いプレッシャーを感じ、思わず各々が身構える。やるしかないか、とヤソップが武器に手をかけようとしたその時、前に飛び出す影があった。
    「門番さん!違うんだ!」
    ユコウだ。震える足でクルー達の前に立ち、両手を広げてこちらを庇っている。ふっとプレッシャーが揺らぐのを感じた。
    「俺がお願いして、勝手に連れてきちゃったんだ。この人たちは悪くないんだ。」
    言い募る姿に、塔の上から「いや、連れてこなくても遅かれ早かれ上がったぞ」と声が降り、ややこしくすんな!とクルー達の怒声があがる。さて説得はいかがなものかと門番の方を振り返り、ヤソップは恐ろしいものを見た。
    鬼だ。
    ある国では有名な恐ろしい怪物らしい。話に聞くだけでは何とも実感のわかないものだったが、今まさにその言葉にぴったりの姿が視界にある。
    「?」
    口端をくんと下に引いて凄むその目はおよそ人のものとは思えない。くすむ陽光の下にあってくっきりと刻まれた影が顔に落ち、比較的小柄な門番の気配を何倍にも膨らせて見えた。やばい。かなり、怒っている。仲間と目配せて武器の位置を確かめる。じりじりと足に力を込めるこちらに向かって、門番が遂に一歩を踏み出した。
    「ふざけんな、」
    ずん。
    「ふざけんなよお前ら。」
    ずん。
    「こいつにー」
    ずん。
    「ユコウに、何を言わせた。」

    ジ、と何かが走る音がして、直後に目を光が刺す。咄嗟に顔を覆うが、すぐに強い衝撃が身を灼いた。
    雷撃だ、と気づいたのは、ヤソップ自身の身体が吹き飛んでルゥに受け止められた後だった。受け止めたルゥが眩しいぞあれ!と叫ぶのに対してお前のサングラスは何なんだよ、とぐったりしつつ返し、門番の方に向き直る。手を出された以上、容赦はいらないはずだ。逃げ出す人々の足音を遠くに捉えながら、手にかけたピストルを引き抜いて握り直す。後ろでスネイクやホンゴウも武器を構えた音がした。
    「おぉい、ヤソップ大丈夫か?」
    塔の上から降る声に大丈夫な訳あるか!と答え、雷撃の正体を探る。チリチリという独特な音が激しい点滅を伴わせて門番の手の中で踊っている。あれは武器か、それとも何らかの能力か。見極める間も無く、また門番が地面を蹴った。
    「何言わせたんだって聞いてんだァ!!!」
    迫る雷撃に照準を合わせようとして、ふっと濃い影が身を覆う。ヤソップは咄嗟に体重を押しとどめて後ろへ飛び退いた。直後、鼻先を掠めるようにして質量のある物体が地を抉る。爆発のような風圧と衝撃が身を襲い、吹き飛ぶレンガが壁に当たって割れる音がした。ヤソップも強く地面に叩きつけられ、揺れる視界に身をすくめた。門番の雷撃とは異なる攻撃が襲ってきたことは確かで、この衝撃でも手放さなかったピストルをしっかりと持ち直す。地面に転がったままトリガーに指をかけて構え直した。やがてカラカラと小石の落ちる音がして、攻撃の中心付近でゆらりと影が立ち上がる。土煙が風にさらわれ、ルゥよりもふたまわりは大きいだろう巨体が姿を現した。その頭にはツバがもじゃもじゃとうねる不思議な帽子が載っており、球体に近い体型と合わせて不思議なシルエットを成している。
    「ガキと、肥やし。…まちがえたろぅ、ガキと、木端だろぉ。」
    高い位置からキョロキョロと首を回す男を見上げ、ヤソップと反対側で立ち上がった門番がため息をついた。
    「何しにきやがった、クヌギ。」


    8.「時計塔」
    のったりと頭をもたげて首を傾げた男の背には、門番の帽子と同じ蔦の髑髏マークが大きく刻まれている。ビージィ海賊団だ。ネモンギ島で見かけた衛兵達とは大きく異なる雰囲気に、さしものヤソップ達も警戒の色を強めた。先ほどの攻撃といい、こいつはかなり「やる」はずだ。
    「何しにきやがったって聞いてんだよ。」
    語気を強める門番が巨体の男に再び尋ね掛ける。機嫌は最悪だ。棒状の武器の鋒を男の頭にぴたりと向けて凄み、舌打ちを一つ投げつけた。対する男は呑気そうに首回りを掌で撫でつけ、ぽかりとあくびを漏らした。厚いかさかさの唇が縦にぬるりと伸びる。
    「肥やしを片づけて、次は…、ガキと、木端。だろぅ?」
    男が再び首をかしげる。確かめるような仕草だが、門番はますます眦を吊り上げるばかりである。男の頭に向けた武器を動かそうともせず、むしろぐいと一段近づけた。
    「なんだそれァ。そもそもこの島は俺の管轄だぞ。勝手に入ってきて訳わかんねぇこと言ってんじゃねぇよ。」
    再び強く舌が弾かれる。その音はしっかりと男の耳に届いたらしい。上から門番を眺めるだけだった男の巨体が音を立てて傾いた。
    「ろぅ…ちょっと調子に乗りすぎだぁ、お前。ここはお前の島じゃねぇんだよぅ、首領の島だ。お前は門番を任されちゃいるが…俺に命令する道理は、ないんだぞぅ。『ナナシ』のくせに。」
    上から覆うように覗きこむ巨体が日を遮り、比較的小柄な門番に大きな丸い影をさしかける。強い威圧感を伴うそれを前にして、しかし門番は瞬き一つしないで男を睨め付けた。ひさしのように門番を覆う巨体は背をしならせて言葉を続ける。くつくつと喉の奥で震えるような笑い声があたりに響いた。
    「それになぁ、ガキと木端は、首領の命令だぁ。」
    なんだと。それまで微動だにしなかった門番の肩がわずかに揺れた。同時に、巨体の背が急激に膨らむ。突然だ。ぼん、という音と共に衝撃波が駆け抜けた。あたりを撫でつけるように広がるその波が、仲が悪そうなら面倒ごとはごめんだとばかりに距離をとっていたヤソップ達をも巻き込んで広場の端へ弾き飛ばす。ユコウを抱えて地面の上を転がるルウが「またかよ!」と大声を張り上げた。ボールのように勢いをつけて転がった先で低木の街路樹をいくつか薙ぎ倒す。片手で数えるほどの木が横なぎになったころ、ようやくルウの回転は止まった。腕の中のユコウが怪我をしないようにと丸めた体を開き、立ちあがろうとしたその足元。いやに暗い地面に気づいたルウは、咄嗟に足裏に力を込めてその場を飛び退いた。途端、地面を抉るように落ちてくる質量体。衝撃で近くの壁が崩れ落ち、地面が割れるように深く陥没した。のっそりとした風体からはとても考えられない、速さのある攻撃だ。単純にやばい。
    「ガキ、と、木端、だ。」
    窪んだ地面から低い声が唸る。土煙で顔の位置が分からずとも、それが明確に自分と腕の中にいるユコウに向けられた殺意だとルウは気づいた。地を蹴る音にまたも後退するが、速さと質量を伴った攻撃は無差別な爆弾に等しい。余波を殺しきれず壁に叩きつけられる。崩れ落ちるレンガに呑まれながらユコウを取り落としてしまった。
    「ユコウ!」
    叫ぶルウの前で、頭を打ったらしいユコウが身動きできずにうずくまる。その背後には次の攻撃に構えて膝を立てた巨体の姿が見えた。瓦礫に埋まった半身を引き抜いていては間に合わない。ヤソップの射撃を期待するが、この土煙では正確な位置がわからない上にユコウが近い。ルウの頬を伝う汗が落ち切る直前、弾けるように飛び込む巨体がユコウを襲った。

    凄まじい轟音があたりに響く。衝撃でルウの半身を埋めた瓦礫が吹き飛んだ。飛び起きてもう一度ユコウの名を叫ぶが、返事がない。かっと頭が熱くなった。拳を握り込んだルウが強く足を踏み締めた、その瞬間。土煙の中で何かが揺らぐ気配があった。敵か。ユコウか。僅かに戻った冷静さで目を凝らすと、その何かが煙の中を明るく照らしては駆け抜けているのが見えた。はっとする。ゴーグル越しにすら目を刺すようなこの眩しさには覚えがあった。次いで鼓膜を震わせるヂリヂリと独特な音にもだ。
    何も動く気配のない目の前の空間で、その強い光だけが蛇のように四方へ駆け抜けている。なぜと問う間もなく、一際強い風が吹きこんだ。
    土煙の幕が取り払われ、渦中の2人が姿を現した。拮抗するように軋む二つの影。体を膨らせた男の巨体が、それよりずっと小さな体躯の門番の手で押し止められていた。握られた武器から雷撃が走り、巨体をじりじりと灼いている。
    「門番、さん。」
    苦しげな声にはっとした。慌ててルウが視線を巡らせれば、ユコウは門番の背に庇われるように倒れ込んでいた。助けるチャンスはあるか。2人の様子を伺うと、門番と目が合った。体勢はそのままに眼球だけでこちらを見ている。睨め付けるようなその視線はしかし、ルウの行動を急かすように真っ直ぐだ。一つ小さく頷いて地面を強く蹴ると、素早くユコウを抱え上げてその場を離れた。武器を構えたヤソップとスネイクが手招く姿を視界の端に捉え、その背後まで後退する。頼りになる大きな背中を前に、ルウはぐったりとしたユコウをホンゴウに任せた。再び門番さん、と呻くユコウを抱え、ホンゴウが大丈夫だ、と頭を撫でる。
    「さっきは勇気を出して庇ってくれてありがとうな。任せろ、俺たちがなんとかする。」
    話しながらテキパキと治療を施す様子を横目に、ヤソップ達は再び目前の2人に向き合った。問答無用加減で言えば門番ともじゃもじゃ帽子野郎は似たり寄ったりだが、幼い無実の友人の命を奪おうとした後者は明確に自分達の道に反する。先ほどの行動を思えば、迷う余地はなかった。
    張り詰めた空気の中、ついに痺れを切らしたのは巨体の男だ。膨らませた体をしならせて起き上がると、大声で喚き散らし始めた。
    「おぉ、おい、おい門番!!逃げたぞ、ガキが逃げた!いやお前が逃した!なんだお前、俺に楯突く気かぁ!?その雷、ちょっとだけだけど痛いんだぞぅ!」
    体についた土汚れをそのままに唾を飛ばして叫ぶ男を見上げ、門番は眉を顰めて舌を打つ。
    「知るかバァカ!!ここは俺の管轄だっつってんだよ!勝手な真似すんなハゲ!!」
    大声の啖呵を聞いた男がぐわりと顔を顰める。今までにないほど顔を険しくし、まなじりを尖らせて声を荒げた。
    「は、は、ハゲだとぉ!言うに事欠いてお前、俺にハゲと言ったのか!!許さん、許さんぞお前!!」
    完全に体を起こした男が腕をぶんと振り上げ、そして勢いよく力んだ。ふん、という掛け声と共に腕がふた周り以上膨れ、逆に先ほどまで膨れていた体が元の大きさに戻る。なんだありゃ、とスネイクが呆気にとられてつぶやいた。大きく膨れた腕を満足げに眺めた男は、武器を構え直した門番を見てにやりと笑う。
    「俺ァ、俺ァなぁ、前からお前が気に入らなかったんだよぅ、『ナナシ』ぃ!」
    そして横殴りに、いや薙ぎ払った。巨大な腕により逃げ場を無くした体が弾丸のように吹き飛び、広場の池の囲いに突っ込む。轟音と共に崩れ落ちる硬いレンガと池の水が門番の体を埋めた。
    「おい!」
    ヤソップが叫ぶが、レンガから覗く片足は僅かに身じろぐだけだ。おいおいと髪をかき上げるヤソップに、後ろでユコウを抱えたホンゴウが「お前ら!」と声を上げた。ちらりとホンゴウとその腕の中で顔を顰めるユコウを見たヤソップは、「あぁもう、わかってるって」とため息混じりに答えると、隣に並ぶスネイクとルウと視線を交えた。
    「っしゃ、行くぞ!」

    未だにレンガに埋まったままの門番の前で男が足を止める。そしてとどめをさすべくゆっくりと膨れた腕を振り上げた。頭頂に沿うように持ち上げた位置でぴたりと一瞬静止した腕が、次の瞬間残像を残して振り落とされる。高い位置から身体の幅ほどもある腕が落ちる様は、さながら巨大なハンマーのようだ。ご、と風を切る音がしたのも束の間、凄まじい音と共に拳が地面を抉った。崩れた池の囲いに沈む門番の身体が血を吹き潰れるーーこともなく、囲いから少し離れた地面が深く抉れる。巨大な拳の向こうでルウがにっと笑った。男の拳が接地する直前、横から拳に体当たりをしたのだ。ルウの体そのものを使った砲弾の勢いによって狙いを外された男は、目を白黒させて戸惑う。
    「俺たちのことはもう眼中になかったか?」
    ルウの姿を認めて再び腕を振り上げた男の背をヤソップの弾丸の雨が襲う。慌てて振り返れば目前には大刃のナイフが迫っていた。スネイクお得意の曲芸混じりの回転刃が男の巨体を切り上げる。
    ぎゃあ!と叫び声を上げ、ついに男はどすんと尻餅をついた。衝撃で男の頭に乗ったもじゃもじゃ帽子がぱさりと地に落ちる。攻撃の具合を見るために近寄ってきたヤソップ達は、現れた男の頭頂部を見上げて思わず身体を固めた。目を釘付けにされる、とはこのことだ。
    黙って見上げるヤソップ達の背後で、ガラガラとレンガが崩れる音がした。振り返れば全身に打撲痕を残した門番が立ち上がっている。遠くの方でホンゴウが丈夫すぎる、と小さくつぶやいた。
    「おい、助けは頼んでねぇぞ。」
    地を這うような声で不満を訴える門番に、ヤソップが「ちげぇよ」と肩をすくめる。そして遠くの方にいるユコウに視線を移した。
    「お前じゃねぇ、ユコウの頼みだ。」
    その言葉を聞き、門番は真っ直ぐにこちらを見る目をわずかに伏せた。小さな声で関係ねぇよ、と呟くが、最早言葉通りに受け取るには彼の行動は分かり易すぎた。スネイクが眉尻を静かに持ち上げ、そして再び大男を見上げる。つられてヤソップ達もその視線を追いかけた。
    「それにしても、ありゃ随分見事な…」
    4人の目線の先には、あいも変わらず帽子を失った大男の頭頂が晒されている。輝かんばかりのそれは、曇りがちの島の天候をよそになおてかてかと目に眩しい。
    「ハゲだ。」
    「ハゲだな。」
    「ああ、ハゲだ。」
    それぞれが納得するように頷く。男の縦に長広い額の先に平たい原野がぴかぴかと輝き、茶髪がそれをぐるりと囲っていた。芸術的な美しささえ感じるその部位を静かに眺めるヤソップ達に、ついに目を回し終えた男が気づいた。
    「お、お!お前!お前ら!」
    わなわなと震えて顔を歪めた男が眉を吊り上げる。足元で見上げる男達を睨みつけ、怒りで顔を赤く染め上げた。
    「見た、見たな!!見たなぁ!!馬鹿に、馬鹿にしただろぅ!!俺を馬鹿にしただろぅ!!俺を馬鹿にするのは、首領を馬鹿にするのと同じなんだぞぅ!!」
    首を振るヤソップ達をよそに、ずんと音を立てて地に足をつき、身体を勢いよく起こす。まだ立てるのかよこいつ!とヤソップが数歩足を引いた。あれだけ弾を撃ち込んだ上に、スネイクの回転刃だって大技だったはずだ。狼狽えた様子を見せる面々に、背後から歩み出てきた門番が武器をぶんと振って答える。
    「あいつは人の何十倍も頑丈なんだ。生半可な攻撃力じゃ皮膚の下にも届かねぇよ。」
    そんなまさか、と眉尻を落とすヤソップの耳に野太い叫び声が飛び込んできた。見上げれば肩を怒らせて雄叫びを上げる男が目に入る。どうすんだと言うが早いか、目の前の巨体が地を蹴って飛び跳ねた。ルウを襲った時と同じ、凄まじいスピードを生み出すその脚力が体を空高く持ち上げたのだ。四人はボールのように遠のく男を見上げ、落下するまでを見守った。上向いた四人の顎がゆっくり弧を描き、やがて元の位置に戻る。直前、存外近いところに落ちる巨体に気づきその場を飛び退いた。相変わらず落下は凄まじい衝撃を伴い、爆風に背を押される。地面に齧り付いてやり過ごした面々が顔を上げると、池の囲いのレンガも水も方々に飛び散った広場の様子と、枯れた池の中心近くに着地した男が見えた。肩を怒らせて禍々しいオーラを放つ様は海王類に勝るとも劣らない。近づくことも難しそうな様子に再びどうするんだ、とヤソップがこぼした次の瞬間、巨体の膨れた腕が動いた。背後に立つ傾いた塔を抱え込むように掴む。
    「ごぉ、おお!おおお!」
    力む唸り声と共に男の腕に血管が大きく浮き出る。みしみしと塔が軋む音が広場にこだました。
    「まさかあいつ、アレを折って武器にでもする気か!?」
    ルウがうわずる声色で狼狽える。とても現実的ではないが、ここまでの男の馬鹿力を思えば想像できない話ではなかった。
    「おいびりびり野郎!アレなんとかなんねぇのかよ!」
    「知るか!!お前らこそどうにかできねぇのかよ!ていうかびりびり野郎ってなんだ!」
    あんな大きなものを振り回せば広場に逃げ場はない。慌てるヤソップは藁にもすがる思いで門番に話しかけるが、返る言葉に希望はない。ちくしょー!と大声をあげて一歩足を引いたその瞬間、軋む音に混じって子供の大声が聞こえた。
    「やめて!やめてよ!!」
    はっとして遠くを見れば、ホンゴウに庇われたままのユコウが身を乗り出して叫んでいる。そうか、あれは街のー
    途端に門番が駆け出した。待てとスネイクが止めるが、背は凄まじい速度で遠ざかっていく。弾丸の勢いで近づく門番に気づいた男が、塔を折らんとする腕の力を強めた。一際大きな音が鳴り、基盤の一部が崩れ落ちる。
    「おい、コラ!!」
    武器を振りかぶった門番が地を蹴るか、男が塔を折るか、それよりも早く。
    「いい加減にしろ!!」
    強烈な一撃が男の頭頂に落ちた。
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