雨の日(仮題)外壁を打ち付ける雨の音に、もう我慢できなくなって、スニーカーを履くのもそこそこに道路に飛び出した。
途端に雨粒が肌に落ちて、その度に まばたきのような音をたてる。
足が道に弧を描く。緩やかなカーブがもどかしくて、脱げそうになる靴を まず踵まで履いた。脇目も振らずに行く。
あの家まで、部屋まで。入り口まで。道が真っ直ぐに続いていたらいいのに。そうだ、大きい虹のような橋をかけて欲しい。そしたら最短ルートで あの人のもとへ行けるから。
階段を駆け上がって、ようやく部屋の扉を叩いた。叩いてから、もし誰もいなかったら…とか、先客…他の誰かが居たら…だとか考えて、こぶしを握りしめたまま少しうつむいた。
ドアが開いた。瞬間、懐かしい匂いが鼻を掠めた。相手は想像通り、驚いた顔をしていた。
「…っおまえ…!?何考えてんだよ?」
悪態をつきながら、一旦部屋の中に戻っていく。すぐに帰ってきて、持ってきたタオルを ぐいと胸に押し付けてきた。
まだ何か言い足りないようで、口の周りで、忙しそうに言葉が回っている。ここちよい響き。
なんでも答えてあげたいと思った。うそじゃない。何時間でも見続けられるその顔を見つめた。なんと返事を返そう。茶色い跳ねた髪が目の前で揺れる。
でも、見つめていたら逆に何も考えられなくなる。
相手のすべてを考え尽くしているみたいに、心がいっぱいになってしまう。おかしいけど。
なんかずっとおかしいんだ。いつからだったのか。わからないけど。
「おまえってさぁ…どうしていつも雨の日になると…」
どうしてなんだろう。
どうしてすぐに、和谷の家に行きたくなるんだろう。
どうして自分は濡れているんだろう。
傘なんて、そこらのコンビニで買えるし、なんなら誰かに借りたっていい。今朝は母親が、帰りは雨になるかもよ、と忠告してくれた。聞いていたし、分かっていた。
なんで
どうして心配されたいんだろう。
どうしてこんなことが、こんなに落ち着くんだろう。
和谷の瞳を見たら、目が合った。
まるでいたずらに睨んでるみたいだ。怒ってはいないって分かる、優しい色が瞳に溶けている。
「…聞いてんのかよ?」
もし今
キスしたらどうなる?
少しでもおれを気にかけてくれるんだろうか。
この距離は縮まるんだろうか。
他の人より近くなるんだろうか。
知りたい。