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    kochi

    主にフェリリシ

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    kochi

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    解釈違いの塊を書けば、多少の解釈違い気にならなくなるかなって……

    フラグ達成 先日の魔物討伐の際、負傷者が出た。背後から忍び寄ってきた魔物に後列の魔法部隊が襲われたのだが、俊敏に討伐したので重傷者はいない。
     怪我人はすぐに白魔法で治療され、適切な処置が施されたので大事に至らず、数日経てば完治する。軽傷と言って良いだろう。

    「あの……心配し過ぎですから……」

     その負傷者の一人──部屋で療養しているリシテアは、見舞い客が訪れる度にこう返していた。
     彼女は負傷した際に血を多く流していたが、先に述べた通り適切な処置を受けて、経過も悪くない。
     見舞うほどではない……と言えるが、リシテアは日頃から根を詰めていたので、倒れたことは一度や二度ではない。経過は悪くないのだが、治りは芳しくなかった。
     また血を流した際は、髪と同様の真っ白な顔と鮮やかな真紅に体躯が彩られ、見た者は声を失っていた。

    「女の子なんだから気にするよ! 傷が残ったらと思ったら心配だよ……」

     と、言う者もいた。痕は残ってないと伝えたが、女性の血を流した姿というのは、なかなか衝撃的に映る。
     加えて、無事とはいえ、未だ血色の悪いリシテアは想像以上に不安を煽っていた。……元々、肌が白い当人は不可解でいたが。


    「なんですか……。あんたまで、そんな顔して……」

     怪我の話を聞いて、様子を見に来たフェリクスも、休んでいた彼女を見ると声を失っていた。

    「……酷い顔だな」
    「あんた、もうちょっと言葉選んだらどうですか!」
    「死人に見える」
    「もっと酷くなってるじゃないですか!」

     酷い言いようではあるが、自分の姿を鏡で見て同じようなことを思ったので否定できなかった。他の者にも、似たようなことを言われていた……。

    「経過は良いと聞いたが、そう見えんな」
    「白魔法は傷は治せても失った血まで戻してくれませんから……。別に問題ないんですけど……元々、顔色は良い方ではないですから」

     声の調子は普段通りで、手足も不自由ではない。見た目が悪いだけで、療養していれば良くなるのは見て取れる。

    「怪我自体は治療されて、傷は塞がってますから」
    「そうか」
    「みんな、大袈裟なんですよ……。戦闘になったら怪我くらい付き物です。少し休めば、治ります」
    「日頃の行いのせいだろ。普段から体に負担をかけていれば、治りも悪くなる。怪我くらいと言うが、急所なら命取りだ」
    「ああ、もうっ! お説教はいいです! たくさん言われて、耳が痛いんですから!」

     先生や仲間に散々言われたようで、リシテアは感情的に喚く。皆、心配故の気遣いなのだが、やはり普段の無理が祟ったところがあるので、そのあたりは注意されていた。
     何度も言われて、耳が痛いリシテアは拗ねた子どものように不貞腐れていた。

    「お小言なら遠慮します。……甘いお菓子でもあれば、我慢できるのですが」
    「さっき市場を歩いていたら菓子の試食を貰ったが、要るか?」
    「そういうことは早く言ってください! 要ります!」

     油紙に包まれた小さな焼菓子を見せると、リシテアはキラキラと目を輝かせた。フェリクスには不要な物なので、受け取ってくれるのなら助かる。

    「いいでしょう! そのお菓子で、先程の無礼な発言は水に流してあげます!」
    「流さなくても構わんが」

     なんのかんの言って、試食のお菓子を渡すと顔を綻ばせて上機嫌になった。何故か、この時の彼女は顔色が良く見える……変わらないはずなのに。

    「あんたって、甘いもの嫌いのくせにお菓子貰うこと多いですよね。理不尽です……試食品を配るなら、わたしの時にしてほしいのに……」
    「お前が言うな!」

     無遠慮に甘いものを押し付けてくる張本人が、言う台詞ではない。リシテアのお菓子なら食べれるから構わないが、甘いものが好きなわけではない……。

    「それじゃあ、いただきます!」

     小さなお菓子は、リシテアの舌を楽しませて、あっという間に腹に収まった。物足りないが、至福の時を堪能できたので嬉しそうにしている。

    「その様子なら、本当に問題ないんだな」
    「さっきから言ってるじゃないですか。血を失った分の回復がまだなだけです。立ちくらみをしたり、貧血気味ですが、すぐに復帰できますから心配ないですよ。……いつまでも部屋に閉じ籠ってたら退屈ですし」
    「…………退屈か」

     ベッド脇に積まれた分厚い魔道書やら兵法書やらレシピ本が、退屈凌ぎにしては多いように見える。
     療養といっても、彼女からすれば書庫に籠ってるのと大差ないのではないだろうか……と、フェリクスの頭に過ぎる。

    「ついでですから、本の返却をしてくれても構いませんよ?」
    「自分でしろ。寝るのも治療じゃないのか?」
    「最低限してますよ」

     それはどうかと思う……。
     しれっと答えるリシテアの瞳は、それ以上言わないで! と訴えていた。似たようなことを言われたのだろう……聞く耳を持っていないようだが。

    「…………」
    「な、なんですか、その顔は?! 寝る子は育つとか言って、子ども扱いしないでください!」
    「自覚はあるんだな」
    「い……いいじゃないですか。そうそう、見舞いに来たのなら、もっといい顔をしたらどうです? 愛想の無い仏頂面なんて、相応しく無いですよ!」
    「余計な世話だ」

     誰のせいだ、と言いたくなるが、罰を悪そうにしてるリシテアの様子を見て、一旦溜飲を下げる。あれこれ散々言われたのだろう、と察せれた……言われてもしょうがないが。

    「まあ、お菓子を持ってきてくれるのなら構いませんよ! そういうことなら療養も悪くありません」
    「死人に口なし、にならないといいな」
    「……嫌な言い方しますね」
    「不調だと舌の精度が落ちるらしいな」

     嫌味に聞こえるが、フェリクスなりの苦言なのはわかった。
     戦闘になれば、命は簡単に刈り取られる。五体満足で生還できない可能性もあれば、二度と何も口にできない体になることもある。
     それに、至福の時を堪能するなら万全の時が望ましい。

    「早いところ治せ。くだらないことを考えてる暇があるなら、治療に専念してろ」
    「くだらなくないんですが! ……でも、早く治るに越したことはありませんね」
    「お前の場合は、休む良い機会に思えるが」
    「みんなに言われます……寝てる暇なんてないのに……」

     時間が少ない彼女には、療養している時間は焦りが募るばかりだった。早く治りたいと思っているのだが、生憎血の巡りはよろしくない。
     蒼白の形相では、周りも心配になるくらい病的に見えて落ち着かない。

    「そんな状態で復帰されても迷惑だ。……幽霊に見える」
    「な、なんてこと言うんですか?! おばけと一緒にしないでください!」
    「今のお前は似たようなものだ」

     素っ気なくも、彼が心配しているのは伝わる。嬉しく思うが、リシテアには耳にタコができるくらい聞いた台詞だ。
     つい……出来心と悪戯心が湧いてきた。

    「ふーん……じゃあ、早く良くなるおまじないでもしてくれますか?」
    「……はあ?」
    「わたしが早く元気になる魔法みたいなものですよ!」

     愉快そうに口角を上げて、含みのある言い方に、フェリクスの嫌な予感がむくむく立ち昇る。……碌なことにならないと、経験と勘が宣告してきた。

    「しない」
    「まだ何も言ってないじゃないですか!」
    「どうせ、面白半分だろ。そういう顔をしてる」
    「あら、わかりませんよ? 効果あるかもしれませんよ。────口付けしてくれたら良くなりますよ、きっと!」

     なんだ、それ……。真っ先に思った。
     にやにや笑いながら言っているからして信憑性は皆無、明らかに揶揄っている。──リシテアはフェリクスの反応を楽しもうとしている、と誰が見てもわかる。

    「……ふざけたことを言えるくらいに回復しているみたいだな」
    「さあ、わかりませんよ〜! 回復していないから、ふざけたことを言ってしまうのかもしれません。どうです、治したいと思いませんか!」
    「別に」
    「ふふふ、残念です!」

     全く悲壮感のない返事だった。療養で暇を持て余してるリシテアには、ちょっとしたお遊びなのだが、遊ばれた方は撫然とした態度を取ってしまう。
     ……揶揄いの経緯はなんとなく察せるが、腑に落ちない気持ちも沸き上がる。

    「戻る。頭を冷やしておけ」
    「わかりました。お見舞いありがとうございました」

     しれっと感謝を述べるリシテアは満足したようで、生気の薄い顔でフェリクスを見送る。
     十分な英気は養われてると思えたが、顔色が悪いと妙に心がざわめく。幽霊……と例えたが、強ち間違いではない。
     髪も肌も白いリシテアは淡雪のように溶けて消えてしまいそうで、いつ死んでもおかしくないと予告されている。……そんな風に感じた。

    「…………」

     ドアノブに手をかけて、フェリクスは立ちすくむ。
     戯れなのはわかってるし、彼女に揶揄われたことは何度もある。今回もそうだと断言できる。頭に過ぎる懸想は、気のせいで片付けられるし、根拠なんてない。
     だが──奇妙な笑い方は嫌いだ。死人の顔なんて見たくもない。
     気付けば、足は踵を返していた。

     ベッドで休もうとしていたリシテアは、近付く足音に気付いて、振り向く。

    「ん? まだ何か──」

     続きの声は出なかった。何か知らない、柔らかいものに口を塞がれたから。
     何が起きたのかわからなかった。今起きていることが、脳の理解を超えていて受け止めきれずにいた。
     二回瞬きをすると、触れていたものは離れた。時間にしたら三秒もない、とても短いひと時。

    「…………これでいいだろ!」

     ぶっきらぼうな声、遠ざかる足音、乱雑に閉まる扉の音が、やけに遠く聴こえた。
     目は見開いたままだから、去っていく彼の背中を見ていた。
     そのはずなのに──何一つ、頭に入ってこない!
     たっぷり時間を置いて、震えた指でリシテアは自分の唇に触れた。ほどよい柔らかい感触……指とは違う熱が通ったもの……それが、たしかに……少し前に触れていた。
     何が起きたのか。何がどうして、こうなったのか、少しずつ実感していく。……家族以外にされたことはない。家族以外に自分からしたこともない。
     それが、今新しく塗り替えられた。

    「……?! っ!!」

     言葉にならずにいたが、激しい慟哭を発していた!
     急上昇する体温と心臓音、呆然としたまま理解して、整理して、硬直していく。
     ……再び、彼女が動き出すまで、しばらくの時間を要した。

     まじないは効果あった。青白い顔は、血色の良い林檎の色に変わったのだから。
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