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    kochi

    主にフェリリシ

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    kochi

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    帰省……もうそんな時期か。思えばあっという間で、慌ただしく学校生活が過ぎ去っていた。
    勉学とバイト三昧の生活だけど、だいぶ慣れて身に付いた。両親不在で金銭的な余裕がないシェズは、名家や資産家が多い学校では浮いている。だが、それ故に興味を持ってくれる人々も多かった。優しくもあり厳しくもあり、時々理解の範疇を越える学友もけっこうできたと思う……と、苦学生の彼は思う。
    珍獣扱いかと思わなくもないが、良き縁に恵まれてると自負している。

    「今更村に帰ってもなー……」

    長期休みの知らせを掲示板で見かけて、独りごちた。
    彼の出身地は山間の村で、数年前母を亡くして出て行ってしまったので、もう住処はない。……とは言っても、時々帰りたくなる。ふとした時に立ち寄ったり、母の墓参りをしたかったりと何となく足は向いていた。村の人もシェズを歓迎しており、気軽に寄ってほしいと言っている。
    けれど、やはり遠慮は生まれる。

    「やっぱ日帰りか、野宿か……」
    「さっきから、何唸ってるんですか?」

    隣から突然声をかけられたが、彼はあまり驚かない。人が多い掲示板前の廊下にいるのだから友達に声をかけられるのは珍しいことではないから、と。

    「いや、今度の休みは久々に村に寄ろうと思ったんだが、けっこう遠いから悩んでた。……田舎だから何にもないしな」
    「行きたいと思った時は行った方が良いと思いますよ。たしか、あんたの村って山間の方でしたよね」
    「ああ、リシテアの処とは大違いの集落だ。それが特徴といえばそうなんだが」

    気心知れた仲なので、シェズとリシテアは話を続ける。話題は長期休みの前の試験や帰省になっていった。

    「シェズの村は、一度訪れてみたいんですよね」
    「何もない田舎の村だから、見て楽しめるものなんかないけどな」
    「いえ、実際に見てみないとわからないことは多いですから。何か力になれるかもしれませんし」
    「ありがたいが、大変だと思う。山だし、バスも少ないし、けっこう歩くぞ」
    「それでもですよ。知ってしまったら気になりますから」

    二人は同じ出身地のコーデリア領であり、リシテアの家は地元では知らぬ者はいない名家だ。名家の娘故に、同郷の村には視察に行きたいとずっと思っていた。

    「気持ちだけ受け取っておく。今度都合付いたら誘うけど、村には俺の家がないからな……」
    「いつもどうしているんですか?」
    「日帰りだったり、村長の家に泊まらせてもらったりしてる。気軽に行ける距離じゃないから今度の帰省も迷ってた」
    「あら、泊まるところがないんですか?それなら"うちに来ます"か?」

    何気なく会話が耳に入った近くの学生は耳を疑い、傾けてしまう。

    「おっ、いいのか?!」
    「ええ、あんたなら心配ないですから」
    「なら助かる!」

    軽っ!近くのコンビニに行くノリだ。
    つい盗み聞きのように聞き耳立てている学友は驚いた。

    「リシテアの処なら安心だな!なんだったら、休みの間世話になりたい」
    「構いませんよ。変なのも来るので困ってたから、わたしも助かります。それに、シェズなら遠慮なくこき使えそうですから!」
    「ああ、何でも言ってくれ。力仕事なら自信あるし、俺の出来ることならやるさ。リシテアの望み通りとはいかないけど、精一杯希望に応えるつもりだ」
    「あんた、突っ込んでくださいよ……わたしが嫌な人じゃないですか」

    休みの間ずっと……?!
    と誤解してしまうだろうが、リシテアの家は酒造を中心に盛えており、長期休みにはお酒の系列店でバイトを募集しており、宿泊施設も完備していた。
    待遇が良くて地元では人気の職場で、この時の話は、リシテアが斡旋してくれるバイト先は食事も寝床も用意してくれる上に給料も良い好待遇な所だから喜んで引き受ける、といった内容である。
    言葉足らずでも、地元民同士には十分伝わる話なのだが、側から聞くと実家に招いて両親に紹介して、休み中は一緒にいようとしているように聞こえるから不思議だ!

    「勝手に帰ったりしないでくださいね。こっちも困りますから!」
    「もちろんだ。こういうのは最後まで付き合わないと後が無くなるからな」
    「ええ、わたしの信用も無くなりますからね。じゃあ、父様に言っておきますから後で連絡します」
    「ありがとう、リシテア。よろしく頼むよ」

    次の授業があるようで、リシテアは教室に向かって行った。当てが出来たシェズはスマホを取り出して、一緒に連れて行きたいと思う人物に連絡をしていった。

    「ラルヴァ来てくれるかな……?」


    たまたま会話を聞いてしまった知人や友人は誤解して、広まってしまうのは当然だった。

    そして、シェズに連絡したリシテアは機嫌が良くて、つい何があったか聞いてしまう。

    「菓子食ってる時並みに笑ってるな」
    「あんたももっと良い言い方してくれませんか!」
    「悪い悪い。何か良いことあったのか?」
    「いえ、まあ!ちょっと思わぬ勘違いしてくれたようで、珍しく詮索されたので……ふふふ」
    「それって嬉しいことか?」

    詮索されて喜ぶって何だ? と思うが、まあいいかと流した。シェズは他人の機微に疎い方だが深く詮索はせず、スルー技術は卓越している。

    「紹介してもらって何だけど、俺じゃない方がよかったんじゃないか?他に適任はいただろうから」
    「シェズも十分適任だと思いますよ。強いて言うなら──以前紹介した方は、愛想ない癖に至るところでフラグ立たせまくったので、二度と誘わないって決めました!」
    「ああ、酒が入ると客の気分が舞い上がるからな〜」
    「ええ!本当に困りました!」

    フラグ立っても、すぐ折るんですけどね……と心の中で付け足すリシテア。折れるとわかってても立ってほしくない乙女心が、チラついていた。
    そんなことに気付かないシェズは、さらに言葉を重ねる。

    「何にせよ、しっかり働くよ。環境が良かったらまた世話になりたいしな」
    「それは、わたしも同じ意見です。まあ、その前にあんたは休み前の試験を乗り越えてくださいね」
    「は、ははは……冗談に聞こえないのが困るな」

    バイトばかりのシェズには耳が痛かった。試験までの数日間、どう対策しようか頭を悩ませてしまうのだった。
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