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    主にフェリリシ

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    ロレレオ前提

    GOTO festival 馬肥ゆる秋の節。稲穂が黄金色に輝き、実りを齎す女神の息吹が届いた畑が連なる頃。トンボが飛び交う季節が過ごしやすいのは来る冬将軍に備えてなのか、幾多の恵みを施してくれる。
     女神に祈りを捧げるためか、恩を返すためか、秋の収穫は各地で祝われる。戦後しばらくは小さな規模であったが、順調に復興が進んでいるため、本年は憂いを晴らすかのように大々的に行う地域が多かった。
     フォドラ統一国家となって久しいグロスタール領でも、今年度の収穫祭は多くの領民が集う催しになりそうであった。


    「──という名目で、伯爵様の結婚記念も兼ねたお祭りですよね?」
    「リシテア君、もう少し歯に絹を着せて話してはどうかね」

     片田舎の村はずれの菓子屋に、またも立派な馬が繋がれていた。すっかり慣れたのか、馬は用意された飼い葉をのんびりと食している。今日も長くなるのだろう、と思っているかのように馬も第三者も事態を受け入れようとしていた。

    「これは失礼致しました。盛大に開催して、周囲にご夫人を報せたいのかと思いました」
    「強ち間違いでもないが……。領内は広いから僕の顔さえ知らない者は多いからな」
    「平民からすれば、貴族のことは知らなくても構いませんから。今のわたしは、一介の平民の身ですからお気持ちは理解できます」
    「少々複雑だな……彼らの生活に直接関わることがないとはいえ、領民の平穏を守りたいと思っているのだが」
    「住む世界が違いますと、そんなものですよ。グロスタール領は広いですから尚更」

     実際、レオニーやサルウィン村の人々は当時の領主であるエルヴィン前伯爵や嫡子のローレンツのことを知らなかった。領主として、蔑ろにして良いことではないではないのだが、今はそういった話をしたいわけではない。
     お菓子屋の狭い来客室は甘い香りで満ちていた。話し合いながら二人……ローレンツは淹れてくれたお茶を、リシテアは自作のお茶請けを口に含む。

    「無事に収穫祭を終えることが、僕の役目だと自負している。そこで、君達に頼みたいことがある!」
    「まずは話を聞きましょう」

     また面倒なことになりそうだ……と思われつつ、リシテアとローレンツは話し合っていく。
     今回は菓子の注文では無く、ローレンツは幾つかの書類を携えて訪れていた。その一枚、グロスタール領で開催される収穫祭の案内をテーブルに置いて。

    「今年の収穫祭は盛大に開く予定だ。催しを増やして、領民以外の者も歓待して、皆が楽しめる祭典にしたい」
    「良いですね。戦争から随分日が経ちましたし、まだ続く鬱蒼とした気分を晴らしてほしいです」
    「そ、そうだろう! せっかくのお祭りならグロスタールの名にかけて、存分に盛大にして良いと考えている!」
    「素晴らしい計画ですね。──あんたが、そんなにお祭り好きなのは意外でした。収穫祭は、平民でも誰でも参加できる賑やかな催しですからね」

     急所を突かれて、ローレンツはグッと言葉を詰まらせた。涼やかな様子でリシテアはお気に入りの紅茶を音を立てずに含む。

    「要件は何でしょうか、グロスタール伯爵殿。いつものお菓子の注文は三日前に受けたので、別件でしょうか?」
    「あ、ああ……ゴホン。実は、収穫祭では狩猟大会を開く予定だ。そこでだ、君達に頼みたいことがある」
    「達?」

     実はリシテアの隣にいたフェリクスは訝しげた。お菓子屋なのにお菓子と関係ない用事などあるのだろうか?
     リシテアとフェリクスは目配せしながら首を傾げる。

    「貴族でもないわたし達が、役に立つことって無いと思うのですが? 麦畑とか持っていませんし」
    「そんなことはない! 順を追って説明していこう。──収穫祭では自由参加型の催しを幾つか開く予定で、その一つが先程言った狩猟大会だ。狩った量に応じて景品を出し、獲れた獲物はその場で調理して、参加者に振る舞う予定だ」
    「あら、良いですね。謝肉祭にもなりますし、賑やかそうです」
    「獲物が多いと良いな」

     話を聞いて、肉好きのフェリクスも頷いた。グロスタール領には狩りを生業とする集落が多く、平民も参加できるのなら盛り上がること間違いなしだろう。

    「それの何がいけないのですか?」
    「問題というわけではないのだが……君達に協力を仰ぎたい。単刀直入に言うと、フェリクス君にその狩猟大会に出てほしい!」
    「俺がか?」
    「ああ、ぜひとも!」

     突然話を振られて、フェリクスは驚く。
     ローレンツの妙に熱の入った勧誘に二人は驚き、理由を尋ねてみた。

    「考えるが、何だって俺に言う……」
    「此処からグロスタール領都はけっこう遠いですから、気軽にお返事できないですね。店のこともありますし」
    「安心したまえ! 移動手段や店のことはこちらが手配する。僕が頼んでおいて配慮に欠けた粗相をしては、グロスタールの名に傷が付く!」
    「また大袈裟な……」
    「ローレンツにしては随分真剣ですね。何かあったんですか?」

     ぎくりと言う擬音が見えるくらい、ローレンツは冷や汗を垂らす。渋い顔をして深呼吸から語り始めていった。
     ──そも狩猟大会はレオニーの提案であり、成功するために幾多の検討を重ねて、多くの領民や近隣の貴族達の支持を得て、開催されることになった。既に領内のあちこちに報せており、自由参加型のため楽しみにしている者達は数知れずで期待が高まっている。

    「良いことじゃないですか」
    「そうなんだが……実は、その大会にレオニーさんが参加する気でいて……」
    「レオニーは主催側ですよね?」

     当然の疑問を投げられると、ローレンツはますます罰の悪い顔をしていった。

    「そ、そうだが……張り切って弓の手入れをしては、狩猟用の短剣を磨いたり、近くの山に馬を走らせて日々取り組んでいるのを見ると……言えずにいて」
    「士官学校の時のあんただったら、流暢に咎めていたでしょうね」
    「ま、まあ主催側だが参加自体異議はない!」
    「レオニーの腕を知ってて、言ってます?」

     ローレンツは、自身の不甲斐なさを恥じているように思えた。
     自由参加を謳っているので、主催側のレオニーが狩猟大会に参加するのは問題ない。だが、狩猟を生業とする村の出身であり、戦場では槍を振るっては弓を飛ばして、天も地も駆け抜けた彼女の手腕を知っている者は懸念を抱いてしまう。

    「順当に行けば、レオニーの優勝ですね」
    「放っておけば、独壇場になる。並の奴じゃ相手にならん」
    「張り切っているのなら尚更です。勝負にならないんじゃないですか?」
    「……君達でもそう思うのか」

     二人の感想にローレンツは嘆息する。やはり、彼らもレオニーの一人勝ちを予測していった。負けず嫌いな彼女が、得意分野で後れを取るとは思えない。

    「優勝するのは構わないのだが、主催側となれば懸念があって……」
    「そうですね、近隣諸侯の貴族達の心象が悪くなるかもしれません。あらぬ不正を訴えて、疑惑の目を向かせようとするかも」
    「それは、何としても避けたい! 祭りは存分に楽しんでほしいのだが、レオニーさんに匹敵する者がいないとそう見られても致し方ない。何より、盛り上がらない!」
    「狩りに不正のしようがないと思うが……」
    「旧レスターの貴族達って、面倒なんですよ。足の引っ張り合いが大好きな方々ですから」

     『なるほど、たしかに面倒だ』と、フェリクスは目の前の貴族と元貴族を見て頷いた。

    「そこでだ、フェリクス君にぜひ参加を頼みたい! 君の腕も相当だと聞いている」

     白羽の矢を立てられてしまったフェリクスは内心複雑だが、狩猟が盛んなフラルダリウス領だった故、幼い頃から狩りをしていた。腕に覚えがあるので大会に興味はある。
     レオニーと共に狩りをしたことはあるし、直に腕前を見て自身が劣ってると思ったことはない。

    「まあ……事前の仕込みがなければ、一人勝ちにはならないだろ」
    「公平に記すため狩猟場の管理は徹底している。皆が初めての場という同じ条件でないと、優劣が生まれてしまうからな。……落とし穴を仕掛けたり、ジュラルト流傭兵術は通用しないから安心したまえ」
    「落とし穴?」
    「お前は知らなくていい……」

     リシテアの疑問は無視して、話を進めていく。

    「なら、勝負として成り立つだろ。最終的には運任せだが、それでいいなら構わん」
    「ありがとう、助かるよ! レオニーさんは狩猟大会の後、父の意向で開かれる釣り大会にも参加予定で、その後の謝肉祭にも腕を振るうつもりでいる。最初から全力でとはならないだろう。……おそらくだが」
    「……レオニー、主催側ですよね」

     お祭りに全力で参加する気の運営者レオニーに疑問符が浮かぶが、伯爵夫人の活気ある姿を見せる方が良いのかもと考え直す。イベントは皆で楽しんだ方が盛り上がるし、良き思い出となる。

    「祭りの盛り上げはレオニーさんで、僕は運営と管理という形になるだろう」
    「ローレンツが裏方に回るなんて変わりましたね」
    「ははは、そう言ってくれるのは嬉しいが、そうでもない。主催の立場を利用して、老舗の店やラファエル君の宿場に出店を頼んだり、イグナーツ君やヒルダさんに個展を依頼したり、招待客を厳選したりと僕も好きにやっているよ。……ああ一応、君がよく知る辺境伯も招待したよ。ドロテアさんに舞台を依頼する以上、誘わないわけにはいかないからな」
    「そうか」

     素っ気ないフェリクスだが、機会が減ってしまった昔馴染みと会えるのは嬉しいと見て取れた。

    「それと、君達のお菓子を出店しないかい? 狩猟大会の参加を頼む代わりに、というのも何だが、運搬や設営はこちらが用意する」
    「いいんですか? ローレンツが呼ぶような方達を満足させれる物だと思いませんが……」
    「祭りは貴族達のものではない。それに謙遜しなくていい。君達の作るお菓子なら多くの人々を満足させれると、直に食した僕が言うんだ! ……当初は心配だったが、杞憂になってよかったよ」
    「嬉しいですね! わたし達だって道楽でやっていませんよ」
    「僕とて、重要な催しを贔屓で依頼しない。楽しみにしているよ」

     お祭りで出店すれば多くの人に食べてもらい、知名度が上がる。うまく貴族に気に入ってもらえれば、お抱えの菓子屋と拍が付くかもしれない……とまでは考えていないが、グロスタール領での収穫祭は大きなチャンスだ。

    「有名になりたいと思っていませんが、お祭りに参加したいですね。たくさんの人と至福の時が共有できるのは嬉しいですし、研究した平民のおやつも食べてみてほしいですし」
    「そうか、良い返事をしてくれて感謝するよ。必要な物があれば、遠慮なく言ってくれ。グロスタールの名において、設備の新調や店の改装でも何でも構わない!」
    「それはやめろ」

     一瞬目を輝かせたリシテアと乗り気になったローレンツをフェリクスが即座に諫めた。二人に任せたらとんでもない事になりそうなのは、相変わらずだった……。
     ということで、グロスタール領での収穫祭に参加することが決まった!
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