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    kochi

    主にフェリリシ

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    kochi

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    蒼月中

    異教の村 フォドラに降臨した白き女神セイロス。その神を信仰するセイロス教が浸透してから、およそ1000年の月日を経た。全土に渡って信仰される教団は、多くの信者の寄る辺となり、支えになり、三国とは特別の地位を築いていった。
     そして、フォドラとて、どこの地とて……異なる神を信仰する地がある。それに伴い思想や生き方が異なり、独自の文化が出来上がる。例え、それが歪つで異端と見做されようと信奉は止まないのが世の摂理。
     ──人は、己のみで生きていけるほど強くない。何かに縋り、信奉して、ようやく自己を確立していく生き物。幾多の淘汰を経ようと人間は脆く、脆い故に群れて、知恵を得て、力を得る。
     弱きものが、縋るものを見出すのは必然。そして、それは女神でなくても構わない。……邪悪なる悪鬼とて、彼彼らにとっては神であり、父や母の如くあたたかき慈悲なる存在。人の数だけ神は存在する、と言っても過言ではないのかもしれない。
     神が、募る人々に対して何を思っていようと……信者には関係ない。

     §§

     その村は、場所を知らなければ辿り着けない辺鄙な所にあった。森の奥深き所にある湖、その先の獣道のさらに先……そういった地に人が棲息していた。

    「聞いてた話より大きいですね」
    「小さな集落と聞いていたが……これでは村だな」
    「ええ。自給自足の生活と言えませんが、貧しさは感じませんね」

     戦時中であれば、ほとんどの村落は貧しく、若い人を中心にいなくなるのが常だ。だが、彼らが訪れた村は豊かに見えた。
     何の変哲もない普通の村……今だと、それが不自然の証になっていた。この時勢で普通の村がある事が稀で、深い森奥の辺鄙な地でなら尚のことおかしい。

    「此処で突っ立ってても時間の無駄だ。さっさと行くぞ」
    「そうですね。フェリクス、もう一度確認しますが──わたし達がどういう関係なのか、わかっていますね?」
    「……理解している」

     舌打ちしながら眉間に皺を寄せるフェリクスにリシテアは呆れた視線を送る。やはり……と思い、心配を抱えながら再度忠告の声を寄せた。

    「肩書きは忘れないでくださいね。何にしても最初が肝心ですから」
    「……盛る必要があるのか?」
    「歴戦のセテスさんのお墨付きなんですから信用しましょう。大袈裟な方が説得力が増しますし、村に入れなかったら本末転倒ですから」
    「理解している。……しているが、他にどうにかならなかったのか」
    「わたしに言われても困ります……。とりあえず、身なりが様になるようにしましょうか」

     何度目になるかわからないため息を吐いて、二人は準備をしていく。
     周囲を確認し、打合せした後、意を決して小さな不自然な何の変哲もない村へと入っていった。──セイロス神と異なる、異人の神を信仰している村へ。


     その小さな村は、一歩足を踏み入れると異国に訪れたように感じた、と後になって思えた。

    「変わった……雰囲気ですね」

     顔や姿をフードで覆ったリシテアが感想を漏らす。フェリクスも同様のことを思い、小さく頷いてから足を進めた。
     彷徨っていくうちに辿り着いた、という体裁で侵入しているため、慎重に辺りを警戒し怪しげな様子を作っていった。こんな様子であれば、すぐに村人に気付かれ、案の定声をかけられた。

    「あら、こんな所にどうしたの?」

     狙い通りの展開になったので、不自然にならないように二人は経緯を説明をしていった。
     俯きながらリシテアが話して、愛想の悪いフェリクスは二言三言相槌をして近寄り難さを醸し出していたが、かえって気の毒に思われて怪しまれずに済む。

    「そんな遠くから二人で! ……大変だったでしょうに」
    「何にもない村だけど、ゆっくり休むといいわ」
    「まずは住処を用意せでばな」

     作られた事情を説明すると、共感した老婆やその家族に歓迎された。曰く──親の反対を受けて遠方から駆け落ちした元貴族の夫婦、と偽って。

    「あんな説明で納得できるのか……」
    「いいじゃないですか。セテスさんの目論見通りに進んだんですから」
    「そうだが…………駆け落ちはいるか?」
    「同情心を煽るんですよ。気持ちはわかりますが、任務が優先です。追い出されずに済んだ事を喜びましょう」

     ひそひそと心情を零しながら、二人は擬態に呈した。
     『身寄りがなく、誰も頼る者がいないと言えば大概は受け入れられる。そこに情感的な要素が加われば、共感が得られ歓待される可能性が高い。そうだな、君達ならば……意外性がある方が受けが良いかもしれない』などとセテスから助言を受けて、実行に移していた。大いに甚だ疑問だが、交渉上手な依頼主の主張を退ける理由はない。
     ──任務である以上、私情はない。村に入れなければ、何も成し遂げれないのだから! と言い聞かせて。

    「怪しまれては困りますから口裏合わせてくださいね」
    「……わかっている」
    「社交的、には無理でしょうから、あんたは喋らなければいいですよ」
    「……俺、いるか?」

     道中で村人から、戦時中故に難を逃れて迷い込む者が幾人もいた話を聞いた。フェリクスとリシテアのような流れ者は珍しくなかったからか、あっさり受け入れられた。

    (駆け落ち設定はいらなくないか……?)
    (そう言っても兄弟とか親族は無理がありますから……)

     必要なかったが、違和感は持たれなかったので上々だと言い聞かせた。

     §§

     村の者に案内されて、二人は使われていない空き家を与えられた。小さくて粗末なものだったが、屋根が付いてささやかな家具があれば十分な陣営だろう。

    「最近まで誰か使われていたようですね。私物がいくつか残っています」
    「何か手がかりがあれば良いがな」
    「大方片づけているでしょうが、見落としはあるかもしれません。探りを入れていきましょうか」

     とりあえず、魔法による盗聴や監視はなさそうなので、家の中に物色しながら今後の見通しを話していく。

    「まずは、情報収集も兼ねて挨拶したいのですが、村長は忙しいと言っていましたね」
    「正確には、村長ではないみたいだがな」
    「成り行きでそうなったと言っていましたね。元は、より集まった集落のようですから決まってなかったのでしょうね……」

     曖昧になし崩しにリーダーとなるのはよくある話だ。だけど、村の人々から慕われているのだから適性が合っていると窺えた。

    「カリスマ性があるのか、それとも……」

     ちらりとフェリクスを横目で見やる。何を考えているのかわからない無表情の彼を睥睨して、リシテアは口を開ける

    「たしか、女性でしたね。それも……綺麗な方のだとか」
    「らしいな」
    「……気にならないのですか?」
    「どういう出方をするのか気がかりだが、知らない奴を気にしても仕方ない」

     そうではないのだが……と思うも、事務的な回答をするフェリクスにホッと胸を撫で下ろす。しかし、リシテアは知っている。勝手にフラグを立ててしまうタチの悪いフラグメーカー振りを!

    「まあ勝手に立てておいて、バキバキに折っていくんですが……」
    「何を言ってる?」
    「こちらのことです。……ゴホン、早めに挨拶しておきたいですね。顔合わせしておいた方が怪しまれずに調査しやすいでしょうし」
    「…………」

     村の首領に出向くことに異論はない、当然だ。怪しまれては困るのだからリシテアの言う通り、早々に挨拶して動向を探るべきだ。
     だが、フェリクスは懸念を持った。どうにもしっくりしない……と。

    「もう少し、様子を見たい。疲労困憊で森の中を彷徨った事になってる……すぐに動けば、かえって不審がられる」
    「そうですね、いきなり目立ちたくないですし」
    「妻は体が弱いと言っておいた。しばらく臥せていても不自然ではない」
    「っ?! ……そ、そうですね!」

     都合上の『妻』だが、直に言われると落ち着かない。ドクンとリシテアの心臓が跳ね上がってしまうのは致し方ない。しれっと言い放つフェリクスに対して悔しさが生まれるのも自然の摂理。

    「な、慣れませんね……夫婦って」
    「ボロが出たら困る。今後の算段を付けてから動いても遅くない」
    「そうですね。はあ……あんたって、そうですよね。強い心臓と取り替えたいです」

     そうして、家の中を確認しながら家具の配置を変えたり、部屋割りしたりと今後の生活について話し合った。盗み聞きの可能性は低くとも万が一の漏洩を避けたくて、二人の声を細やかになっていた。

    「うーん、手土産あった方がいいでしょうか?」
    「放浪していたんだから手ぶらでいいだろ」
    「そうですね。親に反対されて家飛び出した駆け落ち夫婦ですから」
    「…………必要か?」

     やはり、駆け落ちはいらないのでは?
     揶揄ってからリシテアは掃除と情報の整理をし、フェリクスは周囲を偵察に行った。一抹の不安を抱えながら。

    §§

     ──時を遡らせて、経緯を振り返る。異教徒の隠れ里調査……を持ち掛けられた時のことを。

    「何故、俺に?」
    「そう思われてしまうだろうな。これでも吟味した上で抜擢したのだが」

     セテスから直々に依頼されて、フェリクスが混乱するのは当たり前だった。騎士団の者に頼めば良いし、隠密ならまだしも調査となれば、もっと他に適任がいる。

    「他を当たってください」
    「変わってしまった昔馴染みが気がかりなのはわかるが、こちらも余裕がなくてな。単刀直入に言えば、君を選んだのは信仰心が薄いからだ。セイロス教の総本山だったガルグ=マクにいて、信心深くない者はそういない」
    「……褒められてる気がしませんが。それに、俺以外にもいます」
    「ははは、大司教の代理としては頭が痛いのだが、今は好機と捉えている。なに深い意味ではない、神に頼らず、己で成し得ようとする意志が強いってことだ。目的の為に研鑽を積む、と口にするのは容易いが、実際に実行できるかは難しい。君は非常によくやっている」

     素直に賛辞を受け取れないが、フェリクスはセテスの進言を受け入れた。彼の言う通り、フェリクスは信仰心が厚くない。神頼みするくらいなら自信を鍛えた方が遥かに良いと考えている。

    「それが何の関係があるのですか?」
    「信仰が薄ければ、他の宗教にも傾倒しないと判断した。女神を信じる者であれば、他の神や御使いの存在を否定するのは難しい。受け入れずとも拒むことはできない……そのような状況は避けたくてな」
    「はあ……」
    「案ずるより産むがやすし、とも言う。いっそ無縁の方がうまく運びそうだと考えた」
    「揶揄ってますか?」

     整然と説かれてもフェリクスにはピンと来なかった。セテスの指摘通り、フェリクスは信仰心が薄い方だ。無関心というわけでなく、生まれた時からセイロス教が崇められていた環境のため意識が向いていない。

    「わざわざ、俺が調査するほどなのですか?」
    「公には言えないが、我々は他の信仰を妨げるつもりはない。セイロス教以外の存在を信じるのも、複数の神に祈るのも一向に構わないのだが、"本当に信仰なのか"は見定めておきたい。……君なら言っても構わないか。何事も発端は我欲や本能だ」

     大胆な発言をするセテスだが、聞いた者は驚きも感嘆もなかった。そんなもんだろ、と言った態度で、平然としているフェリクスはセテスに安心を持たせた。

    「願いが大きいのは結構だが、成し遂げようとすれば倫理から外れる事はままある。実は君以外にも調査を出したのだが、途中経過のみで帰ってきていない」
    「恐ろしいことを言っていますが?」
    「甘く見ていたのはあったが、騎士団による斥候だ。常に人手不足でいるが相応の訓練を受けた者達が帰還しないのであれば、放っておくわけにはいかない。教団の面子もあるし、事が大きくなり手遅れになっていては困る」
    「だからって……」

     何故、自分が出向かなければならない、と思わざるを得ない。必要があれば偵察や隠密に抵抗がないフェリクスだが、自身が適任とは受け入れ難い。

    「俺では、成功率が高いと思えませんが?」
    「君の考えは尤もだが、こちらも手が空いていなくてな。理由は先に述べた通りだ。ぜひ引き受けてほしい」
    「…………はあ、当てがなければ」

     渋い顔をし続けたが、最終的に承諾した。セテスの見解は的を得ているし、その人物が自身を推すのなら断る理由が見つからなかった。現時点では。

    「他に同行者を決めてほしい。理由は後で説明するが、女性で頼みたい」
    「同行者が必要なのですか?」
    「偵察は怪しまれないようにするのが基本だ。木を隠すのなら森の中、一人より二人の方が擬態が容易な面がある」
    「理屈はわかりますが……」

     気が進まない。内容が内容なだけに、誰かと協力しながら事に当たるのは億劫だった……とはいえ、承諾した以上ぐちぐち言わない。嘆息と共に滅入る気分を吐き出した。

    「何か条件は?」
    「これと言ってないが、そうだな……君の場合というより、『私が、私に忠告するのなら』で言うと」

     一番連れていきたくない者にしろ──。
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