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    ロレレオ

     この日は暖かく快晴だった。散歩に最適、体を動すと汗が出るくらいの暑さだ。
     此処、ガルグ=マクの士官学校では訓練や演習、座学に魔道などの多くの授業を取り入れ、切磋琢磨と生徒たちは日々鍛錬に明け暮れていた。……無論、そうでない者もいるが。個人差が大きいのは致し方ない。
     そんな日の出来事。よく見られる光景の一つであった……たぶん。

     訓練所は訓練する場なので、いつも掛け声や武器の擦り合う音で満ちていた。時折、魔法による轟音を奏でて、より一層喧騒を際立たせていた。つまり、毎日煩いほどに生徒たちは取り組んでいた。
     この二人も同様に──。

    「ふう~、お疲れ。今日も精が出てたな!」
    「このくらい当然だ。民の良き模範となるのが、貴族の務めだからな」
    「はいはい。あっ、次は馬に乗ってやろう!」
    「構わないが……僕を蹴らないでくれたまえよ」

     何故か、レオニーの愛馬には時々殺意を向けられてる気がするローレンツは、念の為忠告をした。彼女に言ったところで無意味とわかっているが、懸念は減らしておきたかった。

    「しっかし、暑いなー。あー、髪や服が汗でびちょびちょだよ!」
    「……ゴホン、淑女がそのように服を捲らないでくれたまえ」
    「ベタベタして気持ち悪いんだよ。ローレンツだって暑いだろ?」
    「暑くても礼節を重んじるのが貴族だ。心頭滅却すれば火もまた涼し、と東方の言葉もある」
    「はあ? 暑い時は暑いだろ」

     制服を正したままのローレンツは、目の前で服を扇ぐレオニーに苦言を漏らしたが、当人は気にしていないよう。彼曰く、貴族らしかぬ行いは度々目にしていたので、だいぶ慣れてきていたとのこと。
     貴族と平民とでは生き方が違うのだから、見ているものや価値観が違うと理解し始めていた時だった。

    「同じ人間は、フォドラ中探しても見つかりはしない……そんな当たり前のことを気付かされるとは」
    「まーた、変な時に考え込むよな」
    「こちらに来てからは、日々驚かされる事ばかりだからな。見聞が広がっていく自分自身が一番驚いている……」
    「毎回難しい事ばかり考えてて疲れないのか? ……疲れ、疲労回復……そうだ! 訓練も終わったことだし、せっかくだから一緒に風呂行かないか!」

     え? ……うん?
     …………え??

    「れ、レオニーさん? 何を……言っている……?」
    「だって暑いし。ローレンツは気難しいし、肩も凝ってそうだからさ。学校には浴室があるんだし、入ってスッキリした方が良いと思ってさ!」
    「気難しいと言われるのは心外なんだが……いや、そうではない! そうではなくて……」
    「疲労回復にも良いって言うしな。一緒に入ったら気持ち良さそうだ!」

     だから、なんで一緒に入ろうになるんだ?!
     待て、聞き間違いかもしれない……誰とて、うっかりすることはあるし言い間違いもある。そうだ、そうに違いない! いくら平民だろうとレオニーさんだろうと、軽々しく異性と入浴を共にするはずがない! と思考を巡らせるローレンツ。

    「じゃあ行くか。話し相手いた方が良いからさ、やっぱ一人より二人だよな~!」

     聞き間違いじゃないようだ! えっ?! え?? ……本当に? 男女共に入浴するのが平民間では常識なのか? それはいくらなんでも……子どもじゃなくて、成人近い男女同士で??
     ローレンツは混乱していく。勘違いしていると気付かずに。

    「ま、待ってくれたまえ、レオニーさん! それはいけない!」
    「なんだよ、急に大声出して。どうした?」
    「どうしたもこうしたもない! 僕達は幼き子どもではない。将来を期待される若人であって、成長に合わせて体も精神も発達している。そんな中で、その……共に入浴するのはどうかと思う! 何か起きたらどうするんだ!」
    「……なに言ってるんだ」

     突如、饒舌に説教してくるローレンツにレオニーは絶句する。意図も他意もない入浴、もといサウナの誘いで、こうも強く拒絶されれば心が沈んでしまう。

    「……はいはい、平民のわたしとは行かないんだろ」
    「そうじゃない! 貴族や平民などの身分関係なく、異性同士で共に入ることに僕は異を唱えている。将来を誓い合った同士ならまだしも、僕らはそういった間柄ではない。……そ、それに、気軽に男性を誘うものでもない。僕ならまだしも、万が一の事がある」
    「なんだよ、意外と頭が硬いな。──わたし、この間先生と行ってきたよ」

     え? は? ……先生と? 落ち着け、早合点はよくない。先生と言ってもマヌエラ先生のような女性かもしれない。そうだ、きっとそうだ! まさか新人の傭兵上がりのベレト先生ではないはずだ! と、ローレンツは言い聞かせる。

    「一応、尋ねるのだが……どの先生と行ってきたのかな?」
    「どのって、わたしらの担任に決まってるだろ」

     ベレトだった。めちゃくちゃ知ってる担任のベレト先生だった。おい、生徒と風呂に入るってどういうことだ!? それも異性と! 何をやっているんだ! ……というような事が、頭から噴き出してくる。

    「は、ははは、破廉恥な!」
    「そうか? わたしは誰かと一緒の方がいいからな。話してる方が気が紛れて、じっくり入れるし」
    「れ、レオニーさん! 君は、自分が何を言っているのかわかっているのか!?」
    「何で、そんなに驚いてんだよ? ヒルダやマリアンヌやリシテア達も先生と行ってるぞ。入った後は、なんか体の調子が良いんだよ」

     羨ま……じゃなく、何をやっているんだ、あの教師は! 聖職者としてあるまじき行いではないか! 複数の生徒と混浴、それも異性間で……不純異性交遊以上のゆゆしき事態だ!
     衝撃の新事実にローレンツの脳天に雷が落ちていた。

    「そんなことが許されていいのか! 教師と生徒とはいえ、男女なんだぞ!」
    「別にいいだろ。嫌がってないんだし」
    「よくない! 過ちが起きたらどうするんだ! 互いに傷つき合って、後悔するのが目に見えているのだから、もっと自制すべきだ。よし、僕が言ってこよう!」
    「いいっていいって!大袈裟なんだよ、ローレンツは……みんな入ってるんだからさ」

     みんなって、どういうこと!? 先生以外とも入っているのか! いくら何でも奔放過ぎないか……それとも、自分が知らないだけで他の人達は男女混合を気にしないのか。
     許容範囲を超えている事態のため、ローレンツはますます冷静さを失っていった。

    「ま、まさか……ゴホン、敢えて聞くが、平民間では男女で風呂を共有し合っていたのか」
    「いやいや、村に立派な浴室なんてないから! まあだから、わたしには勿体無いなって思うんだけど、その分しっかり鍛えて、体を休ませた方がいいって考えるようにしたんだ。わたしが利用してもしなくても浴室はあるんだしな。なら、思いっきり使い倒そうってさ!」

     朗らかな笑顔で語るレオニーは眩しく映った。言ってる事は半分くらいしかわからないが……。

    「そうだな……疲れた体を癒すのも鍛錬の一つと聞く。君なりのやり方で休ませたら良いと僕も思う」
    「だろ? じゃあ、ローレンツも一緒に休もうぜ! 先生にやり方教わってから、わたしもハマってきたんだよ。整う?ってのはよくわかんないけど、熱い中でじっと耐えるのもなんか良くてさ」
    「そ、そうか。……熱い? 此処の入浴温度はちょうど良いのだが」

     色々と腑に落ちないローレンツは、レオニーから見ると思い詰めてるように見えた。自分とは違う世界の住人で、自分にはない価値観を持っているが、共感できるところは幾つもある。
     見るからにローレンツはサウナと縁遠そうだ……よし、強硬策でいこう! と結論付けた。

    「まあまあ、何事も体験しておくのは良いことだろ! ほらほら、行くぞ」
    「えっ?! い、いや、待ってくれ! まだ心の準備が……」
    「貴族が怖気付いてどうするんだよ? 度胸付けておかないとやっていけないだろ」
    「貴族と関係ない気が……ま、待ってくれ! 押さないでくれたまえ!」

     ローレンツの背中を押して強引に訓練所から連れ出し、浴室へと足を運ばせた。妙にたじろぐ彼を不審に感じたが、未体験のサウナだから仕方ないとレオニーは納得していた。勘違いだが。

    「そうだよな、初めては緊張するよな。わたしもそうだったよ」
    「いや、その……そう言われもどう答えていいのだか……」
    「まあ、すぐに慣れるよ。初めは驚くかもしれないけど、何回かすれば気持ちよくなるさ」
    「何回も!? 気持ちいいって、それは……?!」

     それぞれの思い違いを抱えて、いざ行かん! 熱き風の部屋へと。

     ──およそ一時間後、牛乳を飲みながら火照った体を冷ます二人がいた。

    「意外と頑張ったな。もっと早くへばると思ってたよ」
    「……僕の想像と随分違っていたからな。……気が抜けてしまったというか」
    「やるじゃないか、ローレンツ!」

     自身の思い違いを恥じて秘めているのを悟られないように、ローレンツは牛乳を飲み干していく。うん、身体と精神も整うのなら何よりだ!

    「今度はあれやってみよう、ロウリュだったか? 熱風送ってくれるんだ」
    「……サウナなら構わない。……サウナなら」

     何となく、二回言ってしまう。
     ローレンツとレオニーは血行促進・小を獲得した。
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