Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    kochi

    主にフェリリシ

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 73

    kochi

    ☆quiet follow

     今日こそ言おう! 男らしく、誇りあるファーガスの騎士らしく伝えよう!
     そう思って、早幾月か……機会は訪れず、作れずの日々を送っている。ま、まあ戦時中に告げるのは何だなと思っていた。そんな時に言われても困るし、同じ部隊だからやり辛くなったら支障が出かねない。果報は寝て待て、と言うし。
     でも、まさか既に──。

    「知ってました? リシテアさん、結婚するんですって」

     手遅れだったなんて……!?
     同僚との何気ない世間話に僕は放心した。
     
     ……ということで、僕は素直に引き下がる選択をした。婚約者がいる相手に告白する気はない。爵位の高い人や良い家の次期後継者ならできるかもしれないけど、生憎我が家はそういった高貴な家でないし、僕は三男だから家督を継がない。士官学校や魔道学院にも入れてくれたから不遇と思ってないけど……。

    「今回ばかりは兄さんの立場が羨ましい……」

     領地の統治に明け暮れてる兄を羨むが、そんなことを言っても仕方がない。想い人の幸せを願うのが騎士の誇りだ! ……不満がないとは言わないけど。

     ──市場は多くの人で賑わっていた。帝国軍を誅してから、足を潜めていた商人や移住を望む人達がやって来たのだろう。それに、長く続いた戦争が終結して、ようやく訪れた平和を甘受したいといった理由もあるだろう。
     僕も祝おう、未来続くフォドラの平穏を。そして彼女の幸せを……。

    「一先ず、お祝いの花を注文しようかな」

     手ぶらで祝福するわけにはいかないし、少しくらい僕の気持ちを重ねていいかな……幸せになってほしいのは本心だから。
     警備も兼ねて市場を見て回り、目当ての花屋に向かう際、見知った上官達に遭遇した。

    「おっ、まだ居たんだな。いやー良かった、顔見れて!」
    「すみません、女性じゃなくて……」
    「そりゃあ女の子の方が嬉しいけど、世話になった仲間には挨拶したいって。デートの誘いじゃなきゃ野郎でも歓迎するよ、俺は」
    「……嘘くさい」

     僕も同じこと思った……。声をかけてくれたのは、シルヴァンさんとフェリクスさんだった。まだお二人がガルグ=マクに残ってて、少し驚いた。

    「シルヴァンさんとフェリクスさんが、まだ此処に居て意外でした。てっきり、もうファーガスに戻ったかと」
    「おいおい、戦が終わって用がないから〜って、すぐ家に戻るわけにはいかないだろ。約束した女の子に会わずにいるなんて、礼儀知らずな男だろ!」
    「そ、そうですね……」

     軽薄な態度で話しかけてくる赤い髪の上官は、見た目と違って部下や隊の様子を見ている。気さくで話しやすいシルヴァンさんとは対照的に、後ろで呆れているフェリクスさんは近寄り難い雰囲気がある……と思うけど、僕は二人の部隊に所属していないから詳しく知らない。
     何たって、僕は剣と魔道の腕を買われてリシテアさんと同じ隊の前衛にいた! ……もう過去の話なんだけど。

    「こいつの話は聞かなくていい」
    「酷ぇな! 俺流の女の子と仲良くなる方法を伝授しているんだよ」
    「役に立つと思えん」
    「いえ、ご厚意ありがたいのですが……間に合ってます……。というか、必要なくなったので……」

     つい自虐的に言ってしまった。聞いて欲しがってるように聞こえてしまったかな、と自省する前にシルヴァンさんが尋ねてきた。

    「なんだよ、振られたのか? 本気なら諦めるのは勧めないけどな」
    「あはは、そんなんじゃないですよ。告白する前に終わってた感じで……別の方と結婚するみたいで」
    「ああー……それは難しい問題だな。相手次第なら俺も助力できなくもないが……」
    「いえ、お構いなく」

     歯切れの悪くなるシルヴァンさんに申し訳なくなる。控えてるフェリクスさんは興味ないのか聞いてるのか聞いてないのかわからないし、早めに会話を終わらせよう。積もる話でもないし、足止めさせるのは忍びない。

    「せめて、お祝いの花をプレゼントしようかと考えてて。お世話になってたし、幸せになってほしいですから……」
    「お前、いい奴だな!」
    「爪の垢でも貰っておけ。無駄だろうが」
    「お前は、こう言う時容赦ないよな! 俺だって一途になったんですー! ……まあ、祝福できる自信はないけどな」
    「いいですよ、謙遜しなくて。やっと平和になりましたし、ずっと張り詰めてましたから肩の荷下ろして幸せな生活を送ってほしいと思ってます。──リシテアさんには」
    「…………え?」

     いずれ知られるだろうし、リシテアさんの名前を出した。二人とも彼女とよく行動を共にしていたから、祝ってほしい気持ちがあった。多くの人に祝われた方がきっと喜ぶだろうから。

    「……あれ? どうしたんですか、お二人とも?」
    「いや……凄く、驚いたというか、そんな話聞かなかったなーって……」

     シルヴァンさんがチラリとフェリクスさんの方を見たけど、反応がなかった。無表情だから何を考えているのかわからないけど、僕の失恋未満話なんて面白くないからな……。

    「あっ、この様子じゃ違うっぽいな。今聞いたみたいだ……」
    「僕も同僚から聞きました。突然で驚きました……まあ、あれだけ魅力的な方ですから縁談話の一つや二つはあったんでしょうが。……あはは、落ち着いたら気持ちを伝えようと思ってたんですけど、出遅れたようです」
    「え……ど、どうかなー。いやー……まだチャンスはあるような無いような。ほ、ほら、直接本人から聞いたわけじゃ無いんだろ! 諦めるのはまだ早いって!」

     しどろもどろでフォローしてくれるシルヴァンさんの優しさが沁みる。側にいるフェリクスさんは、僕に同調して動揺しているように見えた。二人とも僕に寄り添おうとしてくれて嬉しい!

    「最後の思い出は笑顔で送りたいですから。じゃあ花束買いに行ってきますので、これで失礼します」
    「お、おう、そうか。えーと……その、頑張ってくれ。あっそうだ、どうせなら大きな花束が良いんじゃないかなー。……できるだけ時間をかけて」
    「そうですね! 助言ありがとうございます」
    「お、おう……なんか悪いな。今度会ったら酒奢るから」

     応援されて、胸のしこりが少し取り除かれた気がした。僕は僕なりのやり方で、リシテアさんの幸せの一助となりたいと思う!

     選びに選んだ花と出店で見かけたお菓子を渡しに行くと、随分時間がかかってしまった。
     なかなか見つからなかった探し人にお祝いの言葉をかけると、困った顔をして言った。

    「あの、それって……たぶん同じ隊のレイテアさんのことだと思うのですが」
    「えっ?!」
    「先週、報告に来てくれましたから」

     聞き間違いだったと判明した。なんだって!!
     ハッ、待て……なら今は絶好の機会なんじゃないのか! お誂え向けに花とお菓子も揃ってるし!

    「り、リシテアさんは……ご、ご結婚し、しないのでしょうか?」
    「えーと……実は保留中でして」
    「誰かと婚約されるんですか!?」
    「こ、婚約までしていません! ついさっき言われたばかりで……考えがまとまらなくて……」

     無理だ……頬を染めて、泣きそうな顔で言われたら引き下がるしかない。困っているけど、喜んでいるように見えたから。……そっか。結局、出遅れたのは変わらなかったか。
     まあ伝えたところでうまくいくと思えないし、困らせたくないからこれで良かったかもしれない。それでも、僕は君に会えた奇跡に感謝しよう。

     数ヶ月後、違うことで驚いたのはまた別の話──。
     あれ、もしかして敵に塩を送ってしまった? 敵と言ったら畏れ多いけど、彼女が幸せならいい。それは本当だ。…………ちょっとだけ腑に落ちないけど、もう昔の話だから。意外だなーとか思っていない。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works