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    コンビニで働いているヘウォンメク

    Twitterで載せていたものをまとめました
    続きは思いついたら追加します

    コンメク1
    「しゃせー」
    「おい、しゃせーじゃないだろ。いつになったら学習するんだ。いらっしゃいませだろ!」
    「聞いてるのかヘウォンメク」
    ここのアルバイトを始めて早一ヶ月。毎日毎日同じことの繰り返し。
    商品陳列、レジ打って、販促、掃除。
    あーあ なんか面白い、俺をワクワクさせてくれることないかなぁ



    「いらっしゃいませ〜」
    でかいな。
    身長がでかい俺がでかいと言うんだ、それなりの身長とみえる。まあ、俺よりは小さそうだけど。ヘウォンメクは心の中で小さな勝鬨をあげた。
    男は店に入るなり入口近くにある栄養ドリンクの棚から、2、3本を掴み無造作にカゴに入れると、他の商品には目もくれずヘウォンメクの目の前に現れた
    『どんっ』
    カゴが机にあたって音をたてた。
    男はその音に身体をビクッと震わせると、小さく「すみません」と言った。
    ヘウォンメクには心底どうでもいい謝罪だった。それよりも、『こいつドリンク3本でカゴ使うのかよ...』と心の中で悪態をついた。
    男は眼鏡をかけていた、年齢は40代前半だろうか。冬なのにコートとジャケット、その両方を小脇に抱えている。どうやらここまで走ってやってきたらしい。普段は綺麗に整えられているであろう髪が乱れ、額には汗がしっとりと滲んでいた。
    バーコードを読んでいる間、男は鞄から財布を出すわけでもなく、空っぽのカルトンをぼんやり見ていた。ヘウォンメクはその様子を見て、『この人ぎざぎざの数でも数えてんのか』と思った。
    「3000ウォンです」
    「ん、ああ」
    男は思い出したように、鞄の中から財布を取り出しカルトンの上に載せた。
    「お釣り400ウォンです。ありがとうございました」
    小銭とレシートを掴んだ手を相手の目の前に差し出して、『しまった…店長から手渡しするなって言われてるんだった』ということを思い出したが、時すでに遅し…お金は男の手のひらの中に包み込まれていた。どういうわけか、俺の指も一緒に。
    「あの…」
    声をかけるが反応がない。気まずい状況をどうにかしようと冗談を言ってみた。
    「もしかして、俺の顔が良すぎで惚れちゃった?いやぁ~よく言われるんだよね、握手してって…ははは」



    なんだ、なんだと思ったら、男が脇に挟んでいた長財布が床に落ちて小銭が盛大に散らばった。
    「ヘウォンメク」
    男は小銭の大合唱とほぼ同時にそう叫んだ。
    「へ?」
    底抜けに間抜けな俺の返答に、男の表情はあからさまに曇った。
    そこからはほんとに素早くて、急に視界から消えたかと思うと、下の方で小銭を拾う音が聞こえて、「先ほどは、すみませんでした」と俺の顔も見ず言って、そそくさと出ていった。
    「なんだぁ?」
    俺は男が拾い忘れた100ウォン硬貨を見つめながら、『今度会ったら、ファンサしてあげよ~』と意地の悪い笑顔を浮かべた。


    2
    ――八時、これだから朝の電車は乗りたくないんだ。
     スマホをベッドに放り投げ、布団に潜り込む。暫く天井を見つめた後、充電がやばかったのを思い出してスマホを左右に振ると、右上に八%という文字が見えた。充電コードを探してシーツの上を手が泳ぐ。時刻は一時をまわったところ。枕の下からコードを引っ張りだしてスマホに挿し込み、俺はアラーム画面を開いた。手際よくアラームを五分おきに設定する。最後の一つは遅刻ギリギリの時間にして、睡眠時間を最大限確保した。アラーム名は「お金♡」。つまりアルバイトってやつだ。こんだけやれば起きられるだろう、ヘウォンメクはスマホを枕元に置いて目を閉じた。 
     なのに、というか予想通りだったけど、起きたら撮った覚えのないアラーム画面のスクリーンショットが四つあって、俺の遅刻確定宣告みたいに並んでいた。
    「まじかー」
     冷蔵庫にあったキャンディーチーズを一口放り込み、誰から貰ったのかも忘れたチョコレートをポケットに突っ込んだ。爆発気味な髪の毛は濡らしてキャップにねじ込み、俺は足早に駅に向かった。
     
     なんとか間に合う時間の電車に乗ることができて一安心していると、もう一ついい事が起きた。
     彼がいたのだ。俺の名前を盛大に叫んで、つりを忘れた間抜けな男。
     
     満員電車の淀んだ空気を避けようと、天井を見上げる。気休めでもいいから、澄んだ空気を身体に取り込みたかった。スマホを見るのも窮屈でできそうにないし、ヘウォンメクは電車内に無数に散らばる広告に目を向けた。最初は文字として認識していたものも、段々とただの画像としか思えなくなり、ぼんやり電車の中を見渡す。そこで視界に違和感を覚えた。他人の頭頂部以外が見えるなんて珍しい。「へー俺ぐらいの身長のやつなんて久しぶりだなぁ」なんて思っていたら、その人物が態勢を変えて俺と向き合うようなかたちになった。向き合うといっても、俺とその人とはまあまあの距離がある。彼がこの不躾な視線に気づくことはないだろうと高を括って、暇な俺はなんとなく観察することにした。
     彼は本を読んでいるようだった。つり革を持つ手には銀色の腕時計がはめられていて、「高いのか…いやなんか光ってるし…あれは高い」なんて思った。なんとなく見覚えのある瞳だった。コンビニに来た客に、あんなのいたっけなと記憶を辿っていると、彼が鞄から財布を取り出すのが見えた。それを見た瞬間、身体に稲妻が走った。
    『思い出した! 釣銭の男だ!』
     心の中で快哉を上げる。自分の記憶力を褒めてやりたい。
     以前会った時より髪が伸びて、綺麗に整えられている。元からそこまで目が悪くないのか、今日は眼鏡をしていなかった。伏し目がちな目から、不思議と視線が逸らせないでいると降車駅に到着した。人の流れに乗りながらも、彼がどこに向かうのか知りたくて、首をぐっとあげる。彼が降車口の方に歩んでいるのが見えたところで、背後から「ちょっと、あんた降りるのか?」という苛立ちを滲ませた声が飛んできた。俺は首を軽く窄め小首を傾げながら「あー降ります降ります」と言って、仕方なく彼から視線を外し、ステップを降りた。
     被っていたキャップを脱いで、人混みの中で彼を探した。どうしてこんなに必死なのか自分でも分からない。彼のことだ、きっと寄り道なんてせず目的地に向かっているに違いない。俺は出口に続く階段を駆け上がった。彼のことだなんて思うほど彼を知らないのに、その時は何故がそう思ったのだ。まるで、ずっと前から知っていたみたいに。
     
     改札口の前に彼を見つけた。
    「あの! ねえ! ちょっと! えっと‥‥あんた!」
     くそっ聞こえてない。名前も知らないんだ、どう呼んだら振り向いてくれるっていうんだ!
     俺の大声を不審に思った数人が振り返っただけで、件の男は背中しか見せてくれない。
    『あ――――!』
     ヘウォンメクは、人混みを搔き分けながら走った。朝の清々しい風が汗で濡れた肌に触れて、その心地よさに駆ける脚はいっそう力強くなる。
    「これ、落としたでしょ」
     男の肩に手をかけて、自分の方に引き寄せる。そして、手のひらに載せた100ウォン硬貨を見せた。「落としてません」とか「何するんだ」とかの反応は予想していた。そりゃそうだ、汗ぐっしょりで髪もぐちゃぐちゃの見ず知らずの人間に突然肩を掴まれ、言われたのは『100ウォン落としましたよ』だもんな。不審者扱い覚悟で追いかけたから、今更そんな態度をとられても驚かない。俺はただ彼と話しをしてみたかった、なぜ俺の名前を知っているのか知りたかった。アルバイト中は名札などつけていなかったのに、なぜ初対面の貴方が知っているのか。
     落し物を口実にそのことを聞き出そうと思ったのに、彼は手元の100ウォン硬貨を見ることすらしなかった。その代わり俺の顔を見て驚愕といった表情をして、肩に乗った手を払い除けると走った、というか逃げた。
    「え?」
    ちゃりん、床に落ちた小銭が可愛らしい音をたてた。
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