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    絵を描くオタク

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    ウォンカン プラべ移行
    悪夢を見るニム

    空気の親度「ヘウォンメク…すまなかった」
    「私がお前やドクチュンにしたことは決して許されることではなかった……」
    「やめて下さいよ。その謝罪になんか意味があるんですか?」
    「貴方が謝罪して楽になりたいだけでしょ」
    ヘウォンメクは解答を予め考えていたかのように、俺の謝罪に坦々と答えた。
    「なんだお前……」
    思わずそんな言葉がついて出た。普段はへらへらとくだらない事で笑っているのに。
    俺の命令に「はいはい、了解~!」と二つ返事で答えてくるくせに、どうして今だけ物分かりの良いふりができないんだ!
    「漸く俺が……」
    「ようやく?」
    ヘウォンメクの片方の眉がぴくりとひきつり、上体をゆっくりとこちらに倒す。思わず己の顔が硬直した。あいつの纏った空気が鼻腔にぶつかって、その生暖かさに身体を小さく震わせる。この空気には覚えがあったはずなのに、俺はどうやら勘違いをしていたらしい。
    ドクチュンの頭上、俺とこいつしか知らない空間で同じ空気を共有してきた。俺がちょっと視線をおくっただけで、すぐに気づいて「あー! また俺のこと見つめてたでしょ~! もーテジャンは俺の顔、ほんっと好きですね」と面倒なこと言ってきた。
    白状すると俺はヘウォンメクの顔が嫌いじゃなかった。笑う時は本当に楽しそうに笑うこいつの顔が、分かりやすいところが何より好きだった。昔のこいつといえば無表情で人を見下げたような面だったから、見る度に嫌気がさしたものだ。俺はヘウォンメクのころころと変わる表情を見て、あいつは俺の仏頂面を見て、お互いの口元を緩める。そういう空気が俺たちの間にはあったはずだった。
    「やっと謝れたのにこの反応は想定外だ……とか思ってるんでしょ」
    ヘウォンメクは「ははっ」と渇いた笑いを零しながら、頭を傾げてみせた。
    「……」
    気づけば、こいつの100点満点の返答に、苦々しい表情で赤い花丸を付ける自分がいる。
    よくよく考えれば自分に圧倒的非がある上での謝罪を受け入れて貰えないのは、予想できることであった。非がある者ができるのは精々自分の行動を顧みて反省するなり謝罪をするなりで、その後の許しを受けるだとか受け入れてもらうのは相手次第。「なんだお前……」という言葉を発して初めて、自分がヘウォンメクの好意に期待していたことに気づいた。
    「そうだな……すまなかった。お前に俺の謝罪を受け入れる義務は無い」
    「んーそうだねぇ、受け入れてあーっげなぁーい」
    「その、なんだ、理由でもあるのか」
    自分でも笑えるくらいぎこちない喋り方に、片頬が変な形に歪む。
    「えーだって、面白くないから」
    「はぁ?!」

    俺の怒号はだしぬけに広がったホテルの天井に打ち付けられ、数メートル隣で気持ちよさそうな寝息をたてていた男にぶつかり、「うるさい!」という別の怒号を引き起こして帰着した。
    「カンニム様、夢の中でもキレるなんて……暇なんですか」
    ヘウォンメクは寝返りをうちながら、俺の方を睨みつけた。
    「言っておくが、お前のせいだからな」
    こちらも負けじと睨み返す。
    「ははーん、なるほど。テジャンのハッピーな夢の中に俺が出てきちゃったんですね。俺だって好きで貴方の夢に出てきたわけじゃないんですけどー。しかもその感じだと怒られてるし……出演料もらおうかな」
    「誰がやるか!」
    「はいはい、おやすみなさーい」
    「おい!」
    ヘウォンメクは布団をひっかぶると、次の瞬間にはすやすやという寝息をたてていた。天は奴に気絶する才能を与えたらしい。
    あんな夢を見ては再び寝る気もおきず、俺は気分転換に散歩に出かけることにした。夏でも夜はそれなりに冷える、厚手のコートを一枚ひっかけ部屋を後にした。
    ぶらぶらと歩きながら先ほど見た夢の事を考える。
    『面白くない』
    一体何が?あいつにとってどう面白くないのか。夢の内容をなぞること数回、カンニムはふとある事に気づき歩みを止めた。

    ああいう夢を見る時は、きまってヘウォンメクが隣で寝ている時だと。


    ——数時間前


    ホテルの一室は妙な空気に包まれていた。部屋には簡素なベッドが二つ、その一つには短髪の男が横たわっていた。眉間に皺を寄せ、何か唸るように一言二言同じような言葉を繰り返している。
    「すまなかった」
    「私を許してくれ」
    枕元にあるリーディングライトだけが男の輪郭をぼんやりと浮かびあがらせている。顔には苦悶の表情が浮かび、度々何かを堪えるように肉厚的な唇を強く引き結んだ。ただ悪夢にうなされている可哀想な男がいるだけのことであれば、この部屋に妙な空気が漂う必要はなかった。
    可哀想な男のすぐ傍、丁度ライトを頭上に掲げるような位置に、もう一人の男が佇んでいた。その異様な色を放つ双眸は暗闇の中であっても鈍い光を湛え、たった一人を静かに見つめる。顔は影に覆われ、その表情を読み取ることはできない。
    「ヘウォンメク」
    身体がピクリと反応する。
    「なんですかぁテジャン、俺がどうしたの?」
    汗で額に貼りついたカンニムの艶やかな黒髪を指先で弄びながら、ヘウォンメクはそう呟いた。そして、次にくる言葉を待った。
    「すまなかった」
    カンニムがそう言う時、ヘウォンメクはきまってにっこりほほ笑んだ。そうして、両手の指を組み合わせ、まるでアイドルが雑誌の表紙を飾る時のように、組んだ手を顎の上にのせた。



    「可愛いかわいい、俺のテジャン」
    長身を器用に折りたたみ、口元をカンニムの耳に近づける。それはヘウォンメクがカンニムと
    寝室を共にする時に決まって行われる儀式のようなもので、さながら魔女が眠り姫に呪いをかけるようであった
    『こんなことを言ったら、貴方はさも自分が被害者であるかのように顔を歪ませるんでしょうね』カンニムの閉じられた瞼が一瞬ぴくりと動いたが、目を覚ますことはなかった。
    「面白くないなぁ…‥‥貴方だけ俺の傍から離れる理由を見つけちゃうなんて……俺は貴方から離れる理由も、貴方を離す理由も探す気がないっていうのにさ」
    ヘウォンメクはそう言い終わると右手をカンニムの頬に添えた。そして、心とは裏腹に冷え切った自らの手にその温もりが伝わるまでの間、生前の記憶を取り戻す前の自分に思いを馳せた。





    最初はなんでも上から目線に命令するカンニム様の態度に、よく反発したものだった。何故素性も知らない赤の他人を信用し、剰えその命令を聞かなければならないのか。
    しかし、振り返ると全てが、そう……ソンジュ神でいう所の『逆さま』だった。カンニムは赤の他人ではなく兄であり、所謂自分が敬うべき存在であった。
    元来過去をくよくよと振り返らない質だが、前世の己に思うところがないわけではない。もっと兄と、カンニム様と話していたら? もっと今のように語り合っていたら? 結末は連綿と続く歴史の一部となって、静かに消えていくようなものになれたかもしれない。しかし、俺は柄になく考える。
    『結末を変えたら?この千年はどうなる?』
    この千年、カンニム様やドクチュンと過ごした歳月と比べて、口伝の過去がそんなに大切だろうかと。
    ドクチュンと顔を見合わせて「「この状況でなぜ千年前の話を」」と言った時、ドクチュンがカンニム様を許したからそう言ったのか、それとも彼女なりに何か別のことを考えていたのかは分からない。だが、少なくとも俺は、言葉通り千年も前の事など今更どうでもよかった。カンニム様を許したとか、許さないとかではない。
    ただ、あの人が過去の俺と築いた確執や後悔から自分が解放されるため、俺と築いた千年を急に上書きして、謝罪を叩きつけて、自分だけ楽になろうとしたことにムカついた。

    ——ドクチュンといえば、
    いつだったか二人で海に行ったことがあった。長いこと一緒にいると「いつ」というより、その出来事が「あったか無かったか」の方が大切になっていく。
    担当する亡者の過去で気になることがあるらしく、俺とドクチュン、カンニム様の三人で簡単な調査をするため下界に降りた時のことだ。調査もあらかた終わり、さてそろそろ冥界に戻るという時になって、ドクチュンが急に「海が見たい」と言ったのだ。テジャンは一瞬、多分俺しか気づかないレベルでムッとした。その後、顔をちょっとあげて俺を無表情で見つめる。
    『ははーん、お前がついていけってか……』
    あのきらきらとした笑顔を受け取って、なんであんな無表情が出力されるのか。カンニム様の回路ぶっ壊れてんじゃないだろうか。
    ドクチュンの両肩にぽんっと手をのせて、彼女の顔を覗き込む。
    「カンニム様はカナヅチみたいだから、海には行きたくないんだって~。ドクチュンは俺と行こうな」
    「あっ……そうだったんですね。知らなかったとはいえ、無神経なことを……カンニム様申し訳ありません」
    「じゃっ、適当に遊んだら帰るんで、ご心配なく」
    後ろの方で「誰がカナヅチだと……」というテジャンの声が聞こえたけど気のせいだ。

    砂浜で子供が遊んでいる。
    ドクチュンに「混ざっていかないのか?」と聞いたが「見ているだけでいい」というので、俺はドクチュンの横に座って「ぼーっ」と水平線を眺めた。暫くそうしていると、ふと砂の城を作っている二人の子供に目が留まった。
    子供の一人は自分の中に作りたい城というものがあるらしく、計画的に砂を積み上げている。その表情は真剣そのもので、まるで何かの職人のようだった。一方、その反対側で無計画に砂を積み上げているもう一人がいた。無造作に積み上げられた砂は歪で今にも崩れ落ちそうだったが、砂を運ぶその身体は生き生きとしていて、心の底から楽しいというふうだった。けれども、お互いが思い思いに砂を積み上げるもんだから、なかなかうまくいかないようだった。しまいには片方が「もういいや」と言いながら城を壊しはじめた。自分が作った部分だけを壊すならまだしも、相手が作ったところも壊しはじめて、「おいおい」と思わず呟く。案の定、壊された方の瞳が揺らいでわんわん泣き始めた。泣かれるとは思ってなかったのか「なんだよ! 自分で、もう一回作ればいいじゃないか!」と怒っている。なんでだろうか。俺は、目だけ海に溺れてしまった子供の気持ちがちょっと分かった気がした。次にくる言葉はきっと……。
    「『一緒に作った城が大切だったのに……一緒に作るのが楽しかったのに……』」


    子供が視界から消えて、また水平線を「ぼーっ」と見ながらドクチュンに聞く。
    「なあドクチュン、相談いい?」
    「はい、ヘウォンメク様。相談内容によっては全然役に立たないかもしれませんが、精一杯相談にのらせて頂きます!」
    ドクチュンの満面の笑顔に、おのずと口元がほころぶ。
    「例えばよ……」
    「はい」
    「例えば、一緒に砂の城を作ってるとするじゃん、で、一人は一生懸命作ったもんだから愛着があるわけよ」
    「はい」
    「でもさ、もう一方には愛着はなくて、壊れても新しいものを作ればいいとか思ってるわけ。それに壊す段階になって、元々壊すつもりだったとかぬかすんだよ」
    「はあ?」
    「で、俺の目の前でその砂の城を壊すの」
    「なるほど」
    「どう思う?」
    「どう……そうですね……お互いのコミュニケーション不足でしょうか。ヘウォンメク様は、愛着を感じてるから壊さないでほしいということを相手に伝えたんですか?」
    「うっ、いや、例えばの話で正確には俺じゃないんだがドクチュン……」
    「そうですか。じゃあ、仮にヘウォンメク様ならどうしたいんですか」
    「俺は……俺なら、相手が壊そうとしても壊させないようにしたい」
    「じゃあ、そのようにしたらいいんじゃないですか?」


    オレンジの灯がカンニムの顔を照らしている。頬に触れる誰とも知らぬ冷たい手に顔を寄せ、眉間の皺を僅かばかり浅くする。縋る相手が、悪夢の原因とも知らないで。
    ヘウォンメクはカンニムの頬を親指で軽く掠めると、ライトの電気を落とした。
    そしてカンニムの「はぁ?!」という叫び声を聞くまで、死んだように眠った。





    ピピッという機械音が聞こえ、部屋の扉が開く。
    「おかえり」
    「ああ」
    カンニムはコートをハンガーにかけながら、ぶっきらぼうに答えた。寝巻にさっと着替え、櫛で髪を整える、どうせ寝たらぼさぼさになるっていうのに、うちの上司はこういう時でもきちんとしたいらしい。そして「寝ないのか」と独り言のように呟いて、俺の前を横切り、くちゃくちゃになった布団に潜り込んだ。ヘウォンメクの鋭敏な嗅覚は、カンニムが纏う空気の中に何か別のものが入りこんでいるのを感じとった。
    『ははーん』
    内心の感嘆がカンニムに伝わったのか、「なんだその顔は」という声が飛んできた。俺は優しいから、ここで「よく見てますね」なんてことは言わない。
    「テジャン、寝れないんですか。俺が子守唄でも歌ってあげましょうか?」
    「いらん」
    「えー俺、なかなかの美声なのに」
    「頼んでもないのに歌うな……そういうのを騒音っていうんだぞ」
    「酷い…偶には俺に優しくしてくれてもいいのに」
    「お前の方こそ俺に優しくしろ……」
    普段のカンニムらしからぬ発言に、唇がにんまりと弧を描く。
    「テジャン、酒飲んだでしょ?」
    ヘウォンメクは白いバスローブの裾を、普段着ている灰色のコートのように翻し、カンニムの顔を正面に見下ろせる位置に腰を下ろした。二人分の体重にベッドが軋む音がする。
    「だからなんだ」
    布団の中から、いかにも不貞腐れたような声が聞こえる。カンニムは暫く小声でぼそぼそと呟いた後、「あーーーーー!熱い!」と言って、布団を乱暴に引っぺがした。その足蹴りをひょいっと受け流し、ヘウォンメクは何食わぬ顔で空調の温度を下げた。
    「水……」
    頬はうっすら紅色に染められ、水分を求める舌が渇ききった唇を弄んでいる。その舌に咬みついてやろうかと思うけど、今日の俺は至れり尽くせりモードだから「へいへい」と、いかにも軽薄な返事をして欲を押し殺す。冷蔵庫の中、きんきんに冷えた水を取り出して蓋をひねる。
    テジャンは気怠げに上体を起こし項垂れたまま、「よこせ」と左手を伸ばした。
    「たんま」
    俺は差し出されたその左手に己の手を重ねて、ベッドに押し戻すように力を加えた。緩やかだが劇的な状況の変化に、カンニムは目をぱちくりさせた。そんなテジャンをよそに、俺は水をぐいっとあおる。そして、薄っすら開いたテジャンの口元に指をねじ込み、渇いた唇を潤すように己の唇を重ねあわせた。
    「ふっ……んっ……」
    最初は拒絶の色を見せたテジャンだったが、段々と自ら口を開き俺の唇を求める。もう指も要らないかと思って、口から引き抜くと「んっ…」と甘い声を響かせた。
    「はぁ……テジャンってさあ、お酒飲むとほんっとゆるゆるになるよなぁ」
    「どのくちが…お前は酒が無くてもゆるゆる脳のくせに……勝手に接触するな」
    「あははは!そうかもね。俺いつもなーんにも考えてないから」
    カンニムは濡れた口元を乱暴に拭った。
    「よこせ。どうせ飲む気ないんだろ」
    「はいどうぞ」
    テジャンが訝しげに俺の顔を見つめる。
    「何?」
    「いや……なんでもない」
    カンニムは水を受け取ると、ヘウォンメクに背を向けるようにしてベッドに座った。
    綺麗に切り揃えられた襟足と緩く開いた襟首に自然と目が引き寄せられる。
    「そういや、テジャンの夢に出てきた俺ってどんな感じだった?」
    ぴくりと水を飲む手が止まった。ごうごうという空調の音が部屋に響く。
    「今と変わらない。可愛くないし、俺のことが嫌いだ」
    「えっ!俺テジャンのこと好きなのに」
    「うそつけ! じゃあ何で面白くないとかいうんだ……」
    「え?何?夢の中で一発芸でもしてたの」
    「もういい」
    「え~諦めないでよ~」
    ね~とテジャン両肩を掴んで揺する。
    「この馬鹿!こぼれるだろうが」
    「俺のどこが可愛くないの?こんな顔も良くて、忠実な部下他にいないよ」
    テジャンの腰に腕をぐるりとまわし、真っすぐ顔を見つめる。
    さてここで、俺が蓄積した『テジャンの酔い方 vol.1』によると、ステージ2で目を逸らして相手の顔を見なくなる。ビンゴ!見つめた先のテジャンは、全然目を合わせてくれない。
    ちなみにステージ1では身体が弛緩して、体温が上昇する。


    「えーじゃあ、テジャンの可愛いってなんですか?というか、普段の俺のどこを見て、俺がテジャンのこと嫌いだと思ったの?」
    口元をぎゅっと縮こまらせるテジャン。最高に可愛い。俺は貴方の可愛いとこいっぱい言えるのに、テジャンときたら……。
    「酔いがまわって声も出ないですか?」
    人差し指で柔らかい唇をつつく。
    「やめろ……」
    「結論でた?」
    「隣でお前が寝てると、俺はいつも悪夢を見る。それも決まってお前が出てくる最悪なやつだ」
    「へー」
    「だから、お前が何か俺に邪悪な気を送っているに違いないと……」
    「まさか~」
    当たりである……。
    夢って外部の影響にそんなに左右されるんだなと、呑気な事を考える。
    「夢って自分の深層心理が現れるって言うじゃないですか、むしろテジャンの方が俺のこと嫌いなんじゃないんですか……」
    自分で言ってて悲しくなった。
    「いや、俺はお前のこと好きだぞ」
    きた。ステージ3、物凄く感情に素直。
    「だから、尚更おかしいんだ…俺はお前のこと好きなのに、夢の中のお前は俺をいじめるばかりだ……」
    身振り手振りテジャンは早口に話す。
    「そっかー。じゃあ、俺が今慰めてあげようか」
    「いらん、どうせ夢で叩き落されるんだ……余計辛い」
    臆病者なのは夢でも現実でも変わらないな。
    俺は仕様もないこの上司を、自分の身体でぎゅっとくるんでベッドに沈めた。
    「現実で良い思いすると、いい夢が見られるかもしれないじゃないですか」
    「ほんとうか?」
    「ええ。俺テジャンのこと好きだから、悪い気が出るわけないじゃん」
    「そうだな」
    テジャンの髪に指を通して、優しく撫でつける。
    「はぁ…お前の手は冷たくて気持ちいいな」
    あーあーあーあー。
    聞こえない聞こえない。
    やめろよ、血流早めたら温かくなっちゃうだろ。
    「いい夢見れるといいね」
    「ああ……」
    暫くそうしていると腕の中で、すやすやという寝息が聞こえてきた。このまま抱きしめていたいが、寝起きに張り倒されるのは嫌なのでゆっくりと身体を離す。
    「ヘウォンメク」
    「はい!」
    音を立てないようにしていたのに、自分の返事が一番でかい音を立てている。テジャンの方を振り返ると、未だ夢の中、規則正しい寝息を立てて寝ている。『なんだ、寝言か……』と思った時だった。

    「ふふ、お前は優しいなぁ」というテジャンのふやけきった声が聞こえてきた。
    『はぁぁぁぁ』そう言いながら、髪の毛を気の済むまでこねくり回した。そして顔に当てた手の隙間から、ぐーすか呑気に寝ている人を見つめた。
    「テジャン……俺にとって貴方は最高に厄介な男だよ……ほんと酷い人だ」
    俺は空調のタイマーをセットし、自分の布団に潜り込み静かに目を閉じた。

    ——数時間後

    お互いに朝食をすませ、さて本日もお勤め頑張りますかという時、俺は色んな期待を込めてテジャンに質問をした。
    「カンニム様、昨日はよく眠れました?」
    「ああ。そのことだが、昨日は珍しく眠れた。不思議だ」
    「へー不思議ねぇ……。いい夢とか見たんです?」
    そう聞くと、テジャンは顎に手を当てて考えるような仕草をした。
    「笑うなよ」
    上目遣いに言われて、なんだかそわそわしてしまう。
    「え?内容によるけど……とりあえずどうぞ」
    「大きなふわふわの猫に抱きしめられている夢だ。可愛いやつでな、名前を聞いたら元気に教えてくれたんだが、その名前が思い出せない……くそ」

    「テジャン……それ愛の告白?」
    「はい?」  
    惜しい。なんで語尾を疑問形にするんだ……。
    俺は『そのふわふわの猫は俺だよ!』と言いたいのを必死にこらえた。ちなみに先ほどの失言が原因で、テジャンに5回ぐらいどつかれた。余りにも酷い。今度閻魔大王に上司が暴力ふるってきますって相談しよう。
    「告白?なんで俺の夢が愛の告白になるんだ……」
    「いや、だって、俺猫みたいじゃん!可愛いくて大きいし!ほら」
    言わないとか言ったけど、やっぱ無理だった。俺は下界で見た招き猫のポーズをする。
    「はぁ?飛躍しすぎだろ……あとお前が招くのは福じゃなくて、トラブルだろ」
    「酷いなぁ~テジャンはやっぱ俺のこと好きじゃないんですね」
    「好きとか嫌いとか面倒な奴だな」
    「いいじゃん、答えて下さいよ」
    「好きだが」
    「え?」
    驚愕。テジャンが素面で酔ってる。
    「え? どこが?」
    「分かりやすいとこは好んでいるつもりだ」
    俺が、分かりやすい? この人今なんて言った?何にも分かってないの間違いじゃなくて??
    「絶対嘘ですね」
    真顔でそう言ったら、またどつかれた。
    「俺が好きっていったら、あからさまに喜んだ顔するだろ。そういうとこだ」
    ぐうの音もでない。俺は地団駄を踏みながら叫ぶ。
    「予言しますよ!絶対次は悪夢見ますから!絶対!」
    「ほう、望むところだ」
    勝気な顔で煽るテジャンに、俺は密かに決意を固める。

    『色んな意味でこの人に悪夢を見せてやろうと……』
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