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    雨月のぽいぴく

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    雨月のぽいぴく

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    Underfellお誕生日おめでとう!
    特別な日のほんの短いひとときの話。
    ※モブ少女視点

    迷子ふたり、ベンチにて あーあ。本当に、本当にツイてない。
     疲れきった足を投げ出して、私はとうとうベンチに座り込んだ。重たくて仕方なかったキラキラのパンプスを、思い切ってえいっと脱ぎ捨てる。今日下ろしてもらった時はとっても素敵に見えたこの靴に、こんなに足を痛めつけられるだなんて思わなかった。靴下をめくると、自慢の白い肌にはくっきりと赤い痕が残ってしまっている。もう、本当にうんざり。
     重たい身体をベンチに預け、脱いだパンプスのストラップに足指を掛けてぶらぶらさせる。こんな姿、ママが見たら「お行儀が悪い!」ってカンカンに怒るんだろうな。でも肝心のママはどこにも見当たらない。
     街はどこもかしこもハロウィーンの準備で大賑わい。見渡す限りの人、人、人、あと時々モンスター。これだけ人がたくさんいるのに、わたしのママとパパだけが見つからない。ちょっとだけ、そうほーんのちょっとだけ、さっき通った店先の可愛らしいジャックオーランタンに目を奪われている間に、すぐそこにいたはずの二人の姿を見失ってしまった。今日はせっかくの誕生日なのに。どこに行っちゃったのよ。ママもパパも。
    「どうした、迷子かい? お嬢ちゃん」
     うつむいた私の視界の先で、赤いスニーカーが立ち止まった。知らない人だ。見知らぬ女の子に急に話しかけて迷子呼ばわりなんて、失礼な人。私はぷいと顔を背けた。迷子なのはママとパパの方よ。あのとき私は動いてなんていなかったんだもの。
    「迷子じゃないし、それにお嬢ちゃんでもないわ。私今日で八歳になるの。もう立派なレディよ」
    「これは失礼、レディ。ところでお前さんも誕生日なのか。道理でめかしこんでるわけだ」
     彼の言う「メカシコンデル」の意味が分からず首を傾げていると、「素敵なドレスってことさ」と教えてくれた。そう言われるのは悪い気分じゃないわ。彼が「隣いいかい?」と訊くので、「どうぞ」と体をずらして席を空けてあげる。どっかりと隣に腰を下ろした彼の顔を、やっとまじまじと見上げる。そこにいたのは人間ではなかった。私なんかよりずっと白い肌。ぎらりと光る剥き出しの金歯。スプーンでくり抜いたような黒い目と、そこに光る赤い瞳。さっき店先に並んでいたスケルトンの人形によく似ているその姿に、思わずびくっと肩が跳ねた。
    「あなたも誕生日なのね。おめでとう。でもあなたのはドレスというより……仮装? ハロウィーンにはまだ少し早くないかしら」
    「ありがとう。でもお生憎様、これが普段着なんだ。ハロウィーンを地でいけるってのは得だが、小さいレディに怖がられるのはちょっと損かもな」
    「こ、怖がってなんかないわ。モンスターなんて、私怖くないもの」
     そう言いながらも、体はつい彼との距離をあけてしまう。まさか本物のスケルトンだなんて。強張った笑みを浮かべる私を見ても、彼はそんなの慣れっこみたいにあっけらかんとしていた。
    「それで、せっかくの誕生日だってのになんたってひとりで途方に暮れてるんだ?」
    「さっきまではひとりじゃなかったのよ。ママとパパとディナーに行く予定だったのに、ちょっと目を離した隙に二人ともいなくなっちゃって……」
    「成程、迷子なのはママとパパの方ってことか。実はオレもおんなじようなもんなんだ。置いてけぼり同士、仲良くしよう」
     差し出された手を、こわごわ握ってみる。グローブの中にあったのは確かに骨の感触だけど、それはしっかりと温かい、生きているものの手だった。ふっと私の緊張がほぐれたのを見てとると、彼は少し満足気に片眉を上げた。あ、眉は無かったけど。
    「あなたもママとはぐれちゃったの?」
    「オレがはぐれたのはママじゃない。や、時々ママみたいなときもあるが……。可愛い弟だよ」
    「弟⁉ だめじゃない、早く見つけてあげないと」
     慌てて立ち上がった私を、彼は軽く手を上げて制した。
    「あー、いやいや大丈夫。よくあることだし。それにアイツの方がデカいからな。探される側はオレの方がいいんだ。適材適所ってやつ?」
     弟の方が大きい? そういえば友達のジェシカは弟の方が背が高いんだって言っていたっけ。そういうこともあるのかもしれない。それに、想像していたほど幼い弟じゃないみたいね。ほっと安心して、またベンチに座り直す。
    「レディは優しいんだな」
    「うん。だって私、春にはお姉さんになるんだもの。弟が生まれるの……あ、」
     そう話しながら通りの向こうを見上げたとき、こちらに駆けてくる人影に気が付いた。姿が見えるよりも先に、その声が聞こえた。私の名前を呼んでいる。
    「ママ!」
     ママったら、お腹が大きいのに走ったりなんかして駄目じゃない。それに私を置いて行っちゃうなんて。ひどいわ。そう言いたいはずなのに、どうしてか目から涙が溢れて止まらない。私は迷子じゃないのに。迷子になったのはママなのに。こんなにほっとするのはどうしてだろう。
     ――もしかして私、心細かった? 
     私の心細さを見抜いて、ずっと隣にいてくれた彼に視線を送る。彼はニッと金歯を見せて笑うと、ママのいる通りを指差した。
    「ほら、早くママのところへ行ってやんな。転んだりしたら大変だ。ご両親と、弟によろしく」
    「うん……うん、ありがとう、スケルトンのお兄さん。あなたも早く弟さんと会えますように」
     胸の上で十字を切り、踵を返してママの方へ駆け寄る。
     人混みをかき分けていると、途中で赤いスカーフを巻いた細身のスケルトンとすれ違った。きっとあの彼の弟だ。直感的にそう思った。顔はぜんぜん似てないけど、纏う雰囲気がおんなじだ。
    「ねぇ! お兄さんならあっちよ! あの街灯の下のベンチに座ってるから、早く迎えに行ってあげて。彼も、たぶんとっても寂しがってるわ」
     そう、さっきの私と同じように。
     細身のスケルトンは不思議そうにしていたが、街灯の方へ視線を向けたとたんに声を上げて駆け出した。ほらね、やっぱりそうだった。遠目に見える彼は駆け寄って来る弟さんを見つけると、ぱっと笑みを浮かべた。やっぱりどこか安心したような表情だ。そして遠くから見ている私に気が付いて、照れくさそうな顔で親指を上げた。
     良い誕生日を。私も手を高く掲げ、親指を上げて笑ってみせた。
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    雨月のぽいぴく

    DONEUnderfellお誕生日おめでとう!
    特別な日のほんの短いひとときの話。
    ※モブ少女視点
    迷子ふたり、ベンチにて あーあ。本当に、本当にツイてない。
     疲れきった足を投げ出して、私はとうとうベンチに座り込んだ。重たくて仕方なかったキラキラのパンプスを、思い切ってえいっと脱ぎ捨てる。今日下ろしてもらった時はとっても素敵に見えたこの靴に、こんなに足を痛めつけられるだなんて思わなかった。靴下をめくると、自慢の白い肌にはくっきりと赤い痕が残ってしまっている。もう、本当にうんざり。
     重たい身体をベンチに預け、脱いだパンプスのストラップに足指を掛けてぶらぶらさせる。こんな姿、ママが見たら「お行儀が悪い!」ってカンカンに怒るんだろうな。でも肝心のママはどこにも見当たらない。
     街はどこもかしこもハロウィーンの準備で大賑わい。見渡す限りの人、人、人、あと時々モンスター。これだけ人がたくさんいるのに、わたしのママとパパだけが見つからない。ちょっとだけ、そうほーんのちょっとだけ、さっき通った店先の可愛らしいジャックオーランタンに目を奪われている間に、すぐそこにいたはずの二人の姿を見失ってしまった。今日はせっかくの誕生日なのに。どこに行っちゃったのよ。ママもパパも。
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