シリウム・ボーイ 最近額のLEDを三原色にビッカビカ光らせるもんだから、おいおいハロウィンにはまだ遠いんだケドと思いながら、修理に出せばと言えば必要ないと言われる。
「自己診断を行いましたが、プログラムに異常はないようです」
「いやいやどう見てもあるでしょ。そのジコシンダン自体がイカレちゃってんじゃないの」
「その心配には及びません。私の機体には強力なファイアウォールがダウンロードされていますので、万が一外部からの攻撃を受けても余程のことがない限り影響はないでしょう。最も、私に内蔵されたメモリーが原因であれば話は別ですが、変異体でない限り可能性はゼロに等しいです」
「ふうん・・・」
なんだか小難しい話をしだした為右から左に流しつつ忙しなく切り替わるライトを指で塞いだ。夜勤明けの掠れた目にはこの僅かな刺激さえ煩わしいのだ。
「なんでもいいからさ、一回サイバーライフに行ってきなよ。予期せぬエラーとかだったらヤバイしさ」
「ええ・・・そうします」
「うおっ!大丈夫かこれ!急に激しくなったけど、今すぐ行った方がいいんでないの?」
「ええ、ですから、そうします」
「最初からそうしとけよ。全くお前は俺の言うことなんも聞いちゃくれないんだから」
塞いだ指すら貫通して光り出すそれから手を除けると、今度は赤色のままグルグルするものだからこれはいよいよマズイ状況なのかもしれない。
「おい、タワーまで送ってってやるからさ、はやくそのバグ直しなよ」
「心配には及びません」
「明らかにおかしい奴が何言ってんだ。ほら、駐車場まで来れるか?なんなら、抱っこして運んでやろうか」
「それはジョークですか」
こっちは心配してやってるのに聞く耳持たない態度に俺もムッとして、思春期のクソガキみたいにシケたツラを鷲づかんでやった。逃れようとイヤイヤ首を振ってもがき出すが知ったこっちゃない。反抗期だかイヤイヤ期だか知らないが、ダディに逆らったら痛い目みるっていうのを分からせてやる必要がある。
「いい加減にしろよ!お前が変だとこっちも迷惑なんだよ!文句があんならとっととその浮かれたライトを直してから言いなこのシリウム・ボーイ!」
「私は30代前半を想定された成人男性型モデルです」
「見た目だけだろ!」
「前も言いましたが、僕は生まれた時から必要な知識をインプットされている。アンドロイドとはそういう生き物。製造日を年齢と結びつけるのは間違っています」
「要は知識だけいっちょ前に蓄えたガキだろ!駄々こねやがって!」
「こねてません」
「いーやこねてるね!思春期のガキかってんだ!」
「こねてません」
「そういうとこだってんだよ!」
坊やはしゅんと眉を下げた。こっちは慣れない怒声に息も絶え絶えなのに、こいつは呼吸ひとつも乱していない。そもそもアンドロイドって息するのか?
「私の不具合があなたの業務に支障をきたしているのは分かっています。それに関しては申し訳なく思っているんですよ。しかし、本当に異常はないんです・・・」
俺はため息をついた。LEDは忙しなく回り続けている。
「わかったよ。そんなに嫌なら行かなくていい」
「ありがとうございます」
「お前にも事情があるんだろうしな。俺も無理に詮索して悪かったよ。ま、なんかあったら頼ってくれよな」
和解の印に奴の肩を2度軽く叩くと、途端に赤く染まるLEDに俺は片眉を上げた。そのままもう一度肩に手を置く。
離す。
置く。
離す。
置く。
頬に手を当てる。
熱い。
「お前、この間機体の温度設定下げろって言ったよな。これも故障か?」
「ええ、時々シリウムポンプの稼働に乱れが生じてしまい上手く調節できないんです。人間で言う不整脈でしょうか」
「どんな時に?」
「強いていうなら、あなたが原因かと。あなたに関連するメモリーを再現している時などは顕著に現れます」
「それは今も?」
「ええ、あなたに触れている箇所が異常に熱を持ち出して制御できません」
「・・・」
「どうされました?」
このファッキンプラスチック!
やっぱガキじゃねえか!