be with youここ最近日和は体調が良くなかった。日和自身なぜ体調が良くないのかは想像がついていた。ストレス……。あの巴日和がストレスに悩まされているなんて…ストレスとは無縁そうな振る舞いをしているのにと思われる人も多いだろうが現在進行形で悩まされているのが事実だ。
そしてそのストレスの原因はジュンにある。ここのところジュンの人気は目覚しく映画やドラマバラエティに引っ張りだこでEveやEdenでの仕事より個人での仕事の方が増えていた。一方日和はというと一時よりも個人での仕事は減っており人気が落ち着いてきている所があった。世間でのジュンの爆発的な人気のおかげでジュンと会える機会も減り日和は不安を覚えた。このままジュンが1人で仕事する機会が多くなって逆に自分が捨てられるのでは無いのかと……。あの完璧な巴日和が相方に捨てられる?そんなことがあってはならない。そうならないよう日和は必死に1人の仕事を詰め込んだ。その変なプライドのせいで体が悲鳴をあげ体調不良という最悪の結果を引き起こしているということは日和は百も承知だったが彼よりも上の立場で居続けるためにはこうせざるを得なかった。
ここ数日、日和は自身の体にムチを打って仕事場に行き続けていた。その無理がたたってか現在はめまいと吐き気と戦っている。少し容態が落ち着いたところで重たい体を引きずってバラエティ番組の収録現場に向かおうとタクシーを捕まえ乗り込んだ。
こんな状態の日和をつき動かす理由はただひとつ唯一の相方であるジュンに幻滅されたくない…。そして彼の頼れる先輩でずっと居続けたいその一心で仕事をし続けていた……。
だから今日も無理をして収録現場へ行き、スタッフに丁寧に挨拶をすると楽屋へ入る。誰も見ていない1人の楽屋で机に伏せて寝始めスタッフが呼びに来るといつもの調子で返事をしスタジオ入りした。今日の番組はゲスト枠としての出演で自分に話題が振られるまで司会者のやり取りを眺めていると突然視界がぐらりと揺れそのまま日和は意識を失った。遠くで出演者たちが叫ぶ声が聞こえたような気がした。
ジュンが茨から電話をもらったのは午前10時。内容はバラエティ番組収録中日和が突然倒れたとの連絡だった。その日ジュンは雑誌のインタビューの仕事だけだったので終わると急いで日和が搬送された病院へ向かう。病室へ着くと落ち着いた顔をして眠る日和の姿があった。その姿に安堵し日和のベッドのそばにある椅子に座る。日和の手をそっとジュンが握ると日和が目を覚ました。
「ジュンくん?あっ!!収録は!?」
「まったく第一声がそれですか?収録は順調に終わったそうですよぉ…おひいさんが出る予定だったところはアナウンスを入れて休む旨を伝えるそうです」
「そ、そう………。仕事に穴空けちゃったね……」
「仕方ないっすよぉ…体調不良なんですから…今日はゆっくり休んでまた元気になったら復帰しましょう?」
「ダメだね!!こんなんじゃ!!このままじゃ…ジュンくんに……」
「オレ?オレがどうかしました?」
ジュンに問いかけられ日和はハッとした。ジュンにだけは知られたくない。ジュンに追い越されないよう必死になっている自分なんて美しくない。そう思って取り繕うとすればするほど言葉が浮かばず俯いて黙ってしまう…。
「おひいさん?なんか今日変ですよぉ?何かありました?」
「な、何も無いね…」
「何も無いわけないでしょう?ずっと隣であんたを見てきたんです。いつもと様子が違うことくらい見れば分かります。それともオレじゃ力不足ですか?」
「そ、そんなんじゃ……」
「まぁ、あんたからすればオレはいつまで経ってもひよっこのままなんでしょうけど……」
そんなことないと否定したいが否定をしてしまえば自分がジュンの成長に焦っているとバレてしまう…。それも避けたい。どう言葉を紡ごうかとぐるぐる思考を巡らせているとジュンが口を開いた。
「あんたオレにはいつも相談とかしてくれねぇから…オレのことはいつだって目をかけて導いてくれるくせに…」
そういうとジュンは寂しそうな顔を見せる。違うそんな顔をさせたいんじゃない。日和はまた思考を巡らす。ぐるぐると考えても考えても答えが見つからなくて次第に涙が零れた。
「おひいさん…やっぱり何か辛いことでもあったんですか?」
あぁ、もう言い逃れできない。そう悟った日和はジュンに伝える決心をした。
「あのねジュンくん…」
「はい…」
「ぼく不安なの…ジュンくんがぼくを捨てて居なくなっちゃうんじゃないかって……最近のジュンくんの人気はすごいね…。ぼくと一緒に居なくても十分にやっていけるレベルだね…。だからこのままEveやEdenを抜けて1人で仕事するようになっていっちゃうんじゃなかって……」
ジュンは驚いた。まさか日和がそんなことを考えていたなんて思ってもみなかったからだ。いつも自信満々でちょっとうざいくらいのあの日和が自分のことでこんなにも不安になっていたなんて……。
「おひいさん…オレはEveもEdenも抜ける気は無いです。それにおひいさんを捨てる気もありません。おひいさんはあの玲明の薄汚れた路地裏で燻っていたオレを見つけてくれた。だからおひいさんには感謝してますし、ずっと隣で歌っていたいって思ってます。あのおひいさん……」
「なぁに?ジュンくん…」
「オレのアイドル人生あんたに全部あげるんでおひいさんのアイドル人生オレにくれませんか?」
日和は驚いて声にならなかった。いくら自分が手塩にかけてここまで育ててきたからといってまさかそんな相方にプロポーズじみたことを言われると思っていなかったからだ…。
「っ……プロポーズみたいだね」
「半分そのつもりですよぉ…オレあんたのこと離す気ないんで…アイドル人生だけじゃなくてプライベートの巴日和もオレにくれてもいいんすよぉ?」
「まったく…君は贅沢だね」
まさかプライベートの巴日和までご所望とはつくづく贅沢な子だなと日和は思っていた。だがそんな彼を好ましく思っている日和は答えなんて初めから決まっている。
「ジュンくん…ぼくの全部を君にあげるね。だからもう寂しくさせないで……」
「はい…これからはもう少しおひいさんとの時間取れるようにしますねぇ…」
「うんうんそうしてほしいね!ジュンくんのくせに生意気だよね!!」
「ははっ…いつもの調子戻ってきましたねぇ」
「ジュンくんとお話して少し元気出たね。ねぇジュンくん…これからもずっとぼくのそばに居て一緒にステージに立って一緒に歌って??あの客席のペンライトの海をこれからもずっと隣で眺めたいね」
「はい、そのつもりです。あんたの隣はオレだけですしあんたの隣もオレだけのものです…」
「嬉しいね…今なんだか最高に幸せな気分……。」
「それはよかった。なにかあればオレを頼ってください。あんた1人で何とかしようとする癖があるし…心配なんすよぉ」
「そうだね…これからはもっとジュンくんのこと頼るようにするね。あぁ、あの日薄汚れていた動物がこんなに頼もしく成長するなんてね。なんだか感慨深いね」
「これからもっと成長するんで見ていてください…」
「成長しすぎてあんまり遠くへ行かないでね…まぁこのぼくを越すなんて無理だと思うけどね!!」
「ははっ…それでもオレはいいですよぉ…あんたの隣で最高の景色が見れれば…」
「うん…そうだね。ずっとあの最高の景色を2人で眺めていようね…」
日和はジュンに優しく微笑みかけるとジュンもそれにつられてはにかんだ。
END