「ギモーヴっていうんだってさ、それ」
僕が手渡したそれを興味深そうに眺めていた綾波は、ギモーヴ、と繰り返す。
かわいらしいラッピングが施された小ぶりな円筒状のクリアケースには、白と、淡い桜色、そして空色のお菓子が詰まっている。クラスの女子が、旅行のお土産だと言い配っていた物だった。甘い物はそれほど好きではないが、色合いが少し綾波っぽいなと思い、受け取った。それで先ほど、こういうの、好き?と彼女に手渡してみたのだが、どんなお菓子なのか知らなかったらしい。――まあ僕も、つい先ほどスマホで検索するまでは知らなかったのだが。
「あれ、もしかして甘いのあんまり好きじゃない?」
「ううん。けど、食べたことないから。ギモーヴ」
「マシュマロみたいな感じなんだって。もし食べてみて嫌いじゃなかったら、それあげるよ」
僕が促すと、綾波はクリアケースに巻かれたリボンを解き、蓋を開けた。中から白い色のギモーヴを取り出すと、感触が面白かったのか指で軽く押しつぶしてみせる。柔くたわんだそれは、力を抜けばふわりと元の形を取り戻した。マシュマロよりも、しっとりと吸い付くような動きだった。
綾波は手元のそれを、少しだけ弄んだ後口に入れる。何度か租借を繰り返して飲み込むと、「おいしかった」と微笑んだ。気に入ってくれたみたいだ。
「良かった。実はそれ、ちょっと綾波みたいだなって思ってたんだ」
僕は、初めてそれを目にした時から抱いていた感想を口にする。しかし、綾波の反応は無かった。
しまった、少しキザだっただろうか?
放課後の空き教室を沈黙が支配する。思わず視線を落としたが、空気に耐えられなくなり恐る恐る顔を上げると、ほおを紅潮させた綾波が固まっていた。
「何を、いうのよ……」
思っていたよりも過剰な反応に狼狽する。
そして5秒後、その理由を察して、僕は「誤解だ」と叫んだ。