その手紙の主は 見知らぬ誰かへ。
週に一回、月曜日だけにある音楽の授業の日。一番窓際の席に腰掛けて、机にひっそりと鉛筆で手紙を書く。
それに対して、今まで一度も返事は来なかった。
だが、ある日不意にその手紙に返事が書かれてたんだ!
『今日は晴れ!見知らぬ誰かさんの天気はどうだった?』
『雨だ』
たったの二文字、でも返事が来たのだ。
「し、シルバー……返事が来た‼︎」
「良かったな、カリム」
シルバーがオレを見つめ、オーロラシルバーの瞳を柔らかく歪ませる。そして祝福するように、温かな日差しがキラキラと窓から入り込んだ。
それからは、毎週返事が書かれてあった。
『好きなものはなんだ?オレはココナッツジュース!』
『カレー』
「へ〜、この人もカレーが好きなんだな。ジャミルと一緒だ!うーん、次は何を聞いてみようかな」
たわいもないことを書いて、それに素っ気なく返事があって。そうしていつのまにか一月が経っていた。
嬉しくて月曜日が待ち遠しい。顔も名前も分からないけど、友達になったみたいだ。
そんなだから、日曜の夜に歌って踊りながら、明日は何を書こうかなと思惑する。
部活……は、話したくないかなぁ?じゃあ好きなスポーツとか!うんそうしよう!
決まりだ!とくるくるその場で三回転してフィニッシュすると、談話室で片付けをしていたジャミルが後ろから近づいてきた気配がする。
笑顔で振り返るとジャミルは顰めっ面をしていた。
「カリム、なんで上機嫌なんだ」
「へへ、分かるか?明日音楽の授業が楽しみなんだ!」
「まったく、面倒は起こすなよ」
「分かってるって!」
そんな話をジャミルとしてさ、次の日に好きなスポーツ……と書こうとしたんだ。
でも、不意に悩み事を思い出してさ、それを書いたんだ。
オレたちのことを知らない、見知らぬ誰かになら相談しやすいからと。
シルバーに見られるのもなんだか恥ずかしくて、いつもより筆圧を弱くし、薄らとした字を机に並べた。
『実は好きな人がいるんだ。告白するならどんな風したら良いと思う?』
その悩みを書いてから数日経った。
来週の授業まではあとまだ4日もある。なんと返事が書いてあるだろうか、オレはそんなことを考えながらベッドの上で転がってたんだ。
すると突然ノック音が響いた。
はーいって答えてさ、扉を開けたらその先にいたのはオレの好きな人。
でも何故だか怒りの表情を浮かべていた。今日はオレ、何も壊してないし、小テストも満点だったのに。どうしたんだ?って聞こうと思って口を開こうとした。
すると手を強く引かれた。そしてその端正な顔が近付いて、
♢♢♢
『見知らぬ誰かへ、どうしよう、好きな人にキスされちまった!どうしたら良いんだ!?』
『普段のように馬鹿みたいに笑って、いっぱいそいつに好きだと言えばいいだろ。この鈍感野郎』
本日は水曜日。天気は雲ひとつない快晴。
最近の俺の趣味は、音楽室の机に書かれたメッセージに返信を書くことだ。しかも普段と筆跡を変えて。
さて、月曜日はあいつの好きなものばかり用意してやるか。
それから絨毯に乗ってオアシスに行こう。
前とは違う、普段の筆跡で俺は返事を書く。
「おや、先週は鬼のような形相だったのに、今日は上機嫌ですね」
「はあ、気のせいだろ」
隣で何やらタコが喚いているが、俺はそれを無視して窓を見る。
いやはや、俺以外のやつを好きだなんて有り得ないだろうとカッとなり、無理矢理キスを奪ってしまったが、やはりあいつが好きなのは俺だった。
そう、最終的に丸く収まれば良い訳だ。
月曜日まであと4日。それまでは俺を見て、恥ずかしげに眼を逸らし、頬を赤く染める主人の姿を楽しもうじゃないか。
そして、カリムが俺に想いを告げたらどこまで手を出そうか。
そう考えていると授業開始のチャイムがなった。きっと、本日の歌の授業は拍手喝采を浴びるだろう。なぜなら、こんなに気分が良いのだから。
そして、スカラビア寮長の首筋に赤いマークが付いてると噂になるまで、あと5日。