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    凛潔/襲い受潔

    Good Samaritan law ギラギラと血走った目が凛の視界を覆う。
     普段は比較的知性を保っている青藍せいらんに滲む情欲は隠し切れず、触れれば全てを飲み込みそうなほどの濁りすら帯びていた。
     腕の中に居る潔の状態をどこか冷静に分析しながらその眼差しを受け止めていた凛は、もはや全体重でも預けるくらいの勢いで圧し掛かってくるのを両足に力を込めて抱きしめたまま、どうしたものかと悩んでいた。
     本気で抵抗すれば体格差やパワーの違いで多少の苦労はあれど、潔を確実に引き剥がす事は出来る。しかし、それを実行に移さないのは凛の中で潔が占める比重が大きいからだ。
     けして拒否したいワケでは無い。こうなる理由も知っているし、慣れてもいる。ただ場所がマズいというだけで。
     二人分の体重を受け止めている凛の背中で軽く押されたロッカーの扉がギィ、と非難の声を上げる。
     公共の場であるロッカールームかつ、この後にいつ誰が来るかも分からないような場所。今の凛はこんな所で潔を抱くほどに思考を鈍らせてはいなかった。
     「……おい、……潔……」
     でも凛の発した声は、全て形を成す前に寄ってきた潔の唇で無遠慮に塞がれて音にもならない。
     ついでとばかりに無理矢理入り込んでくる舌先の熱さが、凛の歯茎をねぶっていった。

     流石に自分から服を脱ぎだすまではいかないが、ずりずりと身をくねらせボディースーツを着用した腿に同じくボディースーツを着ているせいでハッキリと首をもたげている自身の急所を容赦なく当ててくる潔に、凛の血管もつられて拡張していく。
     脳の血流が良くなって聞こえる耳鳴りを打ち消すように過去の出来事を思い返しながら、せめてもの抵抗で歯を食い縛った凛の脳裏に思いつく限りの暴言が浮かんだ。──くそバカ潔! マジで死ね!
     しかし、閉じた歯の内側でお得意の罵詈雑言は肺の奥へと引っ込んでいく。
     そのうえ凛の葛藤などお構い無しで、開かれない歯に不満をぶつけるように、潔は凛の薄い口にちゅうちゅうと吸い付いてきていた。
     正直、こんな場所でなければとっくに望み通りにしてやっていただろう。
     けれど凛の前に立つ男は、それこそ二重人格を疑いたくなるくらいに、全部が終わった後で凛に文句を言うのが目に見えていた。というのも過去に実行済みだったからだ。
     出来るだけ死角になるようにロッカールームの片隅で、凛にしては前戯も適当過ぎて心配になるくらいの性急さで求めてきた潔を先に発散させてやったというのに『こんなんじゃ全然物足りねぇ』とのたまったのはそこまで昔の話では無い。
     チームメンバー同士で練習後に乳繰り合っているのがバレないか、常に周囲に意識を散らしながら腰を振っていた凛にしてみれば、まさしくどの口が言うんだと呆れかえる発言だった。

     限界寸前まで追いつめられたアスリートが練習や試合の興奮にその後も引っ張られてしまう事はままある。
     フィールド全てを掌握し、ぐちゃぐちゃに出来る未来を常に演算していると、どうしてもそっち側に意識を持っていかれるのだ。
     だから腹の奥底に溜まったどうしようもないくらいの熱源を放出したくなるのも分かる。勿論、凛にもその経験は数多くあって、だからこそ最初に潔に手を出したのは凛の方からだった。
     男しかいない"青い監獄ブルーロック"という場所で、執着を煽り立てる上に纏わりついて来る潔は、凛にとっては都合の良い存在だと思えたから。
     けれどその内に潔が自分以外の人間とこういう事をする未来を想像するだけで吐き気がした。ついでに自分も潔以外を抱く未来などもはや見えなくなっていた。
     うまい具合に体の相性が噛み合っただけ──というには苦しすぎる重く暗い感情から目を背けながら、凛は自分だけが潔の身体を好き勝手に出来る権利を大切に抱え込んだままでいたのだ。
     こうしておけば、少なくとも潔にとって己は手放しにくい存在で居られるだろうと。
     そんな歪んだ日常の中、凛の唯一の誤算は、凛が潔を求めるように、潔が凛を求める回数が多い事だった。
     しかも普段は凛の暴走を宥めすかして、子供扱いをしてくる潔のスイッチが入ってしまうと、凛でも手がつけられないくらいに自制が利かなくなる。
     潔のスイッチが入る基準はまちまちだったが、とても良いプレイをした後や、恐らく超越視界メタ・ビジョンを使い過ぎると脳に負荷がかかりすぎて本能が理性を上回るのだろうと凛は予想していた。

     盛りのついた犬を連想させる熱烈なキスを受け止めながら、未だに遠慮も何もない舌を緩く噛んでやる。
     本当はこのまま狭っこい潔の口腔を自分の舌でめちゃくちゃにしてやりたくて堪らなかったが、そこまでいけば理性の手綱を手放しかねないと察した凛のささやかな抵抗だった。
     しかし、負けじと舌をねじこんでくる潔の唾液が流れ込んで、潔が飲んでいたスポーツドリンクの甘酸っぱさが互いの味蕾を行き来する。
     「……凛っ……」
     ちゅぱ、と離れた拍子にどろりと欲に溶けた目が、凛を見上げた。
     めちゃくちゃに突き入れた時とは違い、鋭さをまだ失っていないその瞳はあまりにも鮮烈で、凛のそこまで長くは無い導火線を確実に焦がしていく。
     ムラついていいのかキレていいのかも分からなくなった凛は、どうにか顔を少し上向けると降り注ぐキスからうまく逃げ出す事に成功した。
     けれど湿った吐息が顎にかかって、べたついたそこが余計に熱くなっていく。
     不満げな顔をした潔は追い縋るように襟元を掴んでいない方の手で、凛の頭を下げさせようと指を滑らかな髪に絡ませ、ぐしゃりとそこを握り込んでくる。
     襟首を掴む指先は然程さほど強い力では無かったが、下から捻りあげるようにされているのは不愉快だ。
     いい加減にしろという気持ちを込めて、凛は縋りついてくる潔の背中を引っ張るが気にも留めていないようだった。
     「テメェ、ふざけんな、バカ」
     「……うっせぇなぁ……」
     「……?」
     端から見たら一触即発のような状況にも見える体勢のまま、襟元から手を離した潔の指先が凛の顎を掴んで引き寄せる。

     真っ向から向き合う二対の双眼は甘ったるさなど微塵も無く、相手を目線だけで仕留めかねないくらいの鋭さを宿していた。
     「いいから早くヤラせろっつってんだよ」
     吐き捨てるような潔の言葉に、凛の理性はあっという間に焦げ付いて、黒い痕跡だけを残す。
     女性相手なら暴言にしかならないセリフも、凛にしてみれば何よりも良く効く誘い文句なのを潔はよくよく理解していた。
     掴んだままの背中を思い切り引っ張り、体勢を反転させる。
     先ほどより大きな音を立てたロッカーに体を押し付けられた潔は、それでも大きな瞳を反らさずに凛の情欲を煽る。ぎらついた熱が伝播して、同じく凛の目にも獣じみた光が宿っていく。
     そのまま背中を掴んでいた指先で丸っこい頭を鷲掴むと、首を反らせる勢いで潔の顔をあげさせた。
     浮き上がった喉仏に顔を寄せて犬歯を立てる。ボディースーツと肌の隙間を辿るように舌先を這わせると期待に満ちた淡い声が潔の唇から漏れ出た。
     「……、は……」
     汗のせいで塩っ辛さのある張りのある肌。強く掴めば手の痕が残るものの、しっかりと筋肉のついた肉体をしている潔の身体で凛が触れた箇所の方が少ない。
     髪を掴んでいる指先の力を若干緩めた凛の動きに反射するように顔を正面に戻した潔の瞳がほんの僅か蕩ける。──結局、全部コイツの思惑通りになってしまった。
     脳裏に過ぎったそんな愚痴も、潔を視界に入れた途端に殺意めいた気持ちの方が強まっていく。
     凛の衝動すら全て見透かして両手を伸ばし、頬を包むように掌で触れた潔の体温は、やはり茹だる程に熱を帯びていた。
     「抱き潰す」
     「やってみろ」
     カラカラに渇いた喉が発した音は掠れているものの、何が起きても絶対に達成させ得る強い芯を持っている。
     そんな凛を待ち侘びていたかのようにフィールドで見せるような不敵な笑みを浮かべた潔の呼吸を、今度こそ凛は根こそぎ奪い去っていった。
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