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    凛潔/2024 凛ちゃん誕生日

    色欲うさぎと暴君 「さて、と」
     冷蔵庫に入っている料理たちをぐるりと見回す。保管状況に問題が無い事をチェックしてから扉を閉めた。
     ひんやりとした空気を頬に受けながら一人呟いた言葉に特に意味は無い。
     しいて言うならば、自分への発破はっぱ? ──どちらにしても今日の俺はもてなす側なので、気合は十分だ。
     それなりに広いシステムキッチンでくるりと体を反転させ、リビングを抜けて寝室へと向かう。
     今日は一年の中でもかなり特別な日。そんでもって主役はどうせ起きているのに、律儀にも寝たフリをしているのだろうから、起こしにいかねばならない。
     自然と早足になっているのか、パタパタとスリッパの音を軽快に響かせてしまう辺り、俺も結構この日を楽しみにしてはいたのだけれど。

     寝室に入れば、ベッドの上で白い布団が山脈を形作っていた。隣で眠っているとあまり気が付かないが、こうして見ると巨大なクマが冬眠でもしているように見える。
     "青い監獄ブルーロック"の時でさえ180センチを優に超えていたというのに、今ではさらに伸びて190を超えた凛に羨ましさを感じたのはもう数えきれないくらいだ。
     ただ、今じゃその大きな体にすっぽりと抱きかかえられるのが一番安心するのだから、よくぞここまで大きく育ったなぁと思う。
     「りーん」
     薄く電気をつけ、ベッドに乗り上げる。
     そのまま布団を捲れば、思った通りに開いた瞼の奥から覗く翡翠色の目を発見して、自然と笑みが浮かんだ。しかもその瞳はいつもよりも少し潤んでいて、まだ寝ぼけているのを察知したからだった。
     「おはよ。……まだ眠い?」
     「……んん……」
     どっちとも取れる反応を示した凛は、もぞもぞと身を捩らせると半分ほど隠れていた頭をひょっこりと出し、こちらに近寄ってくる。
     いつもは撫でつけたように真っすぐになっている髪が枕との摩擦で乱れているのを指で収めてやると、わずかにくぐもった声の凛が呟く。
     「……もう出来てんのか」
     「ほぼ出来てるけど、まだあっためてない」
     「…………じゃあこっち」
     ちょっと迷った様子の凛が頭を撫でている手を掴んで握り込んでくる。手の甲を擦る親指は温かくて、触り心地が良い。
     しょうがないなぁ、なんていつもなら言う照れ隠しも言わずに足先だけでスリッパを脱ぎ落として布団の中に潜り込むと、すぐさま伸びてきた凛の両腕が腰を回って、やんわりと抱きしめられた。

     丁度いいポジションに収まる為に自ら体を捻って凛の正面に向き直ると、すりすりと凛の手が腰を撫でていく。
     やらしい触り方では無いのと、すぐ傍の凛の体温の高さが相まって、そのまま落ち着いてしまいそうになる。
     いつもの俺なら凛の優しさに巻かれるように眠ってしまうだろう。でもそれではいつもと変わらないから。
     ぐっと腕を伸ばして凛の背中に片手を回す。高い鼻筋に何度か唇を押し当ててから、今度は白い頬にキスを落としていく。
     黙ったままそれを瞼を伏せて受け入れている凛は、雰囲気がふわふわの綿菓子みたいに柔らかくってかわいい。まぁ凛はツンケンしている時も十分にかわいい奴ではあるけど。
     たくさんのキスの雨を落としてから顔を離すと、若干不服そうな顔をしているのが分かって首を傾げた。
     「キス、やだった?」
     「やじゃない」
     「じゃあなんで怒ってんの」
     黙り込んだ凛の答えを聞く前に、ずっと我慢していた唇にキスをすればしかめられていた眉根があっさりと解けるのにまた笑みをひとつ。

     意外にも凛はキスが好きで、そんな凛と長年付き合っているうちに俺までキスが大好きになってしまった。
     そうして凛は結構キスの作法にうるさい。というよりも自分は散々焦らすクセに自分が焦らされると不満そうな顔をするから面白くてついついやってしまう。
     あんまりそれをやり続けると痛い目に合うから今日はこのくらいにしておいてやるかともう一回キスをすると、かぷりと唇を噛まれた。
     「やー、いひゃいー」
     ついでに引っ張られて伸ばされた唇でもどうにか抗議の声をあげると、人質になっていた下唇は無事無傷で戻ってこられて一安心。
     俺の情けない顔や声が好きだって言う凛の性癖は未だに理解しきれないけれど、さっきのでもうご機嫌になったらしい凛はフンと鼻を鳴らして俺を抱きしめる力を強めた。
     ちゃんとキスしてくれないからって苛立って噛み付いてくる糸師凛──世間ではクールビューティーで百戦錬磨なイケメンストライカーで通っているコイツのイメージからはかけ離れているのだろう。
     けれど俺にとっては昔から執着心と独占欲の塊みたいな凛を見慣れているせいか、雑誌のインタビューなんかで澄ました顔で恋愛観などを無理矢理答えさせられている凛を見ると笑ってしまうのだ。
     だって凛は俺としか付き合った事が無いし、その始まりだって全然スマートじゃなかった。
     ちなみに、ちゃんと本人が答えたのかは知らないが、凛が恋人に求めるのは【自分をある程度は理解してくれる事】らしい。それについては真っ当な答えで良いと思う。
     「……そんで、この後のご予定はどうしますか? 凛様」
     「なんだよ凛様って。キモイ呼び方すんな」
     「だって今日は凛が王様だから」
     俺の言葉に片眉をあげた凛は、すぐに悪くないという表情をしてみせた。

     今日は凛の誕生日だ。そして俺と凛の間にはここ数年で暗黙の了解が出来ていた。
     誕生日当日の間に限り、もう片方がもう片方の事をたくさん甘やかす事。それから、普段は断るようなおねだりも出来る限り受け入れる事。
     凛も俺も海外で活躍するようになって、サッカー選手としてはかなり上出来な人生を歩んでいる。
     けれども、その分サッカーばかりを追ってきているので、さして欲しいものも無いのだ。
     女性をはべらせたりだとかも全然興味ナシ。酒もたまに舐めるくらいでちょうどいい。ギャンブルは前に凛と一緒にラスベガスのカジノに行ってそこで二人して爆勝ちしてから面白みを感じなくなってしまった。
     段々と増えていく貯金額の桁が信じられないくらい、俺と凛はサッカーに関する事以外は質素だ。
     だからたまに欲しいものがあれば自分で買えるし、誰かに買って貰う前に自分で手に入れてしまう。
     最初の頃は凛の欲しいものを聞いてプレゼントを渡したりもしていたが、そのうちに凛は俺との時間を欲しがるようになった。
     なにせ、俺も凛も時間をあわせるのに苦労するくらい引っ張りだこになっているから。
     だからこそ、二人きりの時間を一回一回大事にしたい。そこは共通認識だった。
     「……飯食ったら、ウサギのやつ着ろ」
     「うさぎ……? そんなのあったっけ」
     「ある。耳もつけろ」
     「? あー、あれか!! なに、まだ持ってたのかよ……あの服、はずいんだよなぁ」
     「拒否権はねぇぞ」
     「……うぅ……分かってるけどぉ……」
     凛の言葉に少し前にハマっていた遊びを思い出す。
     それなりに性欲も冒険心もある俺達は、セックスにおいても色々な事を試すのに抵抗は無い。勿論、相手が凛である事が大前提ではあるが。
     そうしてある時期にコスチュームプレイ……いわゆるコスプレエッチにはまっていた。その際に何着も様々な衣装をお互いに着せては楽しんでいたのだが、その中でも凛が見つけてきた"逆バニー"と呼ばれるセクシー過ぎる衣装は大層盛り上がったコスプレのひとつだった。
     ただのバニースーツも買った筈だが、凛の口ぶりからするとそっちの方では無いのだろう。
     「今日は俺が王様なんだろ」
     「暴君過ぎない?」
     「バカ言え。……ちゃんと全部ここに埋めてやるんだから、優しいだろうが」
     ふ、と笑った凛の掠れた声が耳に落とされ、背中に触れていた筈の手が尻を鷲掴んでくる。
     それだけで先の事を想像してしまって勝手にゾクゾクと背筋を駆け抜けていく微弱な電流に、我ながら快楽に対して雑魚過ぎると唇を緩く噛み締めた。
     こうなったら、今日は凛がもう出ないと泣いて許しを乞うまで全部搾り取ってやる。
     「じゃあ早く飯食べようぜ。……それか、先に俺からにしちゃう……?」
     あえてうっそりと笑いながら、煽るように凛の唇にキスをしてみせた。
     今度は噛み付かれる事無く長い舌がぬるぬると唇の上を這っていって、尻を掴んでいる掌がそこを揉みしだいてくる。
     行き場の無くなった足をもぞつかせていると、顔を離した凛はすっかりその気になったのか甘えたがりの顔を引っ込めて、獲物を前にした獣のようにぎらついた瞳の鋭さを宿していた。
     「あとから腹減ったって泣いてもしらねぇからな」
     「別に言わねぇって。ほら、いいから早く持ってこいよ、ヘンタイ下睫毛」
     「……潔、テメェは絶対泣かせるし、ぐちゃぐちゃにする」
     低い声でそう宣言しつつ、ベッドから素早く起き上がった凛は迷いのない足取りでクローゼットの扉を開いて中を漁り始めた。
     広くて大きな背中を見ながら、最初から朝食を温めないでいた己の判断と凛への理解力の高さに自分でも感心してしまう。
     そうして恐らく言葉通りにされるのだろう期待で勝手に高鳴る胸を押さえ付けつつ、俺だって負ける気がしないと横たわっていたベッドから起き上がり、着ているシャツをゆっくりと脱ぎ去ってベッド脇に放り投げていた。
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