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    ミプ/ハロウィンネタ

    眠りの園で逢いましょう きゃらきゃらと可愛らしい声がする。
     白いオバケの仮装や、流行りのヒーローの衣装に、軽やかなシフォン素材の小さなお姫様。
     そんな色とりどりの衣装を着た子供たちが、そこまで広くはない施設内をはしゃいで練り歩いているようだった。
     『応援してくれている子供達と交流の機会を設けたい』とシルバ製薬がAPEXの運営に関わるようになったからか、今年のハロウィンは養護施設にてイベントを行う事になった。
     仮装につかう布やお菓子などの代金は全てシルバ製薬持ちで、その太っ腹さ加減に喜んで挙手した施設は多かったが、流石に一日に回れる施設の数は限られている。
     だから抽選にはなってしまったものの、俺達は出来る限り多くの施設に向かう事を決めたのだ。しかし、三軒目ともなると疲れも出てきている。
     それでも、こうやって楽しそうにしている子供たちの顔を見れば、こちらも自然と笑顔が洩れた。

     APEXの運営が開催しているイベントとはいっても、全レジェンドが参加しているワケでは無い。
     それこそレヴナントが子供達に向かって安心安全にお菓子を配れるようなロボットになるまでに、子供たちが成長してしまう方が先だからだ。
     だから真面目に参加出来るレジェンド達はそれぞれに担当の惑星を割り当てられ、俺とクリプト、それからライフラインの三人はソラスにある施設を順々に訪れていた。
     手に持ったバスケットにはクッキーやチョコレート、それからマシュマロにキャンディとあふれんばかりのお菓子がいっぱいに入っている。
     そうして俺はハロウィンの時期に運営から渡される【オールドタウン】というスキンを身にまとっていた。
     シンプルなカウボーイ姿ではあるが、逆に派手な仮装をしたらもっと目立ってしまうから、これくらいの方が丁度良いのだ。――世界をこれ以上魅了したら大変な事になっちまうからな。

     そんな事を考えていると、ふんわりとしたブルネットヘアーを揺らし、ブルーアイの天使と悪魔の衣装を着ているそっくりな顔をした二人の子供が室内に飛び込んできたかと思うと、目の前で立ち止まった。
     「あー! ミラージュだぁ」
     「そうだぜ、俺様がミラージュ様だ! さぁ、そんな最高のミラージュ様にお菓子を貰いたいキッズは誰だぁ?」
     「お菓子欲しい! んーと……トリックオアトリート?」
     「僕も! トリックオアトリート!」
     「いいぜ。ほら、好きなのを選びな」
     バスケットを差し出せば、キラキラと輝く瞳が中にあるお菓子を眺めている。それでもすぐに二人は手を出そうとはしなかった。
     ここに来る前の施設でも思ったが、こういう場所に居る子供達は優しい子たちが多い。
     「まだまだたくさんあるんだ。欲しいやつを取っていいんだぜ」
     「本当に? 好きなの取っていいの?」
     「あぁ。チョコは好きか? 俺はこれが好きなんだ」
     手に取った赤い包装で包まれたチョコレートを二人が持っている小さなバスケットに一つずつ入れてやる。
     それで勢いがついたのか、何個か気に入ったらしいお菓子を手持ちのバスケットに入れた二人の天使と悪魔に思わず目を細めた。
     「ありがとう、ミラージュ!」
     「僕ね、この間の【ゲーム】見てたよ! 途中で倒されちゃったのは残念だったねぇ」
     「おーいおい、倒される所ばっかりじゃなくてカッコいい所もちゃんと見ててくれよな」
     「へへへ」
     二人の頭を軽く撫でてやれば、照れたように笑う。
     そうして天使の衣装を着た方の子が見上げてきたかと思うと、花びらのような唇を開いた。
     「ミラージュはテレビでのイメージと変わらないんだね」
     「それって……どういう事だ?」
     「あのね、さっきクリプトの所に行ってきたんだ。クリプトってもっとクールで怖い人かと思ってたんだよ」
     俺の問いに悪魔の衣装を着ている子が代わりに答えてくる。
     そういえばこの施設に来てからはすぐに別々の部屋に案内されたから、クリプトもライフラインも見かけていない。
     ――――あの二人はどこで何をしているのだろう?
     そんな俺の疑問を察したのか、左右の腕を四つの掌が掴んでくる。
     「ミラージュもクリプトのお話聞きに行こうよ」
     「お話?」
     「そう!」
     思ったよりも力強く腕を引かれ、その手に導かれるように開かれたままのドアを通る。
     出来ればこの部屋に居てくれと言われたが、別に動いてはダメだとも言われてはいない。
     それに、最初の方はお菓子を貰いに来ていた子供たちも、殆ど全員に配り終えたらしく来る人数も少なかった。
     ならば良いかと前を行く二人に連れられるまま、廊下を進み、そこまで離れていない部屋へと近づいていく。
     すると、ドアが開かれた状態のままの室内から声が聞こえてくるのが分かった。
     「子供たちはすくすく育ち、次々とお城の周りに家を建て、村を作った」
     多少演技じみた声ではあるものの、柔らかな口調にそっとドアから顔を覗かせてみる。低くも心地よいこの声には聞き覚えがあり過ぎたからだ。
     やはりそこにはハロウィン時期になると見る機会が増えるヴァンパイアめいた衣装を着たクリプトが部屋の中心におり、その周囲には様々な衣装の子供たちが大人しく座っている。
     俺の手を掴んでいた筈の二人は、あっという間に他の子供たちの輪へと入っていってしまった。
     「小さな村はどんどん大きくなった。村の人たちは誰も彼も赤い帽子に赤マント」
     メイクをしているからか、美しいヴィランめいて見えるクリプトは優雅に木製の椅子に座ったまま持っている絵本のページをまくった。
     「そして三つの高い塔を建てた。みんなの素敵な三人組を忘れないため」
     この絵本の内容は俺も知っている。
     確か、悪さをしていた三人組の盗賊が孤児を集めて大きな街を作る――そんな話だった筈だ。
     ジッと聞き入ってしまうくらいに穏やかな表情をしているクリプトは、俺がドアの前で立ち止まっているのに気がついたのか顔を上げた。
     綺麗にセットされた髪の中でも、ひと際に長く白い一房の前髪が揺れる。そうして、普段とは違う透き通った青い瞳が真っすぐに俺を射抜いた。
     尖った牙が赤みを帯びた唇の合間から見え、それと同時に胸元に取り付けられた赤いビジューがキラキラと天井のライトで輝きを増す。
     「ほらごらん。まるで三人にそっくりだ。……おしまい」
     パタンと絵本は閉じられ、俺から目を反らしたクリプトは周りの子供達へと微かな笑みを向ける。
     大人しく聞き入っていた子供たちは立ち上がり、クリプトへと群がるようにして次々に持っている絵本を読んで欲しいとせがみ始めた。
     だが、そのタイミングで午後の勉強の時間であるというアナウンスが流れだし、端の方で静かに待機していた施設の教師が子供たちを別室へと誘導する。
     この後ももう一軒違う施設に行かなければならないのを伝えているからか、この隙にさりげなく立ち去れるように配慮してくれたらしい。
     手を振ってドアから出ていく子供たちに軽く手を振り返しているクリプトにならうように、俺も子供たちに手を振って送り出す。
     そうして最後の一人が出ていくのを見届けた後、ゆっくりと椅子から立ち上がったクリプトは律儀にも持っていた絵本を本棚へと収めると、黒いコートの裾をひるがえして俺の傍へと近づいてくる。
     けれど先ほど子供たちに向けていたのとは違う、いつもの無愛想な表情に笑ってしまった。コイツにもちゃんと"ファンサービス"の精神があったとは。
     「クリプちゃん、案外子供の相手得意なんだな? そんなキャラじゃねぇのに」
     「お前の相手を毎日しているからな」
     シレっと目の前に立ったクリプトにそう言われ、一瞬だけ考え込む。
     そうしてそれが皮肉だと気が付く前に、クリプトの普段よりも青白い手がこちらの握ったままでいるバスケットへと伸びていた。
     「はぁ!? 俺は子供じゃねぇ!」
     「……似たようなモンだろ」
     子供達へのお菓子だというのに、あっさりとそう言いながらキャンディを一つだけ摘まみ上げたクリプトは、イチゴの絵が描かれた包装を破ると唇へとそれを放り込む。
     確かにクリプトの読み聞かせを随分ずいぶんと真剣に聞いてしまった自覚はあるが、それでも子供扱いされるのはしゃくさわった。
     「お前こそ、お菓子勝手に取ってくんじゃねぇよ。あげるなんて一言も言ってないぞ」
     「ケチくさい事を言うな。お前が用意した物でもないだろうに」
     「だとしても、だ」
     ぶつくさと文句を言った俺に向かって、不意にクリプトの顔が寄せられる。
     一体こんな場所で何をするつもりだと一歩引く前に、押さえつけるように肩を引かれた。
     耳元でカラカラとクリプトが唇の奥で飴玉を転がす音が聞こえる。
     そうして、先ほどまでの優しい声とはまた違う、背筋を撫でるような甘い声が鼓膜を揺らした。
     「トリックオアトリート? ウィット。……あぁでも、菓子は貰ったからな。残りはまた後で」
     「なッ……に、……おま……」
     囁かれた内容に頬に熱が灯る。思わず耳を掌で押さえれば、ヴァンパイアというよりかは小悪魔めいた笑みを浮かべたクリプトが俺から離れていった。
     「どうせお前の望みはそっちだろう。それとも、帰ったらお前の好きな絵本を添い寝でもしながら読んでやろうか、小僧」
     フ、と笑んだクリプトの唇から声と同じくらい甘い匂いがして、喉が鳴る。
     「……添い寝で済むと思うなよ、おっさん」
     こうやって俺を煽った事を絶対に後悔させてやるからな、と密かに胸に刻みつつ余裕めいた顔をしてみせた。
     しかし、そんな俺からさっさと離れたクリプトは、いつも通りポケットに両手を突っ込んで部屋を出て行ってしまう。きっとライフラインを探しに行くつもりなのだろう。
     「おい、待てよクリプトぉ」
     結局、その後ろ姿を追いかけるように、手に持ったバスケットの中身を零さない程度の早足で俺も歩きだしたのだった。
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    noa_noah_noa

    CAN’T MAKE夏の初め、フォロワーさん達とマルチ中に「⚖️にキスしてほしくて溺れたフリをする🌱」の話で盛り上がり、私なりに書いてみた結果、惨敗しました。
    もし覚えていたらこっそり読んでください。もう夏が終わってしまいますが。

    ※フォロワーさんとのやり取りで出てきた台詞を引用・加筆して使用しております。

    ※水場でふざけるのは大変危険です。よいこは絶対にやらないでください。
    通り雨通り雨


     キスがほしい。
     恋人からのキスが欲しい。

     突如脳内を駆け巡った欲望は多忙の恋人と規則的な己の休暇を無断で申請させた。恋人に事後報告をすると、当然こっぴどく叱られた。けれども、その休暇を利用して稲妻旅行をしようと誘えば満更でもなさそうに首を縦に振ったので胸を撫で下ろした。まず、第一段階完了。

     稲妻までの道中、セノはいつものように気に入りのカードを見比べては新たなデッキを構築したかと思えば、『召喚王』を鞄から取り出してすっかり癖がついてしまっているページを開き、この場面の主人公の台詞がかっこいいと俺に教えてくれた。もう何百回も見ている光景だというのに瞳を爛々と輝かせる恋人はいつ見てもかわいい。手元の書物に視線を落としながら相槌を打っていると離島に着くのはあっという間だった。第二段階完了。
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