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    もやし👁‍🗨

    enst みか宗 94 ロナドラ

    年齢制限があるもの・特殊性癖のもの・Webオンリー展示など

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    もやし👁‍🗨

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    2021年1月発行のモブ宗アンソロジーに掲載したものです。
    ゾンビものだったので今年のハロウィンに乗じて掲載します(公開期間は現時点で無期限です)。

    ゾンビで溢れかえった世界で宗くんと出会ったモブの話です。

    モブ宗ですがモブが一方的に宗くんのことを好きなだけの全年齢、ちょっとみか宗要素があるかもしれませんが原作程度の信頼関係です。

    死ネタ&原作キャラのゾンビ化の示唆があります。

    #モブ宗
    mobShu
    #みか宗
    MikaShu

    夢ノ咲・オブ・ザ・デッド! ガコン、ガコン。疲労で重くなった脚を引きずりながら鉄筋造りの外階段を一歩一歩上がっていく。十一月の風が全身を通り抜ける。途中、手に抱えていた紙袋の底が破け、中に入っていた缶詰が一つ落ちた。勢いよく階段を駆け下りていく缶詰を呆然と見つめた。残念だが、もう俺にあれを取りに戻るだけの気力はない。もともと引きこもりだった俺にはここ数日の肉体労働は完全にキャパオーバーだ。それでも懸命に、今日もここに帰ってきたのはこのビルの最上階で彼が待っているからだった。
    最後の一段を上り終え、扉を開く。もともとどこかの会社の事務所であっただろうその部屋の、一番南側に置かれているソファに彼ーー斎宮宗は横になっていた。かつてアイドルだったという彼の姿は、暗く汚れた室内にあっても気品が溢れており、肢体をだらりと投げ出して虚ろに天井を見つめている姿すらもまるで西洋の絵画のようだった。しかし、その顔は酷くやつれていて、目の下には深いクマが出来ていた。
    「た、ただいまー」
    俺は扉に閂を通しながら声をかけた。宗はゆっくりと視線をこちらに向け
    「……遅かったね」
    といった。
    「ご、ごめんね。あんまり見つからなくて」
    俺は肩にかけていた改造エアガンを床に置き、彼の方に歩み寄った。
    「いや……ありがとう」
    宗は細い体を起こし、姿勢を正して座り直した。俺は彼に紙袋を渡した。
    「宗くん、脚の具合どう……かな」
    「……腫れは昨夜に比べて引いたたのだよ。迷惑をかけてすまないね」
    「き、気にしないでよ! 動ける方が動けばいいし……」
    宗の右脚には包帯が巻かれている。俺と出会ったとき、既に彼は負傷していた。しかし、まぁ五日たった今でも『感染』の兆候がないということは恐らく問題はないのだろう。

    今から一週間前、世界は激変した。とある大学の研究施設から未知のウイルスが流出した。ウイルスに感染した人間は理性を失い、動物の……主に人間の血肉を求めさまよい歩くという。そして、感染者に噛まれた人間は同じような症状に……そんなニュースを伝えた男性アナウンサーは次の瞬間、番組スタッフらしき男に押し倒されるようにして画面から消えた。同時に映像も乱れ、テレビから流れるのはついに悲鳴だけとなった。なにかの悪い冗談だとザッピングするも、どの局のどの番組も同じような惨状が映し出されていた。テレビから視線を外し、リビングの窓の外を見る。そこにも同じ光景が広がっていた。もう何年も碌に外出していない俺にも、その光景が異常であることは分かる。行き交う人々の顔に血の気はなく、黒目は上を向いていた。口の端はだらしなく垂れ下がり赤い液体で汚れている。まるで――ゾンビじゃないか。俺は頭を抱えてその場に蹲り、そのまま目を閉じた。
    それから二日が経った。暫く自宅で籠城していた俺だったが、状況は変わらなかった。寧ろ日に日に感染者は増えているようだった。感染すると狂暴性と共に筋力も増幅するようで、翌日には家の扉を破られた。俺は家に残っていた少しの食料と家に置いてあったこん棒を手にして、窓から飛び出た。家から出た直後、感染者一人に見つかり襲われたが、死に物狂いで抵抗し、そのまま逃げきった。ゾンビ映画のように頭部を破壊すれば動きが止まるらしい。人の頭を殴ることは躊躇われたが、自分が生き延びるにはそれしかなかった。
    それ以降は運よく感染者に遭遇することもなく、なんとかこのビルに辿り着いた。もう既にありとあらゆるライフラインは停止しており、電気やガスの通っていない鉄筋コンクリート造りのその建物はとても冷えていたが、頑丈そうなその造りはなによりもの心の支えだった。俺は部屋に入るや否や座り込み、大きく息をついた。ここまで生き延びることができ安堵すると同時に、変わり果てた世界への不安で泣き出してしまいそうだった。

    その時
    「カゲヒラ?」
     部屋の奥から声が聞こえた。俺は飛びはねるように立ち上がり、エアガンを構えた。道中にあったミリタリーショップから拝借してきたものである。警戒しながら辺りを見渡し、声の主を探す。言葉を話している以上感染者ではないのだろうが、それでもやはり不安はぬぐい切れなかった。暫く銃を構えて膠着していると、部屋の奥から一人の青年が現れた。これが宗と俺の出会いだ。宗は壁で身体を支えながら一歩一歩とこちらに近づいてきた。
    「おや……すまない。人違いだった」
    宗は男の俺でもしばしの間見とれてしまうほど美しい見目をしていた。数日碌に食べても寝てもいないであろうげっそりとした顔とすらりとした手足はアンニュイな魅力を生み出している。
    「銃を降ろしてくれ。僕は感染などしていないし……脅してまで奪うような武器や食料もないのだよ」
    俺はすぐに銃を降ろして、敵意がないことを説明した。すると宗は安心したように息をついて、自分が何者で何故ここにいるのかを淡々と説明しはじめた。大人びた見た目や言動と反して、俺より一回り下の十九歳という彼は、あのパンデミックが発生した日に『カゲヒラ』という人物とここに逃げこんできたらしい。脚の怪我は感染者たちから逃げてくる最中に転倒して負ったという。
    「カゲヒラは昨日の夜から薬を探しに出かけいるんだ。だから今は僕しかいない」
    ……そう話す彼からは諦観の表情が見て取れた。宗の足元に視線を落とすと、傷は既に化膿が始まっており、大きく腫れていた。痛みで部屋の中すら碌に歩き回れないという。
    「あ、あの……俺包帯くらいなら持ってますけど応急処置させてくれませんか」
    「え……いや、君の貴重な資材を貰うわけにはいかない。結構だよ」
    「でも、これ以上菌が入ったら危険ですよ」
    俺が食い下がると宗はついに「ありがとう」と提案を受け入れた。傷口を押さえるだけの簡単な処置だったが、宗は何度も礼を言ってくれた。
    「それじゃあ、包帯の残りここに置いていくので、汚れたら変えてください……ごめんなさい、先客がいるなんて思ってなくて入ってきちゃって」
     俺は荷物を持ち直して立ち上がった。
    「これからまた別の建物を探すのかね」
    「はい、まぁまだ日没までありますし気にしないでください」
    「……その、無理強いはしないが……ここにいてはどうかね。今から外に出るのは賢明な判断とはいえない」
    「え、でも……」
    その時の宗は、こちらが動揺してしまうほど悲しそうな表情をしていた。彼自身は隠そうとしている『カゲヒラ』がいつまでも戻ってこないことに対する不安と孤独が伝わってきたーーそうして今に至る。

    宗は受け取った紙袋から缶詰や瓶詰を一つ一つ取り出してソファに並べ始めた。口角は少し上がっておりどこか楽しそうだ。
    俺や宗たちが持ってきていた食料が尽き、仕方なく久しぶりに降り立った街は以前にも増して荒れ果てていた。ありとあらゆるガラスは割られ、地面にはゴミと肉片が散らばっていた。感染者たちの目をかいくぐり、人影のないスーパーマーケットに忍びこんだ。が、ほとんどの商品は血で汚れていたりどういう理由か腐り落ちており、安全に食べられそうなのは缶詰や瓶詰くらいのものだった。
    今度食料を取りに行ったときはどうしよう。保存食もダメになったら……考えているだけで憂鬱だ。
    宗がすべての缶詰を並べ終えた。焼き鳥、パイナップル、メンマ、ツナ、乾パン、サバ……そして
    「……ねこ?」
    「あっ! ごめん」
     俺は慌てて宗の手からキャットフードを奪おうと手を伸ばした。すると宗はひらりとその手を交わしてその缶詰を後ろ手に隠した。取り返そうとする俺をあざ笑うかのように宗はカカカッと笑うーー今朝から宗の様子がおかしい。はじめて会った日の無表情で無口だったころと比べものにならないくらい、随分と明るく笑うようになったのだ。ただ俺に気を許してくれたということならいいのだが、同じくらい上の空な時間が増えた。思考が覚束ないようで喋ることすらたどたどしい時がある……もともと名家の息子だったという彼にとって今のこの生活は耐え難いもので酷いストレスなのだろう。彼の精神が崩壊していく様を認識しながらも俺にはどうすることも出来ない。俺は作り笑顔を浮かべて缶詰を一つ開けて差し出した。

    食事が終わるころにはもう日は落ちて、ビルの中は真っ暗だった。懐中電灯をロープで吊るして簡単な照明代わりにするも、その明かりが照らす範囲はやはり狭い。すべて扉の鍵とバリケードを確かめて、就寝の用意を始める。就寝と言えども熟睡するわけにはいかない。ビルの下には今も感染者たちが大勢うろついている。いつビルのドアを破壊してここに来るかわからない。俺はエアガンを傍に寄せ、宗が座っているソファに腰かけた。夜になると宗は口を閉ざす。寝ているのか起きているのか判断がつかないが、万が一にも起こすのは申し訳ないので話しかけることはできない。ただ、十一月の寒空を理由に俺は宗の近くに身体を寄せる。宗の身体は人より少し冷たいが、それでも腕が触れ合えばじんわりと温度が伝わってくる。宗は俺が毎晩こうしていることに気が付いているのだろうか。彼は受け入れも拒みもしない。拒まないということは……つい都合のいいように考えてしまう
    共に過ごすうちに俺は宗との運命を感じはじめていた。あの日俺がこのビルに訪れたのも、そこに彼が一人で居たことも、彼が怪我をしていたのも、そもそもあの災厄が起きたことさえもーー今こうして二人で過ごすための導きだったのだ。そう思えば、脚の傷は彼をここから逃がさない足枷であり、このビルは彼を閉じ込めるための檻。全てが当然のことだったのだ……彼ともっと一緒に居たい。彼の為になら寝なくてもいい。彼の為に俺は命をかけて感染者の頭部を壊しながら街を走る。いつしか自らが感染することよりも、彼を失うことの方がずっと恐ろしいことだった。
    宗の息遣いが聴こえる。もう少し、あといくつかの夜を越えたら、運命を信じてみてもいいだろうか。

    「なにをするつもりだい」
    俺の用意した盥に宗が興味を示す。
    「屋上のタンクに水があったんだ。飲み水としては使えないけど、洗濯ならできるかなって思ってさ」
     もうお互いの服はすっかり薄汚れていた。特に動き回っていた俺の服は汗のにおいだけではなく外の腐臭も染みつき、着ているだけで不快だった。納得という顔で宗は頷き、壁を利用しながら立ち上がった。

    屋上から見える空は雲一つない青空だった。宗の身体を支えながら階段を上り、一つだけある青いベンチに座らせた。宗は背丈が一八〇cmほどあるにも関わらず、俺が抱えあげられてしまいそうなほど軽かった。
    俺がポリタンクを使い、水を盥に移していると宗が無言で空の向こうを見ていた。その視線の方向を見ると遠方にヘリコプターが見えた。直感で分かった。政府の救難ヘリだ。胸がドキリと高鳴った。宗は何を言うでもなく、ただ眺めているだけだ。無言のまま時間は流れ、いつしか救難ヘリはいなくなっていた。
    「……助け、呼ばなきゃいけないよね」
     声をふり絞り、呟いた。俺が今まで逃げていた選択肢だった。助けを呼べば政府に保護されて今より確実に状況はよくなる。このままここで過ごしていても二人で死にゆくだけだ。だが保護をされたが最後、宗とのこの生活も終わる。そのことが俺にこの決断を遅らせていた。十年間引きこもり続け、守りたいものも大切なものもないまま生きてきた俺にとって初めてできた宝物。だが、俺の想いと裏腹に終わりは迫っていた。その時だった。
    「……ここにいたい」
     宗が呟いた。その思いもよらぬ言葉に俺は耳を疑った。宗はこちらには一瞥もくれず遠くの空を見ているだけだった。でも俺にとってそんなことはどうでもよかった……宗がここでの生活を望んでくれている。俺との生活を。その事実に俺の身体は震え、こぼれた水が地面を濡らした。

     屋上から室内に戻り、用意していた替えの服を渡す。宗が元より着ていたワインレッドのシャツよりも明らかにちゃちで薄手な灰色のスウェットだ。彼は文句も言わずそれを身につけたが一切似合っていない。背丈には合っているはずなのに、すっかりやせ細った体ではぶかぶかに見える。座っている彼を上から見下ろすと薄い胸板がちらりと見えた。見てしまった背徳感に目を逸らしながら、自らも同じスウェットに着替える。宗はその間も毛布を被りながらじっと壁際に体操座りのようにして蹲っていた。部屋に差し込む西日が眩しい。
    「宗くん、寒いでしょ。こっちにおいでよ」
     下心を隠して、ソファに招く。しかし、宗は動くことなくそのまま目をつむってしまった。
    ……先ほどの『ここにいたい』という言葉の真意を確かめたかった。俺は彼にとって一体どんな存在なのだろう。訊いてみたら、答えてくれるだろうか。いつもなら目を瞑った彼に声なんてかけない。でも、今日なら許してくれそうな気がする。いやきっと宗は、ずっとまえから許してくれていた。俺が問いかけるのを宗はずっと前から待っていた。宗もきっと俺のことをーー。
    「しゅ、宗くん……あのさ、」

    ガンガンッ!

    何かを叩く大きな音が部屋中に響き渡る。異常事態を意味するその音に緊張がはしる。外階段に繋がる扉から音がする。音は次第に大きくなり、更には扉が大きく変形しはじめた。扉前のバリケードも一つ一つ崩れていく。宗は蹲ったまま動かない。俺は彼を庇うようにしながら傍らの改造エアガンを握りしめた……感染者がついにここまでやってきたのだ。俺は懸命に思考を巡らせる。もう一つ建物の内部に階段があるが、そちらからなら逃げだせるだろうか。でもそこに別の感染者がいたら? それに宗はまだ一人で走れない。
    俺が担いで下まで逃げることは可能だろうか。外に出たとしてどこにいけばいい。倒すことは可能か……

    バキッ!

    あれこれ考えているうちについに扉の閂が割れた。恐怖で足がすくむ。ついにバリケードも全てが崩れ落ち、扉が大きな音を立てて倒れた。ゆらりと人影が覗く。どうやら敵は一人のようだ。敵の存在を認識した瞬間、急激に宗を守らねばという使命感が沸き上がり身体の体温が上がる。恐れと興奮から身体が震える。
    「宗くん、奥に、か、隠れてて!」
     なんとかそれだけを叫んで、俺は前へ出た。
    「う……あ”ぁ……」
    扉の影から現れた異形は何やら呻きながらゆっくりとした足取りでこちらに向かってきた。ボロボロの服にボサボサの髪。顔の肉の一部は削げていて頬のあたりから鋭く尖った牙が見える。血にまみれたその身体からは腐臭が漂い、瞳の片方は零れ落ちそうなほどむき出しだ。その恐ろしい姿に全身が総毛立つ。もし、襲われれば俺や宗があの姿に……?
    「くっ、来るなぁ!」
    後ずさりしながら勢い任せに引き金を引く。エアガンから飛び出した鉄の塊は、怪物の頭にも身体にもあたることなく壁に当たった。
    「当たれっ、当たれ当たれ当たれぇ!」
    なりふり構わず何発も何発も撃つが、身体にはかすれど頭には当たらず、化け物の歩みは止まらない。ゆっくりではあるが着実に近づいてくる。もう残りの弾数も僅かだ……正面から立ち向かうより、逃げた方がいい。今まで相手したどの感染者よりも、執念深く禍々しい雰囲気を纏っていた。現実を悟った俺は後ろを振り返り宗を探した。しかし、彼はいなかった。
    「しゅ、宗くん……? どこにいるの!」
     辺りを見回す。いつの間にかこの部屋を出て逃げたのだろうか。だが、内階段の前に作ったバリケードはそのままだ。では、どこに。
    「う“あ”ぁあ“ぁあ”ぁ!」
    化け物の叫び声が聞こえ、慌てて銃を構えて向き直る。そしてそこで俺が見たのは

    地面を這いつくばりながら化け物の方に向かっていく宗の姿だった。

    「な……なにして」
     化け物も唸り声をあげながらジリジリと宗の方に向かっていく。なにしてるんだ。死にたいのか?目の前の出来事がまるでスローモーションのように進んでいく

    なんで、どうして。

    もしかして……囮になろうとしている?

    俺を助けるために?

    ーー宗と化け物の距離がだんだんと近づく。

    ダメだ、宗。君は俺と生きていくんだ。

    ーー化け物が宗に手を伸ばす。宗が口を開く。

    宗を守れるのは俺しかいない。

    ーー宗が化け物になにか喋っている。

    宗、宗、宗、宗

    ーー「××××」

     パァンッ!

    乾いた銃声音が鳴り響いた。銃弾を眉間に受けた化け物はそのまま仰向けに倒れ込んだ。今にも取れそうだった琥珀色の瞳はついにころりと床に転げ落ちる。再び動き出す様子はない。宗は、ピクリとも動かなくなった化け物の傍らになおもじっと座り込んでいた。
    「宗くん」
     俺は声をかけた。宗はなにも応えない。
    「……あの時『ここにいたい』って言ってたのはそういう意味だったんだね」
     俺は銃身を持ち直し、力を込めた。
    「俺に言ってくれたんじゃなかったんだ……ずっと宗くんは俺なんかどうでもよかったんだよね」
     銃身を振りかぶる。
    「……なにか言ってよ、じゃないと俺さ、じゃないと……宗くんのこと許せないよ」
     宗はなにもいわなかった。何も言わず、化け物に笑いかけていた。俺は彼の頭にめがけて勢いよく銃を振り下ろした。鈍い感触が腕に伝わる。宗の痩身が音もなく床に崩れ落ちるのを見て、俺は年甲斐もなく声を上げて泣いた。

    ーー『おかえり』
     それが俺の聞いた彼の最後の言葉だった。


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    ゾンビものだったので今年のハロウィンに乗じて掲載します(公開期間は現時点で無期限です)。

    ゾンビで溢れかえった世界で宗くんと出会ったモブの話です。

    モブ宗ですがモブが一方的に宗くんのことを好きなだけの全年齢、ちょっとみか宗要素があるかもしれませんが原作程度の信頼関係です。

    死ネタ&原作キャラのゾンビ化の示唆があります。
    夢ノ咲・オブ・ザ・デッド! ガコン、ガコン。疲労で重くなった脚を引きずりながら鉄筋造りの外階段を一歩一歩上がっていく。十一月の風が全身を通り抜ける。途中、手に抱えていた紙袋の底が破け、中に入っていた缶詰が一つ落ちた。勢いよく階段を駆け下りていく缶詰を呆然と見つめた。残念だが、もう俺にあれを取りに戻るだけの気力はない。もともと引きこもりだった俺にはここ数日の肉体労働は完全にキャパオーバーだ。それでも懸命に、今日もここに帰ってきたのはこのビルの最上階で彼が待っているからだった。
    最後の一段を上り終え、扉を開く。もともとどこかの会社の事務所であっただろうその部屋の、一番南側に置かれているソファに彼ーー斎宮宗は横になっていた。かつてアイドルだったという彼の姿は、暗く汚れた室内にあっても気品が溢れており、肢体をだらりと投げ出して虚ろに天井を見つめている姿すらもまるで西洋の絵画のようだった。しかし、その顔は酷くやつれていて、目の下には深いクマが出来ていた。
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