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    天晴れさん

    @hareyoru14

    @hareyoru14 であぷした小話や絵をアーカイブ。
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    天晴れさん

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    小話アーカイブその6。ひろ公
    漆黒編:週末のくっついてるひろ公。
    爆速お仕事公。
    エキストラ多めで書くのも楽しいですね(*´▽`*)

    クリスタリウムは今日も平和です。

    「た、たたたたた大変だぁぁぁあああ」
    月が眠りに就くと共に夜の帳をそっと取り払い、優しい光の射す朝に人々の新しい一日が始まってから暫し後。にわかに活気付き始めたクリスタリウムに、一人の兵士の声が響き渡った。 
    「どうしたんだ、そんなに慌てて……」
    「まさか、公の身に何か…」
    かつては反逆都市と呼ばれたこの街の象徴にして、街の指導者が住まうクリスタルタワー。そのタワーから一目散に走ってきた兵士は、つい先程夜間警備の交代員が向かった為、夜勤明けとなった筈だ。只事では無い様子に、詰め所の兵が一斉にざわめく。
    「ち、違う……じ、実はさっき、引き継ぎで……公と話をしている最中にっ……!」
    息を切らし喘ぐように続いた言葉に、兵士達に今度はまた違う種類の戦慄が走った。
    「大変だ……すぐにライナ隊長に知らせなくては……」
    「ミーン工芸館とムジカ・ユニバーサリスにも伝令を飛ばせ」
    「ぐずぐずしていると“また”何もかも追い付けなくなるぞ……」




    「今夜、闇の戦士様がお戻りになられる――」





    数分前、星見の間。

    「ご苦労様、ゆっくり休んでくれ」
    「はっ!それでは報告は以上になりま――」

    「あらあら、あらあらあら!『水晶の友』は今日も朝から忙しそうなのだわ!」

    警備兵の交代に立ち会い報告を受けていた水晶公の頭上に、突如軽やかな声が舞う。
    我が友フェオ・ウル!」
    「昨日もろくに休まず眠らずの顔をしているのだわ。そんな顔で居ては、また『私の若木』にお説教をされるのだわ」
    「うっ、頼むからあの人には……」
    「ええ、ええ、私は言わないわよ?だって直接見たらすぐにばれるに違いないもの!」
    そう言って笑いながらくるりと回転すると、妖精王は水晶公の肩にふわりと座る。
    「私、今日はとってもご機嫌なの。だから『水晶の友』にも教えてあげるわ。私の可愛い可愛い『若木』が、今夜こちらに舞い戻るのだわ」
    「何だって……」
    彼女が言う『若木』とは、言わずもがな「闇の戦士」こと冒険者の事。原初世界で関わっている用事が長引きそうだ、と水晶公の髪を名残惜し気に撫でて出掛けていったのはもう何日前だったか。
    「昨日の夜、久し振りに若木の夢に呼ばれたの。こちらでは十日振りになるかしら?今回はあちらの世界でも七日も経っているみたい。随分心が疲れる場所に行っていたようだから、眠りが浅かったのかもしれないわね」
    「そういえば、帝国領のレジスタンスに手を貸していると言っていたか……最前線は激戦だろうからな」
    「鉄のにおいや煙ばかり浴びていたら、どんどん心が磨り減ってしまうのだわ!だから、イル・メグの花の香りを――ちゃんと悪戯抜きでね――届けてあげたのよ。そうしたら随分楽になったみたいだったのだわ」
    「そうか……ありがとう、フェオ・ウル。それで、彼は今日此方に来ると?」
    「ええ、そろそろ転移の魔法でスリザーバウの森の魔女に会いに行く頃だわ。その後昼過ぎにはイル・メグに遊びに来るの。あちらの世界のお菓子を持って、私に会いにね!」
    組んだ指先を頬に当てながら、フェオ・ウルは楽しそうに語る。流石は英雄、しっかり妖精王のご機嫌を伺うのも忘れていないようだ。
    「成る程、それで麗しの妖精王は上機嫌なのだね」
    「ええ、ええ!可愛い若木の久々の訪問ですもの。でも、ちゃんと日暮れには水晶の友の所へ返してあげるのだわ。一番早いアマロに乗せて送ってあげる」
    そう言って片目を瞑ると、フェオ・ウルは肩から飛び立った。きらきらと光の粒子を散らして数度水晶公の周りを回ると、鼻の頭をツンと突つく。
    「だから、私の水晶の友?今日はあなたも、あの山積みの小難しい紙の束とのにらめっこは程々にして、若木が帰るまでに花のお茶でも飲んで少しは眠っておくと良いのだわ。折角あなたに会えるのを楽しみにしている若木が心配して萎れてしまったら……お仕置きしに来てやるんだから!」
    「ああ、それは勘弁願いたいな。分かったよ、知らせてくれてどうもありがとう、我が友」
    こうして、現れた時と同じ様にクスクスと笑いながら、人好きな妖精王は帰って行ったのだった。
    「さて……二人ともすまなかったね」
    「い、いえ!それでは失礼致します!」
    労いの言葉を掛ける水晶公に敬礼すると、交代の兵士と顔を見合わせた。同じ事を考えていたのであろう、互いに小さく頷く。
    星見の間を後にすると、一目散に走り出した。

    「成る程、状況は分かりました」
    ふぅ、と一つ息を吐くと、ライナはゆっくり瞼を上げた。窓から差し込む日の光に、彼女を育て上げた祖父に良く似た、意思の強さを持つ瞳が煌めく。
    「恐らくは前回同様、尋常ではない速さで事を進めてこられるでしょう。故に、我々も遅れをとらぬよう――」
    「おや、皆集まってどうしたのだ?」
    「っ、公!」
    今正に指示を飛ばさんとしたライナの背後の扉がカチャリと開き、大量の紙類の束を抱えた水晶公が姿を表した。その場の全員が思わず息を飲む様子に首を傾げる。
    「何か問題事でもあったのか?」
    「――いえ、より効率良く活動すべく訓練や警備の内容について打ち合わせを少々しておりました。公は……お持ちのそれは先日の報告書ですか?」
    「ああ、昨日までに上がったものだ。全て目を通して承認と以降の検討点を書き込んである。散歩がてら届けようと思ってね」
    「それは有り難うございます。……もしや、昨日までに提出された書類全て……ですか」
    「ああ。七割程は期限にまだ余裕があったが、纏めて片付けてしまったよ。それからこっちはミーン工芸館から上がった街の設備の整備と、新設案についての資料だ。街灯等は警備にも関わってくるからね。勿論急ぎではない。来週の会議までに目を通しておいておくれ」
    そう言って水晶公は紙の束の半分程を手渡す。――どう見ても、合わせてたっぷりこの先数日の仕事分はある。
    「はい、承知しました。……そう言えば、今日は闇の戦士様がお帰りになられるとか」
    「ああ、警備の彼から聞いたのかい。そうなんだ、夕方以降にはなるようだがね。それもあって前倒しで仕事を片付けて……丁度良い機会だから、今日の午後から数日間……少し休暇を取ろうと思うのだが」
    「ええ、勿論構いません。むしろ公が自主的にお休みになられるとは重畳ですので」
    「はは、たまにはお前達に叱られる前に休まねばね。では、宜しく頼むよ」
    平素と変わらぬ穏やかな口調だが、耳の先が小刻みに動いている。嬉しげな様子についその場の皆が微笑んだ。――決して、現実逃避ではない。
    「はい、どうぞごゆっくり……所で、その残りの書類は?」
    「これかい?こちらはミーン工芸館へ渡す確認済みの申請書類と設計書、これはムジカ・ユニバーサリスの発注書にユールモアとの交易リストに……」
    次々と飛び出す書類の数々に、皆が呆気に取られて行く。普段から水晶公の仕事速度は決して遅くは無く、むしろ大抵の内容は一度目を通せば覚えてしまうし要点を絞る判断力も人一倍ある為、常人より早いとすら言えよう。その上放っておくと休まずに働くものだから、時折ライナ達に咎められつつ更に仕事は日々前倒し進行されている。
    そんな水晶公ではあるが、今彼の両手に抱えられている処理済みの書類達は、普段の量の比ではない。
    「――とまぁこんな処だ。全ては持ちきれなくてね、これを届けたら一度タワーに戻るが、衛兵団から新しく上がってくる物は無いかい?」
    「も、持ちきれなかったとは」
    「ん?ああ、博物陳列館の編纂確認書物は結構な量があったのでね。ホルトリウム園芸館に戻す書類と一緒に後回しにしたのだよ」
    まるで借りてきた本を返しに行くような口振りで言ってはいるが、今のこの人の言う「結構な量」というのは、察するに両手の指で数えられる量では無いだろう。面食らわぬようモーレンにも知らせておくべきかと、ライナは頭の中でこの後のスケジュールを組み立てた。
    「では、後程何人かお手伝いに向かわせましょう。……公の執務机が空になりそうですね」
    「それは助かるよ。……はは、そうだね。細かい掃除をするなら今がチャンスかもしれないな。――それでは残りを届けに行って来るよ」
    そう言って朗らかに笑いながら出て行く水晶公の姿が扉の向こうに消えた直後。衛兵団の面々は顔を見合せ、頷き合ったのだった。





    エクセドラ大広場に長く大きな影が落ち、人々が騷めいた。
    「あれは……アマロか」
    「なんて大きいんだ」
    突然の騒ぎに何事かと、スパジャイリクス医療館やエーテライトプラザからも人が集まってくる。
    ばさり、ばさりと力強い羽ばたきで巨体がゆっくりと降下して来ると、人々の視界にその背に跨がる人物が見えた。
    「やみのせんしさまだーー!」
    子供達の明るい声に、背に乗った男がニカッと笑い手を振る。広場に着地してなお高いその背から軽やかに飛び降りると、労うようにアマロの顔を撫でた。
    「送ってくれて有り難うな、セト。結構な距離飛んで疲れてないか?」
    『この位、お安い御用だよ。君を乗せて飛ぶ間、久しぶりにアルバートと旅をしていた頃のような気分だった。とても楽しかったよ……良ければまた、共に飛んでおくれ』
    「ああ、勿論だ。また遊びに行くから、イル・メグの皆にも宜しくな」
    男の手に撫でられて、セトは心地よさげに喉を鳴らす。駆け寄ってきた子供達と、ミーン工芸館から物凄い勢いで奇声を上げつつ走ってきたベスリクと暫し戯れた後、語り部のアマロは暮れ始めた空へと飛び立って行った。
    「あらあらぁ、お帰りなさい」
    「ただいま、シェッサミール。騒がせて悪かったな」
    「うふふ……この位賑やかで元気な方が良いわよぉ……。お疲れだったら、特製のよぉーく効くお薬を処方するところよぉ」
    「はは、それは緊急時に限定願いたいな……。さて、騒ぎに真っ先に出てきそうな街長殿が見当たらないのは意外だが……」
    この街の事柄には驚く程敏い彼の姿が無いことに些か眉をひそめる男に、シェッサミールはゆったりと語り掛ける。
    「心配しなくても大丈夫よぉ……。昼間、医療館に目薬を貰いに来たけれど、顔色はとっても良かったわぁ。周りの皆がてんてこ舞いになる程の勢いで仕事を片付けて、午後から休暇を取って一眠りする事にしたって言ってたから、まだお休み中なんじゃないかしらぁ?」
    「そっか、良かった。そしたら塔の方へ行ってみるかな。ありがとな」
    「良いのよぉ……公に宜しくねぇ」
    そう言って男は軽く手を振り、夕焼けを反射して煌めくクリスタルタワーへ向かって行った。
    その背を見送り、シェッサミールは「さてと」と踵を返して医療館へと戻って行く。

    「さぁて、へろへろになった子達の様子でも見に行きましょうねぇ。闇色のシロップは足りるかしら……?」

    濃紺のカーテンが降り始めた空に、うふふ……と彼女の笑い声が静かに溶けて行った。
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