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    天晴れさん

    @hareyoru14

    @hareyoru14 であぷした小話や絵をアーカイブ。
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    天晴れさん

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    【小話アーカイブ12】
    くっついてる前提の光公。光はひろしでもお好きな光君でも。公より体格ちょっと良い。

    漆黒入ってまず中の人が思った(かつ妄想した)事のまとめ捏造ネタ。
    往来でお姫様抱っこさせたかっただけでは無い。


    多分……ね。

    硝子のコップを爪で小さく弾いたような、もしくは湖の氷が春を迎え溶けて割れて行く時のような、そんな澄んだ音がしているのに気がついたのはこの世界で実際に会ってすぐの時だった。
    リン、とも、ぱり、とも聞こえる、すぐ傍に居なければ気づく事が難しい程の、ほんの微かな連続した小さな小さな音。
    青みがかった水晶の腕が動く度鳴るそれに首を傾げた冒険者へ、水晶公は口元を柔らかく綻ばせながら音の理由を教えた。



    「ちょ、自分で歩けるから……!頼むから、下ろして……」
    「駄目です」
    背中を支えながら膝裏を掬い上げられる、所謂「お姫様抱っこ」で抱えあげられた水晶公の必死の訴えは、冒険者の短い一言で即座に却下された。かつかつとクリスタルタワーの緩くカーブした階段を靴底が叩く音が響く。
    入り口の門を出れば馴染みの門番に「お勤めお疲れ様です、闇の戦士様」と笑いながら声を掛けられる。冒険者はいつものようにニッコリと微笑みを返し、水晶公はいつものように耳を頭と一体化させながら両手で顔をおおった。光の氾濫を退け帰還してから、クリスタリウムでは度々見られるようになった光景だ。肩に担がれたり小脇に抱えられたりと、運び方はその都度様々であるが。
    「倒れたわけでは無いのだし……その、タワーから離れなければ体力も削れないのだから……あ、いやまた休憩を疎かにして皆に心配を掛けた事は反省しているがっ……!」
    「駄目ったらダメー。飯食って一眠りするまで他の事は全部禁止」
    「あうぅ……」
    水晶公がまた引き籠っている。暫く出掛けて帰ってくると、三回に一回はライナから受ける報告である。毎回だった初めの頃に比べればマシにはなったが、それでも一般的な生活とはとても言えまい。
    「極々少量とは言え、お前の場合動く度に人よりエーテル消費してんだから。都度タワーから供給されてるのは解るけど、そもそもの燃費の悪さは自覚しろ?」
    「はぃ……」
    ぱりぱり、りん。観念して下ろされた両手の、右手から鈴のような音が鳴る。聞くだけなら美しい、けれど冒険者の心を密かにちくちくと刺す音だ。
    少しひんやりとした、綺麗な綺麗な水晶の身体。本人曰く、体表を覆うように侵食しているから、体内――例えば筋肉や内臓――は生身に近いらしい。実際、肩や喉はほんのりと体温を持ち温かく、下にはおそらく肉があり血が流れている。
    しかし、右腕の肘から指先までだけは完全に透けていて、感覚はあれど仮に欠けても痛みは感じないと言う。ここに関しては傷ついても血は流れず、失ってもエーテルによって再生するのだ、と。
    完全に結晶化してるにせよ表面だけであるにせよ、触れれば固い宝石であるそれが、何故人と同じ様に動かせるのか。それこそが、この澄んだ音の理由であり正体だった。
    ――私の腕や身体の水晶は、厳密に言えば常に『割れて』いるのだよ。聞こえているのはその音だ。曲げたり、動かす度に割れて、けれど即座に修復されている、と言う訳さ。ちなみに、腕以外も水晶部分は同じで、痛みは無いんだ――
    だから、貴方は心配しないで欲しい。そう言って笑った口元を冒険者はよく覚えていた。けれどフードに隠れて見えなかった瞳は、当時どんな感情を乗せていたのかはわからない。
    今さら聞いても答えは無いだろう。だから、冒険者もこの胸の小さな痛みを打ち明けるつもりは無かった。
    (痛くは無いとしても、動く度に砕けているなんて)
    自分の為に、と思わなくなる事はきっとこの先無いだろう。けれどそれを唯々痛々しく思って嘆くのは、ここまでの彼の歩みや決意を蔑ろにするような気がしたのだ。
    「……だから」
    「えっ?」
    ふと溢れた小さな呟きに、寝ていた水晶公の赤い耳がひょこ、と立つ。
    「あー……どうせ動くなら、ベッドの中にして貰おうかなと思って?」
    「んなっ……」
    ぼふ、と音が鳴りそうな勢いで水晶公の頬が茹で上がった。抱えた足のローブが少し引っ張られるような感覚からして尻尾も盛大に膨らんでいる事だろう。
    暫しぷるぷると震えてから、ぐぅと小さく唸る声と共に胸元のシャツが握られた。ぱりり、と鳴る音を聴きながらからからと笑う冒険者の声が夕焼けのクリスタリウムに溶けていった。
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