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    simoyo1206

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    月野帝国 これ https://poipiku.com/395676/6700050.html の続きだけどすごく書きかけ

    #ツキプロ

    青年将校自殺未遂事件資料③ 聴取書(三一六年三月二日)恐ろしい夢を見ました。
    見慣れているはずの街中に、知らない景色と知らない人が溢れかえっていました。閑静な住宅街の中にある小さな公園だったはずのそこは、青く輝く湖と、人の顔を模したと思しき、黄金色をした気味の悪いオブジェが聳える巨大な景勝地に変わってしまった。薄汚れた野盗の巣窟と成り果てたそこで、俺はそいつらに首を撃たれました。鞄を盗まれそうになったから抵抗しただけなのに、酷い人たちです。
    気づけば、学校のような場所に場面は切り替わり、そこには初等科の同級生たちがいました。当時は親しかったはずなのですが、今は全く疎遠になってしまった彼らととりとめもない会話を交わしました。けれど、俺はそこでもひとりぼっちでした。ああ、弓を習わないか、と同級生の一人が頻りに誘いをかけてきましたね。それも楽しいのかもしれません。
    首を撃ち抜かれたはずの俺は何事も無かったかのように生きていました。鏡を見ると確かに銃創が残っているし、至近距離から小銃を撃たれた感覚も、発砲音も、何もかもが鮮明に俺の記憶に刻まれていたのです。傷の心配をするどころが、何故かあの美しくも不気味な場所の話を暢気にしていた俺に、中等科の同級生だった女性はこう言いました。あんなの昔からあったじゃない。俺が知らないだけで、毎日過ごしているはずのここにも興味深いものがたくさん存在しているんですね。
    白衣を着た俺は二人の女性と一人の男性に見守られながら、何か、電線のようなものを握っては壁に作られた回路、みたいな……あ、あれに電線を近づけると、その度に電流が走って、頭の中が真っ白になる、怖いです。でもこのシーンは二度目です。前も同じ感覚を味わった記憶があります。最後まで遂げると、ちょうどスイッチを切ったように何にも考えられなくなって、倒れて、ああ、これが死ぬということなんだな、と遠のく意識の中で薄ぼんやりと死に想いを馳せながら、俺はいなくなってしまう。それでも俺はやらなけばならない理由がありました。俺と同様に白衣を纏った女性たちは悲痛な表情を浮かべ、しかし俺の死を望んでいる。彼女たちと世界を救う為に、俺は一度死ななければなりませんでした。大丈夫、事が済んだらまた目を覚ますんだから、ちょっと眠るだけみたいなものだ。俺は震えた声で虚勢を張りました。前と違ったのは、俺以外の仲間が三人もいたことでした。前は最後までひとりぼっちで、恐ろしくて、でも、今回はみんながいてくれるから、怖いけれど、それ以上になんとしてもやり遂げねば、と思えました。最後の回路に触れた俺の思考回路は急速に落ちていきます。倒れ込んだ俺を三人が支え、手を取り、何かを喋っているけどそれももう理解できない。死が光速で近づいてきて、それで、死んで、目が、覚め、ませんでした。前はここで目が覚めたのに、落としたはずの意識はゆっくりと、回復して、暗闇の中に、知らない男性が現れました。どうして死ななかったんだ、意気地無しめ、などと俺を罵倒した男性は、近づいて来る様子はありませんでしたが、真正面から俺を睨みつけていて、その瞳は濡れていて、けれど確かにあれは怒っていました。怖くなって思わず後ずさりしても男性との距離は全く縮まりません。死ねばよかったんだ、お前なんか生きていたって何の役にも立ちやしない、自分が一番よく分かっているだろう。そう言われて、何も、反論出来ず、ただ耳を塞ぎ、下を向いて、ひたすら耐えていると、ぱたりと罵声は止みました。恐る恐る、顔を上げると、男性は死んでいました。気が付いたら俺はどろりと黒い血が滴るナイフを握っていて、男性は滅多刺しになっていて、俺が殺したとしか考えられない状況でした。ナイフを放っても生暖かい血は俺の手にまとわりついて、離れません。
    暫く呆然としていると、どこからともなく声が聞こえてきて、俺に語りかけてきました。荘厳な雰囲気の男性の声でした。内容は覚えていませんが、俺はその声から逃れようと、必死に走りました。真っ暗闇の中をどれだけ走っても、光は見えなくて、でも、走るしかなくって、ひたすら、走ってもう何も分からなくなって、気が付いたら目が覚めていました。常夜灯がぼんやりと淡く光る、いつもの病室でした。

    どうして俺は、助かってしまったんでしょうか。何を犠牲にして、俺は今ここにいるのか、分からないんです。夢で殺したあの男はいったい何だったのか、こうやって先生に話しているうちに何かに気がつくことが出来たら、と思っていたのですが、余計に分からなくなってしまいました。
    駒井先生は俺の頭がおかしいからおかしなことを言っているのだと思っているかもしれないのですが、実際に『彼ら』は適合者を試すような幻を見せることがあります。俺の場合はそれが夢に現れたということなのでしょう。俺の青龍は、まだ俺を見限っていなかったのです。……『彼ら』でさえも戦いを強いるなんて、酷いですね。██など俺たちには初めっから与えられていなかったということなのでしょう。こんな目に遭ってからやっと気が付くなんて、我ながら愚かでした。
    俺は、戦場にいながら、死という概念を理解出来ていなかったのかもしれません。俺は臆病でした。俺は司令官だから、確かに最前線で戦闘行為を行い続ける必要はなかったのかもしれませんが、それにしたって撃墜数が少なすぎて、同じ司令官という立場の空(註一 大原空少尉。第三艦隊所属の適合者。)やオペレーターの剣介の半分もいかないなんて、きっと陰では笑い者にされていたことでしょう。安全な場所でのうのうと作戦を立てているだけで、ろくに戦えもしない司令官など信用出来るはずもありません。鈴木中佐(註二 鈴木永政中佐。第三艦隊所属。衛藤少尉の副官。非適合者。)には大変良くしていただきましたが、彼だって別に俺個人に何か思い入れがあったわけではなく、ただ職務を全うしていただけでしょう。それに、中佐は剣介が海に落ちた時、こう言ったんです。貴重な戦力を失うわけにはいかない。中佐は最初は剣介を見捨てようとしたんです。危険を冒してまで一人を助けになど行けないって。それなのに、剣介の能力を見たら目の色を変えました。俺は中佐のことを心から信頼していたのですが、なんだか急に冷めてしまったというか、ああ、この人も俺たち適合者を兵器か何かだと思っているのか、と気付いてしまって。
    鈴木中佐がそのような態度を見せたのは、あの時ただ一度きりでした。中佐は生真面目な方ですから職務に私情を挟まないように常日頃から心がけているのでしょうね。
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