夢花火4「随分と手懐けたもんだな」
虚空から突如声が響くのと同時に、霊幻の頭上にポンっと手のひらサイズの人魂が出現する
。
「何の力もない一般人のくせに、強力な超能力者二人従えて、顎でこき使えてよぉ」
緑色のボディ、両頬についた赤いほっぺ。
一見すれば、JKたちの間でブサカワと持て囃されても可笑しくない風貌のマスコットだが。
「なあ霊幻。さぞかし気分いいだろ?」
人魂が発する言葉は悪意に満ちあふれ、嘲ったものだった。
悪霊エクボ。
今でこそ弱々しい見た目になってるが、かつて強力な洗脳力で(笑)というカルト宗教団体の教祖をしてた上級悪霊である。
「本当、取り入って丸め込むのが糞みてーに上手いな。口だけでよくやるぜ。全く見ていて感心するぜ?反吐が出る」
「そりゃどうも。似たもの同士、小物同士、気が合うな」
「ああ?」
悪霊の顔から笑いが消える。
「てめーのくだらない仕事の手伝いと俺様の崇高なる夢、一緒にするな」
エクボの目的は「神になって皆に自分の存在を認めさせること」
神になるという野望を叶えるため、現在霊幻の弟子である影山茂夫の周りをうろつき、隙あらば「一緒に神になろうぜ」と誘ってる。
吐き捨てるように反論するエクボに、霊幻はやれやれと言わんばかりに肩をすくめた。
「同じだろ?モブの力を借りたいっていうのは」
「全然違ーよ!あいつは俺様が今まで見てきた奴とは比べものにならねえ、超ビックな能力者なんだ、こんなしょぼい事務所で、ドノーマルにこき使われるんじゃなくて、俺様と手を組んで神になった方が」
「俺のところに来てるってことは、まーたモブに追い払われたんだろ?」
「……っ」
図星だったらしく、エクボはムスっと機嫌悪く黙り込む。
「まあまあ。ここに顔を出しに来たってことは暇なんだろ?だったら暇つぶしついでに手伝ってくれよ。今から来る依頼人、新規で”本物案件”か分からないんだ。手伝ってくれたら俺は助かるし、お前も悪霊や呪い食って霊素補給できる。お互いウィンウィンだろ?仲良くやっていこーぜ」
「なっ……!俺様は上級悪霊だぞ!誰がてめーみたいな口だけのペテン師の言うことなんか」
一人と一匹、言い争ってる中。
「あのー……すみません」
控えめなノック音と共に、おそるおそるといった様子で、人が入ってくる。
「予約してた○○ですが……」
ゆったりとしたワンピース姿の若い女性で、手には大きな紙袋を携えていた。
しまった、もう来てしまった。
俺でも対処できる案件か、”本物”か。
チラっとエクボの方へ視線をやり、無言で助言を求めるも、当の悪霊はハンっと小馬鹿にしたように笑い、わざとらしくあらぬ方向へそっぽ向いた。
この野郎。
助太刀する気完全ゼロなエクボの態度に、霊幻の頬がひくつく。
モブの使いパシリのくせに生意気な。後でモブにチクってやる。
……仕方ない。ここは適当に誤魔化すしかないか。
”本物”だったら芹沢が帰ってきたときに頼めばいい。