酒精と夢と熱と「ヒバサくん、俺の代わりに愛弟子迎えに行ってあげてくれない…?」
「は?」
ころころと鳴く虫の音と、濃い黄金の満月を肴に酒を愉しんだ。
秋の終わり、冬の足音が聞こえてくるような澄んだ冷気が酒で火照った体にちょうどいい。
そのまま敷きっぱなしになっていた布団の上に転がって、晩酌終わりのとろとろとした眠気を味わう。ちょうど、夢と現の境目でふわふわと揺蕩う意識に身を委ねていると、戸を叩く音と、己を呼ぶ切羽詰まったような男の声がした。真夜中に、いきなり訪ねてくるのはどこのどいつだと苛立ちながら迎えれば、松葉色の毛髪と頬に走る傷が特徴的な元狩人の男だった。
思わぬ訪問者になんだなんだどうしたと土間に引き込むと、やけにしっかりと武具を着込んでいる。今しがた翔んで来たのか整えるように深い息を吐き、やや途切れ途切れに「夜中に、ごめん」と謝られた。せっかく気持ちよく惰眠を貪れそうだった手前、苛立ち紛れに「こんな夜更けになんだよウツシ教官?」と少しの嫌味を混ぜてやると、困ったように眉を下げられた。
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