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    さめしば

    @saba6shime

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    さめしば

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    奥武幼馴染みのSS⚠️20巻おまけ読了前提⚠️
    notカプのつもりですが冬→駿片思い風味かもしれない。歓迎会の時期など捏造要素アリ
    ※2022.12.04 加筆修正

    萌ゆる緑、吹き散る花片 言葉を交わすふたりの背中を、ただ見ていた。
     花曇りの夜空を背景に歩む後ろ姿は、現実の距離よりもずっと遠くにあるように感じられる。「控えでも満足だよ」と話す彼――ひとつ上の先輩の、穏やかで寂しげな笑顔を想像して、ぐっと胸が詰まった。その隣を歩く幼馴染みはきっと、僕には見せない顔をしている。
     一歩前へ出していた右足を後ろに引き、勢いよく踵を返す。ふたりの会話を盗み聞きする権利など自分にはないのだ。僕自身だって、スタメン争いを経て先輩より良い番号を勝ち取った当事者に他ならないのだから。
     それじゃそろそろ失礼しますと、近くにいた先輩たちに挨拶をしてから僕は足早にその場を辞した。歓迎会は賑やかに幕を閉じたのだ、この楽しげな雰囲気に水を差すわけにはいかなかった。行きと同じく、幼馴染みと歩くつもりでいた帰り道をひとり黙々と辿る。四月と言えどまだ肌寒さの残る夜だ。ひゅうと吹き抜ける風に肩を竦めて、カーディガンのポケットに手を突っ込んだ。猫背ぎみに丸まる姿勢は、自然と足元のほうへと視線を落とす。一歩、また一歩とスニーカーの爪先を前へ出し続けると、目先の景色にだんだんと変化が起き始め——やがて視界一面に広がったのは、桜の花びらが黒いアスファルトに描くまだら模様だった。いつの間にやら、桜の街路樹の植わった歩道に差し掛かっていたらしい。足を止め、ぱっと顔を上げてみれば、日中とはがらりと表情を変えた街並みがそこにあった。
    「綺麗……」
     思わずひとりごとがこぼれる。若葉の混ざり始めた桜の木が、直線道路沿いに列をなして並んでいる。滲んだような墨色の夜空、薄い雲間をじわりと照らす月。等間隔にともる街灯と、せわしく明滅する信号機。日常の一部に過ぎないそれらは、夜桜の名所には遠く及ばないかもしれないけれど。ざわつく心を持て余した今の僕を揺さぶるには、十分なほどに美しかった。見頃を越して葉桜へと移り変わる最中の木々には、淡く儚い花びらと、青々とした葉が互いを引き立て合うようにゆらゆらと揺れている。
     手放しで美しいと賞賛できるのに、なぜだろう——だからこそと言うべきか。遠くに見つめた彼らの会話と葉桜の在り方を、僕は一瞬のうちに脳裏で重ねてしまっていた。ふたたび視線を落とし、地面に散らばる花びらをぼうっと眺める。これらの去った場所で今は、若葉が活き活きと輝きを放っているのだ。確認するまでもないことを今一度反芻する。こんな発想はあまりに突飛で、どう考えたって馬鹿げているのに——単なる生命のサイクルと実力主義の世界を身勝手に重ね合わせて、あまつさえ動揺するだなんて。自分の想像力と影響されやすさに辟易する。けれど一度繋がってしまったイメージは、打ち消そうとしてもそう簡単に消えてはくれなかった。悶々と考えごとをする間にも、風に揺れる枝から花びらは散り落ち続けていた。

     時間にしておそらくほんの数分、立ち尽くしてしまっていたらしい。靄のかかる思考を遮って、軽快な足音がだんだんと背後に迫るのを聞いた。
    「おーい冬居! お前ー……って、道の真ん中で何やってんだ」
     聞き慣れた声のするほうを振り返り、よく知った顔をじっと眺める。
    「……山田さん。えっと、桜見てました」
     トトッ、と駆け足にブレーキをかけ、幼馴染みが僕の隣に立つ。走って後を追ってきたらしい。通るルートはどのみち同じなのだから、立ち止まれば追いつかれるという可能性を考えなかったわけではないけれど——時々、己の打算と無意識との境目が、わからなくなることがある。
    「へー! この道って夜はこんな感じなんだな。写真でも撮ってたのか?」
    「いえ。特には」
    「えー、もったいねーな。んじゃ俺は撮ろっと」
     斜め掛けのウエストバッグからスマートフォンを取り出した彼は、あれやこれやと良い構図を探り始める。なあ夜景撮るコツ教えろよ。知りませんよそんなもの。なんだよー冬居のケチ。何往復かの軽口を投げ合う。傍目から見ても雑な所作で撮影した割に、満足いく出来のものもあったらしい。彼はよしよしと頷いてから、レンズ越しでなく肉眼で桜並木に向き直った。
    「満開の頃にヴィハーン連れて花見行けりゃよかったんだけどなあ」
    「たしかに。そうですね」
    「今もじゅーぶん綺麗だけどよ。葉桜って見応えあるっつーか、花と葉っぱ両方楽しめてお得じゃん?」
    「……山田さんにも花を愛でる心があったんですね。知らなかった」
    「おま……ひっでー言い草だな、オイ」
     葉桜をチームの現状に重ね見た身としては、どうにも気まずい思いがあるのだ。誤魔化そうとして、つっけんどんな物言いがつい出てしまった。
    「……なあ冬居、なんか、もしかして機嫌悪い?」
    「へ」
     口を滑らせた自覚はもちろんあったけれど、まさかこのひとに機嫌の良し悪しを尋ねられるとは。珍しい事態に、一瞬呆気に取られる。
    「別に……なんともないですよ。お寿司も美味しかったし」
    「……ならいーけどよ。勝手に帰られたら驚くだろーが。置いてくなよ」
    「……話し込んでるみたいだったから」
     今度は彼の方が返答に詰まる。スマートフォンを鞄に仕舞い、「帰るか」とぽつりと言った。普段よりゆったりとした速度で歩き始めた彼の、少し後ろをついていく。
    「冬居」
     いつになく真剣な声色が僕を呼ぶ。歩みを速めて隣に並び、その横顔に浮かぶ感情を読み取ろうと努めた。
    「夏の大会だけどな。トーナメントまではヴィハーンを控えに温存するつもりで、今は考えてる」
    「そうなんですか」
     大きな驚きはない。チームの元々の実力でブロックを勝ち抜きたい、といったところか。
    他人事ひとごとみてーなリアクションしやがって……決勝リーグに勝ち上がれても、お前が攻撃に出る機会はほとんどねーだろうって話だぞ」
    「僕はその方が気楽でいいです」
    「そう言うだろうなあ、冬居なら」
     ふっと息を吐くように彼が笑った。部長としての顔と、僕の幼馴染みとしての顔とを行ったり来たりしているように見える。
     彼の切り出した話に、ざわついていた気持ちが凪ぎ始めるのを感じた。——このひとは、何ひとつ切り捨てることなく進んでいくんだな。遠く異国で燻っていた友人も、このチームで勝つという目標も、スタメンから零れ落ちた先輩の思いも——おまけに、僕のちっぽけなプライドさえ。そして最後には、何もかもひっくるめて作戦通りだと、いつものようにしたり顔で笑うのだろうか。
    「……プレッシャーが減るなら、それに越したことはないですから」
    「まーな。つってもトーナメントはあくまでお前がメインレイダーなんだからな。そこは冬の大会と同じだ。けど、お前の調子次第じゃヴィハーンを頼る作戦に切り替えちまうぞ」
    「わかってますよ。とにかく決勝に駒を進めることが第一、でしょ」
    「そのとーり! 決勝で世界組のやつらと戦って、誰が一番強いか決着つけられりゃ、俺はそれで……」
     それで——その先に、何を見ているの?
     彼の内に消えていった言葉を訊ねることは叶わなかった。何かを誤魔化すようにぐっと俯いたその横顔から、僕は咄嗟に目を逸らす。深く思い悩んでいる様子の一端を、耳を澄ませても聞こえないほど小さく孤独な叫びを、近頃の彼は時々覗かせることがあるけれど——その厚い扉を叩く覚悟が、僕にはまだ足りないとわかっていた。己の臆病さに、ぎりりと歯噛みをする日々。
     すぐにぱっと顔を上げた幼馴染みは、わざとらしいほど明るい表情を顔に貼り付けていた。
    「ま、冬居が決勝で活躍するチャンスは来年もあるもんな!」
    「……そう、ですね」
     ——駿君。僕らが同じコートに立てるのは、今年しかないんだよ。
     音に乗せない想いは、喉の奥へ飲み込んだ。
     一生に一度しかないこの夏を思う。ひときわ強い風が一陣、びゅうと吹き荒び、桜吹雪を派手に舞い上げる。風の運んでくる冷ややかな空気に纏わりつかれては、夏の熱気をただ想像することさえ僕には難しい。桜並木を通り抜け、ふたり肩を並べて残りの家路を辿る。燃えるような季節はまだ遥か遠く、未知を抱えて待ち構えているのだった。
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    さめしば

    TRAINING付き合ってる冬駿のSS
    お題「黙れバカップルが」で書いた、井浦と山田の話。冬居はこの場に不在です。
    お題をお借りした診断メーカー→ https://shindanmaker.com/392860
    「そういえば俺、小耳に挟んじゃったんだけどさ。付き合ってるらしいじゃん、霞君とお前」
     都内のとあるビル、日本カバディ協会が間借りする一室にて。井浦慶は、ソファに並んで座る隣の男——山田駿に向け、ひとつの質問を投げ掛けた。
    「……ああ? そうだけど。それがどーしたよ、慶」
     山田はいかにも面倒臭そうに顔を歪め、しかし井浦の予想に反して、素直に事実を認めてみせた。
    「へえ。否定しないんだ」
    「してもしゃーねえだろ。こないだお前と会った時に話しちゃったって、冬居に聞いたからな」
     なるほど、とっくに情報共有済みだったか。からかって楽しんでやろうという魂胆でいた井浦は、やや残念に思った。
     二週間ほど前のことだ、選抜時代の元後輩——霞冬居に、外出先でばったり出くわしたのは。霞の様子にどことなく変化を感じ取った井浦は、「霞君、なんか雰囲気変わったね。もしかして彼女でもできた?」と尋ねてみたのだった。井浦にとっては会話の糸口に過ぎず、なにか新しいネタが手に入るなら一石二鳥。その程度の考えで振った一言に返ってきたのは、まさしく号外級のビッグニュースだった。——聞かされた瞬間の俺、たぶん二秒くらい硬直してたよな。あの時は思わず素が出るとこだった、危ない危ない。井浦は当時を思い返し、改めてひやりとした。素直でかわいい後輩の前では良き先輩の顔を貫けるよう、日頃から心掛けているというのに。
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    さめしば

    MOURNING※供養※ 灼カバワンドロワンライのお題「食欲の秋」で書き始めた作品ですが、タイムアップのため不参加とさせていただきました。ヴィハーンと山田が休日にお出掛けする話。⚠️大会後の動向など捏造要素あり
     しゃくっ。くし切りの梨を頬張って、きらきらと目を輝かせる男がひとり。
    「……うん、おいしー! すごくジューシーで甘くって……おれの知ってる梨とはずいぶんちがう!」
     開口一番、ヴィハーンの口から出た言葉はまっすぐな賞賛だった。「そりゃよかった」と一言返してから俺は、皮を剥き終えた丸ごとの梨にかぶりついた。せっかくの機会だ、普段はできない食べ方で楽しませてもらおう。あふれんばかりの果汁が、指の間から滴り落ちる。なるほどこれは、今まで食べたどの梨より美味い。もちろん、「屋外で味わう」という醍醐味も大いに影響しているのだろう。
     ——俺とヴィハーンはふたり、梨狩りに訪れていた。

     長かった夏の大会が幕を閉じ、三年生はみな引退し、そしてヴィハーンは帰国の準備を着々と進めていた十月下旬のある日——「帰る前になにか、日本のおいしいものを食べたい!」ヴィハーンから俺に、突然のリクエストが降って湧いたのだった。
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