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    さめしば

    @saba6shime

    倉庫兼閲覧用。だいたい冬駿

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    さめしば

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    冬駿のSS リクエストより「冬居の独占欲」の話。相互フォロワー様のお誕生日祝いとして書きました。⚠️大学生同棲設定
    改稿 2022.12.03

    ##冬駿

    オンリー・ワン、オンリー・ユー 早朝六時前、アパートの玄関先。朝帰り明けの俺を出迎えた冬居の表情は、ありありと不満げな色に満ちていた。
    「……おかえりなさい」
    「あー……ただいま」
     できる限り静かに鍵を開けドアを閉め、そろりそろりと部屋に上がる算段だったのだが。ぬっと現れた大きな人影に思わず声を上げそうになったせいで、まだ心臓がバクバクしている。
    「……起きんのはえーな。バイトも休みだろ、今日」
    「別に? たまたま目が覚めちゃったので。朝ご飯の支度でもしようと思ってたところです」
     事実かはたまた口から出まかせか。判断しかねて、冬居の顔をじっと眺めてみる。不機嫌そうにめ付けてくる瞳の下に滲む隈が、普段よりもやや濃いように思えた。——罪悪感の芽が、胸の奥で不意に頭をもたげる。
    「……早く上がったらどうです」
     観察されていると気付いたらしく、冬居はふっと目を逸らす。気まずい空気が狭い空間を満たして、バツの悪さが俺の内でますます育つのがわかった。
    「……シャワー浴びてくるわ」
     脱ぎかけだった靴を玄関に放る。部屋の中へ足を踏み入れ、突っ立っている冬居の横をするりと通り過ぎた。タンスから着替えを引っ掴めば、その後はもちろんバスルームへ直行だ。爽やかとはとても言えない一日の始まりに、どうしたものかと内心頭を抱えながら。

     飲み会の予定は事前にきちんと伝えてあったのだ。俺に落ち度があるとすれば、予想以上の盛り上がりに時間を忘れ、うっかり終電を逃したことくらいのものだろう。友人の部屋で雑魚寝する流れになったあとすぐに連絡を寄越したし、謝罪の一言も忘れず書き添えた。やましい事実など、当然ひとつもありはしないのに。なんだってこんなにも、胸の中が後ろめたさに覆われていくのだろうか——先ほどの冬居の様子を思い返してみて、はたと気付く。シチュエーションは少し違えど、あの表情とどこか重なるものを昔見た覚えがあった。なるほど、それが原因か。罪悪感をやけに刺激されるのは。子供らしく感情を表に出していた頃の、小さな幼馴染みの姿が脳裏に蘇った。

     俺達がまだ、うんと幼かった頃の話。その日は珍しく冬居のほうから遊びの誘いをかけに、我が家を訪ねてきたんだっけ。わりーけどさ、今日はクラスのやつと約束してんだよ。そう言って誘いを断った俺を見上げる冬居の表情は、子供心にも印象的なものだった。えっ、と声を溢してから一瞬傷ついたような顔を見せたのち、正面に立つ俺を責めるような視線でじっとりと見つめ返してきたのだ。眉間に皺を寄せ、眉尻はいつもよりやや上がり気味に、何か言いたげな唇の先はきゅっと尖らせて。年下の友人が送る視線の強さに、少なからず動揺させられたのをよく覚えている。自分は悪いことなど何もしていないはずなのに、なぜそんな目で見られなければならないのか——妙な居心地の悪さを感じた俺は、しょーがねーだろ約束なんだからと言い捨て、玄関先に冬居を残してさっさと中へ引っ込んだのだった。たしか、俺が小学校に上がった年のことだっただろうか。世界が大きく広がり始めた俺との間に見えない溝を感じ、あいつとしては面白くない気分だったのかもしれない。成長した今振り返ればなんてことのない、ただかわいらしいだけの思い出だ。当時の自分にしてみれば、ささやかな苛立ちを覚えた出来事であると共に——冬居にとって俺は「とくべつ」なんだな、と遅い自覚が芽生えた瞬間でもあった。

    「あっ、こら」
     右の肩甲骨の辺りに、ちりりと鋭い痛みが走る。
    「隠れるとこならいいんでしょ?」
     唇を皮膚から離して冬居が囁く。吐息のかかる場所から、ざわりと肌が粟立って広がるのを感じた。
    「……むやみにつけんじゃねーぞ」
     シャワーを終え洗面所から出た俺を待っていたのは、焦れた様子の冬居による緩い拘束だった。さっと手首を掴まれ、すたすたと足早にソファへ連行され、背後から抱き竦められる形で腰掛けているのが現状だ。Tシャツを着る暇さえなく、上半身は裸のままで。しばらく無言でくっついていたかと思えばもぞもぞと動き出し、断りもなしにキスマークをお見舞いしやがるとは。これで機嫌が好転するなら甘んじて受けてやらないこともないけれど、腰に回った腕の力が伝える切実さに、まだまだ時間を要するらしいと経験が嗅ぎ取る。
     子供の頃の冬居は、俺を独占できない時に不満げな表情をすることが時折あった。けれど成長するにつれて、そういった態度を取ることは綺麗さっぱりなくなっていった——はずだったのだが。恋人同士となった現在はまた、昔と同じ表情を大人びた面立ちに乗せて見せることが、度々ある。昔と今とでは、感情の出所は大きく違うだろうけど。ただの幼馴染みを続けていては知らないままだったであろう冬居の側面に、逃れようのないむず痒さを覚える。もしかすると、物分かりが良くなったように見えていた頃のあいつは、感情を隠すのが上手くなっただけだったのかもしれない——などと考えてしまうのは、行き過ぎた自惚れだろうか。

     またひとつ、背中にちゅっと甘い痛み。
    「……随分と大人しいですけど。考えごと? ゆうべ、何かありましたか」
     こんな風に小狡い尋ね方ができる程度には、こいつも大人になったらしい。寂しかったと素直に擦り寄ってくれれば、こっちだってもっと直球に甘やかしてやれるのに。お互い、損な性分に生まれたらしい。小さな溜め息が自然と零れる。
    「バーカ、なんもねーよ。ただ」
    「……ただ?」
    「ガキの頃のお前はかわいかったなって、ちょっと思い出してただけ」
    「ああ。よく言われました」
    「ったく。かわいくねーなあ」
     間の抜けたやり取りのおかげか、冬居の腕の力がほんの少し緩んだ。囲われた狭い空間で、体をやや強引に後ろへ向けて冬居の顔を間近で見据えてみる。驚きに軽く見開かれた瞳と、むすっと引き結ばれた口元と。
    「あんだよ、まだぶー垂れてんのか」
     くすりと揶揄えば冬居の唇が尖り始めて、ますます子供っぽい雰囲気を纏った。その様子がなんとも可笑しくて、口元がついついにやついてしまう。幼い頃の、柔らかい曲線を描く輪郭からはとうにかけ離れてしまったけれど——今は今で、それなりにかわいいと思ってやらなくもない。
    「で? いつ機嫌直んの」
    「別に悪くないです」
    「どの口が言ってんだか」
     さらりと嘘を紡ぐ唇を、指でむにゅっと上下に挟んでやった。するとどうやら癇に障ったらしく、眉間の皺を深くした冬居はがばりと素早く行動に出る。俺の両脇の下に手を差し入れ体を持ち上げ、器用に脚まで使い、あっという間に冬居の腰に跨る体勢を取らされて——無防備な胸元に顔をうずめてきたかと思えば、その唇が肌を強く吸い上げた。正面からぶつけられる小さな痛みに、俺は思わず顔をしかめる。
     冬居がゆっくりと顔を上げる。唇の去った場所、左胸の上部に点々と滲む赤い跡を、残した唾液の光る様を、自分の目でもしっかりと確認できた。もともと肌の色が濃いおかげで、キスマークはあまり目立たないはずなのだが——早朝の清浄な空気には似つかわしくない光景を、レースカーテン越しの日光がくっきりと照らし出す。二人一緒に同じところを注視するこの瞬間が、やけに俺の羞恥心を刺激した。背筋にぞくぞくと甘い痺れが走ったことを冬居に気取けどられないよう、注意深く息を押し殺す。
    「……怒らないんですか」
     言われてみれば確かに、選ぶ服によっては隠せない位置かもしれない。けれど、朝帰り明けの気だるい身体を冬居の体温ですっかり解されてしまったせいだろうか、わざわざ目くじらを立てる気分にはとてもなれなかった。こちらの機嫌を窺うような瞳と、正面から視線がぶつかる。——そうやって眉を下げた上目遣いに俺が弱いってこと、知ってるんじゃねーだろーな、こいつ。
    「……今日は特別、な」
    「ふうん……じゃあ、あとひとつだけ」
     冬居がまた胸元に顔をうずめる。さらさらした髪が肌にこすれる感触と、押し付けられる唇の熱さに肩がぶるりと震えた。あとひとつと宣言したからには、冬居はきっとそれを律儀に守るのだろう。けれど俺のほうは、この先に待っているはずの行為を意識する段階まで、既に気分を押し上げられてしまっていた。一丁前に焦らしてるつもりか? 機嫌を取ってやってるのは、こっちのはずなのに——自分からではなく、冬居にもっと欲しがらせるための策を求め、思考を巡らせてみる。すると眼下に晒された白い首筋が、欲に駆られる好奇心を強く刺激した。俺がもし、「お前にもおんなじやつつけてやろうか」って訊いたら、どんな顔を見せてくれるだろう? 思いついたが最後、どうしても試してみたくなって、冬居が次に俺を見上げるその瞬間が待ち遠しくてたまらない。
     別に、跡を残して冬居自身を独占したいわけじゃない、俺にしか向けない表情を見たいだけだ——そう思うことの何がおかしい? 誰に咎められるでもないのに心の中で言い訳をして、つむじを見下ろしながらじっと待つ。冬居が俺に向ける感情ごとちくちく刺さるような痛みを皮膚に残して、唇がそっと離れた。
    「……なあ、冬居」
     そんなに俺を独占したいのなら、俺にもお前を独占させてくれよ。
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    さめしば

    TRAINING付き合ってる冬駿のSS
    お題「黙れバカップルが」で書いた、井浦と山田の話。冬居はこの場に不在です。
    お題をお借りした診断メーカー→ https://shindanmaker.com/392860
    「そういえば俺、小耳に挟んじゃったんだけどさ。付き合ってるらしいじゃん、霞君とお前」
     都内のとあるビル、日本カバディ協会が間借りする一室にて。井浦慶は、ソファに並んで座る隣の男——山田駿に向け、ひとつの質問を投げ掛けた。
    「……ああ? そうだけど。それがどーしたよ、慶」
     山田はいかにも面倒臭そうに顔を歪め、しかし井浦の予想に反して、素直に事実を認めてみせた。
    「へえ。否定しないんだ」
    「してもしゃーねえだろ。こないだお前と会った時に話しちゃったって、冬居に聞いたからな」
     なるほど、とっくに情報共有済みだったか。からかって楽しんでやろうという魂胆でいた井浦は、やや残念に思った。
     二週間ほど前のことだ、選抜時代の元後輩——霞冬居に、外出先でばったり出くわしたのは。霞の様子にどことなく変化を感じ取った井浦は、「霞君、なんか雰囲気変わったね。もしかして彼女でもできた?」と尋ねてみたのだった。井浦にとっては会話の糸口に過ぎず、なにか新しいネタが手に入るなら一石二鳥。その程度の考えで振った一言に返ってきたのは、まさしく号外級のビッグニュースだった。——聞かされた瞬間の俺、たぶん二秒くらい硬直してたよな。あの時は思わず素が出るとこだった、危ない危ない。井浦は当時を思い返し、改めてひやりとした。素直でかわいい後輩の前では良き先輩の顔を貫けるよう、日頃から心掛けているというのに。
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    さめしば

    MOURNING※供養※ 灼カバワンドロワンライのお題「食欲の秋」で書き始めた作品ですが、タイムアップのため不参加とさせていただきました。ヴィハーンと山田が休日にお出掛けする話。⚠️大会後の動向など捏造要素あり
     しゃくっ。くし切りの梨を頬張って、きらきらと目を輝かせる男がひとり。
    「……うん、おいしー! すごくジューシーで甘くって……おれの知ってる梨とはずいぶんちがう!」
     開口一番、ヴィハーンの口から出た言葉はまっすぐな賞賛だった。「そりゃよかった」と一言返してから俺は、皮を剥き終えた丸ごとの梨にかぶりついた。せっかくの機会だ、普段はできない食べ方で楽しませてもらおう。あふれんばかりの果汁が、指の間から滴り落ちる。なるほどこれは、今まで食べたどの梨より美味い。もちろん、「屋外で味わう」という醍醐味も大いに影響しているのだろう。
     ——俺とヴィハーンはふたり、梨狩りに訪れていた。

     長かった夏の大会が幕を閉じ、三年生はみな引退し、そしてヴィハーンは帰国の準備を着々と進めていた十月下旬のある日——「帰る前になにか、日本のおいしいものを食べたい!」ヴィハーンから俺に、突然のリクエストが降って湧いたのだった。
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