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    さめしば

    @saba6shime

    倉庫兼閲覧用。だいたい冬駿

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    さめしば

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    付き合ってる冬駿のSS
    募集したリクエスト「一生俺について来い」で書きました。
    ⚠️二人の母親捏造、未来捏造、幼少期捏造、成人後の飲酒描写あり。

    ##冬駿

    Please, put a spell on me.「そういえば結局、駿君の言ったとおりになっちゃったわねえ」
     僕のインド行きが目前に迫ったある夜、実家で食卓を囲んでいた時のことだった。母が口にした唐突な言葉に、その場の全員がぱっと注意を向ける。もちろん、僕も例に漏れず。
    「……母さんそれ、なんの話? 言ったとおり、って」
     んー、と間延びした声を上げる母は、記憶を辿りつつゆっくりと語り出す。
    「昔、ふたりして近所で迷子になったことあったでしょ。小学校一年二年の頃だったかな。そのとき駿君が言ってたこと、なんか突然思い出しちゃって」
     懐かしむように目を細めた母に、「あーそれ、覚えてる覚えてる!」と素早い反応を見せたのは、隣に住む山田家のおばさんだった。
    「そーそー、あの時はほんっと心配したんだから。そこの公園行ってくるーって出掛けたはずが、五時過ぎてもなかなか帰ってこなくてね」
    「そろそろ探しに行ってみようか、って家の前で山田さんと相談してたのよねえ。そしたらちょうど、手繋いで歩いてくるのが見えて」
    「いざ、親子二組感動の再会! ……って思うじゃない? なのに冬居君ったら、ママじゃなくて駿に抱きついちゃったの! あたしたちも駿も、呆気に取られちゃってさ」
    「へ」
     予想外の展開に、僕は思わず大きく瞬きをした。語り手のおばさんは、尚も饒舌に続ける。
    「『駿君についてってよかった、ぼくと一緒にいてくれてありがとう』って、泣きじゃくりながら駿にぎゅうぎゅうしがみつく冬居君、ほんっとかわいかったなー」
     ——いやいやいや。そもそも、迷子になったのはどう考えたって駿君が原因だろうに。近所だからと言って、この僕が率先して知らない道へ足を伸ばすなんてあり得ないはず。そこに気付く程度の冷静ささえ、当時の自分は失っていたということか。
    「そうそう。はじめはちょっと戸惑ってた駿君も、だんだん得意げになってったの覚えてる。で、そのとき駿君が言ったのが……」
     母親ふたりが、示し合わせるように人差し指を立ててから、同時に口を開く。
    「『冬居、一生俺についてこい!』」
     ——え。なにそれ、ちょっと待って。「一生」だって?
     思ってもみなかった台詞が飛び出して、グラスを取ろうとしていた右手が止まる。一方、不自然に固まった僕なんて完全に蚊帳の外で、ふたりはきゃっきゃと笑い合っている。
    「私もうおかしくって。駿を叱りつけようとしてたのも忘れて、思わず吹き出しちゃったよね、お互い」
    「そう! ほんとびっくりしたなあ、あれは。この歳で『一生』は大きく出たわね! って」
    「あんな言い回し、いったいどこで覚えてきたんだか。……ね、冬居君は覚えてないの? あのときのこと」
     おばさんが僕に水を向ける。内心の動揺を隠し通さなければ、と姿勢を正した。
    「……迷子になったこと自体は記憶にありますけど、それ以外はあんまり」
    「なんだ、そうなの? 残念」
     むしろ、綺麗さっぱり忘れてくれていた自分に感謝するべきかもしれない——一生俺についてこい、だなんて。今まさに人生の転機を迎えようとしている僕にとって、その台詞は十分すぎるほど重く響いてしまうから。
    「けど、子どもの言うことだからって馬鹿にできないなって。やっとわかったかも、私」
     感慨深そうに微笑む母が、優しいまなざしで僕を見る。
    「あの泣き虫だった冬居が、はるばるインドまでついてっちゃうんだから。ほんとに、駿君の言ったとおりになっちゃった」
    「……ちょっと大袈裟じゃない? 一生なんて、まだまだわからないでしょ」
     僕たちまだ二十代なんだけど、と付け足せば、山田のおばさんが「それ!」と食い付いてくる。
    「冬居君、あのときもおんなじようなこと言ってた! 『一生なんてよくわかんないよ、具体的に何歳まで?』だったかな……泣き止んだと思ったら駿のこと問い詰め始めたの。そこは突っ込むんだーって思ったら、更に面白くて」
    「ああ、言ってた言ってた。『一生は一生だろ!』ってちょっと怒ってる駿君、かわいかったなあ」
     遠い記憶を見つめるように目を細める母と、ふと視線が交わった。
    「あのときみたいに細かいこと言って、駿君のこと困らせちゃダメよ。これからは、ね」
    「……振り回されるのは、だいたい僕の役目なんだけど?」
     それはそうだ! と、笑い声がどっとダイニングに響く。送別会の夜は、こうして賑やかに更けていったのだった。


    「ねえ駿君。『一生俺についてこい』って僕に言ったの、覚えてる?」
    「ああ? んだよそれ」
     柄の悪い返事を繰り出したのは、キッチンから戻ってきた僕の恋人だ。この部屋の主でもある彼はつまみの皿をローテーブルに置き、どっかりと僕の隣に腰掛けた。ソファが少し沈んで、傾いた肩同士がトンとぶつかる。
    「こないだ母さんたちが盛り上がってたんですよ。小学生の頃、ふたりで迷子になったあとのことだって。……僕は、覚えてないんですけどね」
     彼は腕組みをしてから、目を閉じてうーんとひとつ唸ってみせた。とりあえず思い出そうとしてくれるところを見るに、自分ならそんな大それたことだって口にするかもしれないという自覚があるらしい。藪蛇をつつくような行為は、今は控えておくけれど。
    「ダメだ。ぜんっぜん思い出せねーわ」
    「……ふうん。そっか」
     よかった、忘れてくれてて。僕はこっそりと胸を撫で下ろした。彼が万が一、自身の言葉をずっと覚えていたとしたら、そのとおりについて行き続けた僕のこと、どんな思いで見てきたんだろう——そんな可能性に行き当たってしまった結果、尋ねずにはいられなかったのだ。
    「迷子っつーとたしか……普段行かねー方向にお前連れてって、しばらく迷ったあれか。帰れた時のことはあんまし覚えてねーなあ」
     駿君も僕と同じく、迷子になったエピソード自体は記憶にあるらしい。いつもの道と似ているようでどこか違う、見知らぬ住宅街をぐるぐると彷徨ったあの体験は、やはりどうしたって強烈に残り続けるものなのだろう。と言っても僕の場合、刻み込まれたのはなにも恐ろしいだけの記憶ではなかった。不安と恐怖でどうにかなりそうな僕の手を片時も離さずにいてくれた、あの頼もしい温度は今でもちょっとした宝物だ。ふたり一緒だったからこそ無事に帰れたのも——そもそも、彼と一緒でなかったなら迷わずに済んだであろうことも。きっとどちらも、真実には違いない。
    「……にしても。『一生』、ねえ?」
     ソファの肘掛けに頬杖をついた、にやにや笑いが僕を眺めている。それはそれは嬉しそうな顔をして。
    「……言ったのは駿君でしょ」
    「実行してんのは冬居だろ?」
     機嫌良く缶ビールを傾ける彼の、喉仏がこくこくと動く。小さな子どもの放言に、今さら振り回されてあげるつもりはないけれど——今隣にいるこのひとの言葉であったとしたら、それはまったく別の話だ。
    「……ねえ。もう一回、言ってくれないんですか?」
     横顔がぴたりと止まって、口から缶を離す。
    「……冬居。今なんつった?」
    「同じ台詞、言ってくれたらいいのになって」
    「……さてはもう酔ってんな、お前」
    「まさか。このくらいで酔うわけないでしょ」
     残り少ないビールの缶をぐびりと呷る。つい先ほど初めて口にした、まだ飲み慣れない風味が鼻をスッと抜けていった。日本のビールとはまるで違う「これ」が、いずれは僕の日常の一部になっていくのだろうか——そんなことを考えかけてから、それはやっぱりなさそうだなと思い直す。日本のようにそこら中でアルコールを入手できるわけではないこの国じゃ、飲酒の習慣は身につかないことだろう。お互い元々、好んで飲むタイプでもないのだ。駿君が自宅の冷蔵庫にお酒を用意してくれたのは、今日が特別な日だからだ。僕がこの国で、彼のそばで、新しい生活をはじめる日。

    「……それで? 言ってくれるんですか、くれないんですか」
     酔ってはいないつもりだけど、少し気が大きくなっているらしい僕は今一度彼に食い下がった。
    「……言う意味あんの、それ。ここまで来といて?」
    「大アリですよ。人生長いんだから」
     もらったことさえ忘れてしまっていた言葉が、知らぬ間に僕の中に残り続けて、その結果今この場所へと導いてくれたのだとしたら——それってなんだか、おまじないみたいだ、と思った。だからつい欲張りたくなってしまったんだ、今ここでもう一度口にしてくれたなら、って。途方もなく続く未来に、改めて掛けるおまじないを。そのたったひとことの効力が、それこそ一生だって輝き続けてくれるかもしれないから。もちろんそんな根拠はまったく存在しないし、ひどくロマンチストじみた発想だとよくわかっているけれど。もしかしたら僕は、彼の言ったとおりとっくに酔いが回っているのか——あるいは、しばらくぶりの再会そのものに酔いしれている、そのどちらかだ。
     はあ、とひとつ大きな溜め息をついた僕の恋人が、困ったような笑みを浮かべる。
    「……わーったよ。お前がすっかり忘れちまった頃になら、言ってやってもいいぜ。『もう日本帰りたいです』って、ベソかいた時とかな」
     困ったような優しい笑顔は、いつの間にかいたずらっぽい色に変わっていた。
    「なにそれ。泣くわけないでしょ、この歳で」
    「わかんねーだろ、人生長いんだし?」
    「……駿君のいじわる」
     不満を表すために尖らせた唇へ、不意にキスが降ってくる。ちゅっと吸って、食んで、上唇をぺろりと舐められて。久しぶりに味わう彼の唇は、缶ビールの味がした。
    「……なんか、誤魔化そうとしてません?」
    「これでじゅーぶんだろ、今日のところはさ。な、冬居?」
     僕の襟足に指を絡ませ、愛しげに目を細め、彼は陶然と笑って見せた。——このひとは、子どもの頃も今も、本当にずるい。こんな表情を向けられてしまったら納得するしかないじゃないか。仕方がないから、彼の言うとおり今日のところは誤魔化されてあげるとしよう。それに今は、そばにいられるということをただ純粋に喜び合いたいとも思う。人生ふたつぶんを懸けるおまじないは、まだ少し先の未来に託したままで——。
    「……じゃあ、もっとください。じゅうぶんだって、思い知らせてよ」
    「いい返事」
     いとしいひとはにやりと不敵に笑って、また僕の唇を迎えに来る。——より長く、いっそう深くなるキスが、僕の舌に異国の味をじっくりと塗り込めて馴染ませてゆく。その唇はどんな言葉を紡ぐより雄弁に、新たな日々のはじまりを言祝いでいるのだった。
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    さめしば

    TRAINING付き合ってる冬駿のSS
    お題「黙れバカップルが」で書いた、井浦と山田の話。冬居はこの場に不在です。
    お題をお借りした診断メーカー→ https://shindanmaker.com/392860
    「そういえば俺、小耳に挟んじゃったんだけどさ。付き合ってるらしいじゃん、霞君とお前」
     都内のとあるビル、日本カバディ協会が間借りする一室にて。井浦慶は、ソファに並んで座る隣の男——山田駿に向け、ひとつの質問を投げ掛けた。
    「……ああ? そうだけど。それがどーしたよ、慶」
     山田はいかにも面倒臭そうに顔を歪め、しかし井浦の予想に反して、素直に事実を認めてみせた。
    「へえ。否定しないんだ」
    「してもしゃーねえだろ。こないだお前と会った時に話しちゃったって、冬居に聞いたからな」
     なるほど、とっくに情報共有済みだったか。からかって楽しんでやろうという魂胆でいた井浦は、やや残念に思った。
     二週間ほど前のことだ、選抜時代の元後輩——霞冬居に、外出先でばったり出くわしたのは。霞の様子にどことなく変化を感じ取った井浦は、「霞君、なんか雰囲気変わったね。もしかして彼女でもできた?」と尋ねてみたのだった。井浦にとっては会話の糸口に過ぎず、なにか新しいネタが手に入るなら一石二鳥。その程度の考えで振った一言に返ってきたのは、まさしく号外級のビッグニュースだった。——聞かされた瞬間の俺、たぶん二秒くらい硬直してたよな。あの時は思わず素が出るとこだった、危ない危ない。井浦は当時を思い返し、改めてひやりとした。素直でかわいい後輩の前では良き先輩の顔を貫けるよう、日頃から心掛けているというのに。
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    さめしば

    MOURNING※供養※ 灼カバワンドロワンライのお題「食欲の秋」で書き始めた作品ですが、タイムアップのため不参加とさせていただきました。ヴィハーンと山田が休日にお出掛けする話。⚠️大会後の動向など捏造要素あり
     しゃくっ。くし切りの梨を頬張って、きらきらと目を輝かせる男がひとり。
    「……うん、おいしー! すごくジューシーで甘くって……おれの知ってる梨とはずいぶんちがう!」
     開口一番、ヴィハーンの口から出た言葉はまっすぐな賞賛だった。「そりゃよかった」と一言返してから俺は、皮を剥き終えた丸ごとの梨にかぶりついた。せっかくの機会だ、普段はできない食べ方で楽しませてもらおう。あふれんばかりの果汁が、指の間から滴り落ちる。なるほどこれは、今まで食べたどの梨より美味い。もちろん、「屋外で味わう」という醍醐味も大いに影響しているのだろう。
     ——俺とヴィハーンはふたり、梨狩りに訪れていた。

     長かった夏の大会が幕を閉じ、三年生はみな引退し、そしてヴィハーンは帰国の準備を着々と進めていた十月下旬のある日——「帰る前になにか、日本のおいしいものを食べたい!」ヴィハーンから俺に、突然のリクエストが降って湧いたのだった。
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