鵲カチリ、カチリ、と、何かが当たる音がした。
ソファに腰掛け、本を読んでいた武市は、その微かな音の出処である窓の外へと視線を上げると、ベランダの手摺に一羽の鳥が止まっていた。
カラスかと思ったが、一回りほど小ぶりで、何よりその体は黒一色では無く、頭から背、尾にかけては黒色で、腹側は白色という二色のコントラストが際立つ色合いをしていた。流線形の細身の体に対して尾が随分と長い。
「どうかなさいましたか?先生……」
窓の外を凝視している己を不審に思った同居人の新兵衛の呼びかけに、反射的に「静かに」の意をこめて人差し指を唇の前に立てて声を制する。
俄に新兵衛は気配を消し、音も無く武市の傍へ侍る。───私が妙な事をしたせいで警戒させてしまったらしい。
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