貴方しかいない「好きって言ったら怒る?」
出し抜けに太宰からそう訊かれて、敦は何のことだろうと口を半分開いたまま振り返った。
今は事務所の応接室に飾る花を敦が生けているのだが、傍のソファに太宰がゆったり沈み込んでいる。
――好き? 太宰さんが好きって言うと僕が怒るかもしれないもの……?
「なんの、ことですか……?」
敦はおそるおそる訊いてみた。心臓がばくばくして口から飛び出そうなのを堪えながら。
「私が、敦君以外の人を」
予想した通りの台詞を口の端に乗せて太宰は微笑む。
「勿論、仮定の話としてだけど」
敦は重いため息をついた。
「……怒りませんよ。僕なんかよりその人のほうが太宰さんにお似合いでしょうし」
そこで太宰は眉根を寄せて不機嫌な顔をした。
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