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    高間晴

    @hal483

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    高間晴

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    敦太800字。鍋が美味しい季節です。

    ##文スト
    #BSD
    #敦太
    dunta

    すき焼き 敦と太宰は日用品の買い出しに出ている。
     太宰が台所用品の売り場を見回しながら歩いている。と、目に留まったそれに思わず感嘆の声をもらす。
    「あ、これいいな~。ねえ敦君、これ買おう?」
    「なんですか?」
     敦はカートを押しながら後ろからついてきた。太宰が嬉しそうな顔で指差すのは、底が浅めの平たい鍋だ。
    「すき焼き用の鍋。
     ほら、私って今まで一人暮らしだったから、鍋なんてなかなか出来なくてさあ」
    「いいですね。僕も鍋とかそういう料理ほとんど食べたことなくて」
     ふたりとも納得して鍋を買うと、家路を辿った。
     帰り道に、敦がなにか云いたげにしているのに気づくと、太宰はその頬をつつく。
    「どうしたんだい?」
    「いえ……買っちゃったのはいいんですけど、すき焼きってどんな食べ物ですか?」
     彼が暮らした孤児院でそんなものが食卓に上るはずもない。太宰は笑顔で答えた。
    「牛肉とか豆腐を甘じょっぱく煮た料理だよ。熱いから溶いた生卵につけて食べるんだ」
    「わあ……なんですかそれ。すごく美味しそう」
     敦は目をきらきらさせている。太宰は愛おしくなってその頭をくしゃくしゃに撫でた。「子供扱いしないでください」と非難の声が飛んでくる。
    「よし、そんなに食べたいなら今夜は早速すき焼きにしよう」
     その提案に敦は一も二もなく頷いて、二人は一旦家に荷物を置き、スーパーですき焼きの材料を買うことにした。
    「ええと、牛肉と豆腐でしたっけ。あとはなにか入れるものあります?」
    「んー、なんだっけ」
     売り場で太宰は首を傾げて考え込んでいる。
    「味付けとかもどうしたら……」
    「えーとね、汁は茶色くて甘じょっぱいから、コーラに塩入れてるのかな?」
     それを聞いて敦は、自分の携帯ですき焼きのレシピを調べ始めた。
    「――他に入れるのは葱としらたきと椎茸くらい。味付けはめんつゆでもできそうです」
     敦の指示でてきぱきとカゴに食材を入れて会計を済ませた。
     日の暮れた道は冷たい風が吹いているが、これから家に帰れば二人で温かい鍋をつつくのだ。
    「そんなにすき焼きが楽しみなのかい、敦君」
    「生まれて初めて食べるすき焼きが、太宰さんと一緒で嬉しいんです」
     その言葉に虚を突かれた太宰は、手で口元を覆ってしまう。頬に熱が上るのが分かった。
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    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。モさんからチェズへのプレゼント。こんなんでもチェズモクと言い張る。■プレゼント


     夜。リビングのソファで二人飲んでいると、隣でモクマが思い出したようにポケットを探った。なんだろう、と思っているとチェズレイになにかの小瓶が渡される。
    「これ、プレゼント」
     それはマニキュアだった。淡く透き通ったラベンダーカラー。傾ければ中でゆらりゆらり水面が揺れる。瓶には見知った高級化粧品ブランドの名が金色で書かれている。いわゆるデパコスというやつだ。彼がどんな気持ちでこれを買いに行ったのだろう、と思うだけで小さな笑いがもれる。
    「あ、気に入らんかったら捨ててくれちゃっていいから」
    「そんなことしませんよ。
     ――ねえ、これ私に似合うと思って選んできてくれたんでしょう? 私の顔を思い浮かべながら」
     モクマはぐい呑みから酒を飲みながら、「そうだよ」と答えた。
    「化粧品売り場のお姉さんに、『彼女さんへのプレゼントですか?』って訊かれちゃって、方便で『はい』って答えちゃったのがなんか自分でも納得いかんけど」
    「まあそこで彼氏へのプレゼントですなんて言ったら色々面倒ですしね」
     まだこの世界では、異性同士での交際が当たり前で、化粧をするのも女性だけだと思われていることが 818

    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。ツーカーの二人。■明日を待ちわびて


     モクマは現在、敵アジトに潜伏中だった。腕の立つ用心棒という立ち位置を得てはや数日が経つ。便宜上の『仲間』が「一緒に飲まないか」と誘ってきたが、笑って断った。与えられた個室に戻ると、ベッドに座ってこの数日でかき集めたアジトの内部構造をまとめ、タブレットでチェズレイに送信する。と、同時にタブレットの中に保存した情報を抹消する。
     ――やれやれ、これで明日はチェズレイのもとへ帰れるな。
     そこまで考えてベッドに寝転がると、自分が帰る場所はチェズレイのところになってしまったんだな、なんて今更なことを思う。
     そこでいきなりピコン、と軽い電子音が響いた。寝返りを打って見れば、メッセージアプリにチェズレイからのメッセージが入っている。
    〈無事ですか〉
     ただ一言だが、モクマの脳裏には心配でたまらないといった様子の彼が思い描けた。
    〈大丈夫だよ〉
     そこまで打って送信し、返事を待つ。数分の後にまた通知音が鳴った。
    〈行き先は確認しました。明日のデートが楽しみですね。何時に行けばいいでしょうか?〉
     『行き先』は内部構造図、『デート』は潜入ミッションの隠語だ。事前の打ち合わせ 846

    ▶︎古井◀︎

    DONE横書きで一気に読む用
    見えるモさんと祓えるチェのチェズモク洒落怖話
    「あ、」
     それに気付いてしまった瞬間、モクマは気付かなければよかったと心の底から後悔した。
     日の入り、夕暮れ、黄昏時――あるいはマイカでは逢魔が時、なんて呼んだりもする、そんな時間。
     モクマはとある雑居ビルの前で、別件で離れた相棒が戻ってくるのを待っていた。立ち並ぶ無数のビルが照り返す西日が妙にまぶしい。細めた目でふらふらと視線をさまよわせながら、ただ眼前の交差点を行き交う人の流れを追っていた。なんてことはない、相棒が来るまでのただの暇つぶしだ。本当に、それだけのつもりだった。
     最初に違和感を覚えたのは、横っ腹に突き刺さるような視線の濃さだった。多少ハデな風体をしていることもあって、モクマが街中でじろじろと見られること自体は珍しくもない。そんなときは大抵、その視線の主を見つけて目を合わせて、にっこり微笑んでやれば気圧されたようにその無礼者はいなくなるのだ。だからいつも通り、同じように対処しようと考えて、モクマは視線の大元を探してしまった。
     しかし今回に限っては、その行動は完全に誤りだった。探してはいけなかったのだ。そうとも知らず、モクマは送られ続けている視線と気配を手繰って周 5795