記憶障害司くん◉病室
「なぁ、類。オレが何か忘れているようだったら、ハッキリ教えてくれ」
あぁ、大事なことを忘れているとも。君は僕を振ったんだ。それに、見せてくれている台本だって、同じような内容のものをすでに5回程は見ている。
「...大丈夫だよ。流石司くん、いい台本だね」
「そうだろうそうだろう!それはそうと、この前の、デ、デート...楽しかったな!今度は水族館に行きたいと思っている!」
司くんは同じような話しばかりするようになった。それに、少し素直になった。
司くんは忘れているようだけど、僕は水族館は嫌いなんだ。
水族館の帰りに、今日で最後にしようなんて言われたんだから。
「...水族館か。いいね。水族館にあまりいい思い出が無いのだけれど、司くんとなら楽しめそうだな」
「そうなのか。ならば、尚更楽しまねばならんな!」
とびきりの笑顔を見せてくれる。
あの日、聞けなかったことがある。
聞けないまま、司くんはその日の帰りに事故で頭を打ってしまった。
◉水族館の帰り
「類。今日は楽しかったか?」
「うん...すごく楽しかったよ」
「ならば、よし!オレも嬉しい」
夕日が傾いている。
あ...あの日と、同じ...。
司くんが、どこかへ行ってしまう。
人目も憚らず、どこにも行かないように司くんを衝動的に腕の中に収めた。
「うぉっ。はは。珍しいな。どうしたんだ?」
「うっ...うぐっ...‼︎」
「は!?な、どうした!?」
「ご、ごめんっ...!ぅっ...」
「ど、どうしたんだ本当に...」
結局、あの日とリンクしてしまった。
僕たちはきっと終わるはずだった。なのに、また始まった。
まるで僕の都合のいい妄想のような日々だ。
司くん、君は今、幸せなのかい?