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    夕暮れ

    大体暗いプロセカの妄想

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    夕暮れ

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    精神科へ連れて行かれる司「司先輩。神代先輩から聞きました、大丈夫ですか?」

    「おぉ、冬弥いいところにそれがな、類のヤツ、あろうことかオレを精神病院に連れて行こうとするんだ‼︎流石に酷いだろう。なぁ、冬弥からもなんとか言ってくれないかオレは全くもって正常だ」

    司くんの家、部屋のドアの前。
    ドアに向かって青柳くんが声をかけるといつもの威勢のいい返事。

    何故青柳くんがここにいるのか。僕が呼んだからだ。
    そんなことも疑問に思えないくらいに、司くんはやっぱり頭が回っていない。

    「そうだったんですか。それは大変ですね。司先輩、良ければ顔を見て話しませんかそれに、ドアの前だと声が聞き取りづらいんです」

    全く聞き取りづらくなんてないが、起点を聞かせて対面での会話を試みてくれている。


    そう。さっきまでは僕が部屋の中で司くんと話していた。でも、病院の話をしたら部屋の外に追い出されて鍵を閉められてしまった。
    急ぎすぎたか。
    本当は僕がなんとかしたかったけど、どうしようもなくなってしまい青柳くんを呼んだんだ。

    「ふむ。確かにそうだな。ただし条件がある。そこにいる類は入ってくるな。冬弥だけ入ってくれ」

    明確な拒絶だ。長い年月を共に過ごした彼が羨ましいなんて、こんな時にも思う浅ましい自分が嫌いだ。
    青柳くんと目を合わせ、頷く。

    「ありがとうございます。わかりました。では俺だけ入ります」


    ゆっくりとドアが開く。

    改めて見ると、いつもは綺麗に整頓されている部屋の中は荒れているし、司くんらしくなく髪もボサボサだ。
    司くんは警戒しながら、少しだけ顔をのぞかせ...僕を睨んで、冬弥くんを部屋に招き入れた。


    「類が、急にオレ達の思い出を否定してきたんだ。冗談にしても笑えん」
    「そうなんですね」
    「あぁ。それに、オレが混乱しているだとか、疲れているだとか、要らない心配ばかりするんだ」
    「それは...神代先輩は、司先輩が本当に大切だから心配しているんだと思います」

    部屋の中から、僕を批判する言葉が聞こえる。
    あまり気分は良くないが、それ以上にやはり司くんの作り出した思い出が現実であるかのように書き換えられていることが気がかりだ。


    「むぅ...大切、か...」
    「はい。神代先輩は、いつだって司先輩を思っていましたよ」
    「そ、そうだろうか。まぁ、わかってはいるが...」

    わかってはいたんだ。ついニヤけそうになる。
    青柳くんが上手に話しを聞いてくれている。やっぱり悔しい。

    「だから、先輩。別に異常なんてなくていいんです。何もないということを診てもらって、神代先輩に安心して貰いましょう。もし万が一何かあれば、ただ治療をするだけです」
    「しかし...」
    「俺が車で送って行きますよ。司先輩が運転の練習に付き合ってくれたお陰で、上達したんです」
    「そうか!流石冬弥、飲み込みが早いな!」


    半年ほど前から、司くんはどう見てもオーバーワークだった。
    注目の俳優としてして舞台に引っ張りだこ。その上、休みはこれまでの友好関係を大事にしすぎるくらいに人と会っていたせいで、休息なんてなかったのだろう。

    夏から秋への季節の変わり目。4ヶ月ほど前からだろうか。
    目に覇気がない日、据わっている日、そんなことを繰り返すうちに言動までおかしくなっていった。


    「セカイでお前にショーをしたことが懐かしいな。行けなくなるとなると、あの騒がしい場所も悪くなかったなんて思う」
    「類、ぬいぐるみ達を撫でてやってくれないかお前に撫でて貰うのが好きだったようだから、喜ぶだろう」
    「次の舞台の見せ方が難しくてな...。こんな時カイトが居れば、いいアドバイスを貰えるんだが」


    嬉しそうに、時々寂しそうに、セカイという別次元での思い出に縋るようになった。
    でも、僕は別次元でぬいぐるみを撫でたことなんてない。
    ぬいぐるみに人格があるかのように話す姿は異常だ。

    そうとは言えず、ずっと‘そうだね’なんて曖昧な返事をして誤魔化してきてしまった。


    人とはこうも簡単に壊れるのか。
    僕は愚かで、何も知らなかった。いや、何も気が付けなかった。





    ◉診察室


    「は...入院...?」

    「天馬さん。このままでは仕事にも日常生活にも支障が出ます。一度入院して、整えましょう」
    「む、無理だろう...咲希が心配をするそれに仕事も休めない」
    「そうですよね。なので、早めに集中的に治療しましょう」
    「そもそもオレは正常だ。確かに少し疲れていたが、入院するほどではないと思うが」
    「意外と思っているより疲れは溜まっているものですよ」


    入院しましょう、しない、そんな押し問答が続き、司くんも苛立ち始める。

    「なんっ、なんなんだ一体...‼︎おい類、お前初めからこのつもりだったのか⁉︎」

    一緒に診察室に入り隣に座る僕を、責めるような目で見てくる。

    その間、先生が電話で‘念のため人を呼んでください。興奮してきています’なんて応援を頼んでいる。


    初めからこのつもりだったことに間違いはない。
    なんだか現実離れしたような、目の前の司くんが司くんじゃないような感覚に囚われて、何も返事が出来なかった。


    「入院なんてしないぞオレは正常だと言っている冬弥、すまないが家まで送ってくれないか。話しにならん」
    「先輩...それはできません...」

    今度は司くんを挟むように座った青柳くんに縋る。


    「な、何故だ冬弥、お前もオレを騙したのか...入院なんてしたくないんだ、舞台の練習もある、頼む、帰ろう」
    「司先輩...すみません...」

    酷く痛々しい。彼らしさなんてどこにもない。
    青柳くんも辛そうにしている。
    ここにいる皆、誰も笑顔なんかじゃない。


    「天馬さん。今は僕と話しましょう。天馬さんは頑張ってこられたんですね。でも少し頑張りすぎてしまったようなので、休息が必要です。入院、というと重たいですが、少しの間だけ人と離れてゆっくり過ごしませんか」

    先生が助け舟を入れてくれてホッとする。
    頑張りすぎ。
    確かに僕の目から見てもそうだ。皆が彼から休息を奪ってきた。

    「なんっ、なんなんだお前達...‼︎くそっ...‼︎」


    司くんが立ち上がり、ドアに向かって歩き出す。
    あっ、と思う間にドアは開かれたが...ドアの外に、看護服を着た人が5人くらい立っていた。


    「っ⁉︎...すまない。家に帰るから通してくれないか?」

    看護服を着た人々は動かない。
    少し怯んだ司くんを追いかけ、後ろに立つ。
    僕から見ても、看護服を着た人に取り囲まれるのは不気味だし怖い。


    「天馬さん。話しをしましょう。話しをすることが難しければ、我々も見合った手段を取らせていただきます」
    「オレが入院するように言いくるめることを話しなどとは呼ばん‼︎いい加減警察を呼ぶぞ‼︎」
    「呼んで頂いて結構です。話しをしましょう」
    「っ‼︎‼︎」

    司くんが人の合間をぬって駆け出そうとするところを、看護服を着た人々に取り押さえられる。ごめんなさいね、なんて言いながら司くんの腕を掴む姿は手慣れている様子だ。

    「やめろっ‼︎‼︎来るなっ、触るなっ‼︎‼︎くそっ‼︎だ、だれかっ...‼︎助けてくれっ‼︎‼︎冬弥‼︎‼︎」

    あぁ...そこで呼ぶのは、僕じゃないんだ。


    「あぁああああ‼︎‼︎あぁああああああぁぁあ‼︎‼︎‼︎誰か‼︎‼︎助けてくれ‼︎‼︎やめろっ...‼︎‼︎離せ‼︎‼︎」

    待合室に響く叫び声。只事ではない異様な雰囲気。
    何人もの人に抱えられて叫んでいる司くんを見て、『ショック』を実感した。


    「司先輩...」
    冷静な青柳くんは声を振るわせている。

    「どうして、こうなってしまったんでしょうか...」
    「...本当にね。もう少し早く、対応するべきだったんだろう」
    僕の声も、同じくらいに震えていた。



    「やめろっ‼︎‼︎離してくれ‼︎‼︎ぅあぁあああああああ‼︎‼︎オレを騙したな‼︎‼︎ ──ぃ────ぁあ─‼︎───‼︎」

    遠くなっていく声。僕の名を呼んではくれないか。
    ついには叫び声も聞こえなくなって、僕の名が呼ばれることはなかった。




    「天馬さんにはこのまま閉鎖病棟へ措置入院という形態で入院して頂きます。単身ということですが、ご家族様へ連絡をします。連絡先はご存知ですか」

    そこからは、淡々と事務的に手続きが進んでいった。







    ◉お見舞い


    「類。久しぶりだな」
    机と椅子がいくつか置かれたオープンスペースの窓側に腰掛ける。
    向かいに座った司くんは部屋着姿で、髪も伸びている。少し、太ったかな。
    まるで別人のようだ。

    「やぁ、司くん。...久しぶりだね」
    「そうだな。2ヶ月くらいか」
    「そうだね。...その、調子はどうだい?」

    気の利いたことなんて何も言えなかった。
    久しぶりに会うことに、僕は緊張している。
    司くんと話しているはずなのに、僕の思う司くんの見た目とリンクしなくて違和感を覚えてしまう。

    「あぁ。お陰様で随分落ち着いてきた。類が連れてきてくれて良かった。礼を言う」
    「そんな...お礼なんていいさ。司くんが元気になってくれればね。それに、強引なことをしてしまった」

    お礼を言われるなんて思ってもなくて驚いてしまう。ずっと抱えていた罪悪感を自分で処理できなくて、苦しくて、あっさり司くんに吐いてしまった。

    「いや、あの時のオレは全く余裕がなかった。冬弥にも感謝している」

    僕のエゴなんて知らずに、司くんらしく受け止めてくれている。
    浅ましい。こんなことで、安心してしまうなんて。
    反面、青柳の名前が出て少し嫉妬した。


    「...青柳くんには僕も助けられたよ。司くん、疲れはとれたかい?」
    「そうだな。久しぶりに、ゆっくり自分と向き合った気がする。こんなことはセカイに行き始めた頃以来だ」

    セカイ。
    当たり前のように出されたその言葉にビクリとする。司くんが作り出した別次元。どうやら僕もそこに居たらしいが、やっぱり行った覚えなんてない。


    「その...セカイって...」
    「...お前、もしかしてセカイのこと忘れたのか」
    「え?」
    「...そうゆうことか。...とにかく、久しぶりに毎日眠れた。人は睡眠を取らないとダメなんだな」
    「...そうだろうね」

    司くんが少しだけ悲しそうな顔をしたような気がした。もしかして、病状がまだあまり良くないんだろうか。

    「類。オレは今、オレらしいか」
    「え...」

    また、え、なんて間抜けな返事。
    さっきから感情がついていかない。
    それに、何と返事をしていいのかわからない。


    「お前には恥ずかしい所をたくさん見せた。その...入院する時とかな」
    「...気にすることはないよ。僕が司くんのことを良く思っているのは変わりないさ」

    本当は良く思ってなんていない。もっと淀んだ感情だ。
    あわよくば司くんから好意という見返りを求めている。
    名前を呼んで欲しい。縋るのは僕だけにして欲しい。
    僕はここまできても欲深い。誰かが僕のことを欲に塗れたアルケミストと言っていたが、本当にその通りだと思う。

    今日は本心を隠してばかりだ。
    窓際、静かに司くんと話しを続ける。

    「そうか...。類が言うように、オレは確かに疲れていた。精神的にな」
    「...あまり休んでいなかったように見えたからね」

    ...精神的に


    「心配かけたな。あの頃のオレは、オレらしく振る舞うことに疲れていた。どこかで分かってはいたが、オレらしくなく振る舞うことで皆をがっかりさせるんじゃないかと思って素直になれなかった。きっと、オレをありのまま受け入れてくれた場所に縋っていたんだろう」
    「...うん」

    「自分らしさとはなんだろうな」
    「難しいことだね」

    らしさ。
    彼が弱っている時、壊れている時、今日会った時。
    僕はなんて思っていた
    すぐにでも蹲って頭を抱えたかった。


    「...難しいな。類が難しいというなら、やはりそうなんだろう」
    「嬉しいけど、僕も万能ではないさ」
    「はは、そうだな。昔から野菜は食べないし、片付けも雑だ」
    「おやおや...そこを突くなんて、酷いじゃないか」



    穏やかな窓辺。
    少しだけ戯けてみせる。
    素直に生きることは、どうしてこうにも難しいんだろう。
    僕たちは、本音で話し合えてるんだろうか。
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