「神社」芸人になってから年末年始に時間が取れるという事はほぼ無かった。
全国区に達していなくとも年末年始は特番で引っ張り出されるし、それが当たり前になっていたのでちゃんとお参りにきた記憶はかなり前のものになる。
「お参りに三が日来たの久しぶりかもしらん」
「そうかよ」
有名所の神社ではなく寂れた神社、人影はそんなに多くない。
「もっと神社って人多いんちゃうの」
「お前はテレビの見過ぎだ」
参拝が終わってからおみくじを引いた。
おみくじを番組も関係なく引いたのも久しぶりだった気がする。
先に左馬刻がおみくじを開けたが開ける本人より様子を見ている簓のほうがワクワクした面持ちで待っていた。
「大吉だった」
「幸先ええなぁ~俺は…」
自分自身のおみくじを開けた。
「うわ…凶って…」
せっかく一緒に年始の多忙なスケジュールの合間の時間を継ぎ合わせてきたのにとショックを受ける。
左馬刻のおみくじに「待ち人来る」と書いてあったのを確認した。
「…左馬刻の待ち人って誰なん?」
待ち人が来るの待ち人とは「自分の人生に大きな影響を与える人」という意味というのを番組に出た時に知っている。
本人はどう思っているのかストレートに聞けないが簓自身にしては踏み込んで聞いたほうだった。
「お前だよ」
「人生に大きな影響を与える人って意味あるんやけど…良い意味ばかりじゃないやろ」
すぐ簓だと言ってくれたのは凄く嬉しかったが良い影響ばかりではなかったように思う。優しい左馬刻の言葉が逆にズキッと染みる。
「俺様の人生にとって影響をを受けたのは事実だから文句言うな」
「…文句は言ってないやん」
簓が真っ赤に顔を染めながらボソッと呟く。
「しかも来るってもうお前と出会ってるのに今更書くのは遅ぇわ」
「おみくじに意見してもしょうがないやん」
お互いに頼る人も居なかった、居なくても一人でやっていけると。
イケブクロで出会ったあの頃はお互いに虚勢ばかりだったように思う。
「お前がオオサカから来てよかったよ」
「えぇ…めっちゃ素直やん…明日は槍が降るんちゃう」
「うるせぇ」
照れ隠しで冗談を言っているのはわかっているが素直に受け取ればいいのにと思うがそんな性格なのは百も承知だったので左馬刻は話を手短に切り上げた。
「…誰かに頼るって事を初めて知ったのは左馬刻のおかげやけどね」
「簓、いつもの声量どこいった」
しっかり聞こえて返答してきているのは表情でわかるのにあえて聞いてくるのは意地が悪いと思う。
「聞こえてて言っとるやろ…」
「たまには素直になってもバチは当たらないだろ」
寒さのあまり白い吐息がお互いにもれる。
マフラーに顔を半分くらい顔を埋めながら簓が呟く。
「…左馬刻に会ってなかったらなんて考えたくもないわ」
聞いていない事はぺらぺらと喋るのに自分の真意はなかなか言えない。
ようやく絞り出した出た簓の素直な言葉に左馬刻の笑みが溢れる。
「はっ…まあ及第点だな」
「及第点なんかい!もうええわ…」
素直になったのが恥ずかしくなったのか耳まで真っ赤になった。
簓は言葉よりも顔色に出る。
真っ赤になっている耳を思い切り噛んだ。その瞬間パッとこちらに目を向けて信じられないという顔で見てくる。いつもはお喋りな口がまわらない。
「口より顔色に出やすいな」
「信じられん…野生児や…」
今にも煙が出そうなほど更に真っ赤になった簓の頬を指で突く。
「もう帰るぞ、神様なんかに人生がわかってたまるかよ」
「人生は平等じゃないってよく言ってる人らしい言葉やな」
「お前だって自分の人生を変えられるのは自分だけって言ってるだろ」
お互いにずっと変わらない信念に笑いがこみあげる。
「…お互いさまやな」