幽閉ごっこカツン、カツン……
硬い靴底の音が静かな廊下に響いた。目的の部屋に入ればレッドムスクの甘い香り。ローズマダーの天蓋、天井から下がる黄金に輝くランプに照らされた寝台。薄衣を纏い輝く宝石にも劣らない美しい貴人がそこにいた。
「こんばんは、愛しい薔薇の君」
天蓋を捲りそこで待つ愛しい人を呼べばコンスタンティノスは目を伏せ長いまつ毛は影を落としている。ゆっくり顔を上げ視線が絡まるがすぐにまた俯いてしまった。
「ああ、贈った宝石も良く似合っていますね」
色白の肌に映えるパープルサファイアは華奢なデザインのネックレスとなり胸元を飾っていて、それをするりと撫でた。美しいあなたには何色でも似合うけれど。
「お顔を見せてください」
言葉は丁寧だがコンスタンティノスの顎を掴むと無理やり自分と視線を合わせるがすぐに目を逸らしてしまう。その憂いた顔もまた美しい。
「……籠の鳥なのだから好きにすればいい」
か弱い声で告げるとコンスタンティノスは目を閉じメフメトの手に自分の手を重ねた。
「「……違うな」」
部屋に同時に声が響いた。
「ぷ、はは。籠の鳥って。ないない」
「うーん、貴方はもっと威勢がよかったですからね」
「生前の幽閉ごっこしようなんておかしいだろ。そもそもこの衣装どこで用意したんだ?」
内装はメフメトが自室を生前の部屋似せ改造したものだが、コンスタンティノスの纏う衣装は当時のものとは違う。どこから用意したのか不思議に思うと鶴の仕立て屋に頼んだとか……。
「生前はこんなに色っぽいことはなかっただろ?……無理やりだったし」
「その節はすまないと思っていますが後悔はしてませんよ?」
そう、生前は後宮閉じ込められたがこのように諦めたりせず最期まで抵抗していた。
「俺の思い通りになるのもいいが、やはりあなたは屈しない強い目が好ましい」
メフメトは美しく着飾ったコンスタンティノスの頬を優しく撫でた。
「思い通りにならないから屈服させたいと燃えるからな」
「ハッ、さすが征服の父だな」
鼻で笑って皮肉をひとつ言ってやり、向き直るとコンスタンティノスもメフメトの輪郭をなぞり顎髭をくすぐった。
「それで?今日はこのままするのか?」
「折角ですからね、美しい籠の鳥を頂きましょう」
鼻を合わせてクスクスと笑うと唇を合わせた。
end