運命の日 その日が近づくと体が重くなる。
爽やかな晴天が続き初夏の気配を楽しみやがて梅雨に向けて気持ちが塞ぎがちになるのだろう、体の不調に関して周りの評価はこういった具合である。確かに気候的にもいわゆる梅雨不調なんて言葉もあるくらいだから実際そうなのかもしれない。だがコンスタンティノスにとっての5月下旬というのはあまりにも大きな意味を持っていた。
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5月下旬は心が弾む。それは現世では無い。前世の……自らの憧れを、夢を掴んだ日が近いからだ。気分も体調もすこぶるよく何をしても上手くいくのがこの時期なのだが、自らの恋人は真逆らしい。当たり前と言えばそうか、と来月中旬までに提出しなければならないレポートを打つ手が止まった。
「……明日か」
カレンダーを見やったあと特定の人としかやり取りをしないスマートフォンを取りSNSを開く。毎日必ずおはようとおやすみを送りあっているのだが今日はまだ既読がついていない。また具合が悪いんだろうと簡単に予想はつき心配からメッセージを送りたいがきっとそれも負担になってしまうんだろうとテーブルに置いてまた煌々と光るディスプレイに向かった。
5月29日
毎朝の『おはよう』を送るのさえ憚られた。何を言っても愛しい彼の負担になってしまうのではないか。メッセージ画面に打ち込んだ『おはよう』を消すと鞄にしまい通学のために家を出た。
体も気分も絶好調なのに。恋人のことを思うと重く苦しくなりちぐはぐさにいっその事笑みさえ浮かべた。
今日は憂鬱な日になりそうだ。
満員電車に押し込まれ1日が始まった。
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「だからさー、俺としてはちょー複雑なわけ」
「管を巻くなら帰ってもらおうか」
少々お高い欧風居酒屋ツェペシュ。
準備中の札を無視して入ればシャンパンゴールドの長い髪を三つ編みに結び調理用の手袋をした美丈夫が呆れた顔で開店前に入り込む無作法者に蒸留酒を出した。