誰の前で泣く「──それで、お腹が空きすぎてしんべヱが泣き出したら、今度はきり丸が小銭を谷底に落として大号泣。そこに大雨が降り出して、転んで泥だらけになった乱太郎まで泣き出して……。もう、それは散々な薬草摘みだったんですよ!」
その日、雑渡が医務室を訪れると、珍しく伊作が半乾きの髪を下ろしていた。どうしたのかと問うと、苦笑いを浮かべながらも事の顛末を面白可笑しく語ってくれたのだ。例の愉快な三人組に振り回されて、慌てふためく伊作がありありと思い浮かび、雑渡はつい吹き出してしまう。
「あははっ。一年は組のよい子達って、忍者に向いてないけど本当に面白い。伊作くんは泣かなかったかい?」
幼い忍たま達は、喜怒哀楽が豊かで実に素直な子供達である。きっと最上級生である彼も、同じように泣いて笑って、のびのび健やかに成長してきたのであろう。幼き日の伊作を想像しながら軽口を投げかけると、彼はわずかに口元を引き結ぶ。
2070