【グレ場地×反社千冬】君の知らない物語 ② -I've seen you from many ang 東京卍會、うちは半グレともヤクザともちょっと違った組織だった。ただ、急成長したせいで、旧来の組織と縄張りやシノギを取り合うこととなり、揉め事も多かった。
主だった勢力はマイキーや稀咲が粛清していたが、まだ腹の虫が収まらないヤツらもいる。
今回もそんな揉め事の一つだった。俺たちの部下の一人が刺されてしまった。すぐには犯人が見つからず、そして刺されたところも悪く、病院での対応などに時間がかかった。
数日間家に帰ることも寝ることもままらなずに過ごしていた。
「おい、千冬」
トントン、と肩をたたかれる。
「んん?」
どうやら俺は武道のマンションのデスクでノートパソコンの上で突っ伏して寝てしまっていたらしい。顔をあげるとそこには武道がいた。肩をたたいたのは武道だったらしい。
「わりぃ、病院の追加書類とか、まだ揃ってないわ…」
どこだっけ、と机の上を探る。
「いいよ。お前、ずっと事件があってから追われてるだろ?病状も安定したって連絡きたし、みんなのおかげで犯人も目星がついてきた。」
「お、おう。そうなんだ…」
自分が寝落ちてる間に進展があったらしい。
「一回、マンション帰れよ。ひどい顔してる。」
と武道に言われた。最近は調子にノッてて、稀咲の言うことだけ聞いて、組織の細かいことなんてお構いなしな武道だったが、たまにこうやって気遣ってくる。根は優しいのが相棒のことを嫌いになれない理由だ。
「サンキュ。じゃあ、後は任せた。相棒!」
久しぶりにハイタッチをして俺は武道のマンションを後にした。
家に食べ物も飲み物もないことは分かっていたが、とりあえず「寝よう」と思って家路についた。
「どうして…?」
マンションの自分の部屋のところまで来たらドアの前に場地が座っていた。
「遅い。」
ヤンキー座りをしながら、こちらを見て彼はそう言った。
「遅い、って何も…」
「やっと帰ってきたぜ…何で帰ってこねぇんだよ?」
何でと言われても俺にとってはよくあることだし、それに事件に追われていた。
「だから、寝に帰ってくるだけって言っただろ。何日も空けることもあんだよ。」
そうすると彼は「ん、」と鍵を差し出した。
「ポストに入れておいてって言ったっスよね?」
「直接渡した方がいいと思って。礼もしたいし。」
彼は今度は持っていた袋を差し出した。
「なんスか?…ペヤング?」
「礼。」
真面目に彼が言うので俺は笑ってしまった。スレてるように見えて真面目で一途。鍵を持ってるのに中に入らないのも彼らしいといえば彼らしい。
「サンキュな」
俺は彼の髪をクシャクシャと撫でた。
「んだよ。子供扱いすんなよ。」
と手をはらいのけられてしまった。でも嫌ではなさそうだ。
「つか、アンタよく見るとまた怪我してるっスね。中入って。あと、コレ、半分こね?」
ペヤングを見せてそう誘った。
張り詰めていた自分の気持ちが緩んだ気がした。
中に入りリビングでさっと手当てをする。
「今日の喧嘩は?」
「もち。勝った。」
怪我の具合から見ても今日は良好のようだ。そもそも俺は大人なんだから喧嘩をするなと言うべきなんだろうが。
場地が持ってきたペヤングは一個だけ。半分こが前提だ。
食べ盛りだろうから足りないんじゃないかとも思うけれど、俺もそうだった。
止まってた時が動き出すような不思議な感覚。
「…んん」
リビングのソファーに座って二人で食べている途中に急に眠気に襲われ、場地の肩に身を預けた。
「…ばじ、さ、ん…」
つーっと涙が伝う感覚がしたけれど、そこで意識が遠くなっていった。
「千冬…?」
隣でペヤングを食べていた千冬が急に肩に寄りかかってきて、びっくりした。
すぅすぅと寝息をたてていた。目元を見ればくまが酷かったし、最近家に帰れていなかったようなので、何かで忙しくしていたのだろう。俺も何度もマンションに来てドアの前で待っていたのだが、会うことはなかった。
電話の件もそうだが、薄々と彼の職業のことは勘づいていた。この界隈で喧嘩や悪さをしてれば自ずと聞く組織の名前。
千冬に目を落とすと涙が目元につたっていた。「ばじさん」と言っていた。「さん」ってきっと俺じゃない誰かのことを千冬は想ってるんだと思った。
「ばじ、さん…おいてっ、いかない……で、」
ぐっと倒れ込んでくる千冬を抱き返して、抱え上げた。
「しょうがねぇな…」
俺は足を踏ん張り、横抱きにした。自分より背丈のある千冬だったが、意外にも抱えたその体は軽かった。
ベッドに運び、ネクタイを緩めると布団をかけた。
何度か寝返りを打つその姿を静かに見つめた。
さっきの言葉を聞いて、千冬が目覚めた時にどういう顔をすればいいのかわからなくて、俺はメモを残すと返すはずだった合鍵を持って部屋を出て鍵を閉めた。
本当は関わっちゃいけない人なんだろうけど、俺は千冬にまた会いに来ようと思った。
続く