池 袋にあったタンポポ。そんな言葉だけ聞くと、野に咲く可愛らしい花の姿を思い浮かべるのが大半だろう。でも、池袋に住んでるやつの中にはその言葉で「懐かしいな」と思う連中もいる。
俺もそのうちの1人。
タンポポってのはそのまま花の名前じゃなくて、西池袋にあった喫茶店の名前だ。
レトロ調の店内に、いつもカウンターの中でグラスを磨く初老のマスター。訪れていた客の殆どが、この店にある2つの名物のどちらかを目当てにやって来ていたと思う。
一つ目は、マスターの作る美味いたまごサンド。
もう一つはマスターの孫娘である姉妹達である。
明るく快活でスタイルのいい姉と姉と違いツンとすましたような表情が似合う妹。
正反対ながらも非常に仲の良い姉妹は、同年代の間ではちょっとしたアイドルのような存在。
そんな看板娘達を眺めるため、味の違いもわかないのにコーヒー1杯を注文して長々と居座る奴らもいたもんだから、しまいにはガキ共の間で『タンポポの席を独占するな』という取り決めすら出来たほどである。
この取り決めを破ったやつがどうなったかって?
目の保養の独占はいつだって罪に問われる。頭の悪いガキどもの中でもこういう時の平等性は尊重されるものだった。
オレはといえば、美人姉妹目当てでもあったし、たまごサンド目当てでもある中々善良な客だったと思う。
基本的に中学生や高校生のガキ共はそう対して金を持っているわけでもないので、コーヒー1杯、たまごサンド1つとっても結構な出費になる。
そんな数少ない小遣いをやりくりしてでも、この店のたまごサンドは食う価値がある物だったし、何よりこの美人姉妹。特に妹の方とオレは『それなりに長い付き合い』ってやつ。