(🐰🎈×🐔🌟)「類朝だぞー!コケコッコーーーー!!!」
朝を知らせる声が村中に響きわたる。
当の本人は眉をしかめて重たい動作でベッドを降りた。目はろくに空いていないがこの様子なら放っておいても問題ないだろう。と司と呼ばれるニワトリの少年はまだまだ自分の家の仕事が残っているのであっさりと万事屋を後にすれば春の鳥のさえずりと共に色々なところから動物たちが動きだしていた。
(オレの声で目を覚まし皆々行動を開始するようになったのはいつからだったろう)
ここが村と呼ばれるようになって数ヶ月が経つ。
元々は強者が蔓延る場、弱者は目をつけられないよう脅えて過ごしていた。そんななか、近隣の動物にご飯のおすそ分けをと玉子を抱えて駆け巡っていた1羽のニワトリが横たわって呼吸すら弱々しいウサギを見つけたのだ。周りに獣がいないのを確認して声をかける。冷えきった身体を揺すってみるが呻き声しか返ってこない。
今日も風は痛いほど冷たかった。冬場に強いニワトリは地震などの自然に空いてしまった洞窟で身を寄せあって暖をとっていたが、地面とご対面しているウサギはこのままだと冬を越せないだろう。オスのニワトリはどう打開すればいいのかわからない頭で必死に考えた。必死に抱きついて風よけになった。
「死ぬな……!」
そうして目を閉じ、目を覚ましたら……────、村ができていた。
人工的につくられた暖を取れる場所が提供されており、ふかふかのベッドで目を覚ました司は初めての感覚に興奮したものである。今でも村ができた経緯についてはまったくわからん。と司はいうが、この場を全て統治した男があの時助けたウサギであることは知っている。
類。そう名乗るウサギは司が覆いかぶさったあと目を覚ましたのだそうだ。
(長くなるので割愛。設定画像の文面とイースターエッグ会話文読んでください…!その続きから始まります!)
イースターエッグであたりを引いた家は司の住む養鶏場を除くほぼ村の全域であった。身の回りの仕事をやってくれることにより仕事が楽になる……家もあれば全部任せてサボり放題の家もある。
とある日。村長を含む類をよく思わない派閥で徒党を組んで追い出し作戦を実行しようとしたその時。行方を阻んだのはあの「タマゴ型ロボット」だった。仕事は任せたが、燃料も勝手に食べている。だったら何故家を放り出して今自分の前に立ちはだかっているのだろう。
そう、エサは家主の手で食べさせてあげなければならないのだ。ロボットとはいえ新たな家族。愛情をもって接してあげなければ反発するよう設定されていたのだった。
だがこの1件により、類がこの村を支配していると村中で騒動になる。便利なロボットに常に動きを監視させ時にはこのように反発をみせる。俺たちを奴隷のように働かせているのだ!と。自分たちがサボっていたことは棚に上げて、類が悪いと家々に知らせまわった。
そうして矛先は司にまで及ぶ。
何せ2人はたいそう仲が良い。聞くところによれば司の家にはタマゴ型ロボットはいないらしい。ならばこの出来事は2人の間で仕組まれたことなのでは…?
何もしらない司がいつものように家から類の店まで向かえば村人たちの視線が敵意を持ち始めていることに気づいた。だけど何に対する敵意なのかがまったくわからん状態。対して類はこうなることがわかっていたのか話をきいては店を閉めることにした。
そうしてこう言うのだ。
「少しの間店を空けさせてもらうよ」
類のいない村は前のように肉食獣たちがのさばるばかりで。特に司の住む養鶏場は目をつけられていた。ニワトリを差し出せ、差しださないなら今ここで食ってやろう。そう言われては司も差し出すしかなかった。そう、1番価値のないものを。自分自身で手放すしかなかったのである。
名ばかりの村長の後ろをついて行く。どこまでもどこまでも。足を止めればここで食うぞと脅され自分に叱咤しながらもつれる足で必死に歩きつづけ、長い森を抜けた先は自分の知らないもので溢れていた。これは確か、街と呼ばれるものだったろうか。
とある屋敷の前で対話をかわす村長は見覚えのある通貨を大量に受け取り、そして司を置いて帰っていった。
知らない場所に1人案内される。眩いステージ、その中央に立てば司会と思わしき人が声を上げる。客席から数字が聞こえる。何が起こっているのか彼にはわからない。だがトサカから足元まで値踏みをされるその視線が良いものではないことだけは確かだった。
凛とした声が会場を制した。その聞き覚えのある声に顔をあげるが逆光が邪魔をして自分の知るその人かどうか確認することが出来ない。そして場は静寂につつまれ、司会は終わりを告げた。司は何一つ理解することなく舞台をおろされ簡素な部屋に連れていかれる。そこにはウサギ耳を生やしていないお金持ちを思わせるアタッシュケースに分厚いコートを着た類がいた。
どういうことだと問い詰めるが彼は何も言わない。
以前類の店の中でこんな話をしたことがある。「外の世界を知ってみたくはないかい?」と。彼の持つ本には色々な景色が載っていた。自分たちの自然の多い場所とは違い人工物の山々に囲まれた世界。海と呼ばれた無限に広がる宝石のような輝きのそばで暮らしている家もある。行ってみたい、司は思ってそしてその口を閉ざした。司は身の回りのことを知るので精一杯だ。類に頼めばきっと連れて行ってくれるだろう。類と一緒に冒険するのはこれ以上ないくらいに楽しいだろう。だけど、それでは村のみんなの安全が保たれない。類がここにいるから村長と名を上げた獣が堂々と手を出してこないということは司もしっていた。だけど養鶏場にいるオスのニワトリはもうオレを含めて片手で数える程度しかいない。皆次々に耐えられないと一言残して消えていった。知っている、耐えられないんじゃない。皆を守るためにはこうするしかなかった。そんな中皆をおいてのうのうと過ごすなんて司にはできないのだ。
夕日が隠れようとする中、目の前の馬車に押し込められ、行くあてもわからない旅が始まる。類、類。と口酸っぱく声をかける。その度大人しくしていてと返され子供をあやすように頭を撫でられた。司は車の揺れとほの暗いあかり、街に来るまでの疲労でそのまま目を閉じてしまうのだった。
類はやはりこうなったかと隣で血色の悪いニワトリをみてため息を漏らす。本当はこのまま司を連れて逃げ出してもかまわないのだけれど。彼がそれを良しと思わないことなんて共に過ごした時間が物語っていた。
助けてくれたあの時から無秩序な空間から彼だけは救うと決めた。似合いもしないウサギ耳を付け、身分を隠したコートを脱ぐ。
元々類は身売り人だった。その身ひとつで稼いできた。経緯なんて特に語ることはない。くたびれた孤児院で金になりそうなのが自分しかいなかったから泣く泣く売られ、世の中は金だと身に刻んだ類はその先で金として働かされた際にこっそりと裏で動いていた大金を横領していたのがバレてしまう。そうして捨てられた。ただそれだけ。
何もない森の奥、強大な獣が住まう荒れ果てた極寒の地。仕事着のまま放置すればエサになるか凍え死ぬかどちらにせよ結末は変わらないはずだった。
「死ぬな……!」
類が目を覚ました時土臭いにおいで充満していた。そして重かった。口元にタマゴが置かれており食べ物を認識すればお腹が正直になってしまう。タマゴを生で食べる国もあるらしい。そのようなことを客からきいたことがあった類は力の入らない手を振り絞り、そしてチュルンと口の中に含んだ。なんとも言えない味だった。
そして心に余裕がうまれた彼は毛布のように被さってくれたものがニワトリだと気づく。
生まれてはじめて身を呈して守ってくれた存在。それがニワトリだなんてあまりにも滑稽で死ぬのもバカバカしくなってしまった。
途端、動物の唸り声が聞こえてくる。獰猛なそれらは今にも食ってかかりそうな勢いで。息絶え絶えにも咄嗟に人間らしく交渉してしまったのさ。
「もっと効率よくエサにありつけるようになりたくないかい?」とね。
そして身売り人としての類は死に、同じ衣装で万事屋としての商売人になった類は突貫ではあるが辺鄙な土地に村を構えた。全ては生前知り合いの名前を借りて預けていた貯金を崩したものであり、やはり世の中は金であると噛みしめた。村の住民たちにお金を与え、村の中で流通をさせ外部にはもっとお金持ちになれる方法があると説いた。
全ては村長たちの意識を肉ではなくお金に向かせるために。
結果、大切な彼を自分の人生と同じ目にあわせてしまい呆れて物も言えなくなるとはこのことなのだけど。
類たちの乗った馬車を追うようにもう1台大きな荷馬車が走ってくる。共に同じ方向に向かい、朝を迎えるころ肩に重みを感じた司はようやく目を覚ました。重たい方向にはすやすやと眠る類の頭があり、いつものウサギ耳が変な方向に曲がっている。驚いたのは馬車の隙間からみえた景色についてだった。
そこは司の見知った村。外部から物資を運ぶ馬車が泊まれるようにと万事屋近くに建ててある馬宿だった。
類、起きろと揺さぶれば彼はいつものように眉をしかめて重たい動作でこっちをみる。そして司の顔をみてへにゃりと笑うのだ。
同時刻、村長は爆睡していた。ここに件のニワトリはいない。朝を知らせる声はない。
タマゴ型ロボットも自分の力で壊してしまった。村長はもう類が村に帰ってこないことを知っているからである。あの男が司に特別な感情を向けていることなんて嫌でもわかる。だが類がいなくなってくれたことで村の仕事なんてしなくていいのだ。ここは昔のように無法地帯、牛耳るのは俺だ。奪い奪われのセカイに戻るのならにっくきロボットに付き合う必要なんてないのだ。
その数時間後、この村に彼の居場所はなくなっていた。
懐からタマゴ型ロボットを取りだした類は、それに向かって喋りだした。
「皆さんおはようございます万事屋です。この度は皆さんにお話したいことがありますので少しお耳を傾けていただきたいのです」
そんな機能もあったのか。司の口はあんぐりと開いていた。
静かに始まるロボット越しの演説。その内容は全て村長たちの悪事である。そもそも売られていたのはニワトリだけではない。いらないと思ったもの全てを金にかえた村長の言葉を信じる者は類を追い出そうと思う村長側の動物以外いなかった。
そして演説は不穏な空気を放つ。
「今ここに皆さんの家族がいます。僕に協力してくだされば家族は皆解放しましょう」
その言い方は取引というか、脅しの1種だろう。それまで静観していた司は思わず「おい」と割り込んでしまう。それは彼の言葉の足りない説明に対してと、この馬車には自分たちしかいないのに何を言っているんだの意味が籠っていた。類はそんな司を無視し有無を言わせない態度をつらぬき、そして動揺する村人たちを1箇所に集めきったのだった。
民が皆、お金を握りしめてこう言った。
「村長、お金は差し上げますから村から出ていってください」と。次々に現れる弱者にとうとう恐れをなしたかと愉悦した。その額はこないだのニワトリの額もあっと驚くほどに超え、喜びのあまり了承した。
これだけあればこんな小さな村ではなく街へ出てもっともっといい生活ができることだろう。もしお金が無くなったらまた徴収しに来ればいい。
御者が馬車を引いてくる。乗りこみ、丁寧にベルトを締められたとき村長はふと思ったのだ。馬車なんてどうして泊まっているのだろう。万事屋もいないのに。
時すでに遅かった。ベルトを通された先に南京錠がかけられ、異変に気づく。拘束された中唯一動かせる首を曲げて隙間から動物たちの様子を見ればそこに居たのは売りにだしたはずの商品たちだった。そしてその隙間から万事屋のしたり顔。あのうるさいニワトリまでもがそこにいた。
待て!止まれ!村長は叫ぶ。馬車は動き出した。
後ろをついて行く荷馬車からも同じような声が続いていた。
彼らは動物園に買われたんだよ。類はそう言った。
どうやらそこはエサがたんまりと貰える場所らしい。人間という種族に媚びて販売機からおやつを貰えさえすれば、の話らしいが。獣たちは常にお腹を空かせた顔をしていた。恥を捨てパフォーマンスに徹するようになれば今より安定した暮らしを築けるだろう。
そうして村は本格的に類の力で統治された。
言葉が足りない彼の言葉に村のみんなは萎縮してしまったが司がすかさずフォローに入る。彼に敵意などは一切ない。ただ言葉の選び方が少し下手くそなのである。現に司も荷馬車にて運ばれた皆も丁重にもてなされていたのだ。
次代の村長の器などこの荒れた土地を村にまで成長させ、結果皆の納得いく形で統治した類以外にいないだろう。だが当の本人はあっけらかんとした表情で村長なんてやる気はないよ?と笑い司は頭をかかえた。
「僕はただ司くんを助けたかっただけだからね」
だってこうすれば君は晴れて自由の身だろう?
そう。養鶏場にオスのニワトリたちが帰ってきた今、司が気をやる必要はなくなったのだ。自分の見たい景色を見に行っても村の心配をすることなんてない。だけど。
「オレは類のそばにいたいと思う」
「え?」
「オレは類に買われたからな。そうだ、類のしてほしいことならなんだってするぞ」
「何もしなくていいよ」
「そうかそうか……なんでだ!!?」
「正直な話貯金のほとんどを使い切ってしまってね。旅に出る資金すらないというわけさ」
「あ…それは、すまん……」
謝らなくていいんだよ。全ては僕がそうしたかったんだから。お金がないのは困るけれど大切なものがそばにいてくれると言った。懸念材料としてはなんだってするだなんて無垢な瞳で恐ろしいことをいうオスであることだろう。このままじゃ遅かれ早かれ悪い輩を引っかけるに違いない。類は思い悩み、そうしてひとつの答えにたどり着いた。
「司くん、村長をやる気はないかい?」
「は?」
「僕たちは今お金がない。お金を稼ぐためには仕事が必要。今まで通り万事屋と養鶏場で過ごすのも悪くはないけれど村長になればもっとお金が稼げるよ」
村の隅から隅までの問題に対応していかなければならないだろうけれど。ある程度大きな問題について司は心当たりがあった。なぜなら彼は万事屋のお手伝いをしている最中村のあちらこちらを行ったり来たりと忙しなかったのである。地形や整備の不十分なことは村1番に詳しいのかもしれない。
「じゃあ類、一緒にやろう!オレは難しいことはまったくわからん。そのときに知恵を授けてくれ!お前とならもっと村が繁栄することは間違いないだろうからな!」
「フフ、いいね。村長補佐として共にスローライフを送ろうじゃないか」
こうしてこの日新たな村長が誕生した。
自分勝手ではない民のことを考えて行動のできる村長は支持率が高く、そしておおらかな性格から相談がしやすいこともありどんどん繁栄していった。流通経路は村長補佐が広げていった。さびれた村はいつしか賑やかしい街になった。
あの時本で見たような景色とは違うがそれでも2人にとって大切な場所となったのである。
今日も朝を知らせる声が村中に響きわたっていた。
「みんな朝だぞ!コケコッコーーーー!!!」
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お話まとめようまとめようしていたら全然甘くならなかったから「今日はオフだから甘えてもいいんだ」ってウサギさんに抱きつくニワトリくんの回とか、喧嘩した時に「飼い主の言うことが聞けないのかい?」「そういう時だけ飼い主面をするのはやめろ!」「僕のしてほしいことはなんだってするんだよね?」「お前みたいなやつは甘やかしすぎたらダメになるだろう」ってピリつく回とかほしいです。