帝都メランコリア1
帝都の春は騒がしい。
零れんばかりの桜が上野の恩賜公園の周りには咲きほこり、夕方まで残る春の陽気に浮かれた人々がその下を行き交う。
つい先月には、ここ帝都で若い将校の殺死体が発見され、ちょっとした騒ぎになったばかりだというのに。
都会の人々の興味は忙しなく、瞬く間に移ろっていくものらしい。
そんな桜の花弁がそこここに舞い散る帝都の春の通りを、鯉登は砂埃をあげて走る車の中から眺める。
正直、進んで出向きたい場所では決してなかったが、鯉登の職場である陸軍省にわざわざ電話を寄越された上、車までを回されて呼び立てられれば、出向かざるを得なかった。
車の着いた先で、庭の石畳を進んで玄関までいくと、一人の老人が扉の前で待っていた。
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