悪夢『きっちゃん』
『なに？ゆきんこ』


『はーなーれーろーなのだー』
そう言って手で彼の体を推しやろうとするも
安城はぎゅうぎゅうと抱きしめる手を離さなかった


『苦しいのだきっちゃん！…きっちゃん？』
返事がなくなった安城の表情を伺おうと顔を見上げる


ポロポロ
！！
安城が泣いていた


抱きしめる力はそのままに
ゆきんこを見つめる目は優しいのに
その灰色の目から涙が頬を伝っている

『きっちゃんどうしたのだ？
どこか苦しいのか？』


雪がそう問うと
ゆっくり安城が口を開く


『ゆきんこが…いなくなる夢を見た
やっと帰ってきたと思ったのに
向こうで新しく好きな人が出来たって…
この人と結婚するのだって…
知らない男が空港まで迎えにきたんだ…』


『俺…バカだから格好つけてさ
笑って2人を見送るんだ…
そうやって飛び立つ飛行機を見てるとこで目が覚めた』


『格好悪いけど本当は嫌だった
でも俺まだ全然強くなれてないし
ゆきんこが幸せそうに笑ってたから…
何も反論できなくて…』


ぱんっ
痛みに目を見開く安城
雪が両頬を叩いて見つめていた
その表情は怒っていた


『ばかなのだ
きっちゃんはばかなのだ！
…
きっちゃん、ぼくが好きだと言ったこと忘れたのか？
ぼくがそんな浮気者だと思うのだ？
みんなに会いたくてきっちゃんに会いたくて
必死に闘病生活乗り越えてやっと帰ってきたのに
情けないこといってるんじゃないのだ』


『ぼくを幸せにするんじゃないの？
まぁ、ぼくが幸せにしてやるからいいけど
情けないきっちゃんのままでいるなら
犬やボスに殴ってもらうのだ
しっかりしろなのだ
ヒーロー失格なのだ』


ずびっ
鼻水を啜り目に光が戻ってくる安城


『ごめんゆきんこ
俺強くなる、ゆきんこを幸せにできるように』
『出来なくてもいいのだ？
ぼくが幸せにしてやるからな』


『やだ！俺が幸せにする！』
『うるさいっ耳元で大声出すななのだっ』
そう言って頭突きされた
『痛っ…ハハハ』


季節は再び冬になる