名前を呼ぶ『ねぇ雪ちゃん、ちょっといいかな』
ある日久々に会った無馬さん呼び止められた
『無馬さんおはようございますなのだ』
『おはよー』
微笑む無馬だが相変わらず表情は読めない
『それでね、話なんだけど』
そう言いつつ、ちょいちょいと手招きをしてさらに距離を詰めるよう誘導される
『安城呼ぶ時さ、きっちゃんじゃなくて下の名前で呼んでみてよ。』
『え?きっちゃんを…?』
『そう、呼び捨てでも違くてもいいからさ』
『恥ずかしいのだ…』
今まで苗字やフルネームはあっても下の名前で呼んだことなどない
改めてそう呼ぶとなるとなんか気恥ずかしい
『安城さ、最近雪ちゃんが忙しそうにしてたりなかなか起きてこなかったりで寂しがってたよ。呼んであげたら喜ぶと思うな』
『呼び方だけで…?』
『そう、男は単純だからね』
『わかりましたなのだ…』
『ありがとう。お願いね』
無馬のお願いに、微笑みに…了承するしかなかった
まあ寂しい思いをさせたと言うなら何かしたいと思うし、こんな事で元気が出るかわからないけど悪いことじゃないからやってみようと思う雪だった
__________
『安城、おはよう』
『無馬君おはよう』
少しして安城が起きてきた
今日は珍しく雪より遅い時間の目覚めだ
昨日も一昨日も雪は起きてこなくて、その前は忙しそうにしていてなかなか話したいこともいえなかった
『はぁー…』
寂しくさせないって思ったのに、強引に何かする勇気もなく時間だけが過ぎてしまった
ふと見かけたあいつが
誰かと楽しそうに笑っているのを見て
モヤッとしたのはなんだったんだろう
そんなに心狭いのか俺は
無馬と話しながらアジト前で皆がチルしてる所に合流する
『おはよう』
『安城おはよー。ミッション終わってしばらくチルだよ』
そう言われてクラフトでも行こうかと思案する
🎵〜〜
電話が鳴る
表示を見ればゆきんこだ
チラリと画面を見かけた無馬が言う
『安城、スピーカーにして』
『え?いいけど…』
疑問に思いつつも従う安城
無馬は人差し指を立てて口に当て周囲に視線をよこす
ピッ
『もしもし?』
『もしもしきっちゃん?おはようなのだ』
『おはようゆきんこ。今日は早いな』
普段聞くより甘さを含んでいそうな声
無言を貫くメンバー同士で視線を彷徨わせる
『きっちゃんこれから何するのだ?』
『あー…クラフト行こうかなって思ってる。ゆきんこは?』
『インパウンドされた車取りに行きたいから良かったら連れて行って欲しいのだ。クラフトも付き合うのだ』
頼られる事で寂しかった気持ちよりも嬉しさが増す
『OK OK今どこにいるの?迎えに行くよ』
『んーと今はね、犬とカジノまで野暮用があったのだ』
『ふーん、また白井さんか』
相変わらずの白井さんとの行動の多さに少しだけムッとする
『何か怒ってる?』
『いーや別に?何しに行ってたのかなって』
『犬に付き合って遊んできたけど負けちゃっただけなのだ』
『(野暮用って言ってたのに…)ふーんそっか』
何か濁された気がするけど突っ込む勇気も無い
『あの…さ。』
歯切れが悪くなったゆきんこ
『?…どした?』
何かあったんだろうか。思わず心配になる
しかし次の言葉に耳が震えた
『成…くん…早く迎えにくるのだっ』
ぶちっ…ツーツーツー
『え?』
一瞬思考が止まる
なんて言った…成…くん?…え?
ぶわーっと顔に熱が上がるのがわかる
心臓の鼓動が早くなるのも感じた
『ゆき
『成くん!?』
『ばかっ!』
天草の声とそれを遮ろうとするヘルアンに我に返った
周りにはALLINのメンバー
見渡せばニヤニヤする者、顔を背ける者、肩を組もうとしてくる奴もいた
うざいながらもニヤケが止まらない安城
『安城早く行けよ』
そう言うのは無馬だった
『そうだぞ早く迎えに行ってやれよ成君!』
『成くんはやく!』
『うるせっ』
そう言って冷やかすメンバーを後にして車に向かった
『ふふっ。いいねぇ、こーいうのがいいんだよ』
無馬の呟きは彼には届かない
※ちなみに最初は呼び捨てしようとしたけど、恥ずかしくて成君になったのはここだけの裏話