ツィーゲのショッパー〜Introduction〜
瑞々しい緑の新芽が生え始めた春のこと。日中だけなら日差しも強く半袖で過ごしても良さそうだが、あと数時間で日が落ちる。そのときのためにと神谷はカーディガンを羽織った。
「此度の試練、カミヤは乗り越えられるのか……?」
「水嶋さんと巻緒さんが街にいはるみたいやし、案内頼もか?」
出かける支度を済ませた若き店長に、厨房からは彼の身を案ずる声が上がる。
本日、彼が経営するCafe Paradeは店休日だが、神谷は溜まっていた店の書類の整理を、東雲は夏季に向けたスイーツの開発を、アスランは料理の仕込みに訪れていた。
「ははっ、心配症だなあ。大丈夫だよ、何回も行ってるんだから」
くだけた口調だが品良く聞こえる神谷の声色が蒸らし中の紅茶のようにふわりと舞う。
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