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    シクトリ年賀2021

    #安赤

    ゆく年くる年

     全然面白くない。クリスマスが過ぎてしまえば改まって新年を祝う気にはならなかった。
     一年で最も日本人が羽目を外すイベントでこそ警察関係者の彼は仕事が立て込む。こういうのも年末進行というのだろうか。例年どおりならば、そう簡単に納まるような仕事ではない。だが今年は上司が気を利かせて三が日を非番にしてくれたらしい。
     毎年家族持ちの同僚に休みを譲っていた独り身にだって春はやってくる。二人が「そういうこと」になって初めての年越しに、赤井は多少なりとも浮かれていたのだ。新年を迎えることに何の感慨も湧かなくとも、とにかく二人きりで過ごす時間は貴重だ。まず一緒に買い物へ出掛けて、酒やら食料やらを買いに行こう。一日中ベッドから離れず済むようにゴムの補充も怠ってはいけない。しかし彼にその気があるのなら今日ぐらいはナマでも……まぁ、吝かではなかった。
     それが降谷からメアリー、秀吉、真純が滞在するホテルへ赴くと聞いた途端、気分が急降下したのを感じた。この落下速度から算出するに、相当高みにまで浮上していたのだろう。地面に叩きつけられた期待は四肢粉砕してグロテスクなアート作品に昇華されている。辛うじて意識を保ち続けているのはクローゼットの奥に隠しておいたサプライズ用のセクシーランジェリーを遺品にすることだけは絶対に避けたかったからだ。
    「ーーそれでママはどうしたの?」
    「何度叱っても懲りずに部屋のドアを開けっ放しにするからな、制裁もやむなしだ」
    「あ、それ。未だにそうですよ。自分が中途半端にしか閉めないくせに寒いって文句を言うんです」
    「兄さんは昔から変わらないなぁ」
     全くもって面白くない。赤井は憮然とした表情を崩さず、沈黙を貫いた。正月元旦が何だというのだろう。家族が集まることなど年に数度どころか、片手で数える程もなかったくせに降谷との仲が露見してから妙に交流が増えた。そして本人でも覚えてないようなことをベラベラと掘り起こされる。降谷と真純は嬉々として話を聞きたがるし、メアリーはここぞとばかりに幼かった頃の赤井の醜態を晒す。そこにより正確な記憶を持つ秀吉が情報を追加するので個人情報保護法もクソもあったもんじゃない。
     もはや酒を飲む以外することがない。車の運転は最初から降谷に投げている。いつまでこの苦痛に堪え続ければいいのだろう。いっそテロでも起きれば降谷も緊急招集されて、この場もお開きになるのではないか。そしてここにいる非常識家族がよく分からない協力態勢を発揮して、テロリストが可哀想になる程のスピード解決。ーー駄目だ。これでは後処理に追われて休暇なんてなかったことにされてしまう。短絡的な犯行のせいで全てを台無しにする訳にはいかない。もう少し危険レベルを引き下げなければ。
    「何を引き下げるんです?」
    「ん」
     顔を上げると正面に降谷の顔があった。こんな近くにあるのに毛穴も見えない。目を凝らせば薄っすら髭のような跡が確認出来たが、顕微鏡を使えばきめ細やかな三角四角が並んでいることだろう。特別なケアをしている様子はないのにいつまでも若々しい恋人が少し眩しかった。
    「完全に酔ってますね。ほら、これ飲んで」
    「ん」
     差し出されたカップを反射的に受け取る。人を酔っ払い扱いするなんて随分偉くなったものだ。一息で水を飲み干してカップを押し返すと、それが普段から愛用している赤井のマグだったことに気づいた。同居の際に降谷と揃いで買い揃えた無地のデザイン。手仕事だからと、赤井以上に降谷が重みやら取っ手の形やらに拘っていた。
     なぜ、ここにある。疑問に首を傾けると降谷の穏やかな笑みが応えた。
    「貴方も酔って寝ちゃうなんてことがあるんですねぇ。……やっぱり家族の前だと違うのかな」
    「は? 俺が?」
    「全然起きないから僕がうちまで運んだんですよ。泊まっていくよう誘われましたけど、さすがにそれは赤井も嫌がると思って断ってきました」
    「それは……すまないことをした」
    「いえ。役得でした」
     にこりと音がするほど上機嫌なので嘘ではないのだろう。リビングのソファに預けていた身体を起こして時計を見上げる。時刻は午後十一時。記憶より五時間以上が経過していた。
    「アルコールが抜けきっていないようなら僕が一緒にお風呂入りましょうか」
    「謹んで辞退させてもらおう」
    「寝ている間に浴室へ連れ込まなかっただけ感謝してください」
    「どういう意味だ」
    「準備も僕がしますから」
     腕を引かれてなすがまま脱衣場に移動する。今夜はもうこのまま眠ってしまいたくて、抵抗する気力も湧かなかった。本人は気付かないものだが酒の匂いというものは時間と共に悪臭へと変わる。成人男性の体臭と相まって早急に洗い落とさなければ最後に後悔するのは自分なのだ。
     次々衣服を剥いでいく降谷のつむじを見下ろす。このまま放っておいても勝手に世話を焼いてくれるだろう。昼は散々放置されたのだから仕返しとばかりに身を任せることにした。
     柚子が香るバスルームは、男二人が入っても十分ゆとりがある。隅々まで身体を洗って浴槽に浸かると、背中から包み込まれるように降谷の膝の間に収まった。
    「ねむい」
    「構いませんよ。このまま僕に委ねてください」
    「……ご機嫌取りのつもりか?」
     言ってから間違いに気づいた。これでは降谷の好きにされることが嬉しいみたいではないか。もちろん嫌ではないけれど、だからといって矜持はあるのだ。本来、赤井秀一という男は家族恋人関係なく、べたべたと甘える性分ではない。そういうものとは距離をおいて、常にフラットであることを良しとしてきたはずなのに。
     乳白色のお湯が大きく揺れる。抱きしめる腕の強さに、正しく赤井の失言を汲み取ったことが知れた。居たたまれず俯いた首筋に熱い唇が何度も吸い付いていく。びくりと跳ねる肩は誤魔化しようもなく、齎される悦びを受け入れた。
    「ふふ」
    「気色悪いぞ」
    「こんな楽しくて、嬉しいことばかりで」
    「俺は全然楽しくない」
     眠気はどこかに飛んでいってしまった。不埒な手が下肢へと伸びて、降谷のいう「準備」が入浴だけで留まるわけがない。赤井がそれを望んでいたのは去年までの話である。年が明けたらもうその気はない。そもそも気を削いだのは降谷のほうなのだ。
    「こういうのを盆と正月が一緒に来た、っていうのかな」
     上機嫌な声音が「クローゼットの奥から出しておきましたから、ちゃんと着てくださいね」と言い放ったのは聞かなかったことにした。
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    AmeHitori_

    MOURNING深夜の悪ふざけ。付き合ってる安赤。
    地味に再開した百人一首のお題用だったはずが文字数を間違えて書きすぎてしまったやつ(900字…)
    次は500字未満を目指します…
    赤井のトレードマークといえば黒いニット帽だろう。人のファッションにケチをつける気はないが、TPOぐらい弁えてほしい。ただでさえ色々と目立つ容姿をしているのだ。背も高いし、手足も長い。顔立ちは凶悪犯じみているが、一定層ではこういう顔も世間には定評がある。ただ、一人モノクロのスリラー映画から飛び出してきたような近寄りがたい雰囲気が難点であった。
    「せめてもう少しカジュアルになりませんかね」
    「? まじ卍?」
    「カジュアルが急ハンドル過ぎる」
     微妙に古いし。どこで仕入れた知識かと思えば、以前蘭さんがJK用語を練習していた時に教わったという。いくら現役女子高生といえど人には向き不向きがある。赤井も同様、沖矢昴の服装では首から下がクソコラ状態だった。この傾向ではないのは間違いないのだが、じゃあどこへ向かえば正解なのか分かっていない。私服が迷走する赤井に降谷は大きなショップバッグを差し出した。
    「僕が選んできましたので、とりあえずこれ着てください」
    「ほぉ。ドン降谷の辛口ファッションチェックというわけだな」
    「さては沖矢昴の頃から情報のアップグレードがされてないだろ」
    「最近はキナリノ派だ」
    902

    AmeHitori_

    CAN’T MAKEシクトリ年賀2021ゆく年くる年

     全然面白くない。クリスマスが過ぎてしまえば改まって新年を祝う気にはならなかった。
     一年で最も日本人が羽目を外すイベントでこそ警察関係者の彼は仕事が立て込む。こういうのも年末進行というのだろうか。例年どおりならば、そう簡単に納まるような仕事ではない。だが今年は上司が気を利かせて三が日を非番にしてくれたらしい。
     毎年家族持ちの同僚に休みを譲っていた独り身にだって春はやってくる。二人が「そういうこと」になって初めての年越しに、赤井は多少なりとも浮かれていたのだ。新年を迎えることに何の感慨も湧かなくとも、とにかく二人きりで過ごす時間は貴重だ。まず一緒に買い物へ出掛けて、酒やら食料やらを買いに行こう。一日中ベッドから離れず済むようにゴムの補充も怠ってはいけない。しかし彼にその気があるのなら今日ぐらいはナマでも……まぁ、吝かではなかった。
     それが降谷からメアリー、秀吉、真純が滞在するホテルへ赴くと聞いた途端、気分が急降下したのを感じた。この落下速度から算出するに、相当高みにまで浮上していたのだろう。地面に叩きつけられた期待は四肢粉砕してグロテスクなアート作品に昇華されている 2682

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