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    Satsuki

    短い話を書きます。
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    Satsuki

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    ハロウィンぽいレトユリっぽなにか2022。「三年目の同窓会」で展示していました。221031

    「あの家はヤダ! 行きたくない!」
    「じゃあ、一人でそこで待ってれば?」
     僕がいくら止めても、友達はあきれ顔で村はずれの小さな家へと歩いて行ってしまう。シーツを頭からかぶり直し、カボチャ型の小さなバケツを持って。
    「ま、待てよ! 一人にするなよ……! 僕も、行くから……」
     慌てて追いかけた。今日は、死者が蘇るといわれている祭りの夜。昔からファーガスには、戦争で亡くなった人たちの霊を慰めるお祭りがあった。戦争があったのなんて、うんと昔の話だけど、当時の王様と大司教様が、戦争で活躍した人たちにイケーの念というものを示して? それで取り決めた祭りらしい。それに、ここファーガス西部を治めていた領主さまが子供好きで、おまけに甘いものにも目がなかったとかで、このお祭りでは子どもたちがお菓子を貰える日になっているんだ。家々を回って、お決まりの台詞を言う。そうすると、このバケツにお菓子を入れて貰える。今日だけはどの家もお菓子を準備して子供を待っているものだ。でも、僕はあの家にだけは近づきたくなかった。町はずれにぽつんと立っている、どこか異国風の家。木々に囲まれて、ひっそりとしているあの家には、男の人が二人で住んでいるけれど、あまり姿を見かけたことはない。僕たちが学校へ行っている間に、お母さんたちは挨拶をしたり、野菜を交換し合ったりしてるみたいだ。
     これは秘密だけど、僕はあの人たちが人間じゃないということを知っている。あの人たちの正体を、見てしまったことがあるから。

    「こんにちは!」
    「おい、声おっきいよ! 聞こえちゃうだろ!」
    「まだそんなこと言ってる。お菓子もらいに来たんでしょ?」
    「いやでも留守みたいだし。ほら、早く行こう!」
    「なんで? こんにちはー!」
    「ねえってば!」
     ガチャ
     友達を連れて逃げようとする僕の目の前で、無情にも扉が開いてしまった。ビクンと飛び上がった僕の頭から、魔法使いの帽子がずれる。それを、誰かの手が優しく直してくれた。
    「やあ、可愛いお化けと魔法使いさんだ」
     若葉色の髪をした男の人が、僕の顔を覗き込んで言う。息を飲んだ。なんて整った顔立ちをしているんだろう。お父さんより、兄ちゃんより、ずっとかっこいい。
    「こんにちは! お菓子をくれないと、森から魔獣を呼んじゃうよ!」
    「そりゃ困る。ほら、バケツを出しな」
     もう一人。紫色の長い髪を、頭の高い位置で結んで、灰色のゆったりとしたシャツを着た男の人。こっちも、まるで女の人かと思うくらい綺麗な顔立ちをしている。それに、お化粧をしているみたいだ。お祭りだから、仮装をしているのかな?
     でも、騙されるもんか。僕は知っている。この二人は、人間じゃないんだ。この美しさだって、『人ならざるものだからこそ』のものに違いない。
    「一度に食いすぎんなよ」
    「君は確か……肉屋の息子さんか。お母さんによろしく」
    「はい、ありがとうございます!」
     友達が元気にお礼を言って、ついでにひょいと家の中を覗き込んだ。なんて失礼な奴なんだろう! 俺が引っ張っても、平気な顔をしている。
    「いい匂いがする」
    「おっと、あっちの焼き菓子は俺のモンでね」
    「すまないな」
    「も、もう! ごめんなさい、さようなら!」
     僕はぺこぺこ頭を下げて、友達の手を掴んで歩き出した。二人は最後まで笑顔で見送ってくれたけど、僕の心臓はバクバク脈打って、今にも飛び出してしまいそうだった。
    「バカ! 家の中に入れ、なんて言われたらどうするつもりだったんよ!」
    「ええ? いいじゃん、美味しそうだったな~あの焼き菓子」
     歩きながら、僕はあの夜のことを思い出す。作ったばかりの飛行模型を、森で失くして兄ちゃんに散々叱られた日のことだ。どうしても見つからなくて、悔しくて夜中にこっそり家を出た。真っ暗な森の中を、もう一度探そうと思ったんだ。今考えれば、無謀で馬鹿な行動だったと思えるけど、あの時は必死だった。でも、結局森への道までたどり着くことすらできなかった。何故って、途中のあの家の前で……見てしまったからだ。
     木々の間に二人が立って、くすくす笑い声が聞こえていた。ゾクッとして目を擦ると、ふいに月が雲で隠れて、辺りが真っ暗になった。黒い影が二つ、重なるようにして立っていた。そして、片方の影が、もう片方の首筋に顔を埋めて……噛みついたんだ。
    『ッ……』
     呻き声が聴こえた気がして、僕は口をぱくぱくさせて足を竦ませた。
    (吸血鬼だ!!)
     瞬間的にそう気付いた。ちょどその頃に街の図書館で呼んだ、舶来ものの本に出て来た怪物。フォドラにはいないって思っていたけど、いたんだ。人の首筋に噛みついて血を吸い、永遠に生きるという、吸血鬼。噛みつかれた方の影は、力が抜けたみたいになって、二人はそのまましばらく重なり合ったままだった。その後? それは分からない。僕は泣きながら走って逃げたから。
     お母さんに聞いてみたら、あの二人はいつから住んでいてどこから来たのかもわからないらしい。それで確信した。二人のうちどちらかが吸血鬼で、相手の首筋を噛んで、仲間にしてしまったのだろう。

    「ねえ、手が痛いよ。放して!」
     友達がそう言うので、僕は仕方なく握っていた手を開いた。お化けのシーツから顔を出して、彼はちょっと怒り顔だ。
    「次、どこに行く?」
    「……うん……」
     生返事をしながら、僕はさっきの家でもらった飴を見てギョッとした。
    「ち、ち、血の飴だ!!」
    「はあ? ベリー味だろ」
    「ちがうよ! 血だよ!」
    「バカじゃないの」
     今度こそ呆れ返った友達は、真っ赤な飴の包みを開くと、ぽいと口に放り込んでしまった。
    「ああっ! な、仲間にされる!」
    「んん、すっごくおいしい! ジャムが入ってるのかな」
    「血の味を誤魔化すためだ!」
    「あのさ……お祭りだからって、しつこいよ」
     頭を抱えた僕を尻目に、友達は次の家へと歩いて行く。ああ、女神様、大司教様、誰でもいい。友達が、吸血鬼になんてなりませんように!



    「はあ~、今年のジャムは本当にいい出来だな。あんたの焼き菓子によく合うよ」
    「飴にも使えたし、うまくいって良かった」
     子どもたちの訪問もひと段落し、ベレトとユーリスはゆったりとティーカップを傾けていた。
    「けど、この祭りも何十回目だ? そろそろ引っ越し時かな」
    「そうだな……あの子たちの両親が小さかった頃からここにいるし……そろそろ怪しまれるかもしれない」
    「紋章もちは長生きするって言われてても、限度があるしなあ」
     言いながら菓子を齧ったユーリスの頬を、ベレトは優しく指で拭った。赤いベリーのジャムがついていたのだ。ぺろっと舐めて見せると、ユーリスはちょっと照れ臭そうにニヤッと笑った。今頃、子どもたちもこのジャム入りの飴を食べているだろうか。年々菓子作りが上手くなっていく我が自慢の伴侶特製の、飴を。
    「しかし、森から魔獣を呼ぶって決まり文句も面白いよな。大昔に噂になったのって、正体ディミトリだったろ」
    「本人も、まさか自分の噂がここまで残ってしまうとは思っていなかっただろうさ」

    終わり
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