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    Satsuki

    短い話を書きます。
    @Satsuki_MDG

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    Satsuki

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    いつかのどこかのレトユリ。無双のユーリスの支援を噛み締めた。前にもこういう文章書いた気がする。230728

    罵声が飛び、側頭部に衝撃が走った。奥歯を食いしばり、ユーリスは石の飛んできた方を睨みつける。言ってやりたいことが山ほどあった。善人面したクズ共が、一体どんな顔で自分に石を投げているのかと。
    その口で、屋根もない場所に蹲る子どもに、優しい言葉の一つでもかけてやったことがあるか。その手を差し伸べて、パンのひとつでも恵んでやったことがあるのか。
    拘束された両手にかけられた縄を引かれ、ユーリスはよろめくように前に進む。美しい顔に鮮血が伝い、唇を紅く彩っている。眼の前の兵士の無機質な鎧。その背中に、どんなうまい話を持ち掛けてやれば、この場を逃れることができるだろう。なんて、馬鹿げた考えだ。全ては遅すぎる。いや、こうなるのがそもそも遅かったのかもしれない。あの時、教団の司祭を斬り捨てた時。流行病で高熱を出した時。何度も、この命が尽きたと思った。けれど生き延びた。だから少し、思い上がってしまっていたのだろう。そう簡単には、自分は窮地に立たされまいと。そうして辿ってきた道の先で、今は地面を踏みしめて歩く。一歩、一歩、と、死に近付いていく。
    処刑台はすぐそこだ。民衆の声に混じって、自分を呼ぶ声がする。ユーリスは血に染まった唇を歪め、微笑んだ。部下たちの呼ぶ声か。面倒を見てやっていた子どもらの悲鳴か。まっすぐ前を見つめ、じくじくと体中を蝕む痛みに耐える。
    自分は悪党だ。人を騙し、教会の目をかいくぐって禁制品を売買し、汚れた貴族を食い物にしてきた。自分が何故そんなことをしてきたのか、今はそんなことはどうでもいい。ユーリスの夢は、そのちっぽけな野望は、仲間の誰かが引き継いでくれるだろう。いつの日か、貧困にあえぐ人間が減り、その日食べる物やありふれた薬に困る子どもがいなくなればいい。そんな未来が、きっと。きっと、やって来る。
    それはもう、自分の肩から下りた荷なのだ。軋む木製の階段を上がりながら、ユーリスは足元に滴る自分の血の赤さを見つめている。処刑人が、彼の名を呼んでいる。高らかに罪状が読み上げられる。
    (そんなのは……俺の名前じゃない)
     顔を上げ、ユーリスは笑った。こんな日でも、空は青い。民衆の中に母がいないことだけが、彼の心に安らぎを与えてくれていた。


    目覚めると、思いのほか嫌な汗がじっとりと背中を濡らしていた。
    (夢……)
     呼吸が引きつった。一瞬、自分がどこにいるのか分からなくなる。暗闇が恐ろしかった。心臓がドクドクと鳴り、痛いくらいだった。渇いた口内で舌がへばりつく。手を伸ばした。寝台の横に水があるはずだ。
    「『   』……」
     優しい手が触れて、やっとユーリスは闇の中で大きく息を吐いた。冷たい水が体を潤し、愛しい人の体温が心にしみわたる。
    「すまねえ、起こしたか?」
    「怖い夢でも……?」
     再び寝台に横たわったユーリスを抱き寄せて、穏やかに問いかけるベレトは、半分眠りの中にいるらしい。その手を握り、ユーリスは体の力を抜いた。触れた場所から強張りが解け、気分が楽になっていく。
    「いいや」
     閉じた瞼の下に、じわりと涙が滲んだ。夢の中でも零さなかったのに、どうしてこの人の隣だとこんなにも目の奥が痛むのだろう。まだ夜明けは遠い。ユーリスは、気遣わし気に寄り添うベレトにそっと囁いた。
    「ただの夢さ」
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