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    torimocchi1

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    torimocchi1

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    大遅刻お留守番
    家にいるししさめ

    巣篭もり『旅行好きだよね』
     よく言われた言葉。そうだ、オレは旅行が好きだ。豪奢なホテル、バカンスとして有名なリゾート地。共感されやすく華やかに見える趣味。旅行に金を使えるという事は、それだけ自分に資産があるという事。
     昔はいくら望んでもできなかったこと。
     オレは旅行が好き。資産があって、自由にどこにでも行ける。羨まれ、傅かれるようなオレは旅行が好きなのだ。

    「じゃあどっか行こうぜ」
     勤務終わりの村雨を送迎し、夕食まで拵えたところ。レアに焼いてやった食事にご満悦の村雨が人員の関係で丸々の二日休みになったと言ってきた。ならばどこか旅行でも行こうかと返したのだ。
     日帰りなら近隣、強いて言うなら箱根位が精々だが、連休ならもう少し足を延ばせる。村雨も案外ノリのいい奴なので、どこか案が出るはず。
    「何故?」
     何故ってなんだよ。
    「誘われたのか」
    「いや、別にそんなわけじゃないけどよ」
    「折角の二連休だぞ」
    「だからだろ」
    「……?あなたは旅行がそこまで好きではないだろう」
     何故か身体がギクリと強張りそうになるのを抑えながら、自分でも不可解な動揺を底に落とす。
    「何言ってんだ、オメーらと行ってねえだけでオレは旅行好きなんだよ」
     村雨の見透かすような赤い目を細める。それだけで背筋がゾワゾワとした。居心地の悪さを誤魔化すように手を握った。
    「そうか」
     村雨は人差し指で下唇を擦り「材料を買い置くように」と言い残し、反論する間もなく風呂に行ってしまった。
     説明も無く言われた言葉の何も分かってはいないが、勝手に動く身体は冷蔵庫を確認する。少なくともこの連休中に村雨に出す食事を作るのに足りない食材は無さそうだ。
     ソファーにもたれかかって溜息をついた。
     村雨には言い聞かせるような、それでいて残念がるような、そんな響きが村雨には篭っていた。オレは村雨に何をしてしまったのだろうか。
     悩んでいる間に村雨が風呂からあがった。村雨は大抵ろくに髪を乾かさない。だからオレは村雨を足の間に座らせてドライヤーをかける。自分でやれ、と思わないでもないが髪を乾かされている時の村雨が心地良さそうにするので、この時間が嫌いじゃない。
     黒髪がしっかりと硬い質感を取り戻した時には眠たげにゆっくりと瞬きをしていた。それを抱えて寝室のベッドに下ろす。布団を掛けながら隣に潜り込むと、村雨がすり寄ってきた。それに腕を回す。
    「なあ、本当にどこも行かねえの」
     村雨はオレを見上げ、そして目を閉じてしまった。やはりオレには何も分からない。

     休日一日目の朝。カーテンから覗く朝日で目が覚める。隣では死んでいるように村雨が寝ている。時刻は六時。仕事なら村雨を叩き起こして朝食を摂らせるところだが、今日は貴重な休日。ゆっくりと寝かせてやって、自分はランニングでも行こうか。そう思いながら起き上がると、その動きで覚醒を誘発されたらしい村雨がぼんやりと目を開けた。
    「おはよ、まだ寝てていいぞ」
     頭を撫でるとぽやぽやと瞬きをした村雨が服の裾を掴んだ。
    「村雨?」
    「……きょうは、きゅうじつだ」
     服を引っ張りながら唸る村雨に思わず笑ってしまった。
    「はいはい、先生の言う通りに」
     仕方ないを装って再び寝床に戻る。そのまま抱き込んでやれば「上出来だ」と言わんばかりにまた目を閉じた。
     村雨礼二にこんな面がなんて、恋人関係になる前は全く思いすらしなかった。もしかすると家族すら知らないのかもしれない。どことない優越を感じながら再び自分も眠りについた。
     
     ……寝過ぎた。起き上がって開けたカーテンの外は真っ昼間の風景だった。時刻は三時。普段なら間食をしたいと村雨が喚く頃だ。これ以上の睡眠は精神衛生上よろしくない。
     サイドテーブルからタブレットを引っ張り出しベッドから抜け出そうとすると、またもや村雨が服を掴んでくる。もうこれ以上は寝てられない、起きなくては。「お前は寝てていいから」と声をかけて剥がそうとすると物凄い力を込めてくる。なに?オメーは寝ててもいいって言っただろうが。しかし手は一向に離れないので、しょうがなく村雨を抱えて一階に降りる。呆れはしたが、普段聞こえない寝息が感じられるのは思いの外悪くない。
     一旦ソファーに村雨を横たえて、タブレットをローテーブルの端に置く。キッチンの棚から適当に菓子を見繕って戻る。もう一度村雨を抱えて、口元にチョコレートを当てた。するん、と口内に入っていくのが面白いので次々菓子を差し出してやると早々に空き箱を量産した。眠気と食い気の権化みたいな奴。やがて最後の一箱を食べ切るとパッと開眼した。
    「空腹だ」
    「一声目がそれかよ」
     ふてぶてしい態度と言葉、村雨の代名詞。お前はバカ野郎がと殴りもせずに食事を用意するオレに感謝した方いいと思う。言わないけどさ。
     村雨は粛々と用意したチキンサンドを平らげ、食後の飲み物まできっちり要求し、それもきっちり飲み干した。
    「ごちそうさま、美味かった」
    「はいよ」
     食い終えた食器を片付けて隣に座り直すと村雨が寄りかかってくる。こんなのに絆されるオレもオレなんだよな。分かっちゃいるんだけど。
     肩に頭を乗せてきた村雨を向き合うように抱え直す。力を抜いて身体を預ける姿を見れば、安堵と信頼を村雨礼二から感じ取れる。それがとてつもなく嬉しい。回す腕に力を込めて不満は挙がらなかったので、鼻先にキスを落とすと鼻が鳴った。可愛い。
     顔中にキスをしていくと胸を叩かれるので、希望通りに口付けする。ちゅ、と吸われたのを褒めるように角度を変えてバードキスを繰り返す。表情こそ変わらない村雨は、見た限りだいぶ上機嫌だ。
     村雨の機嫌はオレに読み取らせるように発露している時点で良い事が多い。不機嫌を表していても、それはあくまでオレにその不機嫌を知ってどうにかして欲しいと甘えているのだ。猫のように気まぐれで傍若無人なそれを、オレはどうにも嫌いになれない。きっと村雨礼二と恋人でいる間は無理なのかもしれない。
     ぼんやりと考えていると唇を甘噛みされる。痛みが無いのはオレが余所見をしている先も村雨である、というのを村雨自身しっかり感じ取っているからだ。しかし目の前に集中しないのも、確かに野暮である。
     謝罪の意を込めて耳元に口付けると鼻にかかった声が小さく聞こえた。どこもかしこも敏感なのは正直大変ありがたい。調子に乗って噛んだり舌を這わせていると村雨から抗議の平手が頭に降った。いてえ。微妙に気落ちしてしまったので村雨を引き剥がして、タブレットで諸々の確認をする。村雨はジト、とした目をしていたが、お前が引っ叩いたんだろ、オレを。若干不貞腐れている自覚をしながらタブレットの確認を続けていると上に乗ってきた。別に、可愛くはないけど、まあ丁度手持ち無沙汰みたいなとこもないわけではないから、撫でてもいい。今度は村雨の反撃もなかった。そのまま過ごしているといつの間にか外が暗くなっている。時計を見る。八時。時の流れが早い。
    「風呂は?」
    「入る」
    「了解」
     抱えて脱がせて浴室へ座らせ、シャワーの温度確認。村雨は暑いのが得意では無いので体温やや温かめが丁度いい。湯温を調整し、頭から振り掛ける。シャンプーを泡立てて力を入れすぎないように髪を揉み洗いしていく。
    「お痒いところはございませんか」
    「ない……」
     うっとりとしたような表情をするのがやってて楽しい。マッサージするように押したり揉んでいくと気持ち良さげな吐息まで聞こえてくる。洗い終えたら再び湯をかけて泡を流し、今度はボディスポンジを泡立てる。首から順番にスポンジで擦っていく。途中陰部とかはどうしたものかと思ったが止まった手に対して『何をしている?』という顔をされたのでそのまま洗い上げた。ちょっと気まずかった。
     綺麗に上から下までピカピカにしたので、浴槽へ沈める。ぐぅ、と唸る姿はこう、ちょっと恋人に言うのはどうかとは分かってるけど、……おっさんっぽいな。あ、悪かったって睨むな睨むな。
     さっと洗い上げて風呂に浸かる。少し自分にはぬるい温度に慣れたのはいつ頃だっただろうか。目を閉じてぼーっとしていると対面の村雨が寄ってくるので回して後ろから抱き込む。もたれる身体は入浴のお陰か常より温かい。村雨が茹る前に脱衣所の椅子に座らせて水気を拭って、服を着せてやって自分も手早く着替える。ドライヤーを構えるとひったくられた。
    「は?」
    「座れ」
     村雨が自身の足の間を指す。え、床?オメーは椅子なのに?
    「あなた、恋人を椅子に座らせないとは。さてはDVの兆候が」
    「もしもし、先生。ちょいとお尋ねしたいんだが、昨日オレがドライヤーかけた時の体勢は覚えてらっしゃらない?」
     ささやかな反論に対して村雨がギ、と目をすがめる。凶悪な顔だ、というのはいくらなんでも指摘できない。なんせオレは恋人に優しい男なので。
     これ以上反抗するとお叱りがくるので大人しく足の間(床)に着席する。村雨のドライヤーの腕は意外に悪くなかった。触覚が鋭敏で人体の構造に詳しいせいか、力加減が絶妙だ。完璧に髪が乾いた頃には軽い眠気を誘発されて欠伸が出てしまった。
    「ん、ありがとう」
    「随分と気持ちがよさそうだった」
    「めっちゃ良かったよ。どっかで習ったのか」
    「以前に通っていた美容師の見様見真似だ」
    「相変わらず器用なこって。ほら交代」
     手を出すとドライヤーを渡される。椅子に座った村雨の後ろに立って髪を乾かす。
    「あのさ」
    「私はあなたに乾かされる方が好きだ。心地よく、安心する」
    「そっか」
     村雨お得意の思考先回りで発せられた言葉は正しくオレが求めているもので、ちょっと、ほんの少しだけ、ほっとした。
    「ん、終わったぞ」
    「感謝する」
     水気の代わりに硬質さを取り戻した髪を整えがてら、撫でて乾き具合を確かめる。しっかり乾いている、よし。
    「どうしたい、この後」
    「ベッドへ。寝たい」
    「了解」
     村雨を抱き上げて寝室へ。村雨を片手で支えつつ、布団をめくって村雨を横たえる。自分も隣に潜り込んで布団をかける。時刻は十時。寝るには早い気もするが、隣の村雨はポヤポヤとした何かを飛ばしていて、大層眠そうだ。オレとしては村雨は寝かせて自分はタブレットでも覗いてくるか。そう思いつつ電気を消す。村雨の手が背に回ってぎゅっと服を掴んだ。村雨先生のドクターストップ。これは抜け出すのを諦めた方が早い。大人しく就寝すべく力を抜けば『上出来だ』と言わんばかりに背中をリズムよく叩いてくる。それがやけに眠気を催させ、いつの間にか意識がすとんと落ちていた。
     
     休日二日目。村雨がオレを無言でじっと見つめていた。オレよりも早く起きている、村雨。
    「は、よ。めずらしいな、お前が」
    「おはよう」
     言葉と共に手が伸びてきて、頭が引き寄せられる。薄い胸に当たった。
    「村雨……?」
     片手が頭を抱え、もう片方が頭の上に乗って
    「あ」
    「まだ」
    「え」
    「早い。今日は丸一日休みなのだから、もう少し寝たら良い」
     骨ばった手が下りて頬、首筋、耳元とあちこちを擽る。混乱した頭が混乱したまま安堵を感じている。なんだか、わかんないけど、いっか。そんな気持ちが湧いてくる。
    「獅子神」
     額にキスが落とされる。
    「おやすみ」
     意識がゆっくりと沈んでいった。

     ……やはり寝過ぎた。しかも昨日よりも大幅に。睡眠時間に対して身体や意識がスッキリとしている。どう見ても睡眠のとり過ぎて普段なら怠くなってくるのに。村雨の謎技術、ここまでくると怖いな。
     窓の方から差す日差しはだいぶオレンジになっている。時刻は――五時。一日の大半が終わっている。急いで起きようとして、身体の上にかかる腕の重みに気づく。視線を上げると、やはり村雨だった。オレが覚醒すると優しく髪を梳いた。
    「おはよう、よく眠れたか」
    「……よく眠れ過ぎたよ」
     村雨が柔く目を細める。その様子から多大な愛情が伝わってきて、思わずオレは泣きそうになってしまった。苦しいでも悲しいでもないのに。
     村雨は黙ってオレを見て、朝のようにまたオレの頭を抱き込んだ。涙腺が刺激されそうで、引き剥がそうとして、でも出来なかった。村雨の力なんてたかが知れているのに。
    「獅子神」
    「先生、ちょっと今は勘弁して」
    「別にいい」
    「オレがいや」
     一応オレにも沽券と言うものがありまして。あ、止めろ。オレの背中を絶妙に叩くの止めろ。本当にお願いだからオレのプライドってのをもう少し慮ってくれ。頼む。
    「私はあなたの恋人だ」
    「だからってのもあるんだよ、男には。頼むよ先生、今度シャトーブリアン出すから」
     村雨はしばし悩んだ様子でオレの目元を覆った。何故か決壊寸前まできた涙が急速に引っ込んだ。オレ、何をされたんだろ。
    「あなたは扱いやすい」
    「お、やんのか」
    「あくまで私にとってはというだけだ。素直とも言い換えてもいい」
    「せめて最初からそっちにしてもらってもいいか」
     言葉のチョイスが悪すぎるだろ。睨むと村雨が首筋を撫でてくる。雰囲気でゴリ押してくるの卑怯だぞ。オレが流されると思ったら、その通りだ。悔しい。辛い。
    「起きるぞ。腹、減ったろ」
    「空腹だ」
     起き上がって何か軽食でも持ってくるか。考えていると村雨が両手を伸ばしている。……この二日に限ってはお前もやけに素直だな。いつもこうだと嬉しいんだけど。
     村雨を抱えてリビングに降りる。さてこのブランチにしても遅い食事をどうするか。村雨なら重いもんを出そうと夕食もきっちり食べるだろうが。
    「軽食がいい。ホットサンドのような」
    「もしかして具合悪いのか」
    「違う」
    「じゃあ」
    「片手で食べやすい食事にしてほしい」」
    「あー、まあ、いいけど」
     今日は珍しいの連続だ。明日は槍が降るかも知れない。
    「降るわけないだろう」
     思考読んで返事するの悪い癖だぞ。
     
     リビングのソファーに村雨を座らせ、冷蔵庫にあった鶏もも肉でチリチキンを作成。レタスと一緒に耳を落とした食パンで挟みトースターへ。タイマーの音の後に開けると、スパイシーな香ばしい匂いがする。食べやすいように対角線に切って、切って皿に盛り付け、完成。飲み物と一緒にローテーブルに乗せる。
    「できたぞ」
    「ありがとう、いただきます」
     片手でサンドを引っ掴んでもそもそと食べ始める。村雨は馬鹿デカい声が出る割に、あまり口が開かない。元々顎も細めだ。多分鷲掴みにしたら砕ける。
    「物騒な思考をするな」
    「実際になんてしねーよ」
    「その前にあなたの両手にメスを突き刺す」
     どっちが物騒だよと言う目で見る。村雨は気にせず目の前のサンドに注目を移して、食事を再開していた。
    「美味いか」
     こくんと一つ首肯。「そら良かった」と返すと手が飛んできた。何事、と状況を把握する頃には薄い肩に頭を乗せられていた。怒鳴り声を喉元で封殺するように手が髪の中に差し込まれた。ちゃんと左手、一切パンに触っていない方だ。ここでパンを触りまくっていた右手で触られたら流石に殴っていた。そんな怒りも長く続かない。パン食うついでの手で掻き回されれば数秒で霧散する。本当、ずるいよな。
     村雨の食事が終わると同時に手が止まり、代わりに皿が差し出された。
    「ごちそうさま」
    「あいよ」
     皿を受け取ってキッチンへ向かうと村雨もついてきて、流しへ。ああ、手を洗いたかったのか。村雨の手洗いはやはり医者というべきか、幾ばくか簡略化しているのだろうが、手の甲、平、指の間、爪と丁寧に洗っている。
    「手術の時はもっと時間をかけるし、手首よりもっと上まで洗わなければならない」
    「だろうな。というよりそのまま風呂入れば良かっただろ」
    「明日浴びる」
    「いいのかよ」
    「たまにはいい」
    「そうかよ」
     そうならと皿を片付け村雨を抱えて寝室に戻る。寝落ち上等なら、ベッドに入るのは早い方がいいに決まっている。
     寝るわけではないのでかけ布団の上に寝そべってその上に村雨を乗せた。適度な重みに心地良さを感じながら、自分より一回りは厚みの足りない身体を抱き込む。特に何をするでなく、会話をするでもなくくっつきながら時折キスをして、どっかこっかを撫で回す。
    「獅子神」
     しばらくそうしていると、村雨がオレを呼んだ。やけに部屋に響く音だった。叱咤のような空気に困惑していると、村雨が起き上がり傍で正座をする。それに合わせるべく姿勢を整え向き直る。村雨が両手でオレの頬を包んだ。
    「獅子神」
     赤い瞳がこちらを見据える。そこでようやくコイツが何を言いたかったのかが理解できた。
     こうした部分がきっと村雨には未熟に映るのだろう。今は仕方がない。いずれ挽回する。せめて対等までは。
    「悪かった」
    「……」
    「村雨、お前を本当に愛してるし、信頼してる。それでもオレは見栄を張っちまう。そういう性質なんだオレは」
     オレは旅行が好きだと思い込んだのもそれが理由だ。華やかさ、余裕さを見せられるそれを好きだと、あえて見せつけるのではなく好きだから見せつけてしまうのだと。虎のハリボテを捨てて尚出てくる虚栄心は、最早無意識や反射にまで刷り込んでいる。きっとそれを外に見せるのなら村雨も咎めなかった。しかし、自分という恋人相手にされたなら村雨としては我慢出来なかったのだろう。村雨は(こう見えて)愛情深いのと同じく、オレに対する甘えもあるから。
    「ここは賭場ではない」
    「分かってる。お前は対戦相手じゃないし、オレを加害する他人でもないってのも、ちゃんと」
     言い終えると、村雨はオレを抱き込んだ。呆れを多大に含んだ溜息。それに文句を言う資格はオレにはない。せめて機嫌を取るように村雨を抱き返して顔中にキスを落とし、撫でる。幾分かすると村雨から一つキスを返された。
    「明日は」
    「ん」
    「日勤だ」
    「じゃあいつもの時間に迎えに行けばいいな」
     首肯。
    「なあ」
    「なんだ」
    「オレさ、別に旅行が嫌いなワケじゃないんだ。多分お前と行ったら凄い楽しいと思ってる」
    「知っている。ただ」
    「そうそれより、好きな奴と自分の巣に篭ってるのはもっと好き。だからさ」
    「……」
    「ありがとな、楽しかった」
     普段はなかなか見られない優しさを含んだ笑顔の後、もう一度キスを贈られた。
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